著者
木山 博資
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.142, no.5, pp.210-214, 2013 (Released:2013-11-11)
参考文献数
11
被引用文献数
1

持続的なストレスは恒常性の維持機構を破綻させ,精神的あるいは器質的な障害を引き起こす.慢性的なストレスなどによって引き起こされると考えられている慢性疲労症候群や線維筋痛症などの機能性身体症候群に属する疾患の病態生理を明らかにするために,私たちは比較的類似した症状を呈するモデル動物の確立をめざしている.いくつかの慢性ストレスモデルのなかで,ラットの低水位ストレス負荷モデルは比較的安定した慢性的複合ストレスモデルであり,睡眠障害や疼痛異常など,機能性身体症候群の代表的な症状を示す.このモデルを用いて,脳や末梢臓器の組織的な変化を検討したところ,視床下部での分子発現の変化が起点となって,下垂体の一部に細胞レベルで器質的な変化が起こることが明らかになった.中間葉ではメラノトロフの過剰活動と細胞死,前葉ではソマトトロフの分泌抑制と萎縮が見られた.これらの変化は全て視床下部での分子発現の変化が引金となっていた.また,視床下部以外にも海馬での神経新生も影響を受けていた.この他,胸腺などの免疫系の臓器も影響を受けており,恒常性の維持機構である神経,免疫,内分泌系の臓器に細胞や分子レベルでの多様な変化が生じていた.これらの知見の解析は,今まで器質的な変化が明確に検出されていない機能性身体症候群の診断マーカーの確立や,疾患の分子メカニズムの解明に繋がると期待される.
著者
安井 正佐也 木山 博資 水村 和枝 時實 恭平 校條 由紀 吉村 崇志
出版者
名古屋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究は,異なるストレスを負荷した二つのモデル動物(慢性疲労症候群CFSモデル,線維筋痛症FMモデル)の病的疼痛について研究を行った.その結果,いずれのモデルにおいても機械的アロディニアや筋性痛覚過敏が誘発することを実証した.さらに末梢組織に炎症等は認めないが,いずれのモデルにも,腰髄後角でミクログリアの活性化を認めた.このミクログリア活性化を薬剤(ミノサイクリン)で抑制すると,有意に機械的アロディニアおよび筋性痛覚過敏を抑制した.この事から,ストレス負荷によって生じる異常な疼痛の発症に,ミクログリアが大きく関与していることが示唆された.
著者
木山 博資
出版者
名古屋大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

慢性疲労症候群(CFS)や線維筋痛症(FM)などのモデル動物を用いて、病的疼痛の分子メカニズム、特にミクログリアの関与を明らかにすることをめざした。これらの慢性ストレスモデルでは末梢組織の明らかな炎症や損傷は見られないが、中枢の脊髄後角においてミクログリアの増殖と活性化が認められた。CFSモデルにおいてミクログリアの活性化を抑制すると病的な疼痛は抑制された。脊髄後角のミクログリア活性化の領域は固有感覚の入力部位に一致していること、抗重力筋や脊髄神経節の検索から、固有感覚の慢性的な過剰刺激がこれらの疾患の引金になっている可能性が示唆された。
著者
木山 博資
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.142, no.5, pp.210-214, 2013

持続的なストレスは恒常性の維持機構を破綻させ,精神的あるいは器質的な障害を引き起こす.慢性的なストレスなどによって引き起こされると考えられている慢性疲労症候群や線維筋痛症などの機能性身体症候群に属する疾患の病態生理を明らかにするために,私たちは比較的類似した症状を呈するモデル動物の確立をめざしている.いくつかの慢性ストレスモデルのなかで,ラットの低水位ストレス負荷モデルは比較的安定した慢性的複合ストレスモデルであり,睡眠障害や疼痛異常など,機能性身体症候群の代表的な症状を示す.このモデルを用いて,脳や末梢臓器の組織的な変化を検討したところ,視床下部での分子発現の変化が起点となって,下垂体の一部に細胞レベルで器質的な変化が起こることが明らかになった.中間葉ではメラノトロフの過剰活動と細胞死,前葉ではソマトトロフの分泌抑制と萎縮が見られた.これらの変化は全て視床下部での分子発現の変化が引金となっていた.また,視床下部以外にも海馬での神経新生も影響を受けていた.この他,胸腺などの免疫系の臓器も影響を受けており,恒常性の維持機構である神経,免疫,内分泌系の臓器に細胞や分子レベルでの多様な変化が生じていた.これらの知見の解析は,今まで器質的な変化が明確に検出されていない機能性身体症候群の診断マーカーの確立や,疾患の分子メカニズムの解明に繋がると期待される.
著者
木山 博資
出版者
旭川医科大学
雑誌
旭川医科大学研究フォーラム (ISSN:13460102)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.4-12, 2001-06-30

雑誌掲載版損傷した中枢神経系は再生しないと考えられていた。しかし、再生能を有する末梢神経系の研究から、再生にかかる分子メカニズムが明らかになりつつあり、その結果をもとにした中枢神経系の再生の可能性が出てきた。また最近、中枢の再生を阻止している分子群の解明が進んでいる。さらに、高齢者脳における神経幹細胞の存在も明らかになり、脳の修復・神経再生医療は、大きな変貌を遂げようとしている。本総説では、この領域における最近の知見を紹介し、今後の展望について考えてみたい。
著者
木山 博資 小西 博之 中込 咲綾
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

神経再生を促進する分子群の発現を統合的に制御している中核的転写機構が存在すると予想されていた。今までの成果から、転写因子のATF3,cJun,STAT3の関与がとりわけ重要であることが分かっていた。本研究では、神経損傷特異的に発現する遺伝子DINEのプロモーターを用いて、これらの転写因子が別の転写因子であるSp1に結合し、Sp1を介してDNAに結合していることを明らかにした。この新たな転写因子複合体は、一部の他の神経再関連分子の転写も同様に制御することから、神経再生を起動する新たな再生コア因子複合体であることが明らかになった。