著者
布川 和彦
出版者
公益社団法人 日本数学教育学会
雑誌
日本数学教育学会誌 (ISSN:0021471X)
巻号頁・発行日
vol.104, no.2, pp.2-13, 2022-02-01 (Released:2023-04-24)
参考文献数
35

「量分数」という捉え方が分数の学習や指導についての議論で重視されている一方で,それが意味する内容が明確にされていないという現状に鑑み,本稿は「量分数」という捉え方が重視すべき分数の側面について検討したものである. そのためにまず「量分数」についての多様な捉え方やその捉え方に対する批判について考察を加え,量を用いて分数という新たな数を学習することから,測定の基準となる量の設定とその基準による測定とが多様な捉え方に共通する要素として含まれることを指摘した.次に,測定の文脈を意図的に用いて指導を行った先行研究を検討し,測定の文脈で学習する場合に着目すべき点を見出し,その視点からわが国の教科書での扱い方についても検討を行った. その結果,元となる単位とそこから構成される下位単位を明確にすること,単位分数の特殊性に配慮すること,整数の扱い方との整合性を検討することなどが必要だとの示唆が得られた.
著者
布川 和彦
出版者
日本教育方法学会
雑誌
教育方法学研究 (ISSN:03859746)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.37-46, 1994-03-31 (Released:2017-04-22)

Van Hiele theory, especially its levels of thinking, is widely accepted by mathematics education communities in many countries, and is used as a framework for the research on geometry learning and teaching. The meanings of his theory, however, is not fully clear, and it sometimes causes controversy. The purpose of this paper is making clear the meanings of the van Hiele's levels of thinking and the five stages for facilitating transitions to higher levels, which are the central ideas of his theory. In order to do this, we first consider the relation between van Hiele theory and the theory about informal knowledge. From this consideration, we find the followings; (i) Recognition of figures at the first level can be taken as informal and situated knowledge about those figures; (ii) Transitions from the first level to the third level can be seen as the transition from informal knowledge to formal knowledge. Based on these results, next we analyze the relation between van Hiele theory and Vygotskian theory. Then we find the followings; (i) Recogniton of figure at the second level corresponds to the pseudconcept or potential concept; (ii) Transitions among the levels cerrespond to the development of scientific concepts based on everyday concepts; (iii) The span between the first level and the third can be considered to generate the zone of proximal development concerning the geometrical knowledge. Consequently, we obtain the following characterization of van Hiele theory; This theory deals with teaching geometry using the zone of proximal development so that children have the access to geometical knowledge and can use it with conscious awareness and volition. This result suggests the new research problems relating to van Hiele thery.
著者
松本 健義 西野 範夫 佐藤 公治 上野 直樹 布川 和彦 茂呂 雄二 西阪 仰 松本 健義
出版者
上越教育大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

現在の子どもの根源的な危機は,学力低下にあるのではなく,<学ぶことの根拠>である<生>の低下,すなわち,他者と共にアクチュアルに生きる機会の激減にあるという認識にたち,以下のように研究を進めた。(1)感じ・考え・行う身体の論理と筋道を働かせて,子どもがもの,こと,人に働きかけ働きかけられて<学び合い・生き合う>ことを通して,根源的な<学び-知>が生成され成りたつ過程を明らかにする。(2)現象学的心理学,状況的学習論,談話心理学,相互作用・相互行為分析の視点と方法を取り入れた学びの過程の臨床的分析と教育実践の構想実践を行い,学びの過程に対応するカリキュラムと教育実践の総合的在り方を明らかにする。その結果,以下のような成果を得た。1.子どもの<学び-知>は,自己の行為の論理を働かせた,もの,こと,人との相互作用・相互行為の過程で,記号や道具を媒介にして,子どもともの,こと,人とのあいだに<できごと世界<関係=意味)>を,状況的・相互的・協働的に生成し,世界,行為,他者,<私>の意味を同時に生成する過程であることを明らかにした。また,意味生成としての子どもの学びの過程をとらえるあり方を学習臨床学として明らかにした。2.子どもの行為の論理による<できごと世界>の生成としての学びの過程が生起し,その過程で,過去の経験や活動といまここで未来へと向かいつくられる活動との関係,他者やできごととの関係を,子どもが新たにつくりつくり変えて自己の<生>と,世界,行為,他者,<私>の意味とを共に新たに生成することを支える教育実践のあり方を,学習臨床カウンセリングとして明らかにした。3.他者と共に<生きる-学ぶ>ことにより子どもが、<知>を生成する過程を通して,あらゆる教科の学びの基礎・基本となる子ども<生>の論理に対応した学習過程の臨床的カリキュラムが構成されることを明らかにすることができた。