著者
岡 浩平 平吹 喜彦
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.189-199, 2014-11-30 (Released:2017-08-01)

本研究は、仙台湾南蒲生の海浜から海岸林のエコトーンを対象にして、2011年大津波後の海浜植物の再生と微地形の関係性を調べた。調査は、津波から約2年4ヶ月後に、海浜に3本、海岸林に1本の調査測線を設置して行った。調査の結果、海浜植物の種構成は海岸林と海浜でほぼ共通していたが、生育密度は海浜よりも海岸林で顕著に高かった。海岸林では、津波時に地盤が堆積傾向であったことから、海浜から埋土種子や地下茎が供給されたため、海浜植物の再生が早かったと考えられた。また、海岸林では、比高の低い立地を除いて、外来草本もしくは木本が優占していた。そのため、将来的には、侵入した海浜植物は徐々に衰退し、樹林へと植生遷移することが予想された。一方、海浜では、海浜植物が全体を低被度で優占していたが、津波による洗掘で形成された深さ2m幅20m程度の凹地だけは、海浜植物の種数と被度が高かった。凹地では防潮堤が建設される予定であるため、種の多様性の高い立地が消失することがわかった。以上のことから、対象地では、安定した海浜植物の生育地は十分に確保されておらず、海浜植物の保全のためには多様な微地形の維持・創出が重要であると考えられた。
著者
高槻 成紀 岩田 翠 平泉 秀樹 平吹 喜彦
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.155-165, 2018 (Released:2018-07-23)
参考文献数
38
被引用文献数
5

これまで知られていなかった東北地方海岸のタヌキの食性を宮城県仙台市宮城区岡田南蒲生と岩沼市蒲崎寺島のタヌキを例に初めて明らかにした。このタヌキは2011 年3 月の東北地方太平洋沖地震・津波後に回復した個体群である。南蒲生では防潮堤建造、盛土などの復興工事がおこなわれ、生息環境が二重に改変されたが、寺島では工事は小規模であった。両集団とも海岸にすむタヌキであるが、魚類、貝類、カニ、海藻などの海の生物には依存的ではなかった。ただしテリハノイバラ、ドクウツギなど海岸に多く、津波後も生き延びた低木類の果実や、被災後3 年ほどの期間に侵入したヨウシュヤマゴボウなどの果実をよく利用した。復興工事によって大きく環境改変を受けた南蒲生において人工物の利用度が高く、自然の動植物の利用が少なかったことは、環境劣化の可能性を示唆する。また夏には昆虫、秋には果実・種子、冬には哺乳類が増加するなどの点は、これまでほかの場所で調べられたタヌキの食性と共通であることもわかった。本研究は津波後の保全、復旧事業において、動物を軸に健全な食物網や海岸エコトーンを再生させる配慮が必要であることを示唆した。
著者
富田 瑞樹 平吹 喜彦 菅野 洋 原 慶太郎
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.163-176, 2014-11-30 (Released:2017-08-01)
被引用文献数
3

低頻度大規模攪乱である2011年3月の巨大津波の生態学的意味を議論するうえで、海岸林攪乱跡地における倒木や生残木などの生物的遺産の組成と構造を明らかにすることは重要である。本研究ではこれらを記載したうえで、攪乱前の標高、攪乱前後の標高差、汀線からの距離、マツ植栽時期の違いに起因するサイズ構成の差異などの環境条件が、攪乱後の海岸林の樹木群集の生残と損傷に与えた影響について解析した。2011年6月、仙台市の海岸林に設置した540m×40mの帯状区において胸高直径(DBH)が5cmを超える全ての樹木の生死・DBH・損傷様式を記録し、主な損傷様式を次の4つに区分した:傾倒(根系を地中に張ったまま地上部が物理的に傾いた状態)、曲げ折れ(根系を地中に張ったまま、幹基部が物理的に折れた状態)、根返り(根系が地表に現れて樹体全体が倒伏した状態)、流木(根系ごと引きぬかれた樹体全体が漂着したと推察される状態)。実生や稚樹の生存状況を明らかにするために、DBH5cm以下の樹木の種名と数を記録した。また、航空レーザー測量で求めた数値標高モデルを用いて津波前と津波後の標高を表した。海岸林は帯状区のほぼ中央で運河によって海側と陸側に区分され、海側には高標高の砂丘上に若齢クロマツ林が、陸側には一部に湿地を介在する低標高域にマツ・広葉樹混交壮齢林が成立していた。攪乱後の海側には生存幹が少なく、損傷様式は傾倒と曲げ折れが卓越した一方、陸側には多数の生存幹の他に多様な損傷様式が確認された。海側には広葉樹の実生や稚樹は出現しなかったが、陸側ではサクラ属やハンノキ、コナラなどの実生や稚樹が確認された。クロマツの実生や稚樹は両方に出現した。帯状区の海側と陸側の別をランダム効果、帯状区を10mに区分した方形区ごとの環境条件を説明変数、生存や損傷を応答変数とした一般化線形混合モデルによる解析の結果、マツの生存や各損傷様式の発生率は、汀線からの距離やサイズ構成、標高などに依存するが、その傾向は生存・損傷様式ごとに大きく異なること、若齢林が卓越する海側で傾倒率が、壮齢林が卓越する陸側で生存率が高いことが示された。また、マツや広葉樹の実生・稚樹が多数確認され、これらの生物的遺産を詳細に調査することで、減災・防災機能と生物多様性が共存する海岸林創出に向けて有用な知見が得られることが示唆された。
著者
塚脇 真二 古内 正美 高原 利幸 平吹 喜彦 竹林 洋史 石川 俊之 奥村 康昭 本村 浩之 富田 瑞樹 荒木 祐二 大八木 英夫 ハン プゥ
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

観光産業の爆発的な発展とともに大気や水の汚染、森林の破壊といった環境汚染・環境破壊が顕在化し、遺跡への影響や住民の健康被害が懸念されるカンボジアのアンコール遺跡区域を対象に、大気、水、森林の3分野から総合的な環境調査を2年間にわたって実施した。その結果、同区域の環境汚染や破壊が危機的状況になりつつあることや観光産業との密接な関連があることを確認し、成果をとりまとめ国際シンポジウムとして同国で公表した。