著者
小澤 信義 岩成 治
出版者
一般社団法人 日本総合健診医学会
雑誌
総合健診 (ISSN:13470086)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.322-331, 2014 (Released:2014-05-01)
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

日本では、毎年約15,000人が子宮頸癌(上皮内癌含む)と診断され、約3,500が死亡している。そのうち、44歳までに約400人が死亡している。20代30代の女性に限ればもっとも罹患率が多い癌は子宮頸癌であり、増加傾向が続いている。 日本の現状の問題点は(1)検診受診率が低い(2)従来法細胞診での診断が続いている(3)HPV予防ワクチンの接種の遅れである。日本産婦人科医会は子宮頸がんの撲滅をめざして、(1)ベセスダシステム(TBS)の導入(2)液状化検体細胞診(LBC)の導入(3)HPV併用検診の導入(4)HPV予防ワクチンの積極的な勧奨の再開(WHOやFIGOは再度安全宣言を出している)(5)受診率の向上を目指している。今回はTBS、LBC、HPV併用検診とワクチンに関するトピックスについて解説する。
著者
米井 嘉一 八木 雅之
出版者
一般社団法人 日本総合健診医学会
雑誌
総合健診 (ISSN:13470086)
巻号頁・発行日
vol.39, no.5, pp.596-601, 2012 (Released:2013-10-01)
参考文献数
8

抗加齢(アンチエイジング)医学の観点から、加齢に伴う疾患や退行性変化に関わる糖化ストレスの概念を紹介する。抗加齢医療実践機関では、老化度を筋年齢・血管年齢・神経年齢・ホルモン年齢・骨年齢といった機能年齢として、老化を促進する危険因子を免疫ストレス・酸化ストレス・心身ストレス・糖化ストレス・生活習慣として評価している。糖化ストレスは酸化ストレスと並び重要な老化危険因子として位置づけられる。 果糖やブドウ糖などの還元糖と蛋白を構成するリジンやアルギニンが非制御的、非酵素的に結合して中間体を生成、さらに反応が進むと糖化最終産物(advanced glycation end products; AGEs)を形成する。AGEsは組織に沈着するほか、AGEs受容体(Receptor for AGEs; RAGE)と呼ばれる受容体に結合し、炎症を惹起する。また過剰のブドウ糖はTCAサイクルの障害を起こし、生じたフマル酸によって蛋白を構成するシステインと反応し、蛋白変性を生じる。脂質やアルコール由来のアルデヒドも同様の蛋白翻訳後修飾を起こす。糖化ストレスとはこれらを総合的に捉えた概念である。 たとえばアテローム動脈硬化は、酸化や糖化ストレスによってLDLコレステロールから生じた修飾物をマクロファ-ジが貪食した結果、泡沫細胞となって血管内腔に集積して形成される。皮膚ではコラーゲン線維が糖化により架橋形成を起こし、線維間が固定される結果、皮膚弾力性の低下や硬化が生じる。 若くて健康な状態を保つためにはこれらの危険因子の管理が重要である。糖化ストレスを減らす方法として、(1)食後高血糖や急激なインスリン分泌を避ける食生活、(2)果糖ブドウ液糖など異性化糖を避ける、(3)加齢に伴って衰える筋肉量や内分泌機能を維持、(4)AGEs生成抑制物質など抗糖化物質の利用が挙げられる。本領域の研究が発展することで、抗加齢療法の新たな展開が期待できる。
著者
片山 友子 水野(松本) 由子
出版者
一般社団法人 日本総合健診医学会
雑誌
総合健診 (ISSN:13470086)
巻号頁・発行日
vol.43, no.6, pp.657-664, 2016 (Released:2017-01-01)
参考文献数
23
被引用文献数
1

総務省の調査によると、20代のインターネット利用は99%を超え、スマートフォンでの利用は約88%となっており、スマートフォンの使用者は急増している。インターネットは情報収集やコミュニケーションのツールとして利便性が高いが、一方で、インターネット依存が心身に悪影響を与える可能性が指摘されている。本研究では、スマートフォンの利用率が高い大学生を対象に、インターネット依存傾向のある者の健康度および生活習慣、気分状態の関連性について検討を行った。 インターネット依存傾向尺度による分類から、インターネット依存傾向群をⅠ群、非依存群をⅡ群とする2群に分類した。この2群について、心身の健康および生活習慣、気分状態の調査を行い、その特徴を分析した。 調査の結果、対象者156名中、Ⅰ群は58%、Ⅱ群は42%であった。Ⅰ群はⅡ群と比較すると、身体的健康度、精神的健康度、睡眠の充足度が有意に低値を示した。Ⅰ群は、睡眠不足のため、昼間に眠たくなり、勉強がスムーズにはかどらず、大学生活に影響を及ぼしていることが示唆された。また、就寝時間が遅くなることから夜食の習慣化が生じ、目覚めの体調不良から朝食の欠食などがみられ、イライラ感や肥えすぎ・やせ過ぎなどにも繋がると考えられた。心理検査では、Ⅰ群はⅡ群と比較すると、不安感、抑うつ感、イライラ感がつのっていることが分った。これらの結果から、ネット依存傾向のある者は、睡眠習慣と身体的および精神的健康に相互に悪影響を与える可能性が示唆された。さらに、Ⅰ群の約65%にインターネット依存傾向があることを自覚しているが、約17%には自覚がなく、依存傾向が進行する可能性が示唆された。 依存が深刻化する前に予防教育を行い、インターネット依存が生活習慣や心身の健康に与える危険性について啓発することが重要であることが示唆された。
著者
岡上 武 水野 雅之
出版者
一般社団法人 日本総合健診医学会
雑誌
総合健診 (ISSN:13470086)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.307-312, 2015 (Released:2015-05-01)
参考文献数
3
被引用文献数
1 4

健診において肝障害をスクリーニングする検査項目で重要なものはAST、ALT、γ-GTP、血小板(PLT)数である。AST、ALTの基準値は施設により大きな差があり、一昨年我々が調査した本邦の78大学附属病院のALT基準値は25IU/L以下から48IU/L以下まで様々で、またPLTも総合健診や人間ドックでは基準値が13~35万と幅広い。近年肝臓に異常の無い場合のALT値は男性で30IU/L以下、女性で19IU/L以下とイタリアから報告されており、わが国でも早急にAST、ALTの基準値を男女別に見直し、施設間の差をなくすことが必要と考える。 異常なし、軽度異常、要経過観察、要治療などの判定はこれら個々の検査値のみで判断されているが、これにも大きな問題がある。すなわち、肝疾患が進行し肝硬変になるとALTは低下し、多くは40IU/L以下となり、30IU/L以下を示す例もかなりある。一般に慢性肝炎ではAST<ALTであるが、肝硬変になるとAST>ALTとなる。また肝疾患が進展(線維化進展)するとPLTは減少し、PLTが13万位になるとかなり進行した慢性肝炎か初期の肝硬変のことが多い。なお、肝臓に異常の無い者ではAST、ALTともに30IU/L以下で、かつAST>ALTである。すなわち値のみでなくAST/ALTとPLT数を加味した判定が必要である。本稿ではこれら検査値とそれに基づく判定の問題点について述べた。
著者
粟田 有紀 川﨑 エミ 大谷 美幸 酒田 伴子 新城 泰子 長田 三枝 大野 秀樹 大橋 秀一
出版者
一般社団法人 日本総合健診医学会
雑誌
総合健診 (ISSN:13470086)
巻号頁・発行日
vol.42, no.6, pp.623-628, 2015 (Released:2016-01-01)
参考文献数
5

【背景】血管迷走神経反応(vasovagal reaction: VVR)は、採血中や採血後に迷走神経興奮によって生じる諸症状を総称する。血圧低下、徐脈、吐き気などを示し、重症の場合には、意識消失、痙攣、失禁にいたる。不安や緊張によって起こりやすいと言われており、採血の副作用としては最も発生頻度が高いとされている。【目的】健保連大阪中央病院健康管理センターにおけるVVRの実態調査を行い、対応策を作成する。【方法】2012年11月から2013年10月までの1年間に、総受診者55,150名中VVRを発症した144名を対象として、発症率・性別・年齢・程度・採血体位・回復時間を調べた。程度の判定基準には厚生労働省の「血管迷走神経反応による症状群の程度別分類」を用いた。さらに看護師20名の意識調査を行い、これらを総合的に検討した。【結果】VVR発症率は0.26%、男女比では女性が、年齢別では若年層が高い傾向となった。程度別では最も軽いⅠ度が128名(88.9%)、Ⅱ度が9名(6.3%)、Ⅲ度が7名(4.9%)となった。採血体位ではベッド上採血が全てⅠ度にとどまり、重症化を防いでいる事が分かった。回復時間は106名(73.6%)が5分以内に回復し、離床上の有用な目安となった。また、看護師の意識調査からⅡ度以上は15分間のベッド上安静が適切であると判断した。【結語】健診での採血時VVRは高頻度ではないが特に若年者、女性に注意することが重要である。また離床上の目安としては5分毎のバイタルサイン測定を織り込んだ「採血によるVVR対応策」を作成することによって、一定の安全対策が確立できた。
著者
杉岡 陽介 久保 明 三井 理恵 福原 延樹 加藤 倫卓 仁瓶 史美 竹田 義彦
出版者
一般社団法人 日本総合健診医学会
雑誌
総合健診 (ISSN:13470086)
巻号頁・発行日
vol.43, no.5, pp.537-542, 2016 (Released:2016-11-01)
参考文献数
26

【目的】加齢とともに増加する終末糖化産物(AGEs)の蓄積が、骨格筋のタンパク質の機能を変化させることが報告されている。本研究の目的は、皮膚組織におけるAGEsの蓄積と骨格筋量との関係を調査することである。【方法】対象は、健康診断を受診した中年および高齢の男女70名(58±10歳、男性55%)とした。対象の背景として年齢、性別、body mass index(BMI)、合併症および血液生化学検査の情報をカルテから調査した。皮膚組織におけるAGEsの蓄積の指標として、AGE Readerを用いてskin autofluorescence(SAF)を、骨格筋量の指標として、2重エネルギーX線吸収測定法を用いて骨格筋指数(SMI)を、筋力の指標として、握力を測定した。SMIと各調査項目との関係を、Pearsonの積率相関係数とSpearmanの順位相関係数を用いて解析した。また、SMIに独立して関係する因子を抽出するために、SMIを従属変数、年齢、性別、血清クレアチニン(Cr)、グリコヘモグロビンおよびSAF等を独立変数としてステップワイズ重回帰分析を行った。【結果】SMIと有意な相関があった項目は年齢、性別、BMI、中性脂肪、Cr、握力およびSAFであった(それぞれ、r=0.312、P=0.011;r=-0.692、P<0.001;r=0.607、P<0.001;r=0.302、P=0.028;r=0.464、P<0.001;r=0.741、P<0.001;r=-0.413、P<0.001)。重回帰分析の結果、SAFと性別が独立してSMIと関係する因子として抽出された(それぞれ、P<0.001)。【考察】中年および高齢の男女において、SAFは性別と共に独立してSMIに関係する因子であった。
著者
鳥居 明
出版者
一般社団法人 日本総合健診医学会
雑誌
総合健診 (ISSN:13470086)
巻号頁・発行日
vol.37, no.6, pp.671-672, 2010 (Released:2013-08-01)
参考文献数
4

My opinion is that eradication of Helicobacter pyroli should not be necessary. The first reason is the risk of side effect of antibiotics for eradication. The second reason is the risk of developing reflux esopahagitis and gastroesopageal reflux disease. These diseases aggravate QOL of the patients. The third reason is the risk of Barrete's esophagus and Barette's esophageal cancer. The fourth reason is the risk of erosive gastritis and duodenitis. The last reason is the risk of developing obesity and of hyperlipidemia. They induce the cardiovascular disease. Prognosis after eradication of H. pyroli in short term was reported very good, but the prognosis after eradication of H. pyroli in long term was not reported. It is necessary to evaluate of prognosis after H. pylori eradication in long term. I emphasize that the H. pylori eradication does not improve the prognosis of the patients with infection of H. pyroli. My opinion is that eradication of Helicobacter pyroli should not be necessary.
著者
水野 杏一 山下 毅 小原 啓子 船津 和夫 近藤 修二 横山 雅子 中村 治雄 影山 洋子 本間 優 前澤 純子
出版者
一般社団法人 日本総合健診医学会
雑誌
総合健診 (ISSN:13470086)
巻号頁・発行日
vol.43, no.5, pp.547-552, 2016 (Released:2016-11-01)
参考文献数
25

最近特定の職業と肥満の関連が指摘され、職業習慣病という言葉も聞かれている。エンジニアはパーソナルコンピュターなどの使用時間が長く、肉体的活動が少なく、不規則な生活、職場のストレスなどにより肥満が多いと報告されている。これらの研究は断面調査なので、エンジニアという職業が肥満を引き起こすのか、エンジニアを目指す若者がすでに肥満なのか明らかでない。そこでエンジニア会社の入社時健診を解析することにより既に肥満が入社前より存在しているか検討した。対象はエンジニア関連会社に平成27年度に入社する20歳代の男性(エンジニア予備軍)179人で、平成26年度国民健康・栄養調査(国民調査)から同年代の男性257名、および非エンジニア企業に入社する同年代男性新入社員49人と比較した、BMI 25以上の肥満の割合はエンジニア予備軍で30.2%、国民調査で20.9%、非エンジニア18.4%で、肥満の割合はエンジニア予備軍で対照群より約10%高かった。エンジニア予備軍で血圧上昇、耐糖能異常、脂質異常症の動脈硬化危険因子を持つ割合は肥満者が非肥満者に比べ有意に高かった(P<0.001)。肝機能異常を持つ割合も同様であった(P<0.001)。腹囲85cm以上の内臓肥満を有するのはBMIによる肥満者の94.4%におよんだ。しかし、メタボリック症候群を有するのはエンジニア予備軍で3.4%、エンジニア予備軍の肥満者でも11.1%で国民調査の同年代2.2%と比べ有意な差はなかった。以上、エンジニア予備軍は入社前から肥満が存在していた。若年者の肥満は後に認知症になりやすいこと、メタボリック症候群は多くなかったが、若年者の肥満者は将来メタボリック症候群になりやすいことなどより、肥満に対して早期の介入が必要である。その際、肥満の管理を個人のみに任せるのではなく、社員の健康を重要な資産とみなす健康経営が浸透してきているので、企業の積極的な介入が入社時より望まれる。
著者
玉山 隆章 井上 穣 樫原 英俊 大野 仁 板垣 信生
出版者
一般社団法人 日本総合健診医学会
雑誌
総合健診 (ISSN:13470086)
巻号頁・発行日
vol.42, no.6, pp.615-622, 2015 (Released:2016-01-01)
参考文献数
14

【目的】日本では近年もヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染者と後天性免疫不全症候群(AIDS)患者数の新規報告は横這いが続き、HIV感染者数は増加し続けている。HIV感染者の総合健診での動向を調査し、HIV感染者への対応と早期発見のあり方を考察する。【対象と方法】対象は平成17年度以降に当センター総合健診で把握できたHIV感染者12例。把握時点のHIV感染症の病期、健診異常項目と既往歴、把握に至った経緯を調査した。【結果】症例は全例男性。年齢は30代6例、40代5例、20代1例。病期の内訳は、健診時に既に拠点病院通院中7例、診断確定後の通院中断中2例、未診断3例(急性HIV感染症1例、AIDS発症2例)であった。健診異常項目と既往歴は高頻度順に、硫酸亜鉛混濁試験(ZTT)上昇(10例/12例中)、梅毒反応陽性(6例/9例実施中)、ALT上昇(6例/12例中)、肥満(5例/12例中)、脂肪肝(5例/12例中)、帯状疱疹の既往(4例/12例中)、以下血小板減少、急性B型肝炎の既往、胸部X線異常、上部消化管造影異常、他であった。ZTTが上昇していた10例中8例は、ZTTが20Kunkel単位以上の極めて高い値であった。9例は他院で既に確定診断されていたが、健診前の問診票にHIV感染症を自己申告したのは2例のみであり、他の7例は面接時に申告したか、面接医がHIV抗体検査を強く勧めた際に申告していた。当センターがHIV感染症を把握する以前に複数回の健診受診歴があったのは6例で、うち2例は過去の健診にてZTT高値以外に検査データの異常がないため経過観察と判定されており、その判定の影響を受けて拠点病院の通院自体を自己中断した可能性があった。平成25年度の当センター総合健診受診者でZTTが20Kunkel単位以上を呈した者のうち、40代までの男性に限ると5例/22例中(22.7%)にHIV感染症が含まれていた。【考察】自己申告がなかったとしても、ZTTが極めて高値の男性に対してはHIV感染症の可能性も考えるべきである。特に40代までの男性に対しては、他の性感染症の既往がある場合は勿論、ZTT高値しか異常がない場合でも面接医はHIV感染症を疑い、HIVスクリーニング検査を勧めるべきである。
著者
大神 明
出版者
一般社団法人 日本総合健診医学会
雑誌
総合健診 (ISSN:13470086)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.323-328, 2020-03-10 (Released:2020-09-05)
参考文献数
18

日本型の労働者に対する健康診断のシステムは、企業によっては人間ドックや、がん検診なども含めて「健康診断」という範疇にて実施されている現状がある。労働衛生(産業保健)の分野で行われる健康診断では、医学的サーベイランスと医学的スクリーニングは個別の概念と手法で行われるべきで、労働衛生上明確かつ補完的な二次予防要素と見なされるべきである。本稿では、東アジア諸国(韓国、中華民国(台湾)、タイ、ベトナム、インドネシア、マレーシア、フィリピン、インド)の労働者に対する健康診断について、その法的な背景を概説しつつ、東アジア諸国の労働者の健康管理について健康診断の現況について文献的検索を試みた。
著者
春日 郁馬 武田 義次 佐藤 健 森 みゆき
出版者
一般社団法人 日本総合健診医学会
雑誌
総合健診 (ISSN:13470086)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.317-323, 2022-03-10 (Released:2022-04-20)
参考文献数
13
被引用文献数
2

【目的】我々は新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチン接種後の抗体量を調べると共に、抗体量と関連する因子について明らかにすることを目的とした。【対象】2021年5月から7月にファイザー製もしくはモデルナ製のSARS-CoV-2ワクチンを2回接種した当法人職員のうち、SARS-CoV-2抗体量調査に参加した152名を対象とした。【方法】ワクチン2回接種終了日から7日以上経過後にSARS-CoV-2抗スパイクタンパクIgG抗体量を測定した。また年齢、性別、接種後の発熱、ワクチンの種類などが抗体量と関連するかどうかについて併せて調べた。【結果】測定した者全員に抗体量の上昇を認めた(中央値7,314AU/mL)。45歳未満の者は45歳以上の者より有意に高値であった(p<0.01)。接種後に37.5℃以上の発熱を認めた者は37.4℃以下の者より有意に高値であった(p<0.01)。モデルナ製のワクチンを接種した者はファイザー製のワクチンを接種した者より有意に高値であった(p<0.01)。また接種後の日数が経過した者は抗体量がやや低くなる傾向を認めた。【考察】年齢、発熱の程度、ワクチンの種類等が抗体量と関連する可能性が示唆された。また日数の経過に伴い抗体量が低くなる傾向があることから、今後の疫学的動向も踏まえてSARS-CoV-2ワクチンの追加接種を検討する必要があると考えられた。
著者
大和 孝子 青峰 正裕
出版者
Japan Society of Health Evaluation and Promotion
雑誌
総合健診 (ISSN:13470086)
巻号頁・発行日
vol.30, no.6, pp.575-580, 2003-11-10 (Released:2010-09-09)
参考文献数
25
被引用文献数
1 1

本研究では女子大学生を対象にし, 冷え症の程度を弱, 強の2段階に区分けして, 冷え症の程度と身体状況および心電図との関連を調べた。身体計測値を正常者と冷え症者で比較した場合, 身長は両者間で有意差はなかったが, 体重, BMI, 皮下脂肪厚, 体脂肪率, 体脂肪量は有意に冷え症者で低かった。冷え症の3群間で較べてみると, 体重, BMI, 体表面積, 皮下脂肪厚, 体脂肪率, 体脂肪量は“冷え”の程度が増すほど値は低下する傾向があった。また, 心電図 (第II誘導) を比較した場合, R-R間隔とQT時間は“冷え”の度合いが強いほど, 有意に延長していた。冷え症者でみられたQT時間の有意な延長は, 先行するR-R間隔で補正したQTcを正常者と冷え症者2群間で比較すると有意差は消失した。これらのことより, 冷え症の程度と痩せ, 徐脈との間に正の相関があることが分かった。
著者
高田 晴子 高田 幹夫 金山 愛
出版者
Japan Society of Health Evaluation and Promotion
雑誌
総合健診 (ISSN:13470086)
巻号頁・発行日
vol.32, no.6, pp.504-512, 2005-11-10 (Released:2010-09-09)
参考文献数
12
被引用文献数
13 10

加速度脈波測定システム (APG) を用いて, 1) 自律神経機能評価の異なった指標である心拍変動係数 (CVaa%) と心拍変動周波数解析 (MEM法) の低周波領域と高周波領域のパワー比 (LF/HF) の関係性を明らかにすること, 2) 安静時および日常活動時のLF/HFの標準範囲を得ること, 3) 心拍変動周波数解析パラメータのサーカディアンリズムの存在の検討である。対象および方法: 1) 21歳女性1名を対象に62日間起床直後にAPG2分間と基礎体温を記録した。2) 健常男性30~59歳の193名について午後時間に運動前と運動後のAPGを2分間測定した。統計的解析: 1) 起床時のCVaa%, LF, HF, Total Power, LF%, HF%, LF/HFの62日間の平均を算出した。各パラメータと基礎体温との相関関係およびサーカディアンリズムを観察した。2) 上記の各パラメータについて, 加齢差および運動の影響を統計的に検討した。CVaa%と脈拍数に相関するパラメータを調べた。結果: 1) 起床直後のLF/HFは1.4±0.9であった。また, 基礎体温と有意な相関関係を示したのはTotal Power, HF, LFであった。これらは二相性のサーカディアンリズムを持ち, 基礎体温とは逆の関係を示した。2) 運動前も後もLF, HF, Total Power, HF%, LF%について有意な加齢差はなかった。運動前LF/HFも有意な加齢差はなかったが, 運動後LF/HFは高齢者の方が有意に小さかった。運動前に比べて, 運動後のTotal Powerは有意な変化がなかった。運動後のHF, HF%は有意に減少した。運動後のLF%およびLF/HFは有意に増加した。なお, 運動前のLF/HFの95%信頼区間は2.0~2.6, 運動後は4.3~5.7であった。CVaa%と有意に相関したのはTotal Power, LF, HFであり, LF%, HF%, LF/HFとは有意な相関はなかった。結論: 1) LF/HFは非常に安静な状態では2.0より小さく, 日常の安静時では2~3, 副交感神経活動が抑制または交感神経活動の興奮状態では4.0以上の値が目安となる。2) CVaa%は自律神経活動を反映するが, LF/HFとは関係がなく自律神経バランスを反映するわけではない。3) 若い女性の自律神経活動は基礎体温と逆の二相性のサーカディアンリズムを持つ。