著者
新原 寿志 小笠原 千絵 早間 しのぶ 日野 こころ 谷口 博志 角谷 英治
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.315-325, 2012 (Released:2013-10-08)
参考文献数
19
被引用文献数
3 3

【目的】本研究の目的は、 国内の鍼灸臨床における有害事象 (過誤・副作用) の現状を明らかにすると共に、 その問題点と改善のための方策を検討することにある。 【方法】対象は、 平成21年10月現在、 iタウンページに登録の開業鍼灸院20,454件から無作為に抽出した6,000件とした。 アンケートは、 平成21年10月初旬に郵送し、 同年12月末日を返信期限とした。 調査項目は、 1) 回答者プロフィール、 2) 鍼による有害事象、 3) 灸による有害事象、 4) 鍼灸の有害事象に対する患者の苦情および告訴、 5) 鍼灸の有害事象に関するインフォームド・コンセント、 6) 鍼灸の安全性に関する書籍・雑誌の購読状況、 7) 鍼灸の安全性に関する自由記述とした。 なお、 本調査は、 2000年以降の有害事象の経験の有無について調査を行い、 その発生件数(頻度)は問わなかった。 【結果】回収率は21.6%であった。 鍼の有害事象では、 皮下出血 (65.8%)、 微小出血 (62.0%)、 刺鍼時痛52.9%などの副作用が上位を占め、 過誤では鍼の抜き忘れ (32.7%) が最多で、 重大な過誤では折鍼 (2.2%)、 気胸 (2.0%) であった。 灸の有害事象では、 意図しない熱傷 (24.0%)、 髪の毛の燃焼 (15.5%)、 衣服の燃焼 (15.0%) が上位を占め、 重篤な過誤では灸痕化膿 (10.8%) が最も多かった。 有害事象に対する患者の苦情では症状悪化 (21.8%)が、 告訴では気胸 (36.4%, 11件中4件) が最も多かった。 有害事象に関するインフォームド・コンセントを得ているとの回答は全体の74.8%で、 そのうち口頭のみが61.0%であった。 鍼灸の安全性に関する書籍等の購読率はいずれも30%未満であった。 【まとめ】鍼の有害事象の多くは副作用であり、 刺激過多に起因するものが多かった。 灸では、 施術者の不注意に起因するものが多かった。 また、 関連する書籍等の購読率が低いなど、 安全性に関する情報は未だ十分に浸透しているとは言えない現状が示唆された。 今後は、 書籍のみならずインターネットを用いた情報の発信が必要であると考えられた。
著者
新原 寿志 古瀬 暢達 上原 明仁 菅原 正秋 山﨑 寿也 山下 仁
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.64-78, 2015 (Released:2015-08-19)
参考文献数
83

我々、 公益社団法人 全日本鍼灸学会 研究部安全性委員会は、 同学会が主催する第 63 回 学術大会 (愛媛大会) において、 鍼灸の安全性の向上、 なかでも鍼による有害事象の防止を目的に臓器損傷および神経損傷を対象としたワークショップを開催した。 ワークショップでは 「安全性向上のための局所解剖 Q&A」 と題し、 1) 開業鍼灸師および整形外科医師を対象とした鍼の有害事象に関するアンケート調査と、 2) 国内の鍼臨床に関連した気胸や神経損傷等に関する文献を紹介すると共に、 3) 経穴の解剖学的研究を基礎とした刺鍼部の局所解剖 (上半身) について Q&A 形式による特別講義を行った。 気胸を中心とした臓器損傷や神経損傷など鍼による重篤な有害事象の発生頻度は、 国内の鍼臨床全体からみれば極めて低いと推定されるがほぼ毎年報告されていること、 また、 実際には論文等で報告されているよりも多く発生していることが示唆された。 これら有害事象の発生を防ぐためには、 人体の構造、 特に刺鍼部の解剖学的知識が極めて重要であり、 加えて安全な刺鍼技術の修得が必須である。 本ワークショップを契機に施術者自身の知識と技術を再確認し、 安全で安心な鍼治療を実践していただければ幸いである。
著者
佐藤 想一朗 新原 寿志
出版者
一般社団法人 日本東洋医学系物理療法学会
雑誌
日本東洋医学系物理療法学会誌 (ISSN:21875316)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.93-100, 2022 (Released:2023-06-28)
参考文献数
7

【目的】鍼灸が広く国民の健康に寄与するためには、その安全性が担保されなければならない。今 回我々は、消費者庁と独立行政法人国民生活センターが管理運営を行っている事故情報データバ ンクシステムに登録された鍼灸とその関連療法に関する有害事象ついて調査し、事故情報データ バンクシステムの有用性について検討した。 【方法】事故情報データバンクシステムの運用開始(2009 年 9 月)から 2020 年 12 月 31 日までに 登録された事故情報を対象に、フリーワード検索を行った(鍼、針、ハリ、はり、バリ、ばり、粒、灸、 キュウ、やいと、ヤイト、艾、モグサ、もぐさ、経穴、ツボ、つぼ)。該当した事故情報を、鍼灸 とその関連療法に関する有害事象とその原因療法について分類・集計した。 【結果】有害事象では熱傷が 149 件と最も多く、痛み 79 件、体調悪化・症状悪化 42 件、気胸 36 件、 体調不良・気分不良 33 件、皮膚障害 29 件、鍼の抜き忘れ 28 件、内出血 26 件、感覚障害 24 件、 腫脹 21 件と続いた。灸療法、艾蒸療法、他の温熱療法、電気療法、光線療法、吸角療法の有害事 象では熱傷が最も多く、各々 95 件、20 件、4 件、4 件、2 件、2 件であった。鍼療法では痛みが 43 件、 耳鍼療法では皮膚障害 9 件が最も多かった。 有害事象の重症度では、「医者にかからず」が 101 件と最も多く、治療期間が 1 ヶ月以上 82 件、 1 週間未満 48 件、1 ~ 2 週間 47 件、3 週間~ 1 ヶ月 40 件と続いた。 【結論】事故情報データバンクシステムには、気胸などの重症例から、論文や会議録に発表されな い鍼灸やその関連療法に関するマイナーな有害事象(熱傷、痛み、体調悪化・症状悪化など)や 軽症例まで多数登録されていた。本調査の結果、事故情報データバンクは、文献調査に比較して 情報量・信憑性・正確性については劣るものの、鍼灸やその関連療法に関する有害事象の把握や リスクマネジメントを考える上で、有用かつ貴重な情報源であることが示された。
著者
新原 寿志
出版者
明治国際医療大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

開業鍼灸院を対象としたアンケート調査の結果から、安全対策について十分に周知徹底されているとは言えないこと、開業鍼灸師の(社)日本鍼灸師会や(社)全日本鍼灸学会への所属率は低いことから、卒後教育を効率的に実施することは困難であることが示唆された。鍼灸師の養成機関を対象としたアンケート調査では、安全教育において指導内容に差があることが示唆された。これらの結果から、鍼灸の安全性に関する卒後教育および学校教育の質の向上に向けた新たな取組みが必要であると考えられた。