著者
広田 曄子 星山 佳治 川口 毅
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.30-36, 1997-02-28 (Released:2010-09-09)
参考文献数
14

初生養護が小児科領域の医書の中でどのように記載されているかについて歴史的流れの中で文献学的に検討した.その結果, 初生養護は小児科領域の医書において治療や臨床医学的処置だけでなく予防医学の観点からも重要なこととして古くから詳細な記載がされてきた.中国の「千金方」をはじめ「小品方」などの医学の伝承を受けて平安時代に丹波康頼によって我が国で最初に編纂された「医心方」に記載されており, 以来江戸時代にいたるまで多くの医書においてもほぼ同様の記載となっている.しかし, 江戸時代後期になると従来の初生養護にかかわる処置を継続しようとする古方派と従来の考え方を否定し新しい知見に基づいた有持桂月等をはじめとする新しい日本独自の初生養護に対する考え方の台頭など江戸時代にはかなり自由な思考が数多くなされており, まさに百家争鳴の感がある.さらに, この時期には離乳や臍ヘルニアの治療といった新しい治療などの記載や予防的観点から厚着をさせないことや満腹するまで乳を与えない, あるいは日光浴をさせ風邪の予防に心掛けるなど今日の予防医学においても通用するいくつかの知見がみられた.このように我が国の医書にみる初生養護の変遷について振り返ってみることにより現在の新生児に対する保健予防や治療においても通用する知見も多く見られ今後の医療発展にも大きく貢献する事が期待された.
著者
廣田 曄子 松田 鈴夫 方 泓 星山 佳治 三浦 宜彦 川口 毅
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.228-247, 1998-06-28 (Released:2010-09-09)
参考文献数
33

我が国の小児科領域の疾病に対する治療の変遷を麻疹, 傷寒, 臍風ならびに驚の4疾患について, 中世 (西暦900年代) から近世 (西暦1800年代) にかけてその間に出版された医学書をもとに, 疾病の概念や治療の変遷について研究を行なった.その結果, これら4疾患についてはいずれもかなり古くから疾病の定義・概念が確立しており, 本研究を行なった約900年の間においてもそれぞれの概念に含まれる疾病の範囲はあまり大きな変化はみられなかった.我が国において最も古く900年代の治療方法を代表する「医心方」において, 傷寒や驚に用いられた構成生薬数は後の時代に比較して著しく少ないものとなっている.1300年代の代表的な医書である「万安方」について構成生薬数をみると, 麻疹, 傷寒, 驚のいずれも1処方当たり平均3ないし4種類の生薬が処方されている.これは中国との情報の交流が当時からすでに活発に行なわれ, 我が国の医療も急速に普及発達し, 治療に用いられる構成生薬数も次第に増加してきたものと考えられる.なお, 臍風については1種類しか処方されていないが, 当時においても臍破傷風は死病とされ, 患者に対する効果的な治療方法がなかったことから, 甘草を処方する程度で無理に多くの生薬を用いないという考え方によるものである.1500年代から1700年代にかけて特徴的なことは「小児諸病門」や「遐齢小児方」のような小児科専門の医書が著され, 当時の中国医学の影響を強く受けながらも, わが国独自の考え方での処方が上乗せされてきており, このことが構成生薬数の多い原因の一つと考えられる.1600年代の平均構成生薬数を見ると麻疹, 傷寒, 驚において平均8程度の生薬が処方されており, その処方された生薬の内容を見ると, 当該疾患に対して用いられているいろいろな処方から出来るだけ多く取入れている観がある.当時としては治療方法のない臍風 (臍破傷風) においてすらも平均3.9となって, 以前に比較して構成生薬数が増加している.1700年代にはいると, 我が国独自の風土や環境に適した医学をめざして吉益東洞は古典的な「傷寒論」を見直し, これに注釈をつけた新たな運用を提唱し, また安藤昌益のように「傷寒論」にとらわれず, まったく独自の処方を編み出す等多くの医学者が輩出した.両者とも我が国独自の処方の確立を目指しており, 処方は従来のものよりも簡潔なものが多い.この傾向は1800年代にも顕著で4疾患全てに共通して観察されたが, これは日本人の質素倹約を旨とする現実主義的性格が関与しているかもしれない.
著者
前川 一恵 桑田 惠子 星山 佳治
出版者
一般社団法人 日本在宅医療連合学会
雑誌
日本在宅医療連合学会誌 (ISSN:24354007)
巻号頁・発行日
vol.1, no.2, pp.10-17, 2020 (Released:2020-09-29)
参考文献数
16

[目的]在宅復帰を目指す高齢患者の摂食・嚥下機能の回復への看護援助の内容を明らかにする .[方法]地域包括ケア病棟に勤務する看護師 130 名を対象に , 摂食・嚥下機能の回復への援助 4 因子 43 項目に加えて , 在宅復帰に向ける食事への援助 3 因子 20 項目で構成した自記式質問紙調査を実施した .[結果]摂食・嚥下機能の回復への援助項目で実施割合が最も高かったものは ,「患者の覚醒状況の観察」(95. 0%)であった . 在宅復帰に向ける食事への援助項目では ,「入院前の認知機能の情報収集」(90.0%)であったが ,【 患者・家族への食事指導 】は 50%以下が 4 項目あった . 実施割合が低い項目は , 食具に関する援助項目と , 作業療法士への相談 , 食前の唾液腺マッサージや口腔内のアイスマッサージであった .[考察]患者の摂食・嚥下機能の回復を目指しては , 食具への知識や, 作業療法士との連携を増やす必要が示唆された. また, 高齢者が退院後も摂食・嚥下機能を維持していくためには , 患者・家族指導の実施割合を高める必要が考えられた .
著者
穗坂 路男 星山 佳治
出版者
The Showa University Society
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.56, no.5, pp.522-529, 1996

在宅酸素療法home oxygen therapy (H.O.T.) 患者のquality of life (Q.O.L.) を改善する目的で, diazepamを投与し, その効果をdouble-blind, crossover, Placebo-diazepam clinical tria1によって評価した.調査対象は, H.O.T.導入後3カ月をすぎ, 呼吸不全状態の安定期にあるI型呼吸不全の患者とし, diazepam及びplacebo 0.1~0.2mg/kgを1カ月毎に計4カ月間double blindで投与した.あらかじめ, 性格特性, 人格特性等を心理テストにて把握するとともに, 様々な身体的, 精神的検査を, 各1カ月の前後にそれぞれ行った.その結果, diazepam投与の前後において, 呼吸機能の有意な変化は認められなかったが, 呼吸困難感は有意に改善した.また, 患者の抑うつや不安感に関しては, Placebo投与群では増悪傾向が見られたにもかかわらず, diazepam投与群においては改善傾向が認められた.同様に, Q.O.L.評価においてもplacebo投与群では増悪傾向がみられたにもかかわらず, diazepam投与群は改善傾向が認められた.また, placebo投与群では身体的機能障害と精神的機能障害ともに増悪傾向が見られたのに対し, diazepam投与群では身体的機能障害は増悪傾向がみられたが, 精神的機能障害は改善の傾向が認められた.また, diazepamを投与した結果, 呼吸困難感が改善した患者群と不変増悪の患者群の2群の間で, 判別分析を行った結果では, 呼吸困難感が強く, MMPIの1ie scaleおよびY-G性格検査のthinking extroversionの高い患者ほど, diazepam投与による呼吸困難感軽減の効果が現れやすいことが示唆された.
著者
広田 曄子 星山 佳治 川口 毅
出版者
The Showa University Society
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.30-36, 1997

初生養護が小児科領域の医書の中でどのように記載されているかについて歴史的流れの中で文献学的に検討した.その結果, 初生養護は小児科領域の医書において治療や臨床医学的処置だけでなく予防医学の観点からも重要なこととして古くから詳細な記載がされてきた.中国の「千金方」をはじめ「小品方」などの医学の伝承を受けて平安時代に丹波康頼によって我が国で最初に編纂された「医心方」に記載されており, 以来江戸時代にいたるまで多くの医書においてもほぼ同様の記載となっている.しかし, 江戸時代後期になると従来の初生養護にかかわる処置を継続しようとする古方派と従来の考え方を否定し新しい知見に基づいた有持桂月等をはじめとする新しい日本独自の初生養護に対する考え方の台頭など江戸時代にはかなり自由な思考が数多くなされており, まさに百家争鳴の感がある.さらに, この時期には離乳や臍ヘルニアの治療といった新しい治療などの記載や予防的観点から厚着をさせないことや満腹するまで乳を与えない, あるいは日光浴をさせ風邪の予防に心掛けるなど今日の予防医学においても通用するいくつかの知見がみられた.このように我が国の医書にみる初生養護の変遷について振り返ってみることにより現在の新生児に対する保健予防や治療においても通用する知見も多く見られ今後の医療発展にも大きく貢献する事が期待された.
著者
吉村 健清 早川 式彦 溝上 哲也 徳井 教孝 八谷 寛 星山 佳治 豊嶋 英明
出版者
産業医科大学
雑誌
特定領域研究(C)
巻号頁・発行日
2000

地域住民を対象とした大規模コホート調査(JACC Study)の調査票情報および保存血清および1997年末までの予後追跡調査データを用いて、胃がんのリスク要因を解析した。死亡を結果指標としたコホート解析では、胃がんリスクを高める要因として、短い教育歴、胃がん家族歴あり(男:RR,1.6;女:RR,2.5)、男の喫煙(RR,1.3;喫煙開始10-19歳:RR,1.9)、女性では生殖歴・出産歴がないこと、胃がん検診未受診(男:RR,2.0)があげられた。家族歴では、特に女で母親が胃がんの塙合に高いリスクを示した。また胃がんには家族集積性があることも示唆された。一方で、これまで胃がん関連要因として報告されてきた緑黄色野菜・高塩分含有食品・緑茶の摂取との関連は明らかでなかった。追跡期間別に分けた分析方法を用いると、干物類は、胃がんがあると摂取が減少する可能性が示唆された。また、コホート内症例対照研究の手法により、調査開始時に採取された血清を用いて、IGF、SOD、sFAS、TGF-b1の4項目を測定、胃がん罹患および死亡との関連を検討した。TGF-b1は、女性において、4分位で最も低い群にくらべ、値が高い群ほど胃がん罹患・死亡のリスクが上昇する量-反応関係を認めた。その他の3項目は、罹患と死亡で一致した傾向は認めなかった。同様の手法により、胃がんとの関連が強いとされる血清項目を測定した結果、Helicobactor pylori陽性のオッズ比は1.2、pepsinogen低値(胃粘膜萎縮あり)のオッズ比は1.9であった。H. pyloriのリスクが比較的低かったことの理由として、本解析集団が高齢であることが考えられる。現在、H. pyloriのCag-A抗体について測定を進めている。