著者
木村 昌司 田口 友康
雑誌
全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.53, pp.141-142, 1996-09-04

日本語の文章は仮名漢字混じり文であり,その印刷文書は仮名の書体の違いによって印象が変わると言われている.その理由は,一般に文章中に現れる仮名の割合が55~70%で,また平仮名は曲線が多く,デザインの自由度は漢字より高いことによると思われる.新たに印刷文字をデザインする時,漢字は従来からあるものを使うことにして,仮名だけをデザインすることもよく行われる.この研究では, DTP(デスクトップ,パブリシング)で使用される6種類の「仮名書体」を選び,物理量計測,すなわち文字の縦幅,横幅,黒みの面積を調くた.次に仮名書体について,40種類の形容詞を多岐選択するという形で,横組みのみ,および縦組み・横組みのサンプルを用意して心理評価の実験を行った.こうして得られた物理量計測・心理実験の2種類のデータ間の対応関係を分析した.本研究で用いたDTP用の書体は,互いに特徴が異なると思われる文章用の明朝体の平仮名6種類で,それらはフトコロ(ある文字の中で外側に面したいくつかの筆画が囲む部分)が大きい最近作成された書体a・b,明治時代に形成された書体c・d,平安・江戸時代に書かれた筆跡を基にした書体e・fである.これらの書体の一見した特徴として,古い時代に形成された書体は見かけの縦横の幅がまちまちで,それに対して新しい書体が正方形に近いデザインであることが挙げられる.なお,本研究に関連する先行研究には,漢字の書体について印象評価と物理量との関係を分析した井上・鎧沢)がある.彼らは50種類の書体について,5種類の心理要因を抽出し,各書体のうちデザイン的要素を除いた30~50%が工学的手段を用いて予測可能であることなどを示した.
著者
木村 昌司 田口 友康
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.38, no.11, pp.2209-2216, 1997-11-15

日本語の文章は仮名漢字混じり文であり,その印刷文書は仮名書体の違いによって視覚的印象が変わるといわれている.この研究では,6種類の仮名書体を選んで,その印象の変化が何と関係しているのかを分析した.始めに物理計測で縦横の幅と黒領域の面積比を計測した.次に心理実験で被験者にサンプルを提示し,その印象を40種類の形容詞を用いた選択記述法で解答させた.この両者から,全体として文字間が一定に見えるようにデザインされた時代の新しい書体が良い印象を与え,縦または横に長い,時代の古い書体が読みにくくかつ悪い印象を与えるという結果が得られた.Japanese texts are written in kanji(Chinese)and kana characters.It is said that the use of different typefaces of kana characters may result in different visual impressions in the printed texts.This paper studies the kana typefaces in Japanese typesetting in two aspects,that is,a physical measurement and a psychological experiment with the use of six typical kana typefaces.In the physical measurement,the vertical and horizontal widths as well as the density of black area were measured.In the psychological experiment,the impression of the typefaces were evaluated for texts of different styles by the method of selected description on forty adjectives.The result showed that the kana typefaces of modern time,designed in a square-like shape,gave a good impression,while those of ancient time,characterized by the shapes of unequal vertical vs.horizontal widths,gave a poor impression,as a whole.
著者
木村 昌司
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.121, 2013 (Released:2013-09-04)

共同浴場は,交流の「場」として重要な意味をもっており,毎日人が集まることにより,地域の様々な情報があつまる「情報センター」としての機能を有している(印南 2003).しかしながら,現在,日本各地の共同浴場では利用者の減少,利用者の高齢化といった問題に直面しており,地域社会で共同浴場を維持管理する意味を問われている.本研究では,地域住民を主体とした自治共同的な取り組みによる温泉資源の維持・管理体制と地域住民の温泉利用,また共同浴場を支えている地域コミュニティに着目し,長野県諏訪市における温泉共同浴場の存続要因を明らかにする. 諏訪市では豊富な湯量を生かして,一般家庭や共同浴場において,地域住民が日常的に温泉を利用できる体制が整っている.温泉共同浴場は市内各地区の64か所に存在する.その大部分は,各地区の温泉組合や区によって維持管理されており,地域住民のみが利用できる形態となっている.諏訪市の温泉供給システムをみると,源泉の利用によって2つのタイプに二分することができる.Ⅰ型は,市が管理する源泉を利用するタイプ,Ⅱ型は,地区の温泉組合が管理する源泉を利用するタイプである.I型では,市内10か所の源泉が統合され,一般家庭(2160戸),市内の共同浴場(47か所)などに供給されている.この温泉統合は,1987年に完了したものである.しかしながら,その供給は近年減少を続けており,いかに温泉離れを食い止めるかが課題となっている.諏訪市では,2012年3月から温泉事業運営検討委員会を立ち上げ,市の温泉事業のあり方について議論している. Ⅱ型では,市の統合温泉を利用せず,各地区で保有している源泉を用いて,共同浴場を運営,また各家庭に温泉を給湯している地区もある.市から温泉を購入する必要はなく,経営的にも余裕がある. 本研究では,I型の諏訪市大和区,Ⅱ型の諏訪市神宮寺区を事例に,温泉共同浴場の存続基盤を探った.I型の大和区では,諏訪市の統合温泉を利用し,区の温泉委員会によって5か所の共同浴場が維持管理されている.大和区の世帯数は1,032,人口は2,441(2012年)であり,そのうち共同浴場を利用するのは119世帯(285人)である.統合温泉を用いて,自宅に温泉を引くことも可能であり,約450世帯が自宅に引湯している.大和区では,共同浴場利用者の高齢化が進んでおり,積極的に利用しようという機運は少ない.しかしながら,自宅に温泉を引く世帯から月に500円の協力金を徴収するなどして,共同浴場の維持管理に努めている. Ⅱ型の神宮寺区では,自家源泉を保有しており,神宮寺温泉管理組合によって3か所の共同浴場が維持管理されている.隣接する4地区へも売湯していることから,経営に余裕があり,2005年~2009年にかけて3か所の共同浴場の建て替えを行った.神宮寺区の世帯数は670,人口は1,809である(2012年).共同浴場の利用者は,286世帯(689人)と多くの利用がある. 大和区,神宮寺区のいずれも,御柱祭にみられるように地域の結束力が高く,その地域基盤から共同浴場も維持,管理されている.日常から行事や会合も多く,頻繁に顔を合わせる機会は多いが,共同浴場はその一翼を担っていると考えられる.しかしながら,大和区と神宮寺区では源泉の有無の違いから,経営基盤に差があり,それにより温泉共同浴場の存続基盤も異なっていることが分かった.利用者も少なく,経営的にも苦しい大和区で,住民が協力金を支払うなどしてまでも共同浴場が維持されているのは,諏訪の伝統を重んじる地域性が背景にあるといえよう.一方,神宮寺区では源泉を保有し,経営に余裕があることから,共同浴場の施設刷新を行っている.これにより住民の温泉利用が促進され,共同浴場は持続可能な維持管理体制を実現している.