著者
広渡 俊哉/石井 実
出版者
大阪府立大学
雑誌
大阪府立大学大学院農学生命科学研究科学術報告 (ISSN:13461575)
巻号頁・発行日
vol.53, pp.23-29, 2001-03-31

大阪府能勢町の「三草山ゼフィルスの森」において,1996年6月27日にゼフィルス類成虫の日周活動性ならびに摂食行動に関する調査を行った。ヒロオビミドリシジミは11時〜12時をピークとして10時から15時前まで活発に活動するのに対して,ウラジロミドリシジミはヒロオビミドリシジミが活動しない10時前と15時以降に活発に飛翔するのが観察された。ミズイロオナガシジミは6〜7時と14〜16時前後に,ウラナミアカシジミは16〜18時前後に活動するのが観察された。数種のゼフィルス類については,配偶行動が観察された。ゼフィルス類ばナラガシワ,クヌギなどの低・高木からなるさまざまな環境を活動場所としており,特にヒロオビミドリシジミはナラガシワ高木,ウラナミアカシジミはクヌギ低木周辺を飛翔する個体が多い傾向が認められた。また,ヒロオビミドリシジミ,ウラジロミドリシジミ,ウラナミアカシジミ,ミズイロオナガシジミなどのゼフィルス類では,土に活動性が低くなった時間帯にナラガシワの未熟果から吸汁する行動が観察された。
著者
広渡 俊哉 亀谷 計泰
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.85-92, 1999-03-30
参考文献数
13

コンオビヒゲナガ,Nemophora ahenea Stringerは,本州,四国,九州に分布し,成虫が7-9月に出現することが知られていたが,その生活史や配偶行動などについてはまったく不明であった.そこで,配偶行動を中心として飛翔活動の日周性・産卵寄主など,本種の生活史の一部を明らかにすることを目的として,兵庫県猪名川町の三草山,および和歌山県橋本市の玉川峡において調査を行った.三草山では,1997年7月11日,7月19日,7月23日の3回,玉川峡では,8月26日,8月30日の2回調査を行った.調査は原則として午後3時から日没まで,7月23日のみ日の出から日没まで行った.いずれの調査日においても,30分ごとに温度・照度を記録した.成虫,特にオスは日没前後,照度が500-8,000lxと薄暗くなってから活発に活動し,オスが群飛するのが確認された.玉川峡では,オスがイタドリ,ヌルデ,ヒメジョオンなどの花の約10-30cm上空で群飛するのが見られた.これまでヒゲナガガ科の配偶行動についての報告例は非常に少なかったが,三草山で7月19日と7月23日に本種の交尾に至る行動を観察することができた.今回観察されたのは,いずれの場合もオス1個体がヒメジョオンの約10cm上空でホバリングしているところにメスが直線的に飛んできて交尾が成立するというものであった.オスは,メスが約10cmのところまで接近すると,メスに飛びついて空中で絡まり,葉上に落下したときにはすで交尾に至っていた.コンオビヒゲナガでは飛翔中のオスが1個体でも交尾が成立したことから,本種にとって群飛をすることはオスとメスが出会うための必要条件ではないことが明らかになった.また,本種の寄主植物は知られていなかったが,玉川峡で8月30日にイタドリの花のつぼみに産卵行動をするメスが見られた.卵は確認できなかったが,イタドリは本種の寄主植物である可能性がある.Thornhill(1980)は,ケバエの一種にみられるオスの群飛は,メスが羽化してくる地面に近い場所を確保しようとするオス同士の闘争であると考えた.コンオビヒゲナガの場合,オスはイタドリやヒメジョオンなどの花をマーカーとしてメスとの出会いの場所として利用しており,群飛を形成するのはThornhill(1980)が観察したケバエの一種のようにその場所をめぐって争っている結果なのかもしれない.また,コンオビヒゲナガではオスの複眼がメスに比べて大きく発達しており,特に背面域の個眼が腹面域の個眼にくらべて大きかった.ホバリングするオスは地面に対して体軸をさまざまな角度に傾けており,地表から飛んでくるメスを発見するのにも背面域の発達した個眼を用いている可能性がある.また,コンオビヒゲナガのメスの複眼はオスに比べて小さいものの,群飛をしないとされるクロハネシロヒゲナガ(オスは単独で探雌飛翔をすると考えられている)のメスに比べて相対的に大きかった.コンオビヒゲナガのメスが,飛翔するオス,あるいはマーカーと考えられる植物のどちらに誘引されるかは不明だが,今回の観察からもメスはオスを視覚で発見していることが示唆された.
著者
澤田 義弘 広渡 俊哉 石井 実
出版者
日本昆虫学会
雑誌
昆蟲. ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.2, no.4, pp.161-178, 1999-12-25
参考文献数
20
被引用文献数
2

1. 1992年12月から1994年1月にかけて大阪府北部の里山的環境を残す三草山のヒノキ植林, クヌギ林およびナラガシワ林において, 土壌性甲虫類の群集構造および多様性を明らかにするために, 3地点の土壌から土壌性甲虫類をツルグレン装置で抽出し, 種の同定を行った後, 科数・種数・個体数を集計し, 種多様度(1-λ)および地点間の類似度・重複度を算出することにより群集構造を比較した.2. その結果, 今回の調査で三草山の3地点から, 合計24科104種1431個体の土壌性甲虫類が捕獲された.優占5科はハネカクシ科, ムクゲキノコムシ科, ゾウムシ科, タマキノコムシ科, コケムシ科, 優占5種はムナビロムクゲキノコムシ, イコマケシツチゾウムシ, オチバヒメタマキノコムシ, ナガコゲチャムクゲキノコムシ, スジツヤチビハネカクシの1種であった.三草山全体としての土壌性甲虫類の群集構造は種数, 個体数, 種多様度ともに四季を通じて安定していた.3. ナラガシワ林(地点3)では20科82種755個体が捕獲され, 種多様度(0.93), 平均密度(20.9個体/m^2)ともにもっとも高く, ナガオチバアリヅカムシ, ハナダカアリヅカムシなど41種がこの地点だけで確認された.ナラガシワ林における土壌性甲虫類の密度は1年を通じて高いレベルを維持し, 大きな変化はなく安定していた.4. クヌギ林(地点2)では17科47種512個体が捕獲され, 種多様度(0.91), 平均密度(14.2個体/m^2)ともに高かったが, この地点でのみ確認された種はアカホソアリモドキ, アナムネカクホソカタムシなど11種で, 固有性は地点3より低かった.この地点における種数, 密度は夏季にやや減少する傾向が見られたものの, 種多様度は地点3と同様, 安定していた.5. ヒノキ植林(地点1)では7科34種164個が体捕獲され, 種多様度(0.87), 平均密度(4.6個体/m^2)ともにもっとも低く, この地点でのみ確認された種はホソガタナガハネカクシ, チビツチゾウムシ類の1種など9種であった.地点1では, 種数, 密度, 種多様度が夏季に増加したが, これはハネカクシ科のスジツヤチビハネカクシの1種の増加によるものであった.6. 各地点間の類似度(QS)ならびに重複度(Cπ)は0.2∿0.5と低く, 各地点の土壌性甲虫類の群集構造はかなり異なっていることを示した.しかし, 地点2と3の間ではQS, Cπともにやや高い値(約0.5)を示したことから, 優占樹種が異なっても落葉広葉樹の優占する地点では土壌性甲虫類の群集構造は比較的似ていると考えられた.7. 以上の結果から, 三草山の里山林では, とくに落葉広葉樹の優占する地点における土壌性甲虫類の群集構造が多様性に富み, 四季を通じて安定していることが示された.また, 環境の異なる各地点に特有の群集が成立していたことから, 将来, 土壌性甲虫類は有用な環境指標として利用できると考えられる.