著者
小曽根 淳
出版者
亜細亜大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

我が国では、17世紀半ば頃オランダから伝わった測量術を紅毛流と称してきた。主な特徴は、平板上の用紙に現実の距離関係の縮図を描き、相似比を用い実際の距離を求める。言い換えれば、三角法でなく作図を用いて二点間距離を求める訳である。その紅毛流測量術伝来に関する定説は、「1650年頃、オランダ人外科医カスパルが、長崎の樋口権右衛門に伝えた」というものである。しかし、調べてみると「1650年に砲術手ユリアンが、江戸の幕臣北条氏長達に伝えた」ことが明らかとなった。更に、オランダ商館長への商務員報告に驚くべき記述がある。1650年、幕臣達に伝えられたのは三角測量であった、というものである。ユリアンは幕臣達にsine,tangent,secantの表を写させ、「90ページの数字ばかりの小冊子」を用いて応用計算を教えた。その原本を求めオランダを訪れたが、それは三角関数表であった。すると三角関数表伝来の歴史が80年程早まり、和算史や測量術史が直接的な影響を受けることになる。今後、それを詳しく検討したい。オランダ人による三角関数表伝達は、その時点では受容されなかった可能性が高い。角度の概念を持たぬ幕臣達は、三角関数表を用いた応用計算を思うように理解できなかったからである。測量術史における平板測量と三角測量との違いは、原理的には相似法と三角法の違いにあるが、幕臣達だけでない多くの江戸人もその狭間で苦しんだ。この事例は三角法を苦手とする生徒達への対応に際して、示唆を与えてくれるように思われる。三角比導入の一つの方法は、任意の二つの相似な直角三角形での隣接二辺の比の不変性によるが、そう考える必然性を説得力ある豊かな内容で教える工夫が求められる。本研究では・紅毛流の起源について定説を覆す展開を得た。一方、それを含めると教育的、科学史的意義の解明には新たな展開の可能性があり、今後の課題としたい。
著者
曽根 淳
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.10, pp.653-662, 2020 (Released:2020-10-24)
参考文献数
47
被引用文献数
7 7

神経核内封入体病(neuronal intranuclear inclusion disease; NIID)は,進行性の神経変性疾患であり,近年まで剖検により診断されていたが,2011年に皮膚生検が診断に有効と報告された後,症例数が増加している.2019年にはNOTCH2NLC遺伝子上のGGCリピート配列の延長が原因であると同定され,遺伝子診断も可能となった.NIIDでは,認知機能障害で発症し,頭部MRIでの白質脳症およびDWIでの皮髄境界の高信号が認められる群と,四肢筋力低下から発症する群の2群が認められる.今後,白質脳症およびニューロパチーの鑑別診断にNIIDを含める必要があり,皮膚生検と遺伝子検査を組み合わせ,NIIDを的確に診断し,病態解明を推進する必要がある.
著者
小曽根 淳
出版者
Research Institute for Mathematical Sciences, Kyoto University
雑誌
数理解析研究所講究録別冊 (ISSN:18816193)
巻号頁・発行日
vol.B50, pp.109-123, 2014-06

"Study of the History of Mathematics". August 27~30, 2012. edited by Tsukane Ogawa. The papers presented in this volume of RIMS Kôkyûroku Bessatsu are in final form and refereed.
著者
小曽根 淳
出版者
京都大学数理解析研究所
雑誌
数理解析研究所講究録別冊 (ISSN:18816193)
巻号頁・発行日
no.50, pp.109-123, 2014-06

It is dominant theory that the table of trigonometric functions was first introduced into Japan in chóngzhēn-lìshū (『崇禎暦書』) on 1727. We have found a document indicating that the Dutch taught trigonometry to the Administration of the Tokugawa Shogunate in 1650. In addition, the Dutch let the Japanese copy the table of trigonometric functions and told them its meaning. Regrettably, they did not seem to understand the lecture sufficiently. In this paper, we have two purposes as follows. One is to identify the table which was used then. The second is to discuss the relationship between the 1650's table and 1727 's table. Then, we will conclude the fact that Pitiscus was the author of both tables. At last, we would like to point out that argument above is based on the 17^{mathrm{t}mathrm{h}} century data found on Google books and several University' s libraries.
著者
小谷 紗稀 深沢 良輔 武澤 秀理 馬場 正道 曽根 淳 藤井 明弘
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.194-199, 2021 (Released:2021-03-25)
参考文献数
10
被引用文献数
2

症例は70代の男性3例.主訴は全例歩行障害だった.全例に縮瞳と四肢・体幹失調を認め,mini-mental state examinationは2例,frontal assessment batteryは全例で低下していた.頭部MRIで白質脳症所見と小脳萎縮,拡散強調画像で皮髄境界の高信号を認めたが,2例は経過観察となっていた.全例,皮膚生検で抗ユビキチン抗体と抗p62抗体陽性の核内封入体,遺伝子検査でNOTCH2NLCのCGGリピート伸長を認め,神経核内封入体病と診断した.本症は物忘れを主訴とすることが多いが,失調による歩行障害で受診することもあり,特徴的な頭部MRI所見を手掛かりに皮膚生検や遺伝子診断で精査を進めることが重要である.
著者
小田 亮介 藤倉 舞 林 貴士 松谷 学 曽根 淳 下濱 俊
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
pp.cn-001609, (Released:2021-10-16)
参考文献数
22

症例は70歳女性.来院6年前にもの忘れを発症した.認知機能障害,神経因性膀胱,便秘症,繰り返す嘔吐発作が認められた.当科初診時には肝内門脈体循環シャントによる肝性脳症を合併していた.頭部MRIでは皮髄境界や脳梁膨大部,両側中小脳脚にDWI高信号像が認められ,皮膚生検とNOTCH2NLC遺伝子検査の結果から神経核内封入体病(neuronal intranuclear inclusion disease,以下NIIDと略記)と診断した.過去10年の頭部MRIを後方視的に確認したところ,認知機能障害の出現に先行して異常信号が存在し,経時的に拡大していた.特徴的な皮髄境界病変だけではなく脳梁膨大部にも早期からDWI高信号像が認められることを念頭に置くことが,NIIDの早期診断に重要と考えられた.
著者
曽根 淳
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
pp.cn-001417, (Released:2020-09-05)
参考文献数
47
被引用文献数
7

神経核内封入体病(neuronal intranuclear inclusion disease; NIID)は,進行性の神経変性疾患であり,近年まで剖検により診断されていたが,2011年に皮膚生検が診断に有効と報告された後,症例数が増加している.2019年にはNOTCH2NLC遺伝子上のGGCリピート配列の延長が原因であると同定され,遺伝子診断も可能となった.NIIDでは,認知機能障害で発症し,頭部MRIでの白質脳症およびDWIでの皮髄境界の高信号が認められる群と,四肢筋力低下から発症する群の2群が認められる.今後,白質脳症およびニューロパチーの鑑別診断にNIIDを含める必要があり,皮膚生検と遺伝子検査を組み合わせ,NIIDを的確に診断し,病態解明を推進する必要がある.
著者
竹下 潤 小林 宏光 下江 豊 曽根 淳 祖父江 元 栗山 勝
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.6, pp.303-306, 2017 (Released:2017-06-28)
参考文献数
10
被引用文献数
5

症例は65歳の男性.全経過約3時間の一過性の健忘が出現した.3年前にも同様の症状が出現した.認知症状は認めず.神経学的には,小脳失調や不随意運動は認めなかったが,神経伝導検査で末梢神経障害を認めた.MRI拡散強調像で,前頭葉から頭頂葉にかけて皮質下の皮髄境界域に高信号を認め,皮膚生検で神経核内封入体を多数認め,成人発症の神経核内封入体病と診断した.家系内には類症者はおらず,孤発例である.健忘は一過性全健忘と極めて類似し,辺縁系障害が推測された.
著者
曽根 淳史 古川 洋二 中塚 繁治 田中 啓幹
出版者
社団法人日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科學會雜誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.80, no.6, pp.902-906, 1989-06-20
被引用文献数
1

急速な転帰をとった膀胱原発絨毛癌の一剖検例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.症例は70歳男性,1986年6月10日,肉眼的全血尿を主訴に来院した.膀胱鏡で後壁に母指頭大の乳頭状腫瘍と左側壁に米粒大の非乳頭状腫瘍を認め,生検の結果,未分化癌であったため強く入院を勧めたが拒否し放置していた.1987年1月30日に全身倦怠感,呼吸困難および体重減少を主訴に再来した.入院時,左女性化乳房を認め,血中hCG-βは101ng/mlと異常高値を認めた.腫瘍はすでにほぼ膀胱全体を占める程度に増大していた.入院後17日目,肺水腫及び心不全のために死亡した.剖検では膀胱腫瘍の大きさは10×10×3cmで,病理組織学的にsyncytiotrophoblastを認め,さらにhCG-βの免疫組織学的染色により同細胞内にhCG-β陽性顆粒が認められた.本症例は本邦第8例目と考えられた.