著者
川瀬 啓祐 平山 久留実 河野 成史 八代田 真人 伊藤 秀一 椎原 春一
出版者
動物の行動と管理学会
雑誌
動物の行動と管理学会誌 (ISSN:24350397)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.39-45, 2021-06-25 (Released:2021-07-10)
参考文献数
15

飼育下キリンの死因の一つとして甚急性死亡症候群が知られている。この疾病は低栄養の状態が比較的長期間続いたことに起因すると考えられている。そこで本研究ではハズバンダリートレーニングを用いてキリンの定期的な血液検査および体重測定を実施し、さらにボディコンディションスコア(BCS)と摂餌量を調べることで栄養状態の長期モニタリングを行った。血液検査では異常は認められず、平均体重は906 kgで1日当たりの平均摂餌量は原物量で16.7 kgであった。体重およびBCSは、季節に伴う摂餌量の変動により変化した。摂餌量が増加し、体重およびBCSが増加していた時期では総コレステロール、中性脂肪および尿素窒素濃度の増加が認められため、これらの血液成分はキリンにおいても栄養状態の指標となることが示唆された。一方、血中遊離脂肪酸濃度は、体重やBCSとの明らかな関連性は認められなかった。
著者
川瀬 啓祐 椎原 春一
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.65-70, 2018-09-28 (Released:2018-12-05)
参考文献数
12
被引用文献数
1 1

大牟田市動物園では飼育管理の一部として多くの動物種を対象に体重測定,検温や採血に対してハズバンダリートレーニングを取り入れている。ハズバンダリートレーニングを取り入れることによって,これまで診察および検査に機械的保定や化学的保定が必要であった霊長類や大型ネコ科動物などにそれらの保定を行うことなく,行動的保定により採血などを行うことが可能になった。 採血により得られた血液検査値は,他園と共有することでデータの蓄積を行い,健康管理に役立てている。また,一部の動物では人工採精のトレーニングも取り入れており,動物園動物の繁殖にも寄与できる可能性がある。また,定期的な採血が可能となれば,薬剤成分の血中動態も把握することが可能であり,今後の獣医療の発展に寄与できるであろう。ハズバンダリートレーニングを取り入れると多くの知見を得る機会が増える。そういった知見をもとに多くの園館や大学との研究機関と連携,協力することが可能となれば,今後の動物園での研究や獣医療が大きく進展するだろう。
著者
川瀬 啓祐 木村 藍 椎原 春一
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.7-14, 2018-03-30 (Released:2018-07-21)
参考文献数
31
被引用文献数
1

ツキノワグマUrsus thibetanus,キリンGiraffa camelopardalis ssp.,トラPanthera tigris ssp.,ライオンPanthera leo 2個体,サバンナモンキーChlorocebus aethiops,マンドリルMandrillus sphinxの6種7個体に対してハズバンダリートレーニングを用いた行動的保定により定期的に採血を行い,血液学検査値および血液生化学検査値を得た。得られた血液検査値を既報と比較したところ,少なくともツキノワグマ,キリン,マンドリルにおいては,ハズバンダリートレーニングを用いた行動的保定による採血はストレスが少ないと推察された。本報告は日本国内において,上記の動物種における行動的保定で得られた血液検査値の初めての報告である。また,定期採血が可能となることで,各個体の健常値を得ることができ今後の飼育管理や健康管理に役立つものと考えられる。
著者
川瀬 啓祐 椎原 春一
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.43-47, 2020-06-23 (Released:2020-08-24)
参考文献数
21

近年,動物園や水族館における野生動物の飼育に対する疑念が世界的に広まりつつある。2015年に世界動物園水族館協会は「野生生物への配慮 世界動物園水族館動物福祉戦略」を打ち出し,動物園水族館における動物福祉向上に取り組んでいく姿勢を強めている。上述の戦略の中で,動物福祉向上の具体的な取り組みとして環境エンリッチメントとハズバンダリートレーニングを推奨しており,現在,日本の多くの動物園や水族館で取り組まれている。近年,日本の動物園では飼育動物の高齢化などの多くの課題があげられており,今後こうした課題に対してガイドラインの策定などが必要であると考えられる。
著者
川瀬 啓祐 冨安 洵平 伴 和幸 木村 藍 小野 亮輔 齊藤 礼 松井 基純 椎原 春一
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.83-89, 2018-12-25 (Released:2019-03-31)
参考文献数
25
被引用文献数
2 1

ライオンPanthera leoに行動的保定下で定期的な血中プロジェステロン(P4)濃度測定,腟粘膜上皮検査,外陰部粘液漏出量の変化の調査を行った。血中P4濃度,腟スメア像は周期的な変動を示し,腟スメア像において無核角化上皮細胞が主体となる期間は,血中P4濃度は基底値を示し外陰部粘液漏出量は多量であった。ライオンの発情周期は2.6±5.0日間,発情前期は8.3±1.5日間,発情期は6.2±2.7日間,発情後期と発情休止期を合わせた期間は37.2±4.6日間と推察された。
著者
川瀬 啓祐 紙野 瑞希 所 亜美 正藤 陽久 飯田 伸弥 生江 信孝 金原 弘武 楠田 哲士
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.73-80, 2023-09-01 (Released:2023-11-01)
参考文献数
31

飼育下ハートマンヤマシマウマ(Equus zebra hartmannae)の雌1頭において,血中および糞中の性ステロイドホルモン濃度の測定,腟粘膜上皮細胞像の観察および直腸温測定を実施し,発情周期を調査した。血中エストラジオール-17β 濃度がピーク値を示した後,血中プロジェステロン濃度の上昇がみられた。糞中プロジェステロン代謝物濃度動態は血中での動態と類似しており,血中濃度と採血日から2 日後の糞中の濃度は有意な正の相関(r=0.80)を示した。糞中プロジェステロン代謝物濃度の動態はプロジェステロン分泌をよく反映していることが明らかになった。糞中プロジェステロン代謝物濃度の動態は年間を通して周期的な増減を示し,平均23.1±2.3日間の発情周期が確認された。無核角化上皮細胞の割合は,糞中プロジェステロン代謝物濃度が低い非黄体期に増加する傾向がみられたが,有意な変化ではなかった。直腸温については非黄体期に増減変化がみられ,ヒトなどで一般的に知られている黄体期の基礎体温上昇は確認できなかった。
著者
伴 和幸 江﨑 美貴子 川瀬 啓祐 冨澤 奏子 杉山 尚子 椎原 春一
出版者
一般社団法人 日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 (ISSN:09124047)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.73-79, 2019 (Released:2020-02-14)
参考文献数
24

Blood analysis is an important tool for health management. Our zoo succeeded in being the first in the world to train our mandrills (Mandrillus sphinx), to allow venipuncture using only behavioral restraint. Two mandrills at Omuta City Zoo participated in this project, one male (A) and one female (B). We used PVC pipe to create a sleeve that could be attached to the enclosure and set a bar inside of it so that the mandrill would grip it underhanded, thus presenting the inner side of the arm. By partially blocking the top half of the inside of the sleeve, the mandrills were guided to use an underhand grip. This simplified the training, with less stress for both animals and keepers. The needle insertion was done into the cephalic vein. We used sweet potato as the unlearned reinforcer and a dog whistle as the learned reinforcer. The process was as follows: 1) excitatory conditioning, 2) gripping, 3) gripping underhanded, 4) avascularization, 5) epilation, 6) needle insertion. Training was held once a day for an average of 6-11 minutes. Number of sessions and cumulative time were 34 sessions/365 minutes for the A and 65 sessions/392 minutes for the B. The training has retained a high success rate (85% for the A, 79% for the B), allowing for regular blood sampling.