- 著者
-
野崎 健太郎
松本 嘉孝
- 出版者
- 日本湿地学会
- 雑誌
- 湿地研究 (ISSN:21854238)
- 巻号頁・発行日
- vol.12, pp.43-72, 2022 (Released:2022-11-10)
- 参考文献数
- 80
名古屋市千種区の近接する3 つの湧水と雨水を対象にして,2015 年から2017 年にかけて水質の季節変化を記載し,それらに及ぼす人間活動の影響を調べた.続いて,この調査結果を教材として用いて,小学校理科の教育実践を行った.湧水の起源となる雨水の水質は,pH 4.4~5.3,電気伝導度2 mS m-1,溶存無機態窒素濃度(DIN:dissolved inorganic nitrogen)470 μgN L-1 であった.湧水の水質は,人間活動の影響が無い金明水では, pH 5.1~5.5,電気伝導度2 mS m-1,DIN 13μgN L-1 であったが,都市部の本山ではpH 5.8~6.5,電気伝導度10 mS m-1,DIN 2000 μgN L-1,椙山小学校ではpH 6.3~9.5,電気伝導度24 mS m-1,DIN 5000 μgN L-1 となり,都市中心部に近い湧水ほど,水質は弱酸性から中性および弱アルカリ性へと変化し,電気伝導度と溶存無機態窒素濃度が高い値を示した.したがって,都市部の人間活動は,湧水の水質を大きく改変していることが明らかになった.教育実践は,小学校第5 学年理科の河川の授業で行った.授業の主題は,「身近にある川のはじまり-椙山小学校から川がはじまる」とし,ねらいは,「1 川は斜面から湧出する湧水からはじまる」,「2 湧水の水質には人間活動が大きな影響を及ぼす」の2 点を設定した.授業には,地理院地図の3D 機能を用いた地形解析と,本格的な手法による亜硝酸態窒素(NO2--N)濃度の比色分析を組み込んだ.この教育実践で,生徒の印象に残った内容は,1 位が亜硝酸態窒素濃度の分析,2 位が湧水は川のはじまり,であった.これらの生徒の評価は,授業のねらい1 と2 に関係することから,湧水は理科教材として有用である可能性が示唆された.教材の質を高める今後の研究課題としては,都市部の湧水で高い濃度を示す溶存無機態窒素の起源解明,教育効果の測定,教科教育への位置付け,災害教育における教材化の4 点を挙げた.