著者
庭瀨 裕子 朴 白順 月浦 崇
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第14回大会
巻号頁・発行日
pp.107, 2016 (Released:2016-10-17)

Fading Affect Bias(FAB)とは,情動的にネガティブな出来事と結びついた感情は,情動的にポジティブな出来事と結びついた感情よりも早く弱まる傾向があるバイアスのことである.しかし,このFAB効果の大きさと気分の個人差との関係は明らかではない.本研究では,日記法を用いてFAB現象と気分の個人差の関係を検証した.参加者は,情動的にPositive,Neutral,Negativeな出来事を毎日1つずつ14日間連続で日記に記入し,各出来事についての覚醒度を評価した.さらに14日後に,参加者は日記に記載した出来事についての覚醒度を再評価し,さらに気分と性格特性に関連する心理検査を施行した.その結果,FAB現象の大きさは,記憶想起時のネガティブな気分状態が強い個人ほど有意に減少することが示された.この結果は,FAB現象は記憶想起時の気分の個人差によって予測されることを示唆している.
著者
目黒 祐子 藤井 俊勝 月浦 崇 山鳥 重 大竹 浩也 大塚 祐司 遠藤 佳子
出版者
日本失語症学会 (現 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会)
雑誌
失語症研究 (ISSN:02859513)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.251-259, 2000 (Released:2006-04-25)
参考文献数
20
被引用文献数
1

一般に言語性短期記憶は音韻情報の保持容量を指標としているが,言語情報は通常,意味と結びついているはずである。そこで単語レベルについては音韻の短期記憶 (音韻性ループ) に加えて意味の短期記憶 (意味性短期貯蔵庫) を仮定した。標準失語症検査の単語レベル課題の成績がほぼ同じ2症例に,単語系列を聴覚的および視覚的に提示し,口頭反応 (音韻情報保持) と線画指示 (意味情報保持) の成績を比較した。前頭葉損傷の症例1は刺激を聴覚提示した場合には指示スパンが低下しており,視覚提示した場合には聴覚提示に比べて明らかに成績が低下していた。一方,側頭-頭頂葉損傷の症例2では課題により成績に差を認めなかった。すなわち,症例1では複数情報が継時的に入力された場合,音韻情報と意味情報の保持に乖離を認め,さらには視覚情報から音韻情報への変換過程にも障害が見られた。しかし症例2では音韻性短期貯蔵庫の容量が削減していても意味情報として保持可能であることが明らかとなった。
著者
宮内 誠 カルロス 杉浦 元亮 蓬田 幸人 秋元 頼孝 月浦 崇 川島 隆太
出版者
人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 (ISSN:13479881)
巻号頁・発行日
vol.27, 2013

他者の身体に危害を加えるという過去の出来事に関して加害行為を実行することと被害者を目撃することが脳内で別々に表象されている可能性がある。本実験では参加者に顔写真を提示し、仮想の加害行為として顔写真の目に画鋲を刺す行為を含む課題を行わせた。その行為の想起時の脳活動を機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて測定した。本研究では加害行為の有無を識別することが可能かどうかを機械学習的手法を用いて検討した。
著者
月浦 崇
出版者
東北大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2009

顔から受ける印象には大きく分けて2つの側面がある.ひとつは顔の外面的な印象である顔の魅力であり,もうひとつは顔から受ける内面的な印象である性格面の善悪である.これらの2つの側面からなる顔の印象は,顔の記憶に対して影響を与えることが心理学的研究から知られている.すなわち魅力的な顔はそうでない顔よりも記憶に残りやすく,また性格的に「悪い」印象をもつ顔はそうでない顔よりも記憶に残りやすい.しかしながら,このような顔の印象と顔の記憶との間の相互作用を担う神経基盤については,未だに十分に理解が進んでいない.そこで本研究では,(1)顔の魅力と顔の記憶,(2)顔の第一印象の「悪さ」と顔の記憶,の2側面を担う脳内機構を機能的磁気共鳴画像(fMRI)を用いて検証を行った.まず,(1)「顔の魅力と顔の記憶」についての研究では,行動データとして魅力的な顔は中程度の魅力や魅力的でない顔よりも良く記憶されることが示され,その神経基盤として報酬系の一つである眼窩前頭皮質と記憶に重要な海馬との間の相互作用の重要性が示された.(2)「顔の第一印象の悪さと顔の記憶」についての研究では,行動データとして第一印象が悪い顔は中程度の印象の顔や良い印象の顔と比較してより良く記憶されることが示され,その神経基盤として痛みや罰の処理に関連する島皮質と海馬との間の相互作用の重要性が示された.以上のことから,顔から受ける外面的な印象と内面的な印象の違いによって顔の記憶は異なった影響を受け,その神経基盤として顔の印象を媒介する領域と記憶情報処理に重要な海馬との間の相互作用が重要であることが示唆された.