著者
那須 義次 黄 国華 村濱 史郎 広渡 俊哉
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.187-193, 2008-06-30
被引用文献数
2

2007年,営巣後のオオタカとフクロウの巣を調査したところ,前者の巣から日本新記録のフタモンヒロズコガ(新称) Monopis congestella (Walker)とマエモンクロビロズコガ M. pavlovskii (Zagulajev),後者からもフタモンヒロズコガの発生を確認した.これら幼虫は,巣内のケラチン源(羽毛,毛,ペリットなど)を摂食していた.オオタカの巣から発生した蛾の記録ははじめてである.大阪府立大学昆虫学研究室の標本を調査したところ,日本各地から採集されていたフタモンヒロズコガの標本も見いだした.幼虫産出性は鱗翅目では極めて珍しいが,ヒロズコガ科を含むいくつかの科で知られている.東南アジアのフタモンヒロズコガは,幼虫産出性を示すことが知られているが,灯火採集された日本産の2♀成虫の腹部内に1♀あたり最大51個体の幼虫が見いたされため,日本産も幼虫産出性であることが確認された.
著者
広渡 俊哉
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.271-290, 1997-11-30
参考文献数
16

これまで,Adela属の種として日本からミドリヒゲナガA.reaumurella(Linnaeus)とケブカヒゲナガの2種のみが知られていた.今回,日本産Adela属の分類学的再検討を行った結果,A.nobilis Christophとされていたケブカヒゲナガは,独立種であることが明らかになり,A.praepilosa sp.nov.として記載した.さらに,2新種A.luteocilis sp.nov.(アトキケブカヒゲナガ:新称),A.luminaris sp.nov.(ムモンケブカヒゲナガ:新称)を見いだし,計4種が日本に分布することがわかった.なお,A.nobilis Christoph,1882は,基産地であるウラジオストク周辺のロシア沿海州などに分布し,おそらく日本には分布しない.Adela属は,♂の触角第8-9鞭節に特異な突起(hook-peg)を持つことによって特徴づけられる.日本産Adela属は,ミドリヒゲナガとそれ以外の3種にグルーピングできる.ミドリヒゲナガでは,transtilla側背面の突起がヘラ状で,ケブカヒゲナガを含む他の3種では,刺状.また,ケブカヒゲナガを含む3種では雌交尾器のvestibulumに顕著な板状の骨片(vestibular lamella)が存在するが,ミドリヒゲナガではこれを欠く.日本産の種はいずれも平地では4月下旬-5月上旬,山地などでは5月-6月に見られる.成虫はカエデ類の花などに集まる.Adela属では,♀に比べて♂の触角が長く複眼が大きいという性差が見られる,今回扱った種では,♂の複眼の大きさや触角の長さに種間差が認められた.複眼の大きさ,触角の長さは,それぞれhd/md(複眼の水平直径/複眼間の最短距離),al/fl(触角長/前翅長)で表した.Nielsen(1980)は,Adela属とNemophora属の種で,♂の複眼が大きいものはスウォーム(群飛)するものが多いとしている.実際,ケブカヒゲナガ.A.praepilosa sp.nov.の♂の複眼は大きく,スウォームすることが知られている.一方,アトキケブカヒゲナガA.luteocilis sp.nov.とムモンケブカヒゲナガA.luminaris sp.nov.では,♂の複眼は小さく,触角が長いが,これらの種がスウォームするかどうかは観察されていない.日本産のAdela属とNemophora属でスウォームしないとされているのは,現在のところクロハネシロヒゲナガNemophora albiantennella Issiki 1種のみである(Hirowatari&Yamanaka,1996).クロハネシロヒゲナガでは♂の触角が長く(al/fl:3.36±0.02),複眼の大きさに性差は認められない(hd/md:♂0.44±0.03,♀0.42±0.2).ヒゲナガガ科では,他個体の認識はすべて視覚によってなされていると考えられている.しかし,複眼が小さく,スウォームしないクロハネシロヒゲナガの♂は,単独で飛翔して♀を探索するが,この時視覚以外の感覚(嗅覚など)を用いていることも充分考えられる.今回,雄交尾器,特にvalva形態から,複眼が小さく触角の長いムモンケブカヒゲナガと,複眼が大きく触角の短いケブカヒゲナガがもっとも近縁であると推定された.従って,♂の複眼の大きさや触角の長さは,各種でおそらく配偶行動と密接に関係しながら独立に進化したと考えられる.さらに,これらの種では複眼が大きいと触角が短く,複眼が小さいと触角が長かった.ただし,ムモンケブカヒゲナガとアトキケブカヒガナガでは,複眼が小さいといっても♀よりは相対的に大きく,視覚で他個体を認識している可能性が高いが,その際,長い触角で嗅覚等,視覚以外の感覚を相補的に用いているのかもしれない.ヒゲナガガ科の配偶行動とそれに関わる形態の進化については,さらに多くの種で詳しく調べる必要がある.以下に日本産各種の形態的特徴と分布などを示す.A.reaumurella(Linnaeus,1758)ミドリヒゲナガ分布:北海道,本州,九州;ヨーロッパ.前後翅とも一様に暗緑色の金属光沢を有しており,日本では他種と混同されることはない.雄交尾器のtegumen後端の形態がヨーロッパ産のものに比べて異なっており(森内,1982),♂の複眼の大きさもヨーロッパ産のものよりやや小さいと思われるが,複眼の大きさは地理的変異があるという報告例もあるので(Kozlov&Robinson,1996),ここでは従来の扱いのままで保留した.A.luteocilis sp.nov.(新種)アトキケブカヒゲナガ(新称)分布:本州(長野県,岐阜県,滋賀県,和歌山県,奈良県[伯母子岳,大台ヶ原]).♂の複眼は小さく(hd/md:0.86±0.03),触角は長い(al/fl:3.33±0.14).♂の頭頂毛,触角間毛は黄色.♀の触角の基部約3分の1が黒色鱗で覆われる.雌雄とも後翅の中室端から前縁部にかけて淡色の斑紋がある.後翅の縁毛が黄色であることで,他種と区別できる.A.luminaris sp.nov.(新種)ムモンケブカヒゲナガ(新称)分布:本州(大山),九州(福岡県[英彦山,犬鳴山]).♂の複眼は小さく(hd/md:0.83±0.05),触角は長い(al/fl:3.63±0.21).♂の頭頂毛,触角間毛は黄色.♀の触角の基半部が黒色鱗で覆われる.雌雄ともに,後翅の中室端から前縁部にかけて淡色のパッチがなく,一様に茶褐色-黒紫色であることで,他種と区別できる.A.praepilosa sp.nov.(新種)ケブカヒゲナガ分布:本州,四国,九州.これまで,A.nobilisと混同されてきた.♂の下唇鬚は密に長毛で覆われる.♂の頭頂毛,触角間毛は黒色.♂の複眼は大きく(hd/md:1.87±0.17),触角は比較的短い(al/fl:2.27±0.16).♀の触角の基半部が黒色鱗で覆われる.雌雄とも後翅の中室端から前縁部にかけて淡色の斑紋がある.後翅の縁毛は茶褐色.雄交尾器,特にvalvaの形状から,ムモンケブカヒゲナガに近縁であると思われる.これまで混同されていたA.nobilisとは,valvaの形状の違いで区別できる.♂成虫はカエデ,コバノミツバツツジ,ユキヤナギの花の上でスウォームする.
著者
広渡 俊哉
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.311-329, 2005

ウスベニヒゲナガNemophora属は, 全世界に約350種(そのうち150種は未記載種)が分布するとされている.日本では22種が知られているが, 琉球列島からはアマミヒゲナガN. marisella Kozlov & Hirowatari, 1997の1種が知られるのみで, 研究は不十分だった.著者や大阪府立大学関係者, 沖縄の木村正明氏らが採集した材料を中心に検討を行った結果, 琉球列島産のウスベニヒゲナガ属に2新種2日本新記録種を含む7種を認めた.ヒゲナガガの成虫は主に昼間にシイ類の花などに集まるものを採集したが, 灯火採集でも多くの個体が得られた.特に, 2002年3月22日に沖縄本島北部の辺土名で木村氏らと日没直後の雷雨の中で行った灯火採集では, 沖縄本島に分布する4種が合計70個体以上も飛来した.本稿では奄美大島で1♀のみが採集されたギンスジヒゲナガを除いて, 各種の雌雄交尾器を図示・記載した.以下は, 琉球列島産ウスベニヒゲナガ属7種の特徴, 分布などの概要である.1. Nemophora ahenea Stringerコンオビヒゲナガ(琉球列島新記録)(Figs 1A-B, 4, 10A-C)中型(開張13-15mm).前翅は金色の光沢を帯びた赤銅-赤紫色で, 細い濃紺色の帯をもつ.前翅前縁基部と帯の両側は明るい青色の鱗粉で縁取られる.本種は琉球列島では八重山諸島(石垣島, 西表島)で採集されているが, 奄美・沖縄諸島では発見されていない.本土産(開張11-13mm)と比べてやや大型で, 前翅は金色の光沢が強い(本土産は紫色の光沢が強い), ♂前翅の紺色の帯が狭い, ♀の触角基部に黒色の鱗粉束をもつ, などの点で異なっているが, 交尾器の形態には顕著な差異は認められなかった.なお, 本州では♂が群飛することが知られているが, 琉球では群飛を観察していない.分布: 本州, 九州, 琉球(石垣島, 西表島);台湾.2. Nemophora tenuifasciata sp. nov.ウスオビコヒゲナガ(新種)(Figs 1C-D, 3A-B, 5, 11A-C)琉球列島産の本属中もっとも小型(開張11-13mm).頭頂部は♂♀ともに黄色.前後翅ともに細長い.前翅は弱い光沢がある淡褐色.前翅の白帯は不明瞭で変異が大きく, 白帯をまったく欠く個体も多い.ホソオビヒゲナガN. aurifera (Butler)に似るが, 小型であること, 前翅の白帯が不明瞭, 交尾器のバルバの形状など区別できる.シイ類の花で吸蜜, あるいは花の上を飛翔している成虫を採集した.分布: 琉球(奄美大島, 沖縄本島).3. Nemophora pruinosa sp. nov.リュウキュウクロヒゲナガ(新種)(Figs 1E-F, 3C-D, 6, 12A-C)小-中型(開張12-15mm)で, 前翅の地色は黒色で♂では淡黄色, ♀では白色の鱗粉が散布される.白帯の両側は黒色, さらにその外側は鈍い光沢のある鉛色の鱗粉で縁取られる.キオビクロヒゲナガN.umbripennis Stringerに似るが, 本種では♂の下唇鬚が短く短毛がまばらに生じる(Fig. 1N)のに対して, キオビクロヒゲナガでは♂の下唇鬚は長く長毛で蜜に覆われる(Fig. 1O)他, 交尾器の形態も異なる.♂成虫は, シイ類などの樹冠部の上空で群飛していた.分布: 琉球(奄美大島, 沖縄本島, 宮古島).4. Nemophora marisella Kozlov & Hirowatariアマミヒゲナガ(Figs 1G-H, 7, 13A-C)中-大型(開張14-19mm).♂では触角基部, ♀では触角の基半部が黒色鱗で覆われる.前後翅ともに幅広く, 前翅は光沢のない黒褐色で, 白帯は細い.奄美大島産に基づいて記載されたが, 沖縄本島, 八重山諸島(西表島)にも分布することを確認した.西表島産は, 斉藤寿久博士が採集した幼虫を飼育・羽化させたもので, 奄美・沖縄産に比べて小型(開張♂14.4-14.7mm, ♀14.9mm)で黒みが強く, 前翅の白帯は2♂では非常に狭く不明瞭(1♀では明瞭)であった.これが地理的変異なのか個体変異なのかは現時点では不明.分布: 琉球(奄美大島, 沖縄本島, 西表島).5. Nemophora polychorda (Meyrick)タイワンオオヒゲナガ(日本新記録)(Figs 1I-J, 8, 14A-C)大型(開張15-22mm).前翅は黄褐色で横帯は橙黄色.本種は台湾産の個体に基づいて記載された.台湾産はサイズが大きい(開張♂25-30mm)が, 琉球列島産は相対的に小さい.本種は奄美大島と沖縄本島で比較的普通で, ♂はさまざまな樹木の樹冠部やその周辺などで群飛していた.分布: 琉球(奄美大島, 沖縄本島);台湾.6. Nemophora magnifica Kozlovイナズマヒゲナガ(新称, 日本新記録)(Figs 1K-L, 9, 15A-C)前翅は暗褐色で, 前翅基半部にW型(イナズマ状), 基部2/3の前・後縁に三角状の淡黄色斑をもつ.中型(開張15-16mm).全種と同様に, 本種は最初に記載された台湾産(特に♂: 開張18-21mm)に比べて小さい.分布: 琉球(石垣島, 西表島);台湾.7. Nemophora optima (Butler)ギンスジヒゲナガ(琉球列島新記録)(Fig. 1M)琉球列島から奄美大島で採集された1♀(開張12mm)のみが確認された.前翅, 前・後縁に黒鱗で縁取られた銀色の短条線をもつ.本州産に比べて前翅の地色が濃い.分布: 北海道, 本州, 九州, 琉球(奄美大島).
著者
小林 茂樹 広渡 俊哉 黒子 浩
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.1-57, 2010-05-31
参考文献数
33
被引用文献数
1

チビガ科Bucculatricidaeは,幼虫が若齢期に葉にもぐる潜葉性の小蛾類である.成虫は開張6-8mmで,世界ではおよそ250種が知られる.中齢期において幼虫は潜孔を脱出し,老熟すると本科に特徴的な縦の隆条をもった舟底形のマユを葉や枝上につくり蛹化する.日本では,アオギリチビガBucculatrix firmianella Kuroko,1982,ナシチビガB.pyrivorella Kuroko,1964,クロツバラチビガB.citima Seksjaeva,1989の3種が知られており,最近筆者らによってハマボウチビガB.hamaboella Kobayashi,Hirowatari&Kuroko,2009,ならびにコナラチビガBucculatrix comporabile Seksjaeva 1989とクリチビガB.demaryella(Duponchel,1840)が追加された(有田他,2009).しかし,本科にはヨモギ属を寄主とするヨモギチビガBucculatrix sp.など,多くの未同定種の報告があり,種の分類・生活史の解明度が低く,種レベルの研究が不十分であった.そこで本研究は,日本産の本科の新種を含む未解明種の形態・生活史を明らかにすることに努め,既知種を含めた本科の分類学的再検討を行った.野外調査とともに大阪府立大学や小木広行氏(札幌市),平野長男氏(松本市),村瀬ますみ氏(和歌山市)などの所蔵標本を用い,日本各地の成虫を調査した.奥(2003)が同定を保留した4種についても,交尾器の形態を確認した.その結果,4新種,11新記録種,2学名未決定種を加えた計23種を確認した.確認された23種を,交尾器の特徴から10種群に分類し,16種の幼虫期の習性をまとめ,3タイプに分類した.幼虫習性は,11種で多くのチビガ科の種でみられる型(1.中齢以降は葉の表面にでて葉を摂食する.2.脱皮マユは2回作る)が見られ,茎潜り,ヨモギにつく3種に見られた脱皮マユを一度しか作らない型は,Baryshnikova(2008)の系統の初期に分化したと考えられるグループに属した.ヤマブキトラチビガとシナノキチビガはシナノキの葉の表と裏側をそれぞれ利用していたが,形態は大きく異なっており,それぞれ,ブナ科とバラ科に潜孔するグループに形態的に近縁と考えられた.また,メス交尾器の受精管が交尾のうの中央に開口することが本科の共有派生形質であることを示唆し,さらに調査した日本産18種でこの形質状態を確認できた. 1.Bucculatrix firmianella Kuroko,1982アオギリチビガ(Plates 1(1),2(1-11),Figs 3A-C,10A)開張6-8mm.前翅は白色に不明瞭な暗褐色条が走り,前翅2/3から翅頂に黒鱗が散在する.雄交尾器のバルバ,ソキウスは丸く,挿入器は細長い.幼虫は6〜10月にアオギリの葉にらせん状の潜孔を作る.住宅の庭木や大学キャンパスなどで発生がみられた.分布:本州,四国,九州.寄主植物:アオギリ(アオギリ科). 2.Bucculatrix hamaboella Kobayashi,Hirowatari&Kuroko,2009ハマボウチビガ(Plates 1(2),2(12-17).Figs 1D,3D-F,10B)開張5.5-8mm.前翅は白色から暗褐色で黒鱗が全体に散在する.雄交尾器のバルバ,ソキウスは長く,バルバの先端に1対の突起がある.幼虫は初夏から11月初旬までみられ,若齢幼虫はハマボウの葉に細長く線状に潜り,その後茎内部に潜る.三重県では,蕾内部に潜孔している幼虫や種子の摂食が観察されている(中野・間野,未発表).分布:本州(三重,和歌山)寄主植物:ハマボウ(アオイ科). 3.Bucculatrix splendida Seksjaeva,1992ハイイロチビガ(新記録種)(Plates 1(3),2(18-20).Figs 1C,3G-I,9E,10C)開張8mm内外.前翅及び冠毛は黒色で,容易に他種と区別できる.本種は,奥(2003)によってBucculatrix sp.4として記録された.幼虫は,夏にみられヨモギの葉の表側表皮を残して薄く剥ぎ,点々と食痕を残す.分布:北海道,本州(岩手,長野);ロシア極東.寄主植物:ヨモギ(キク科). 4.Bucculatrix laciniatell Benander,1931アズサガワチビガ(新称,新記録種)(Plates 1(4).Figs 3J-L)開張9mm.前翅は白色で,前縁から後方に明るい茶色の斜列条が走る.雄交尾器の挿入器は先端が鉤爪状に反り,バルバの先端には細かい棘状の突起がある.平野長男氏採集の長野県梓川産の1♂にもとづいて記録した.ヨーロッパでは,Artemisia laciniata(キク科)を寄主とすることが知られる.分布:本州(長野);ヨーロッパ.寄主植物:日本では未確認. 5.Bucculatrix sp.1(nr.bicinica Seksjaeva,1992)(Fig.9D)本種は,奥(2003)によってBucculatrix sp.3として記録された.雄交尾器は,挿入器の先が大きく反り返り,把握器は長細くなる.沿海州産のB.bicinica Seksjaeva,1992に雄交尾器は似るが,同定を保留した.分布:本州(岩手).寄主植物:不明.6.Bucculatrix maritima Stainton,1851ウラギクチビガ(新称,新記録種)(Plates 1(5),2(21,22).Figs 9A,10D)開張75mm.前翅は濃茶色に白色が混じり,基部に明瞭な白斜条が走る.雄交尾器の把握器は先端が深く切れ込み,雌交尾器の交尾口は,おわん型になる.小木広行氏採集の北海道鹿追産の1♂と山崎一夫氏採集の大阪府大阪市産の1♀にもとづいて記録した.山崎(私信)によると潜孔とマユを大阪市北港処分地で観察している.同様に淀川河口付近のウラギクでも潜孔痕が観察できた.ヨーロッパでは,ウラギクAster tripolium,Artemisia maritima(キク科)を寄主とすることが知られる.分布:北海道,本州(大阪);ヨーロッパ,ロシア.寄主植物:ウラギク(キク科). 7.Bucculatrix notella Seksjaeva,1996ヨモギチビガ(新称,新記録種)(Plate 1(6),2(23-28).Figs 1C,4A-D,10E)開張6-7mm.前翅は乳白色で,茶から暗褐色の斜条が前縁1/2および2/3に走るが,斑紋の変異が大きい.雄交尾器は,テグメンの先端が発達し,雌交尾器の交尾口はカップ状になる.幼虫は,春から秋にかけてみられ,近畿地方では冬にも若齢幼虫がみられた.後齢幼虫はヨモギの葉に小孔を開け,そこから組織を摂食する.北海道では,ハイイロチビガと混棲しているのが観察された.分布:北海道,本州(長野,三重,奈良,大阪,和歌山,兵庫),九州;ロシア極東.寄主植物:ヨモギ(キク科). 8.Bucculatrix nota Seksjaeva,1989イワテヨモギチビガ(改称,新記録種)(Plate 1(7).Figs 1C,4E-G,9B)開張8mm.前翅は乳白色に褐色の斜条が走る.本種は,奥(2003)によってヨモギチビガBucculatrix sp.1として生態情報とともに記録されたが,ヨモギを寄主とするチビガとしては全国的に前種の方が普通に見られるので本種をイワテヨモギチビガとした.形態,生態ともに前種に似るが,雄交尾器のソキウスが長く発達し,挿入器の先端は大きくフック状に反る.分布:本州(岩手,長野);ロシア極東.寄主植物:ヨモギ,オオヨモギ(キク科). 9.Bucculatrix sp.2(nr.varia Seksjaeva,1992)(Fig.9C)本種は,奥(2003)によってBucculatrix sp.2として記録された.雄交尾器は,ソキウスの側面が広がり,把握器は先が指状になる.沿海州産のB.varia Seksjaeva,1992に雄交尾器は似るが,同定を保留した.分布:本州(岩手).寄主植物:不明. 10.Bucculatrix sinevi Seksjaeva,1988シネフチビガ(新称,新記録種)(Plate 1(8).Figs 4H-I,10F)開張7.0-8.0mm.前翅は乳白色で,茶鱗が散在する.雌雄交尾器は,特徴的で雄交尾器のソキウスは小さく,バルバは幅広く先端が尖る.雌交尾器の交尾口の両側には牛角状の突起が伸びる.分布:北海道;ロシア極東.寄主植物:不明. 11.Bucculatrix altera Seksjaeva,1989アムールチビガ(新称,新記録種)(Plate 1(9).Figs 5A-E,11A)開張7.0-8.2mm.前翅は白色で茶〜暗褐鱗が散在する.雄交尾器は,挿入器内に多数の鉤爪状突起がある.雌交尾器は,前種と同様に角状突起を有しアントゥルムは幅広の筒状になる.分布:北海道;ロシア極東.寄主植物:不明. 12.Bucculatrix pyrivorella Kuroko,1964ナシチビガ(Plate 1(10),2(29-32),3(1-7).Figs 1A,2,5E-G,11B)開張7.0-8.0mm.前翅は白色で,不明瞭な明るい茶の斜条が走る.雄交尾器のソキウスとバルバは弱く硬化し,エデアグスは長い.幼虫は,奈良では5月から9月まで発生し,街路樹や庭木のサクラでよくみちれる.かつてはナシ園の害虫として問題となった.分布:北海道,本州,四国,九州;韓国,ロシア極東.寄主植物:ナシ,リンゴ,サクラ類,ズミ(バラ科). 13.Bucculatrix citima Seksjaeva,1989クロツバラチビガ(Plate 1(11),3(8-11).Figs 5H-J,11C)開張6.0-7.0mm.前翅は乳白色で,前縁1/3と2/3から後縁に濃茶の斜列条が走る.雄交尾器は,ソキウスを欠きバルバ先端は櫛歯状になる.本種は,奥(2003)がクロツバラから採集した幼虫を飼育・羽化させ,日本から記録した.本研究では,クロウメモドキを新たに寄主に加え,幼虫の発育過程を記載した.また,雌交尾器を初めて図示した.分布:北海道,本州(岩手,長野);ロシア極東.寄主植物:クロツバラ,クロウメモドキ(クロウメモドキ科). 14.Bucculatrix armata Seksjaeva,1989シナノキチビガ(新称,新記録種)(Plates 1(12),3(12-21).Figs 6A-C,11D)開張6.0-7.5mm.前翅は白色で,不明瞭な燈褐鱗が散在する.雄交尾器はソキウスを欠きバルバは強く硬化する.幼虫は8月に発生し,シナノキの葉の表側を主に利用する(小木広行氏観察).北海道では,本種とヤマブキトラチビガが葉の表と裏側をそれぞれ利用するのが観察されている化分布:北海道;ロシア極東.寄主植物:シナノキ(シナノキ科). 15.Bucculatrix univoca Meyrick,1918ノアサガオチビガ(新称,新記録種)(Plates 1(13),3(22-30).Figs 6D-H,11E)開張5.0-6.5mm.前翅は茶色で1/2に黒点,前翅2/3から翅頂に黒鱗が散在する.雄交尾器は特徴的で,バルバの中ほどに突起が発達し,その先端は櫛歯状になる.幼虫は9月にみられたが,村瀬(私信)によると2月初旬に採集されたことから,年間を通して発生すると思われる.分布:九州(鹿児島[奄美]),琉球(沖縄[沖縄本島,石垣島]);台湾インド.寄主植物:ノアサガオ,サツマイモ(ヒルガオ科). 16.Bucculatrix demaryella(Duponchel,1840)クリチビガ(Plates 1(14-15),4(1-13).Figs 7A-C,11F)開張6.0-7.5mm.前翅は黄白色で,茶褐鱗が散在する.本種,クヌギ,コナラ,ケヤキ,コギチビガは斑紋が酷似し,確実な同定は交尾器の確認が必要.幼虫は7月初旬から10月まで発生し,クリ,シラカンバの葉に短い螺旋状の潜孔を作る.本種はヨーロッパでは他にカエデ類,ハシバミ類を利用することが知られる.那須御用邸(栃木県)の調査で日本から記録された(有田他,2009).分布:北海道,本州(栃木,長野,愛知,奈良,大阪);ヨーロッパ,ロシア.寄主植物:クリ(ブナ科),シラカンバ(カバノキ科). 17.Bucculatrix serratella sp.nov.ケヤキチビガ(新種)(Plates 1(16),4(14-22).Figs 7D-F,12A)開張5.0-6.0mm体前翅は黄土色で,茶褐鱗が散在する.雄交尾器の挿入器とユクスタの先端は鋭く尖る.雌交尾器の第8節腹側は硬化し,しわ状の模様がある.本種は,大和田ら(2006)によって皇居で採集されたマユと食痕からケヤキチビガBucculatrix sp.1として記録されたものである.幼虫は,5月から10月に発生し,ケヤキの葉に線状の潜孔を作る.本種は,街路樹や寺社林などでよく見られる.分布:本州(東京,長野,愛知,三重,奈良,大阪).寄主植物:ケヤキ(ニレ科). 18.Bucculatrix kogii sp.nov.コギチビガ(新種)(Plate 1(17).Figs 7G-I)開張7-8mm.前翅は白色で茶鱗を散布する.雄交尾器は前種に似るが,挿入器先端に多数の棘状突起を有し,ユクスタも小さい.♀は未知.分布:北海道.寄主植物:不明. 19.Bucculatrix thoracella(Thunberg,1794)ヤマブキトラチビガ(新称,新記録種)(Plates 1(18-19),4(23-30).Figs 1B,7J-K,12B)開張6-7.5mm.前翅は山吹から燈褐色で1/2に黒色帯,同様に中央から翅頂に黒色中線が走る.北海道産の個体は,斑紋が明瞭ではない.本州では奈良県大台ヶ原で成虫のみが得られており,北海道では幼虫は6-8月に発生し,シナノキの葉の裏側を主に利用する(小木広行氏観察).8月の世代はマユで越冬する.ヨーロッパでは,カエデ類,クリ類,ブナ類も利用することが知られている.分布:北海道,本州(奈良[大台ヶ原]);ヨーロッパ.寄主植物:シナノキ(シナノキ科). 20.Bucculatrix muraseae sp.nov.ハンノキチビガ(新種)(Plates 1(20),5(1-6).Figs 8A-B,12C)開張6-8mm.前翅は乳白色で明るい茶の3斜線条が走る.雄雌交尾器は次種に似るが雄交尾器のソキウスの形で区別できる.幼虫は7月初旬から9月に発生し,黄褐色のマユを作る.分布:北海道,本州(奈良,大阪,和歌山,兵庫).寄主植物:ハンノキ(カバノキ科).
著者
児玉 洋 広渡 俊哉
出版者
THE LEPIDOPTEROLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.74, no.3, pp.59-73, 2023-09-30 (Released:2023-10-03)
参考文献数
30

Larvae of the tineid subfamily Harmacloninae are thought to be wood borers without firm evidence. Moths of this subfamily have also well-developed tympanic organs on the second abdominal segment. Among microlepidopterans, this type of organs occur only in Harmacloninae and Pyraloidea. In 2022, we obtained larvae of Micrerethista denticulata Davis, 1998 belonging to Harmacloninae from tunnels in the dead trees of Quercus serrata in Hashimoto, Wakayama Prefecture, Japan. The life history of M. denticlata, including the morphology of the immature stages is described on the basis of field observations and rearing. This represents the first definitive evidence of wood-boring habits in larval stage for the subfamily. The evolution of the larval and pupal morphology associated with wood-boring habits is discussed and the role of the tympanic organs in Harmacloninae is speculated.
著者
広渡 俊哉
出版者
日本環境動物昆虫学会
雑誌
環動昆 (ISSN:09154698)
巻号頁・発行日
vol.18, no.4, pp.177-187, 2007-12-28

鱗翅目昆虫の中では,チョウ類が環境指標として有用であることが多くの研究者によって指摘され,トランセクト法による調査が行われてきた(田中,1988 ; Kudrna,1986 ; 石井ら,1991など).著者は,国内におけるチョウ類のトランセクト調査の他に,インドネシアで森林火災後のチョウ相の変化についてマレーズトラップを用いた調査(槇原寛氏:森林総合研究所,スギアルト氏:ムラワルマン大学との共同研究)を行うとともに,国内において,小蛾類(コバネガ科などの原始的なグループからメイガ上科までの一群)を含めたガ類を対象とし,灯火採集法による調査を行い,ガ類の環境指標としての有用性について検討を行ってきた(大阪府立大学の大学院生などとの共同研究).以下は公表済みの2論文(Hirowatari et al.,2007 ;広渡他,2007)を中心にその概要を紹介し,最後に鱗翅目昆虫を環境指標として用いる場合の調査方法の長短について検討した.
著者
黄 国華 小林 茂樹 広渡 俊哉
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.261-266, 2008
参考文献数
10

クロスジキヒロズコガ Tineovertex melanochrysa (Meyrick, 1911)は,小型のヒロズコガ科の一種で,本州,四国,九州,国外では,台湾,インドに分布することが知られている.本種の成虫は昼間に活動し,発生時期には比較的多くの個体が見られる.本種の雌交尾器は特異で,第8背板にメディアンキール(median keel)をもつ,産卵器の先端が鋸歯状となるなど,マガリガ上科にみられるような「突き刺すタイプ」となっている.この特異な形態から,本種が生きた植物の組織内に卵を産み込むのではないかと推定されていたが,実際にどのような産卵習性をもつかは不明であった.また,幼生期の生態などについても不明な点が多かった.著者らは.2007年7月上-中旬に大阪府能勢町三草山,および採集した成虫の行動を実験室で観察した.野外での観察の結果,雌はシダ植物のシシガシラ Blechnum nipponicum (Kunze) Makinoの葉の裏面に産卵するのを観察することができた.また,室内での観察により,卵は成葉の複葉裏面の組織内に1個ずつ複数個が産み込まれること,孵化後に組織から脱出した幼虫は植物体を食べずに地面に落下し,ポータブルケースを作って,枯れ葉などを食べることが明らかになった.本種の生活史は原始的なヒゲナガガ科とよく似ており,生きた植物に産卵する習性をもつことはヒロズコガ科では例外的である.世界的に見るとフィリピンに分布するIschnuridia Sauber, 1902とインド-オーストラリアに分布するEctropoceros Diakonoff, 1955などの属の種が類似した雌交尾器の形態をしていることが知られているが,生態に関する情報は少なく,これらが単系統群であるかどうかについても今後の検討が必要である.本種はMeyrick (1911)によってインド産の標本をもとに記載され,その後,台湾と日本から記録された.大阪府大の所蔵標本を中心に調査した結果,日本国内では以下の府県での分布が確認された.成虫が採集されたデータによると,本州・四国・九升|では年1回,琉球列島(八重山諸島)では少なくとも年2回発生し,近畿では,3-4齢幼虫で越冬すると考えられる.分布:本州(大阪府),四国(高知県,愛媛県),九州(福岡県,鹿児島県),琉球列島(石垣島,西表島,与那国島);台湾;インド.
著者
長田 庸平 坂井 誠 黄 国華 広渡 俊哉
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.30-35, 2013-04-15

Robinson(1986)はアトモンヒロズコガMorophaga bucephalaとその近縁種であるM. vadonella,M. soror,M. cremnarchaの計4種をbucephala種群としてグルーピングした.その後,Ponomarenko & Park(1996)は韓国京畿道でアトモンヒロズコガに近縁なM. parabucephalaを新種として記載した.どの種も前翅の後方に茶色い大きな斑紋を有し,種によってその斑紋の形状がわずかであるが異なっている.交尾器の形状は上記の近縁種間で顕著に異なるが,成虫の斑紋が互いによく似ているため国内でも交尾器の形状に基づいた分類学的な情報が必要であると考えた.著者らは国内各地の「アトモンヒロズコガ」とされている標本を解剖し,交尾器を観察した.その結果,北海道から八重山までのほとんどの地域で得られた個体はM. bucephalaであることを確認したが,大分県日田市産の交尾器の形状がM. bucephalaとは顕著に異なり,朝鮮半島に分布するM. parabucephalaと同定できた.国内ではこの種を大分県日田市のみで確認したが,国外では朝鮮半島の他に中国広東省南嶺山脈でも確認した.なお,本種の雌交尾器を初めて図示した.1.Morophaga parabucephala Ponomarenko & Park,1996(新称) ニセアトモンヒロズコガ(Figs 1a, 2a, 3a-h) 前翅後縁の暗褐色斑の基部の幅が狭く,外縁が蛇行する.雄交尾器のバルバの後縁は直線状,サックスは細く,エデアグスは非常に細長い.雌交尾器の交尾口周辺の縁は中央で切れ込む.分布:九州(大分県);韓国(京畿道),中国(広東省)寄主:不明 2.Morophaga bucephala(Snellen,1884) アトモンヒロズコガ(Figs 1b, 2b, 4a-h) 前翅後縁の暗褐色斑の基部の幅が広く,基部が丸みを帯びる.雄交尾器のバルバの後縁は強く窪み,サックスはやや幅広く,エデアグスは細長い.雌交尾器の交尾口周辺の縁はより強く切れ込む.分布:北海道,本州,四国,九州;ロシア,中国,韓国,インド,ビルマ,マレーシア,スラウェシ島,ニューギニア島.寄主:カワラタケ(サルノコシカケ科)から得られた記録がある.
著者
岡本 央 広渡 俊哉
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.173-195, 2004-06-20
参考文献数
16

マガリガ科は,全世界に分布し,11属約100種が記載されている.Issiki(1957),Nielsen(1981,1982),Okamoto&Hirowatari(2000),奥(2003)などの研究により,日本産マガリガ科は現在12種が知られる.マガリガ科の幼虫は寄主植物の葉などを円形からだ円形に切り取ってポータブルケースを作り,寄主植物についても比較的よく知られているが,数種については寄主植物が不明のままだった.本稿では日本産マガリガ科に3新記録種を追加し,数種について寄主植物を含む生態を明らかにするとともに,頭部,翅脈,雌の第7腹節,雌雄交尾器を図示した.また,雌雄交尾器が未知あるいは記載が不十分だったものについては記載を行った.以下に,日本産マガリガ科15種の特徴,分布,寄主植物などの概要を示す.1.Phylloporia bistrigella(Haworth,1828)ヒメフタオビマガリガ(新称)(日本新記録)小型(開張8-9mm).前翅は金色の光沢がある黄褐色で,2本の細い銀白色の帯をもつ.Kuprijanov(1992)はPhylloporia属をヒゲナガガ科に含めたが,本稿ではマガリガ科として扱った.分布:北海道,本州;ヨーロッパ,北米.寄主植物:日本では不明.ヨーロッパではシダレカンバ(シダレカバノキ)やヨーロッパシラカンバ(カバノキ科)などが知られている.2.Vespina nielseni Kozlov,1987ホソバネマガリガ小型(開張8-11mm)で,前翅は細長く,茶褐色から黄褐色.後翅は細くやり状で縁毛が長い.分布:北海道,本州,四国,九州;極東ロシア.寄主植物:ナラガシワ,クヌギ,コナラ(ブナ科).本種の幼生期の形態・生態については,Okamoto&Hirowatari(2000)が詳しく記載した.3.Procacitas orientella(Kozlov,1987)ウスキンモンマガリガ中型(開張11.5-15mm).前翅は暗褐色で紫色の光沢をもち,基部1/3に銀白色の帯,前縁に2つ(基部1/2と3/4),肛角付近に1つの細長い銀白色の三角斑をもつ.基部の帯はFig.1Cの個体のように分断することもある.奥(2003)は,岩手県産の標本に基づいて本種を日本から記録した.分布:北海道,本州,四国;ロシア(サハリン,イルクーツク,沿海州),北朝鮮.寄主植物:ベニバナイチヤクソウ(イチヤクソウ科).本種の寄主植物は不明であったが,北海道大学昆虫体系学教室に保管されている標本のラベルデータによって明らかになった.4.Alloclemensia unifasciata Nielsen,1981ヒトスジマガリガ小型(開張7.5-10mm)で,前翅は暗褐色でよわい紫色の光沢をもち,基部1/3に明瞭な黄白色の帯,前縁2/3と肛角付近に三角斑をもつ.分布:北海道,本州,九州.寄主植物:ガマズミ,オオカメノキ(スイカズラ科).寄主植物としてガマズミが知られていたが,オオカメノキを新たに確認した.5.Alloclemensia maculata Nielsen,1981フタモンマガリガ中型から大型(開張12-16.5mm)で,前翅は暗褐色でつよい光沢のある紫から赤銅色を帯び,前縁に不明瞭な黄白色の2小斑をもつ.分布:北海道,本州,四国,九州.寄主植物:オオカメノキ(スイカズラ科).本種の寄主植物は不明だったが,飼育によりオオカメノキを利用することがわかった.6.Excurvaria praelatella([Denis&Schiffermuller],1775)タカネマガリガ(新称)(日本新記録)中型(開張10.5mm).前翅は褐色から暗褐色でやや紫色を帯び,基部1/3に細い白線,後縁の肛角付近に三角斑,前縁の基部3/4に三角斑をもつ.分布:北海道;ヨーロッパ,ロシア.国内では,日高山系の幌尻岳でのみ採集されている.寄主植物:日本では不明.ヨーロッパでは,バラ科のイチゴ類やキンミズヒキ属,ハゴロモグサ属,シモツケソウ属,ダイコンソウ属,キイチゴ属などが知られる.7.Paraclemensia caerulea(Issiki,1957)ムラサキツヤマガリガ中型(開張9-12.5mm).頭部は燈黄色,前翅は茶褐色で光沢のある紫から赤銅色を帯びる.分布:本州,四国,九州.寄主植物:コバノミツバツツジ(ツツジ科).那須(私信)は,本種の♀が1994年5月21日に滋賀県御在所岳でアカヤシオ(ゴヨウツツジ)に産卵するのを観察した.8.Paraclemensia viridis Nielsen,1982イヌシデマガリガ(新称)小型(開張10-14mm).頭頂は橙黄色,顔面は淡黄色.前翅は,黒褐色で緑色の光沢をもつ.分布:九州(福岡県).英彦山産のホロタイプ(♀)と同地産の2♀のみが知られる.寄主植物:イヌシデ(カバノキ科).Nielsen(1982)は黒子浩博士採集・飼育のタイプシリーズのラベルデータより,本種の寄主植物をCarpinus sp.として記録した.しかし,ホロタイプとパラタイプには日本語で「イヌシデ」のラベルがつけられおり,本稿であらためて本種の寄主として示した.9.Paraclemensia oligospina Nielsen,1982クリヒメマガリガ(新称)小型(開張9.5-11.5mm).頭頂は黒褐色,顔面は黒褐色から黄褐色で,顔面上部に淡黄色の鱗毛をもつ.前翅は,黒褐色で暗緑色の光沢をもつ.分布:本州,九州.ホロタイプ(♂)1個体(福岡県英彦山産)しか知られていなかったが,複数の♂と♀を大阪府,奈良県から記録した.大阪府和泉葛城山の山頂付近では,2002年4月下旬に成虫がコナラの花の周辺を飛翔していた.寄主植物:クリ(ブナ科).10.Paraclemensia cyanea Nielsen,1982ヒメアオマガリガ(新称)小型(開張12mm).頭頂と顔面は黒色で,触角のソケット間に淡黄色毛をもつ.前翅は黒褐色で,青色の金属光沢をもつ.分布:本州(長野県).茅野市美濃戸産のホロタイプ(♀)のみが知られ,その後追加標本は得られていない.寄主植物:不明.Nielsen(1982)は,本種の寄主植物についてまったく情報がないとしている.しかし,本種のホロタイプには採集者の黒子浩博士によって「シラカバに産卵中」という日本語メモ付けられていることから,寄主植物がシラカバである可能性が高い.11.Paraclemensia incerta(Christoph,1882)クロツヤマガリガ中型(開張9-12.5mm).頭頂は黒褐色で中央に黄色毛をもち,顔面は淡黄色.前翅は光沢のある黒褐色.分布:北海道,本州,四国,九州;ロシア.寄主植物:カエデ属(カエデ科),イヌシデ(カバノキ科),アズキナシ(バラ科),ネジキ(ツツジ科),フジ(マメ科)など,広範な植物を寄主とする.本稿では,標本のラベルデータよりハリギリ(ウコギ科),飼育によりクリ(ブナ科)を寄主植物として追加した.12.Paraclemensia monospina Nielsen,1982アズキナシマガリガ(新称)小型(開張9-12.5mm).頭頂は黒色で,顔面は淡黄色.前翅は暗褐色で光沢のある銅色を帯びる.ホロタイプのオス1個体しか知られていなかったが,アメリカ国立自然史博物館に所蔵されたメスを見いだし記録した.分布:北海道.寄主植物:アズキナシ(バラ科).13.Incurvaria takeuchii Issiki,1957クシヒゲマガリガ大型(開張10.5-19mm).触角は,♂では櫛歯状,♀では単純.分布:本州.寄主植物:リョウブ(リョウブ科).本種の寄主植物は未知だったが,飼育によりリョウブを利用することがわかった.14.Incurvaria alniella(Issiki,1957)ハンノキマガリガ大型(開張14-20mm).前翅は茶褐色で,後縁の基部1/3と2/3に小さな白斑をもつが,白斑が不明瞭に消失する個体もある.分布:本州,九州(対馬).寄主植物:ハンノキ(カバノキ科).15.Incurvaria vetulella(Zetterstedt,1839)コケモモマガリガ(新称)(日本新記録)大型(開張13-17.5mm).前翅は茶褐色で,後縁の基部1/3と2/3に大きな白斑をもつ.分布:北海道;ヨーロッパ,ロシア,北アメリカ.寄主植物:日本では不明.ヨーロッパではブルーベリー,コケモモ(ツツジ科)が記録されている.
著者
小林 茂樹 広渡 俊哉 黒子 浩
出版者
THE LEPIDOPTEROLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.1-57, 2010-05-31 (Released:2017-08-10)
参考文献数
33

チビガ科Bucculatricidaeは,幼虫が若齢期に葉にもぐる潜葉性の小蛾類である.成虫は開張6-8mmで,世界ではおよそ250種が知られる.中齢期において幼虫は潜孔を脱出し,老熟すると本科に特徴的な縦の隆条をもった舟底形のマユを葉や枝上につくり蛹化する.日本では,アオギリチビガBucculatrix firmianella Kuroko,1982,ナシチビガB.pyrivorella Kuroko,1964,クロツバラチビガB.citima Seksjaeva,1989の3種が知られており,最近筆者らによってハマボウチビガB.hamaboella Kobayashi,Hirowatari&Kuroko,2009,ならびにコナラチビガBucculatrix comporabile Seksjaeva 1989とクリチビガB.demaryella(Duponchel,1840)が追加された(有田他,2009).しかし,本科にはヨモギ属を寄主とするヨモギチビガBucculatrix sp.など,多くの未同定種の報告があり,種の分類・生活史の解明度が低く,種レベルの研究が不十分であった.そこで本研究は,日本産の本科の新種を含む未解明種の形態・生活史を明らかにすることに努め,既知種を含めた本科の分類学的再検討を行った.野外調査とともに大阪府立大学や小木広行氏(札幌市),平野長男氏(松本市),村瀬ますみ氏(和歌山市)などの所蔵標本を用い,日本各地の成虫を調査した.奥(2003)が同定を保留した4種についても,交尾器の形態を確認した.その結果,4新種,11新記録種,2学名未決定種を加えた計23種を確認した.確認された23種を,交尾器の特徴から10種群に分類し,16種の幼虫期の習性をまとめ,3タイプに分類した.幼虫習性は,11種で多くのチビガ科の種でみられる型(1.中齢以降は葉の表面にでて葉を摂食する.2.脱皮マユは2回作る)が見られ,茎潜り,ヨモギにつく3種に見られた脱皮マユを一度しか作らない型は,Baryshnikova(2008)の系統の初期に分化したと考えられるグループに属した.ヤマブキトラチビガとシナノキチビガはシナノキの葉の表と裏側をそれぞれ利用していたが,形態は大きく異なっており,それぞれ,ブナ科とバラ科に潜孔するグループに形態的に近縁と考えられた.また,メス交尾器の受精管が交尾のうの中央に開口することが本科の共有派生形質であることを示唆し,さらに調査した日本産18種でこの形質状態を確認できた. 1.Bucculatrix firmianella Kuroko,1982アオギリチビガ(Plates 1(1),2(1-11),Figs 3A-C,10A)開張6-8mm.前翅は白色に不明瞭な暗褐色条が走り,前翅2/3から翅頂に黒鱗が散在する.雄交尾器のバルバ,ソキウスは丸く,挿入器は細長い.幼虫は6〜10月にアオギリの葉にらせん状の潜孔を作る.住宅の庭木や大学キャンパスなどで発生がみられた.分布:本州,四国,九州.寄主植物:アオギリ(アオギリ科). 2.Bucculatrix hamaboella Kobayashi,Hirowatari&Kuroko,2009ハマボウチビガ(Plates 1(2),2(12-17).Figs 1D,3D-F,10B)開張5.5-8mm.前翅は白色から暗褐色で黒鱗が全体に散在する.雄交尾器のバルバ,ソキウスは長く,バルバの先端に1対の突起がある.幼虫は初夏から11月初旬までみられ,若齢幼虫はハマボウの葉に細長く線状に潜り,その後茎内部に潜る.三重県では,蕾内部に潜孔している幼虫や種子の摂食が観察されている(中野・間野,未発表).分布:本州(三重,和歌山)寄主植物:ハマボウ(アオイ科). 3.Bucculatrix splendida Seksjaeva,1992ハイイロチビガ(新記録種)(Plates 1(3),2(18-20).Figs 1C,3G-I,9E,10C)開張8mm内外.前翅及び冠毛は黒色で,容易に他種と区別できる.本種は,奥(2003)によってBucculatrix sp.4として記録された.幼虫は,夏にみられヨモギの葉の表側表皮を残して薄く剥ぎ,点々と食痕を残す.分布:北海道,本州(岩手,長野);ロシア極東.寄主植物:ヨモギ(キク科). 4.Bucculatrix laciniatell Benander,1931アズサガワチビガ(新称,新記録種)(Plates 1(4).Figs 3J-L)開張9mm.前翅は白色で,前縁から後方に明るい茶色の斜列条が走る.雄交尾器の挿入器は先端が鉤爪状に反り,バルバの先端には細かい棘状の突起がある.平野長男氏採集の長野県梓川産の1♂にもとづいて記録した.ヨーロッパでは,Artemisia laciniata(キク科)を寄主とすることが知られる.分布:本州(長野);ヨーロッパ.寄主植物:日本では未確認. 5.Bucculatrix sp.1(nr.bicinica Seksjaeva,1992)(Fig.9D)本種は,奥(2003)によってBucculatrix sp.3として記録された.雄交尾器は,挿入器の先が大きく反り返り,把握器は長細くなる.沿海州産のB.bicinica Seksjaeva,1992に雄交尾器は似るが,同定を保留した.分布:本州(岩手).寄主植物:不明.6.Bucculatrix maritima Stainton,1851ウラギクチビガ(新称,新記録種)(Plates 1(5),2(21,22).Figs 9A,10D)開張75mm.前翅は濃茶色に白色が混じり,基部に明瞭な白斜条が走る.雄交尾器の把握器は先端が深く切れ込み,雌交尾器の交尾口は,おわん型になる.小木広行氏採集の北海道鹿追産の1♂と山崎一夫氏採集の大阪府大阪市産の1♀にもとづいて記録した.山崎(私信)によると潜孔とマユを大阪市北港処分地で観察している.同様に淀川河口付近のウラギクでも潜孔痕が観察できた.ヨーロッパでは,ウラギクAster tripolium,Artemisia maritima(キク科)を寄主とすることが知られる.分布:北海道,本州(大阪);ヨーロッパ,ロシア.寄主植物:ウラギク(キク科). 7.Bucculatrix notella Seksjaeva,1996ヨモギチビガ(新称,新記録種)(Plate 1(6),2(23-28).Figs 1C,4A-D,10E)開張6-7mm.前翅は乳白色で,茶から暗褐色の斜条が前縁1/2および2/3に走るが,斑紋の変異が大きい.雄交尾器は,テグメンの先端が発達し,雌交尾器の交尾口はカップ状になる.幼虫は,春から秋にかけてみられ,近畿地方では冬にも若齢幼虫がみられた.後齢幼虫はヨモギの葉に小孔を開け,そこから組織を摂食する.北海道では,ハイイロチビガと混棲しているのが観察された.分布:北海道,本州(長野,三重,奈良,大阪,和歌山,兵庫),九州;ロシア極東.寄主植物:ヨモギ(キク科). 8.Bucculatrix nota Seksjaeva,1989イワテヨモギチビガ(改称,新記録種)(Plate 1(7).Figs 1C,4E-G,9B)開張8mm.前翅は乳白色に褐色の斜条が走る.本種は,奥(2003)によってヨモギチビガBucculatrix sp.1として生態情報とともに記録されたが,ヨモギを寄主とするチビガとしては全国的に前種の方が普通に見られるので本種をイワテヨモギチビガとした.形態,生態ともに前種に似るが,雄交尾器のソキウスが長く発達し,挿入器の先端は大きくフック状に反る.分布:本州(岩手,長野);ロシア極東.寄主植物:ヨモギ,オオヨモギ(キク科). 9.Bucculatrix sp.2(nr.varia Seksjaeva,1992)(Fig.9C)本種は,奥(2003)によってBucculatrix sp.2として記録された.雄交尾器は,ソキウスの側面が広がり,把握器は先が指状になる.沿海州産のB.varia Seksjaeva,1992に雄交尾器は似るが,同定を保留した.分布:本州(岩手).寄主植物:不明. 10.Bucculatrix sinevi Seksjaeva,1988シネフチビガ(新称,新記録種)(Plate 1(8).Figs 4H-I,10F)開張7.0-8.0mm.前翅は乳白色で,茶鱗が散在する.雌雄交尾器は,特徴的で雄交尾器のソキウスは小さく,バルバは幅広く先端が尖る.雌交尾器の交尾口の両側には牛角状の突起が伸びる.分布:北海道;ロシア極東.寄主植物:不明. 11.Bucculatrix altera Seksjaeva,1989アムールチビガ(新称,新記録種)(Plate 1(9).Figs 5A-E,11A)開張7.0-8.2mm.前翅は白色で茶〜暗褐鱗が散在する.雄交尾器は,挿入器内に多数の鉤爪状突起がある.雌交尾器は,前種と同様に角状突起を有しアントゥルムは幅広の筒状になる.分布:北海道;ロシア極東.寄主植物:不明. 12.Bucculatrix pyrivorella Kuroko,1964ナシチビガ(Plate 1(10),2(29-32),3(1-7).Figs 1A,2,5E-G,11B)開張7.0-8.0mm.前翅は白色で,不明瞭な明るい茶の斜(View PDF for the rest of the abstract.)
著者
大野 泰史 広渡 俊哉 上田 達也
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.99-107, 2000-03-31
被引用文献数
1

Fauna of Lepidoptera that infests acorns of Quercus acutissima, Q. aliena and Q. serrata was investigated in Mt Mikusayama forests of Osaka Prefecture, Japan in 1997. Quercus acorns were infested by a total of 13 lepidopterous species, representing 7 families.
著者
黄 国華 小林 茂樹 広渡 俊哉
出版者
THE LEPIDOPTEROLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.261-266, 2008-09-30 (Released:2017-08-10)
参考文献数
10

クロスジキヒロズコガ Tineovertex melanochrysa (Meyrick, 1911)は,小型のヒロズコガ科の一種で,本州,四国,九州,国外では,台湾,インドに分布することが知られている.本種の成虫は昼間に活動し,発生時期には比較的多くの個体が見られる.本種の雌交尾器は特異で,第8背板にメディアンキール(median keel)をもつ,産卵器の先端が鋸歯状となるなど,マガリガ上科にみられるような「突き刺すタイプ」となっている.この特異な形態から,本種が生きた植物の組織内に卵を産み込むのではないかと推定されていたが,実際にどのような産卵習性をもつかは不明であった.また,幼生期の生態などについても不明な点が多かった.著者らは.2007年7月上-中旬に大阪府能勢町三草山,および採集した成虫の行動を実験室で観察した.野外での観察の結果,雌はシダ植物のシシガシラ Blechnum nipponicum (Kunze) Makinoの葉の裏面に産卵するのを観察することができた.また,室内での観察により,卵は成葉の複葉裏面の組織内に1個ずつ複数個が産み込まれること,孵化後に組織から脱出した幼虫は植物体を食べずに地面に落下し,ポータブルケースを作って,枯れ葉などを食べることが明らかになった.本種の生活史は原始的なヒゲナガガ科とよく似ており,生きた植物に産卵する習性をもつことはヒロズコガ科では例外的である.世界的に見るとフィリピンに分布するIschnuridia Sauber, 1902とインド-オーストラリアに分布するEctropoceros Diakonoff, 1955などの属の種が類似した雌交尾器の形態をしていることが知られているが,生態に関する情報は少なく,これらが単系統群であるかどうかについても今後の検討が必要である.本種はMeyrick (1911)によってインド産の標本をもとに記載され,その後,台湾と日本から記録された.大阪府大の所蔵標本を中心に調査した結果,日本国内では以下の府県での分布が確認された.成虫が採集されたデータによると,本州・四国・九升|では年1回,琉球列島(八重山諸島)では少なくとも年2回発生し,近畿では,3-4齢幼虫で越冬すると考えられる.分布:本州(大阪府),四国(高知県,愛媛県),九州(福岡県,鹿児島県),琉球列島(石垣島,西表島,与那国島);台湾;インド.
著者
広渡 俊哉
出版者
日本環境動物昆虫学会
雑誌
環動昆 (ISSN:09154698)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.21-27, 2016 (Released:2016-10-25)
著者
那須 義次 荒尾 未来 重松 貴樹 屋宜 禎央 広渡 俊哉 村濱 史郎 松室 裕之 上田 恵介
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.47-58, 2019-08-31 (Released:2019-09-12)
参考文献数
39

The insect fauna in Ryukyu Ruddy Kingfisher nests was investigated on Iriomote-jima, Ishigaki-jima and Miyako-jima Is., Okinawa, Japan. Kingfishers on Iriomote-jima and Ishigaki-jima Is., where Takasago termites which make ball-like nests on trees are distributed, often dig nesting holes in the termite nests, but they excavate holes in decayed trees on Miyako-jima I. where the termites are not present. Moths belonging to the family Tineidae were found to be the main symbiotic insects in the nests, and eight moth species, including two species considered to be undescribed or newly recorded species from Japan, were confirmed. The differences in moth faunas of the kingfisher nests between the three islands are discussed.
著者
那須 義次 重松 貴樹 広渡 俊哉 村濱 史郎 松室 裕之 上田 恵介
出版者
THE LEPIDOPTEROLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.25-28, 2019-04-30 (Released:2019-05-17)
参考文献数
12

筆者らは我が国の様々な鳥の巣に生息している昆虫類の研究をおこない,多種の昆虫が鳥の巣に生息し,巣内共生系とも呼ぶべき特殊な生態系が成立していることを報告してきた(那須,2012;広渡ら,2012, 2017;那須ら,2012;Nasu et al., 2012;八尋ら,2013など).これら研究の過程で沖縄県の宮古島と南大東島の鳥の巣から日本新記録となるヒロズコガ科のSetomorpha rutella Zeller, 1852の発生を確認したので,成虫と雄交尾器の図とともに報告する.Setomorpha rutella Zeller, 1852ミナミクロマダラヒロズコガ(新称)(Figs 1, 2)前翅開張約12 mm.頭部の鱗粉はなめらかで,暗褐色.前翅は長方形,先端1/3が背方にやや折れ曲がり,地色は淡灰褐色で多数の黒褐色の斑点をもつ.後翅は淡褐灰色.雄交尾器:ウンクスは一対の滑らかな突起で硬化が弱い.バルバは大きく,先端に長い鎌状に曲がった突起をもつ.エデアグスは細長い.サックスは細長く,前方部は膨らむ.一対のコレマータをもつ.分布:世界の熱帯,亜熱帯域に分布(Diakonoff, 1938; Hinton, 1956; Robinson and Nielsen, 1993).日本:沖縄(宮古島,南大東島).(日本新記録)食性:乾燥葉タバコ,スパイス,豆類や貯蔵穀類などの乾燥した植物,ハチの巣,鳥の皮・糞,動植物質のデトリタス(Hinton, 1956; Gozmány and Vári, 1973).備考:本種が属するSetomorphinae亜科は日本新記録のヒロズコガ科の亜科である.本亜科は世界的に分布し,3属9種からなる小さな亜科で,成虫の頭頂の鱗粉が薄板状で,やや頭に押しつけられている,口器(口吻,マキシラリ・パルプス)が退化するなどの特徴をもつ(Robinson and Nielsen, 1993;坂井,2011).宮古島のリュウキュウコノハズクOtus elegans elegansの巣箱とリュウキュウアカショウビンHalcyon coromanda bangsiの自然巣から成虫が羽化した.羽化標本がRobinson and Nielsen (1993)などが図示した成虫と雄交尾器の形態が一致したので本種と判断した.本種はNasu et al. (2012)が南大東島のダイトウコノハズクOtus elegans interpositusの自然巣から記録したSetomorpha sp.と同じものである.幼虫は鳥の巣内では朽ち木屑や糞などの動植物質のデトリタスを摂食していたと推測される.英名Tropical tobacco mothが示すとおり,熱帯域の乾燥葉タバコと貯蔵穀類の重要害虫であるため,今後,鳥の巣だけでなく,我が国の穀類倉庫や屋内から発生して問題になる可能性がある.
著者
水川 瞳 広渡 俊哉 坂本 佳子 橋本 里志
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.241-255, 2010-12-30

スイコバネガ科Eriocraniidaeはほとんどの種がカバノキ科とブナ科の植物を寄主として利用しており,カバノキ科植物に注目すると,日本ではオオスイコバネEriocrania semipurpurellaなどがシラカバBetula platyphylla,ハンノキスイコバネE.sakhalinellaがケヤマハンノキAlnus hirsutaを寄主とすることが知られている.最近の著者らの研究により,カバノキ科のアカシデCarpinus laxifloraを利用するスイコバネガが東海地方と紀伊半島に生息することが明らかとなった.成虫の形態を比較した結果,アカシデを利用するスイコバネガは,後翅の鱗粉が細長いなどの派生形質をオオスイコバネと共有し,オオスイコバネにもっとも近縁であるが,明らかに小型で,♀交尾器のバジナルスクレライトの形態にも差が認められることからEriocrania属の未記載種であろうと考えられた.さらに,大阪府和泉葛城山でアカシデの他にイヌシデC.tschonoskiiから,愛知県段戸高原でサワシバC.cordataといった同属のシデ類からも,スイコバネガ科の幼虫が採集された.これらの幼虫と成虫の対応やオオスイコバネとの関係を明らかにするために,ミトコンドリアDNAの解析(COIおよびND5領域)を行った.その結果,イヌシデ,サワシバなどのシデ類を利用するスイコバネガ類はアカシデを寄主とするものと同一種であり,シラカバを利用するオオスイコバネとは姉妹群関係にある可能性が高いことが推定された.また,両種の分岐点までの遺伝的距離(D)は,ND5およびCOI領域でそれぞれD=0.028,D=0.036であった.Eriocrania carpinella Mizukawa,Hirowatari&Hashimoto sp.nov.アカシデスイコバネ(新称)寄主植物:アカシデ,イヌシデ,サワシバ分布:本州(愛知県,三重県,奈良県,大阪府)成虫は日本産スイコバネガ科の中でも小型(開張6-8mm)で,オオスイコバネ(開張10-14mm)と比較すると前翅の青みが強い.成虫は4月中〜下旬に出現し,幼虫は5月上旬にアカシデ等のシデ類の葉に潜孔する.幼虫は成熟すると葉から脱出して地表へ落下し土繭を作ってほぼ1年を通じて翌春まで地中で過ごす.そのため,一般的にはスイコバネガ類では飼育による幼虫と成虫の対応が困難である.しかし,一部の幼虫については飼育によってアカシデを寄主とすることが明らかになり,さらに分子データによる解析からサワシバとイヌシデを寄主植物として利用しているものと同一種と考えられた。シデ属Carpinusの植物を寄主とする種としてはヨーロッパ産のEriocrania chrysolepidellaが知られているが,極東地域においてシデ属植物を利用する種が見つかったのは初めてである.本種は,カバノキ類を寄主とするオオスイコバネの極東における分布南限である中部山岳地帯のさらに南部の限られた地域(東海地方と紀伊半島)に,オオスイコバネとは異所的に分布している.形態と分子データから両者は姉妹群関係にある可能性が高いことと遺伝的距離に基づく年代推定から,鮮新世の寒冷な時期に共通祖先から寄主転換によって分化し,その後,東海地方や紀伊半島に分布が限定されたと想定された.この仮説については,今後ヨーロッパやロシア沿海州などの材料を含めてさらに検証する必要がある.
著者
水川 瞳 広渡 俊哉 橋本 里志
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.149-155, 2006-06-30
被引用文献数
1

1989年と2002年の4月下旬に,大阪府和泉葛城山において特異な斑紋をもつスイコバネガ科の成虫が採集された.翅脈の特徴から,この種がスイコバネガEricrania属に含まれること,また,雌雄交尾器などから新種であることが明らかになったので記載した. Eriocrania komaii sp. nov. ムラサキマダラスイコバネ(新称) 本種は,前翅に金色の条線が融合し網目状となる(暗紫色の小斑点を多数もつ)こと,ビンクルムから前方に伸びる一組の突起が幅広いこと,雌交尾器の産卵管が幅広いことなどで同属の他種と区別できる.また,本種成虫の採集からおよそ3週間後,採集地点付近でバラ科のウラジロノキに潜葉しているスイコバネガ科の幼虫が採集された.筆者らは和泉葛城山には本種の他にアカシデに潜る種(Eriocrania sp.)とブナに潜る種(イッシキスイコバネIssikiocrania japonicella Moriuti)が同所的に生息することを確認しているが,これら2種の成虫は4月上中旬に出現するのに対して,本種成虫は4月下旬にミドリヒゲナガやムラサキツヤマガリガなどとともにコナラの花に果ていたところを採集されており,幼虫の出現時期もずれていた.これらのことから,ウラジロノキに潜る本科の幼虫は本種の可能性が高いと推測された.スイコバネガ科はブナ科とカバノキ科の植物を主に利用することが知られている.これまでにもDavis (1987)と黒子(1990)がバラ科植物に潜るスイコバネガ科の幼虫について報告しているが成虫の記録はない.本種成虫と潜葉していた幼虫の関連が明らかになれば,スイコバネガ科の寄主植物について重要な情報となる.
著者
岡本 央 広渡 俊哉
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.15-26, 2002-01-10

ホソヒゲマガリガ科(改称)Prodoxidaeは全北区,特に新北区を中心に分布することが知られている.日本では本科に含まれる種としてヘリモンマガリガGreya marginimaculata 1種のみが知られていたが,筆者らは本科に含まれる2属4種を日本から新たに確認した.Lampronia Stephens,1829マダラマガリガ属(新称)L.altaica Zagulajev,1992アルタイマガリガ(新称)開張9-10mm.前翅は暗い黄褐色で金色の弱い光沢を帯び,特徴的な白斑をもつ.雄交尾器のvalvaは中央で著しくくびれ,腹面側には刺毛が櫛歯状に並ぶ.雌交尾器のcorpus bursaeに一対の放射状のsignaをもつ.1998年7月に杉島一広氏によって北海道の大雪山で採集された.L.corticella(Linnaeus,1758)キマダラマガリガ(新称)開張10-11mm.前翅は暗い灰褐色で,淡黄色の細かいまだら状の斑紋をもつ.雌交尾器の産卵管の先端は平たく,corpus bursaeに一対の放射状のsignaをもつ.北海道の糠平で採集された雌のみを確認した.L.flavimitrella(Hubner,1817)フタオビマガリガ(新称)開張11-12.5mm.前翅は暗褐色で赤褐色の弱い光沢を帯び,2本の白い帯紋をもつ.雄交尾器のvalvaは中央で著しくくびれ,先端には鋭く尖った硬化部をもつ.雌交尾器のcorpus bursaeに一対の放射状のsignaをもつ.北海道および長野県で採集されている.Greya Busck,1903モンマガリガ属(新称)G.marginimaculata(Issiki,1957)ヘリモンマガリガ開張12.5-14.5mm前翅は黄褐色で金色の光沢を帯び,縁に白い斑紋をもつ.本種はIssiki(1957)によってLamproniaの種として記載されたが,Kozlov(1996)が本種をGreya属に移した.雄交尾器のvalvaは太く,腹面側に1-2個のpollexをもつ.長野県および石川県の白山で採集されている.G.variabilis Davis and Pellmyr,1992アラスカマガリガ(新称)開張16mm.前翅は黄褐色で金色の光沢を帯び,縁に白い斑紋をもつ.斑紋は非常に多くの変異をもつ(Davis et al.,1992).雌交尾器のcorpus bursaeにはsignaをもたない.本種はこれまでアラスカを中心とした北米ならびにシベリア東部(チュクチ半島)に分布することが知られていたが,平野長男氏が1986年9月に長野県の安房峠で採集した雌一個体を確認した.
著者
中塚 久美子 広渡 俊哉 池内 健 長田 庸平 金沢 至
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.154-167, 2013-12-25

Species diversity of dead-plant feeding moths in various forest ecosystems in Osaka Prefecture was investigated from March to November 2011. The study sites included a beech forest (Site A), an evergreen forest (Site B), a suburban forest park (Site C), a university campus (Site D) and an urban park (Site E). For the extraction of the larvae, two methods 1) hand-sorting, and 2) the Tullgren apparatus, were used. We also collected some flying adults and case-bearing larvae on the dead leaves in each site. A total of 27 species belonging to 10 families of dead-leaf feeding moths emerged: 15 species belonging to 8 families at Site A, 13 species belonging to 7 families at Site B, 10 species belonging to 9 families at Site C, 4 species belonging to 4 families at Site D, and 3 species belonging to 2 families at Site E. Dead-plant feeding habits were newly confirmed by rearing the larvae of Opogona thiadelpha, Hypsopygia kawabei, Endotricha minialis, E. consocia and Bradina angustalis pryeri. The results indicate that further assessments of the characteristics of each dead-leaf feeding moth enables us to apply them as an indicator for the assessment of various forest ecosystems.