著者
藤井 俊勝
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.19-24, 2010-03-31 (Released:2011-05-11)
参考文献数
11
被引用文献数
1

記憶とは自己の経験が保存され,その経験が後になって意識や行為のなかに想起・再現される現象である。記憶はいくつかの観点から分類されてきた。保持時間による分類としては,即時記憶・近時記憶・遠隔記憶・短期記憶・長期記憶などの用語がある。記憶内容による分類では,陳述記憶・非陳述記憶・エピソード記憶・意味記憶・手続き記憶などの用語が用いられてきた。さらに,最近では作業記憶や展望的記憶などの用語もよく見かけるようになってきた。本稿ではまずこれらの記憶用語について解説する。臨床的に記憶障害という場合,通常エピソード記憶の選択的障害をさし,健忘症候群とよばれる。健忘症候群の特徴について簡略に解説し,健忘症候群の患者において,さまざまな記憶のうちどれが障害されどれが保たれるのかについて述べる。
著者
藤井 俊勝
出版者
日本失語症学会 (現 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会)
雑誌
失語症研究 (ISSN:02859513)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.155-163, 1997 (Released:2006-05-12)
参考文献数
21
被引用文献数
1 1

今回著者は両側前頭葉梗塞後に,視野障害・運動麻痺・失調・視覚運動失調・感覚障害がなく,数字順唱・Tapping spanが保たれているにもかかわらず,電話がかけられなくなった症例を経験し,その症状を詳細に検討した。本症例の症状の本質は,ある程度の負荷の存在下における異なるモードへの情報変換過程の障害であると考えられた。この症状の説明にBaddeleyらによるWorking memoryモデルを適用した。すなわち,ある程度正常に機能している2つの補助システム (phonological loop/visuospatial sketchpad) と,障害された中央処理装置 (central executive) という考えで本症例の症状は説明可能であった。Central executiveの機能の1つとして,負荷存在下における異なるモードへの情報変換が想定され,また解剖学的には前頭前野の関連が示唆された。
著者
藤井 俊勝 平山 和美 深津 玲子 大竹 浩也 大塚 祐司 山鳥 重
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.125, no.2, pp.83-87, 2005 (Released:2005-04-05)
参考文献数
22
被引用文献数
1

情動は個体の身体内部変化(自律神経活動,内臓活動など)と行動変化を含めた外部へ表出される運動の総体であり,感情は個体の心理的経験の一部である.ヒトの脳損傷後には,個々の道具的認知障害や行為障害を伴わずに,行動レベルでの劇的な変化がみられることがある.本稿では脳損傷後に特異な行動変化を呈した3症例を提示し,これらの症状を情動あるいは感情の障害として捉えた.最初の症例は両側視床・視床下部の脳梗塞後に言動の幼児化を呈した.次の症例は両側前頭葉眼窩部内側の損傷により人格変化を呈した.最後の症例は左被殻出血後に強迫性症状の改善を認めた.これら3症例の行動変化の機序として,情動に関連すると考えられる扁桃体-視床背内側核-前頭葉眼窩皮質-側頭極-扁桃体という基底外側回路,さらに視床下部,大脳基底核との神経回路の異常について考察した.
著者
藤井 俊勝
出版者
心理学評論刊行会
雑誌
心理学評論 (ISSN:03861058)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.157-171, 1998 (Released:2019-04-23)
被引用文献数
1
著者
目黒 祐子 藤井 俊勝 月浦 崇 山鳥 重 大竹 浩也 大塚 祐司 遠藤 佳子
出版者
日本失語症学会 (現 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会)
雑誌
失語症研究 (ISSN:02859513)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.251-259, 2000 (Released:2006-04-25)
参考文献数
20
被引用文献数
1

一般に言語性短期記憶は音韻情報の保持容量を指標としているが,言語情報は通常,意味と結びついているはずである。そこで単語レベルについては音韻の短期記憶 (音韻性ループ) に加えて意味の短期記憶 (意味性短期貯蔵庫) を仮定した。標準失語症検査の単語レベル課題の成績がほぼ同じ2症例に,単語系列を聴覚的および視覚的に提示し,口頭反応 (音韻情報保持) と線画指示 (意味情報保持) の成績を比較した。前頭葉損傷の症例1は刺激を聴覚提示した場合には指示スパンが低下しており,視覚提示した場合には聴覚提示に比べて明らかに成績が低下していた。一方,側頭-頭頂葉損傷の症例2では課題により成績に差を認めなかった。すなわち,症例1では複数情報が継時的に入力された場合,音韻情報と意味情報の保持に乖離を認め,さらには視覚情報から音韻情報への変換過程にも障害が見られた。しかし症例2では音韻性短期貯蔵庫の容量が削減していても意味情報として保持可能であることが明らかとなった。
著者
藤井 俊勝 平山 和美 深津 玲子 大竹 浩也 大塚 祐司 山鳥 重
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 : FOLIA PHARMACOLOGICA JAPONICA (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.125, no.2, pp.83-87, 2005-02-01
参考文献数
22

情動は個体の身体内部変化(自律神経活動,内臓活動など)と行動変化を含めた外部へ表出される運動の総体であり,感情は個体の心理的経験の一部である.ヒトの脳損傷後には,個々の道具的認知障害や行為障害を伴わずに,行動レベルでの劇的な変化がみられることがある.本稿では脳損傷後に特異な行動変化を呈した3症例を提示し,これらの症状を情動あるいは感情の障害として捉えた.最初の症例は両側視床・視床下部の脳梗塞後に言動の幼児化を呈した.次の症例は両側前頭葉眼窩部内側の損傷により人格変化を呈した.最後の症例は左被殻出血後に強迫性症状の改善を認めた.これら3症例の行動変化の機序として,情動に関連すると考えられる扁桃体-視床背内側核-前頭葉眼窩皮質-側頭極-扁桃体という基底外側回路,さらに視床下部,大脳基底核との神経回路の異常について考察した.<br>
著者
藤井 俊勝 麦倉 俊司 奥田 次郎 森 悦朗 鈴木 麻希 森 悦朗 鈴木 麻希 麦倉 俊司 奥田 次郎
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

ヒトの記憶については心理学的・神経科学的な研究が数多く行われてきていたが、記憶の間違い-つまり、記憶として想起はできるものの内容が正確ではない場合-のメカニズムについては不明な点が多い。本研究ではヒトの脳活動を間接的に測定することができる脳機能画像法と、脳損傷患者を対象とした神経心理学的研究によって、ヒトの脳でどのように誤った記憶情報が表象されるのかを検討した。記憶を司る内側側頭葉に対して、記憶を制御する前頭前野が影響を与えていることや、内側側頭葉と感覚情報を処理する感覚皮質の関連が明らかとなった。