著者
宮本 拓人 知北 和久 阪田 義隆 落合 泰大 ホサイン エムディ モタレブ 大八木 英夫 工藤 勲
出版者
日本水文科学会
雑誌
日本水文科学会誌 (ISSN:13429612)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.39-57, 2016-03-28 (Released:2016-04-05)
参考文献数
44

本研究では,北海道・十勝地方沿岸域にある生花苗川(おいかまないがわ)流域(面積 62.47 km2)を対象とし,淡水の電導度モニタリングに基づく解析を行っている。生花苗川流域の土地利用被覆率は,森林88.3%,農用地10.6%でほとんどが森林である。森林土壌は,30–40 cm深に1667年樽前山噴火によるテフラTa-b層,さらに深部には約40,000年前の支笏火山大噴火によるテフラSpfa-1層と角レキ層が基盤の上に分布している。これらの層は極めて透水性が高く,側方浸透流の流出経路の役割をもつ。また,レゴリス下の地質基盤は大部分が新第三紀中新世の海成層で透水性の高い砂岩・レキ岩を含み,これには日高造山運動によってできた断層も分布している。今回は,試水の化学分析から河川水の主要無機イオンMg2+, Ca2+, Na+, SO42-, HCO3-の濃度(mg/L)と25℃電気伝導度(EC25と表記)との間に相関の高い線形関係を見出した。他方,2013年の降雨期に生花苗川で水位・電気伝導度をモニタリングし,溶存イオン濃度とEC25との関係を用いて,上記五種のイオン濃度およびその負荷量の時系列を得た。本研究では,得られた流量と主要無機イオン負荷量の時系列にタンクモデルとベキ関数を適用し,河川への各種イオン物質の流出経路について解析を行った。流出解析の結果,2013年は表面流出と中間流出で流出全体の74.2%を占め,流域外への地下水漏出は16.8%を占めた。また,イオン物質負荷量に対するモデル解析から,全負荷量に対する表面流出,中間流出,地下水流出,河川流出による負荷量の寄与が求められた。結果として,五つのイオン種全てで中間流出による寄与が40.0~70.0%と最大であった。これは,中間流出に対応する基盤上の角レキ層と支笏テフラ層での側方浸透流による溶出が卓越していることを示唆している。
著者
戸田 真夏 長谷川 直子 大八木 英夫
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2014, 2014

筆者らは、地誌学的な視点の一般への普及の手段として、地域を総合的に理解できる地誌的旅行ガイドブックを作成、出版することを目標に活動している。その基礎情報を得るため、大学生を対象として国内旅行に関するアンケート調査を行い、その大まかな結果については2014年春に報告した。それに引き続き今回は、旅行動向の男女による違いについて報告する。アンケートの有効回収数は965である。男女毎の回答数は男子が542、女子が409である。以下、主に男女差の見られた項目について示す。「鉄道」、「車」、「バイク」、「体を動かすことが好き」などアウトドア派や「アニメ好き」は男子学生が多い。一方、「写真を撮ることが好き(デジカメ所持)」、「テーマパーク好き」は女子学生が多い。「旅行好き」、「食べることが好き」は男女差なく1,2位を占める。このことから女子はイベント、思い出を求め、男子は趣味や体験重視と考えられる。日帰り旅行や国内宿泊旅行の頻度は「年1回」や「ほとんどしない」のは男子学生が多いが、「週1程度」で高頻度なのも男子学生が多い。男子学生は好きな人は沢山行くが興味のない人は行かない、と極端な違いがあると思われる。なお、「旅行好き」は宿泊も日帰りも行っている。日帰り旅行や 宿泊旅行の同行者については、「一人」は圧倒的に男子学生が多く、また「友人」も男子学生が多い。「家族」は日帰り旅行では女子学生のほうがやや多いが、宿泊旅行では男子がやや多い。女子のほうが旅行に対して受動的なのかもしれない。.旅行先を決める理由に関して、「行ったことがない」は男子が多いことから、男子はフットワークが軽いと考えられ、「日数で決める」ことが多い女子は、現実的なのではないだろうか。国内宿泊旅行の目的について、「自然の景色を求める」のは男子学生が多い傾向が見られた。旅行先を決めるきっかけは、「書籍」、「知人の話」、「趣味」、「授業」に影響されるのは男子学生が多く、「旅行ガイドブック」や「旅行会社」は女子学生が多い。旅行へ行く際の情報収集の手段については「HP」や「ネット口コミ」は男子学生が多く、「旅行ガイドブック」は女子学生が多い。ガイドブック利用冊数関しては、女子の方が利用する割合が高く、男子はまったく利用しない割合が高い。購入の有無では女子の方が購入し、男子は購入しない人が多い。また、女子学生のほうが購入費用をかけている。知っているガイドブックについては、女性ターゲットの「ことりっぷ」や「タビリエ」はやはり女子学生のほうが認知度が高い。ガイドブック購入時に重視する点では、一位の「情報が豊富」では男女差は見られないが、「かわいい」、「持ち運びやすさ」はやや女子学生が重視する傾向がある。ガイドブックの記事で重視する情報については、男子は「自然」と「宿泊」なのに対して、女子は「お土産の買える場所」と「飲食店」といった具合で違いが目立った。「ガイドブックのモデルコースを参考にするか」との問いに対しては、女子学生のほうが「参考にする」傾向がみられるものの、「かなり参考にする」人は男子学生のほうが多い結果が得られた。ガイドブックに載っていない現地での発見については男子学生のほうが重要視している傾向が高かった。筆者らが目指している地誌的説明が詳しいガイドブックに対しては、男女とも魅力は感じてくれている。 様々な質問項目で男女の違いが見られた。全体を通して、男子学生の方が能動的、女子学生の方が受動的な印象を受ける。言い方を変えると、男子学生の方が個性的な旅行を好み、女子学生の方が周囲に影響されやすいようにも思える。一方で女子学生の方がガイドブックを使う人が多いことから計画的にも思える。これらのアンケート結果の指向性に基づくと、地誌的な旅行は男子学生の方が興味を示しそうな気もするが、最後の質問で直接「地誌に特化したガイドブック」と聞くと、女子学生も興味を持っている回答結果を示している。
著者
宮岡 邦任 谷口 智雅 大八木 英夫
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2013, 2013

<b>1.はじめに</b>伊勢湾に面する三重県津市白塚海岸沿岸域における海底地下水湧出については,潮汐の変化に伴って湧出地点,淡水・海水の混合割合,水質,湧出量などに変化が生じることが確認されている(Miyaoka, 2007)。一方,白塚海岸の南側に隣接する河川の河口域において,潮汐の変化に伴う栄養塩の流出や伏流水の挙動の変化については明らかにされていない。本発表では,三重県津市を流れる志登茂川および安濃川の河口付近を対象に,潮汐の変化に伴う海底および河床からの地下水湧出形態の変化について調査を行った結果を報告する。<br><b>2.対象地域の概要</b> 研究対象地域を図1に示す。志登茂川および安濃川は,いずれも布引山地を源にする河川である。流域の土地利用形態は共通しており,中流から下流の沖積地の土地利用は,水田が広がり,いくつかの集落が点在している。海岸平野は市街地となっている。安濃川の流域内人口は,1970年以降増加傾向にある(三重県, 2003)。志登茂川流域においても同様の傾向がみられることから,これらの河川流域では,人間活動に由来する河川に流入する排水の量や質の変化が,沿岸域の水環境に影響を及ぼしていると考えられる。安濃川河口付近の河床堆積物は砂および小礫であるのに対し,志登茂川では砂および泥である。<br><b>3.研究方法</b> 志登茂川河口域において,電気伝導度分布調査を2012年7月と11月に実施した。いずれも中潮で7月は干潮,11月は満潮時に調査を実施した。また,2013年7月には,安濃川河口から約1km上流の約100mの区間において,電極間隔を4mに設定しシュランベルジャー法による比抵抗探査を,干潮から翌日の同時間帯の干潮にかけて3時間おきに実施した。また,志登茂川河口域では電気伝導度測定地点から数地点を選択し,安濃川では20m間隔で干潮時と満潮時に100mlの採水を行った。<br><b>4.結果および考察</b> 2012年7月および11月の志登茂川河口域における海底の電気伝導度分布調査では,顕著な淡水地下水の湧出が認められなかったが,河口部付近に周辺よりは値の低い35,000&mu;S/cm以下の範囲が認められたことから,この範囲で若干の淡水成分の流出が存在していることが示唆された。一方,北側の海岸付近には30,000&mu;S/cm以下を示す海域がみられた。このことから,河口付近では,陸地部とは異なり海水が陸側に侵入しやすく,沿岸付近で強制的に上向きのフラックスを得ることが少ないため,海底からの淡水流出が顕著に発生しないことが考えられた。2013年7月に実施した安濃川での比抵抗探査では,干潮時と満潮時で海域からの海水侵入の状態の違いから,河床からの湧出傾向にも変化が生じることが明らかとなった。<br><b>文献 </b><b></b>Miyaoka, K. (2007): Seasonal changes in the groundwater-seawater interaction and its relation to submarine groundwater discharge, Ise Bay, Japan. A New Focus on Groundwater-Seawater Interactions. IAHS Publ. 312, 68-74.三重県(2003):安濃川水系 河川整備計画.29p.<br><b>付記</b> 本研究は科研費 基盤C(課題番号23501240 代表:宮岡邦任)の一部である。
著者
長谷川 直子 宮岡 邦任 元木 理寿 大八木 英夫 谷口 智雅 戸田 真夏 山下 琢巳 横山 俊一
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.100036, 2013 (Released:2014-03-14)

2013年春の日本地理学会において、地理学の社会的役割を考えるというシンポジウムが開催された。発表者の何人かは、一般の人に地理学的な視点(広い視野、総合的な視点、現象間の関係性を理解する)がないことが問題であると指摘していた。それでは一般の人にそのような視点を持ってもらうためにはどうしたら良いか。具体的に何か作成し、普及できないか。そのような視点に立ち、筆者らは2013年春から研究グループを立ち上げて活動を開始している。地誌学的な視点の一般への普及の手段として、地誌学の視点から地域を理解する教材を子供向け(義務教育における副読本や教員向け実践実例集等)と大人向け(旅行ガイドブック)に作成できないか考えた。現在市販されているガイドブックを地誌学の視点から眺めると、単なるスポット・事象の羅列になっており、スポット間の関係性や、スポット・事象がそこに存在する理由などの地誌学的説明が見られない。旅行ガイドブックにこれらの説明をうまく入れられれば、旅行者がガイドブックを読むことで地誌学的視点が身に付くようになるのではないかと考えられる。そして、観光ガイドブックにどのように項目を取り上げ、地誌学的な記載をするかについて、検討を行った。
著者
知北 和久 大八木 英夫 山根 志織 相山 忠男 板谷 利久 岡田 操 坂元 秀行
出版者
日本水文科学会
雑誌
日本水文科学会誌 (ISSN:13429612)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.73-86, 2017-08-28 (Released:2017-09-20)
参考文献数
17
被引用文献数
1

今回の研究対象である北海道・倶多楽湖は,20世紀までは冬季に完全結氷し年によっては湖氷の圧縮・膨張によるお神渡りが観察された。しかし,21世紀に入り,冬季に完全結氷しない年がこれまで4回現れており,今後の温暖化の進行によって倶多楽湖は将来,永年不凍湖になる可能性がある。ここでは,倶多楽湖の貯熱量を2014年6月~2016年5月の2年間にわたり計算し,気象因子の変動に対する熱的応答を感度解析によって検討した。なお,同湖が結氷するのは例年2~3月であるが,2015年は暖冬で部分結氷,2016年は完全結氷し,貯熱量に違いが見られた。ここでは,貯熱量を湖の熱収支に基づく方法と水温の直接測定による方法の二通りで計算し,両者を比較した。その結果,両者の間に決定係数R2=0.903の高い相関があり,熱収支による方法の妥当性が裏付けられた。これを踏まえ,主要な気象因子(気温,日射,降水量,風速)の値を変えて貯熱量に対する感度解析を行った。結果として,倶多楽湖の貯熱量は気温と降水量の増加に対して顕著に増加し,現在の湖周辺での年平均気温の上昇率0.024°C/年を考慮すると,約20年後には永年不凍湖になる可能性がある。
著者
宮本 拓人 知北 和久 阪田 義隆 落合 泰大 ホサイン エムディ モタレブ 大八木 英夫 工藤 勲
出版者
日本水文科学会
雑誌
日本水文科学会誌 (ISSN:13429612)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.39-57, 2016

本研究では,北海道・十勝地方沿岸域にある生花苗川(おいかまないがわ)流域(面積 62.47 km2)を対象とし,淡水の電導度モニタリングに基づく解析を行っている。生花苗川流域の土地利用被覆率は,森林88.3%,農用地10.6%でほとんどが森林である。森林土壌は,30–40 cm深に1667年樽前山噴火によるテフラTa-b層,さらに深部には約40,000年前の支笏火山大噴火によるテフラSpfa-1層と角レキ層が基盤の上に分布している。これらの層は極めて透水性が高く,側方浸透流の流出経路の役割をもつ。また,レゴリス下の地質基盤は大部分が新第三紀中新世の海成層で透水性の高い砂岩・レキ岩を含み,これには日高造山運動によってできた断層も分布している。今回は,試水の化学分析から河川水の主要無機イオンMg2+, Ca2+, Na+, SO42-, HCO3-の濃度(mg/L)と25℃電気伝導度(EC25と表記)との間に相関の高い線形関係を見出した。他方,2013年の降雨期に生花苗川で水位・電気伝導度をモニタリングし,溶存イオン濃度とEC25との関係を用いて,上記五種のイオン濃度およびその負荷量の時系列を得た。本研究では,得られた流量と主要無機イオン負荷量の時系列にタンクモデルとベキ関数を適用し,河川への各種イオン物質の流出経路について解析を行った。流出解析の結果,2013年は表面流出と中間流出で流出全体の74.2%を占め,流域外への地下水漏出は16.8%を占めた。また,イオン物質負荷量に対するモデル解析から,全負荷量に対する表面流出,中間流出,地下水流出,河川流出による負荷量の寄与が求められた。結果として,五つのイオン種全てで中間流出による寄与が40.0~70.0%と最大であった。これは,中間流出に対応する基盤上の角レキ層と支笏テフラ層での側方浸透流による溶出が卓越していることを示唆している。
著者
大八木 英夫 濱田 浩美
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.1, 2013 (Released:2013-09-04)

湖沼における水質の汚濁を知る指標として,透明度の経年変化が簡便に使用されており,栄養塩類の増加に伴う富士五湖の富栄養化(汚濁)の進展過程を知ることができる。さらには,環境省は,望ましい水環境及び利水障害との関係を整理しつつ透明度を指標とする検討しており(2010年1月報道あり),今後,透明度の変遷についてもより注目する必要があるといえる。透明度に関して全国的に整理されている資料は,『自然環境保全基礎調査』など第4回(1991年)までの調査結果が環境庁(現環境省)によって実施されている。その結果,透明度10m以上の湖沼は全国で13湖沼、圧倒的多数の湖沼は透明度5m以下となっていたと報告されている。本研究では,富士五湖を中心として,多くの湖沼における近年の透明度の変化について考察をする。
著者
塚脇 真二 古内 正美 高原 利幸 平吹 喜彦 竹林 洋史 石川 俊之 奥村 康昭 本村 浩之 富田 瑞樹 荒木 祐二 大八木 英夫 ハン プゥ
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

観光産業の爆発的な発展とともに大気や水の汚染、森林の破壊といった環境汚染・環境破壊が顕在化し、遺跡への影響や住民の健康被害が懸念されるカンボジアのアンコール遺跡区域を対象に、大気、水、森林の3分野から総合的な環境調査を2年間にわたって実施した。その結果、同区域の環境汚染や破壊が危機的状況になりつつあることや観光産業との密接な関連があることを確認し、成果をとりまとめ国際シンポジウムとして同国で公表した。