著者
川波 祥子
出版者
公益財団法人 産業医学振興財団
雑誌
産業医学レビュー (ISSN:13436805)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.91, 2022 (Released:2022-09-06)

日本の職場における2021年の熱中症の死亡災害件数は20件で、COVID-19による件数を除き業務上疾病による死亡災害で最多を占めた。労作性熱中症がほとんどで、建設業、製造業等の高温多湿な職場で発生し、暑熱未順化者が多かった。夏の労働環境が厳しくなる中で熱中症による死亡災害を無くすには、熱中症発症の危険因子を理解し、環境・作業・衣服のリスクを評価した上で効果的なリスク低減対策を実践することが重要である。
著者
堀江 正知 中田 博文 上野 しおん 川波 祥子
出版者
一般社団法人 日本総合健診医学会
雑誌
総合健診 (ISSN:13470086)
巻号頁・発行日
vol.43, no.6, pp.671-678, 2016 (Released:2017-01-01)
参考文献数
50

健康診断は、19世紀のアメリカ合衆国で、移民の感染症スクリーニングや保険加入者の資格審査として始まり、その後、健康志向のある会社役員の疾病予防対策として発展した。わが国では各種の法令で規定された結核対策として発展し、現在は、事実上、がんや循環器疾病のリスクに対する保健指導の機会となっている。科学論文のレビューによれば、対象疾病を特定せずに多項目の健康診断を行っても総死亡率が下がる確証はない。受診者に有益となる科学的根拠がなくても、一般市民、医療職、行政担当者は健康診断に大きな期待を寄せている。一方、本来の語意である健康度を診断する検査法は普及していない。労働衛生分野の健康診断は、「職場環境による曝露や影響を監視するサーベイランス」又は「職業性疾病を発見するスクリーニング」の機能を果たすべきである。生体試料を用いるサーベイランスは生物学的モニタリングとも呼ばれ、ILOや学術団体が示すガイドラインに準じて、心身への侵襲性がなるべく低い検査法を選択し、その結果は作業環境測定結果とも合わせて総合的に評価する。労働者に症状や所見を認めた場合は、職場や作業の実態を調査して関連性を評価し、職業性疾病を見逃さないように留意する。なお、雇入れ前に採用候補者を選別する健康診断は実施すべきでない。健康診断の関係者は、その企画、実施、結果報告、情報管理の各工程で、バイオエシックスに配慮して、受診者の自律、利益、安全、公平性を侵害しないように努める。特に、法定項目でない検査を行う際は本人の同意を取得する仕組みを確立する。また、安易に過剰な検査を実施しないように配慮し、ミスや誤診の防止対策を徹底する。適切な質を保障するには、健康診断を専門とする医療職が企画する段階から参画して、最新の科学を適用し、検査の精度を維持し、受診者がその結果を疾病予防や健康増進に役立てるよう促すことが望ましい。
著者
川波 祥子 井上 仁郎 高橋 公子 堀江 正知
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.237-245, 2011-09-01 (Released:2017-04-11)

電話交換手がヘッドホンから曝露される音圧を, 人工耳および音響測定用マネキンを用いた2段階の方法で測定した. スクリーニングとして実施した人工耳による測定では, 非通話時間を含む8時間の等価音圧レベル(Leq)が81.5dB, 通話時間のみのLeqが89.3dBと高かった. そこで, より作業者のヘッドホン着用に近い状態で測定でき, 鼓膜付近での測定値を外耳道入口での音圧に換算可能なマネキンによる測定(ISO11904-2)を行ったところ, A特性による日本産業衛生学会の等価騒音レベル(LAeq)の許容基準と比較すると得られた修正LAeqは非通話時間を含む8時間で68.3dB, 通話時間だけでは76.6dBであり許容基準を下回った. 今回のような静かな作業場(51.3dBA)での通信業務では, 80dB未満の音声でも良好な信号雑音(S/N)比が得られ, 聴力への影響は小さいことが確かめられた. また, 通話相手の性別, 電話機の種類による曝露音圧の有意差はなかった.