著者
大津留 晶 緑川 早苗 坂井 晃 志村 浩己 鈴木 悟
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.104, no.3, pp.593-599, 2015-03-10 (Released:2016-03-10)
参考文献数
13
被引用文献数
1

甲状腺は放射線に対して発がん感受性が高い臓器の1つと捉えられている.甲状腺がんの放射線発がんリスクは,被曝時年齢が若いほど高くなる.放射線は発がん因子の1つとしても,二次発がんという観点でも重要である.原爆被曝者の調査では,外部被曝による甲状腺がんリスク増加が示された.チェルノブイリ原発事故は,放射性ヨウ素の内部被曝が発がんの原因となった.いずれも100 mSv(ミリシーベルト)以上から徐々に有意となり,線量が高いほど罹患率が上昇する,線量依存性が見られている.東京電力福島第一原発事故後,小児甲状腺がんに対する不安が増大し,福島では大規模なスクリーニング調査が開始されている.本稿では,放射線と甲状腺がんについて,これまでの疫学調査と病理報告を概説し,放射線誘発甲状腺がんの分子機構の最前線に触れ,最後に小児甲状腺がんスクリーニングについての考え方についてまとめた.
著者
志村 浩己
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.82-86, 2018 (Released:2018-08-24)
参考文献数
14

東日本大震災の半年後より,福島県において小児・若年者に対する甲状腺超音波検診が開始されたのに伴い,他の地域においても甲状腺に対する関心が高まっており,甲状腺超音波検査が行われる機会が増加していると考えられる。また,近年の画像診断技術の進歩に伴い,他疾患のスクリーニングや診断を目的とした頸動脈超音波検査,胸部CT,PET検査などでも甲状腺病変が指摘されることも増加している。成人において甲状腺超音波検査を実施することにより,0.5%前後に甲状腺癌が発見されうることが報告されている。これらのうち,微小癌に相当する甲状腺癌には生涯にわたり健康に影響を及ぼさない低リスク癌も多く含まれていると考えられている。従って,甲状腺検診の実施に当たっては,高頻度に発見される結節性病変の精査基準あるいは細胞診実施基準をあらかじめ定めてから行うべきであろう。甲状腺微小癌の超音波所見としては,比較的悪性所見が乏しいものから,悪性所見が揃っている一見して悪性結節と考えられるものまで多様性に富む。日本乳腺甲状腺超音波医学会では,結節の超音波所見に基づく甲状腺結節性病変の取り扱い基準を提唱しており,日本甲状腺学会の診療ガイドラインにおいてもこれが踏襲されている。この基準により,比較的低リスクの微小癌は細胞診が行われないことになり,比較的高リスクの微小癌のみが甲状腺癌として臨床的検討の俎上に載ることになる。本稿においては,微小癌の診断方針について現状の基準について議論したい。
著者
宮崎 朝子 志村 浩己 堀内 里枝子 岩村 洋子 志村 浩美 小林 哲郎 若林 哲也 田草川 正弘
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
人間ドック (Ningen Dock) (ISSN:18801021)
巻号頁・発行日
vol.25, no.5, pp.789-797, 2011 (Released:2013-07-31)
参考文献数
18

目的:人間ドックにおいて甲状腺腫瘤の有所見率は非常に高く,臨床的に治療の必要がある腫瘤性病変を,的確にスクリーニングするためにはエビデンスに基づく基準が求められている.そのため,今回過去5年間にわたる当院の甲状腺超音波検査結果およびその推移について検討した.方法:2004年4月から2009年3月までの人間ドック受診者全例,21,856名に甲状腺超音波検査を実施した.結果:充実性腫瘤が4,978名(22.8%)に認められた.細胞診にてクラスIまたはII(B群)が165名,クラスIII(B/M群)が20名,クラスIVまたはV(M群)が57名であった.各群間で性差や精査時平均年齢,平均腫瘤径に有意差はなかった.平均腫瘤径の年間変化を検討したところ,B群では+0.2±0.3,B/M群では+0.8±0.5,M群では +1.3±0.5 mm/yearであり, M群ではB群と比較して有意差をもって増大傾向が認められた.また,M群では腫瘍径の縮小した症例は認めなかった.さらに,M群において腫瘍径が10 mm以下の場合,腫瘍増大はほとんどみられなかったが,11 mm以上では腫瘍増大傾向が認められた.結論:本研究より,超音波健診にて多数発見される甲状腺腫瘤に対する対応において,腫瘤径分類による方針決定とその後の経過観察の重要性が示唆された.
著者
志村 浩己 遠藤 登代志 太田 一保 原口 和貴 女屋 敏正 若林 哲也
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
健康医学 (ISSN:09140328)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.146-152, 2001-08-31 (Released:2012-08-27)
参考文献数
22
被引用文献数
2

甲状腺超音波検診による結節性甲状腺疾患および甲状腺機能異常のスクリーニングにおける有用性と問題点を明らかにするため,3,886名の甲状腺超音波検診の結果について検討した。その結果,充実性腫瘤は19.4%に認められ,このうち甲状腺癌は21例(0.5%),Plummer病は1例,原発性副甲状腺機能充進症も4例発見された。び慢性甲状腺腫あるいは内部エコーレベルの異常は11.7%に認められ,このうち17%で精査が行われ,橋本病47例(1.2%),バセドウ病4例,亜急性甲状腺炎1例が発見された。
著者
志村 浩己 古屋 文彦 一條 昌志 一條 昌志
出版者
福島県立医科大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

新規に発見した微細緑藻類Parachlorella sp binos (Binos)は,福島第一原子力発電所事故にて環境中に放出された主な核種である放射性ヨウ素およびセシウム,ストロンチウム等の放射性陽イオンを高効率に取り込むことを明らかにした。さらに,二次元質量分析により,ヨウ素は細胞質内に取り込み,陽イオンはアルギン酸に富む細胞外マトリックスに結合することにより吸着することを明らかにした。さらに,ヨウ素は光合成により発生された活性酸素により能動輸送されることにより取り込まれることを明らかにした。本藻類を利用した環境中の放射性物質の除染方法は,現在,実際の福島県内の除染に利用されている。
著者
志村 浩己
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.11-16, 2022 (Released:2022-05-24)
参考文献数
27

東日本大震災に引き続いて発生した福島第一原子力発電所事故により,主に福島県内に放射性物質が飛散し,福島県民において小児甲状腺がんが心配されたため,福島県民健康調査の詳細調査として甲状腺検査が震災の約半年後に開始された。これまで実施された先行検査および本格検査(検査1回目)の結果において,悪性あるいは悪性疑いと診断された対象者の二次検査受診時の年齢は,ほとんどが10歳以上であり,診断例数は年齢と比例して増える傾向があったことや,推定甲状腺吸収線量と悪性あるいは悪性疑い結節の発見率との間に線量依存性が認められなかったことなどから,発見された甲状腺がんと放射線被ばくの間の関連は考えにくいと評価されている。また,甲状腺癌には生涯にわたって死亡や症状などの問題をきたさない可能性が高い甲状腺癌がみられることが知られているため,甲状腺検査においては,関係学会のガイドラインに従い,二次検査の実施基準と穿刺吸引細胞診の実施基準を設け,検査を実施している。本稿においては,これまでの甲状腺検査の方法と進捗状況について報告するとともに,これまで得られた結果について概説する。
著者
志村 浩己
出版者
日本小児血液・がん学会
雑誌
日本小児血液・がん学会雑誌 (ISSN:2187011X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.340-345, 2021 (Released:2022-02-08)
参考文献数
22

東日本大震災に引き続いて発生した福島第一原子力発電所事故により,特にチェルノブイリ原子力発電所事故後に発生した小児甲状腺癌が心配されたため,福島県民健康調査「甲状腺検査」が震災の約半年後に開始された.本検査は,甲状腺超音波検査による一次検査と,5.1 mm以上の充実性結節等を指摘された受診者に対する二次検査から構成されている.一巡目検査にあたる「先行検査」は,過去の知見から放射線被ばくによる甲状腺癌発症の潜伏期間と考えられている期間に実施され,また,2014年度からは2年毎に実施される「本格検査」が開始されている.二巡目の検査までの評価では,放射線の影響は考えにくいとされている.現在,2020年度から開始した5巡目の検査を実施している.甲状腺癌にはリスクが極めて低いものが多く含まれていることが知られており,小児~若年者の甲状腺癌も一般的に予後良好とされているが,成人と比較して癌の自然歴に関する知見に乏しく,より慎重な対応が求められている.本検査では,関係学会のガイドラインに従い,甲状腺癌のリスクに応じた検査を行い,2020年度末時点において260例が細胞診診断にて悪性ないし悪性疑いと診断されている.本稿においては,これまでの甲状腺検査の経過と現在の課題を報告するとともに,これまで得られた小児・若年者の甲状腺癌に関するエビデンスについて概説する.
著者
大津留 晶 緑川 早苗 坂井 晃 志村 浩己 鈴木 悟
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.104, no.3, pp.593-599, 2015
被引用文献数
1

甲状腺は放射線に対して発がん感受性が高い臓器の1つと捉えられている.甲状腺がんの放射線発がんリスクは,被曝時年齢が若いほど高くなる.放射線は発がん因子の1つとしても,二次発がんという観点でも重要である.原爆被曝者の調査では,外部被曝による甲状腺がんリスク増加が示された.チェルノブイリ原発事故は,放射性ヨウ素の内部被曝が発がんの原因となった.いずれも100 mSv(ミリシーベルト)以上から徐々に有意となり,線量が高いほど罹患率が上昇する,線量依存性が見られている.東京電力福島第一原発事故後,小児甲状腺がんに対する不安が増大し,福島では大規模なスクリーニング調査が開始されている.本稿では,放射線と甲状腺がんについて,これまでの疫学調査と病理報告を概説し,放射線誘発甲状腺がんの分子機構の最前線に触れ,最後に小児甲状腺がんスクリーニングについての考え方についてまとめた.