著者
赤羽 勝司 木村 貞治 宮坂 雅昭 黒沢 誠
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.C0077, 2004

【はじめに】スピードスケート競技の競技特性としては,距離に応じた体力要素と技術要素の調和が重要視される.そして体力要素の指標としては,下肢筋力や全身持久力,技術要素としては,スタート,直線,コーナーにおける上半身の姿勢や下肢のスケーティング動作技術が挙げられる.そこで,今回我々は,スピードスケート選手における競技力向上を目的とした陸上トレーニングの指標を検討することを目的として,体力要素としての下肢筋力と技術要素としての片脚保持時の重心動揺特性を解析し,興味ある知見を得たので,ここに報告する.<BR>【対象】日本スケート連盟発表の種目別年間ランキング50位以上の選手7名(男5名,女2名,以下:上位群),51位以下の選手13名(男8名,女5名,以下:下位群)を対象とした.年齢は,上位群が,16歳から18歳(平均16.9歳)で,下位群は,16歳から18歳(平均16.6歳)であった.競技経験年数の平均は,上位群が9.1年,下位群が9.8年であった.研究を行うにあたり,全ての対象者に研究の主旨を説明し,研究協力に対する承諾を得た.<BR>【方法】1)重心動揺の測定:膝伸展位での片脚立位(EP)及び膝屈曲位(スケーティング姿勢)での片脚立位(FP)を各々10秒間保持させた時の重心動揺を重心動揺計(アニマ社製,SG-1)を用いて左右2回ずつランダムに測定した.解析項目は,重心動揺の距離,実効値(RMS),面積(REC-A),集中面積(SD-A)とした.2)下肢筋力の測定:等尺性筋力測定装置(OG技研製,GT-30)を用いて,股・膝関節屈曲90度での最大等尺性膝伸展・屈曲筋力を左右2回ずつ測定した.次に,得られた値を体重で除した体重支持指数(WBI)を算出し,左右比,伸展/屈曲比を求めた.3)統計解析:SPSS(SPSS 11.0J for Windows)を用いて,上位群と下位群における重心動揺と下肢筋力の平均値の差をMann-WhitneyのU検定を用いて解析した.検定の有意水準は5%とした.<BR>【結果】1)重心動揺特性について:左側FPにおけるRMS,REC-A,SD-Aの値は,上位群が下位群よりも有意に低値を示した(p<0.01).2)下肢筋力について:膝伸展筋力及び屈曲筋力ともに,両群間で有意な差は認められなかった.<BR>【考察】スピードスケートの競技特性は,直線滑走とコーナー滑走の反復である.特にコーナー滑走では,左脚の支持性と右脚の駆動力が重要な要素となる.今回の結果において,スケーティングの模擬姿勢である左脚での片脚立位保持時の重心動揺が,下位群よりも上位群において有意に安定していたことは,コーナー滑走技術の高さが競技力に反映されている可能性があると考えられる.以上より,スピードスケート選手の競技力向上を目的とした陸上トレーニングの1つとして,スケーティングの模擬姿勢での左脚を中心とした静的片脚保持能力を高めるようなアプローチを工夫していくことが重要であると示唆された.
著者
児玉 雄二 岡田 真平 木村 貞治
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2002, pp.479, 2003

【はじめに】近年、成長期の中学生におけるスポーツ障害の報告が数多く認められる。我々が相談を受けたY中学校野球部でも、膝関節や足関節周辺のスポーツ障害が数多く認められた。また、ほとんどの選手において柔軟性の低下が認められた。そこで、本研究では、スポーツ障害の予防・改善を目的として柔軟性向上プログラムの指導を実施し、介入前後における柔軟性の変化について検討した。【対象】対象は、Y中学校野球部に所属する1年生13名、2年生3名の計16名で、調査に際しては、本人及び顧問、保護者の同意を得た。【方法】平成14年7月29日に、柔軟性の評価を行った。評価項目は、(1)ハムストリングス:体前屈、(2)腸腰筋:膝窩-床間距離、(3)大腿四頭筋:踵-臀部間距離の3種類とした。次に、これらの筋を中心に全身的な柔軟性向上プログラムを指導した。指導内容は、スタティック・ストレッチとダイナミック・ストレッチ(ブラジル体操)とし、ウォーミング・アップ時とクーリングダウン時に全員で実施するよう指導した。そして、約2ヶ月後の10月3日に柔軟性の再評価を行ない、指導前後での柔軟性の変化をt検定を用いて解析した。また、部員と監督に対し、アンケートによる意識調査を行なった。【結果】柔軟性向上プログラム施行前後での柔軟性の変化については、左右の平均で膝窩-床間距離は6.0cmから4.7cm(p<0.05)へ、体前屈は37.0cmから39.6cm(p<0.05)へ、踵-臀部間距離は10.2cmから9.6cm(p<0.05)へと、すべての項目において有意な改善が認められた。また、アンケート調査では、約7割の部員が、「身体が柔らかくなったと感じる」、「痛みが少なくなった」と回答した。【考察】介入前の評価では、膝関節,足関節周辺の慢性的な疼痛が多く認められるとともに、殆どの選手で柔軟性の低下が認められたことから、中学校野球部でのこれまでの部活動では、野球そのもののトレーニングが中心になっていて、柔軟性などの体力要素に着目した自己管理プログラムの実践が不十分であったと考えられる。また、約2ヶ月という短期間であったが、セルフケアとしての柔軟性向上プログラムの継続的な実施により、有意な柔軟性の改善が認められるとともに、アンケートの結果では、疼痛の軽減が認められた。以上より、今回指導した柔軟性向上プログラムは、柔軟性の向上に効果があるとともに、慢性的な疼痛などのスポーツ障害の軽減にも有効であったため、今後も、コンディショニングやスポーツ障害の予防・改善のための基礎プログラムとして、より多くの学校で実践してもらうよう啓発活動を継続していきたい。

1 0 0 0 OA 筋力と筋電図

著者
木村 貞治
出版者
The Society of Physical Therapy Science
雑誌
理学療法のための運動生理 (ISSN:09127100)
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.175-187, 1992 (Released:2007-03-29)
参考文献数
52
被引用文献数
6 4

筋の時間的・空間的な収縮特性は、表面筋電図学的な解析によってある程度観測することが可能である。しかし、測定から信号処理までの過程における方法論的な手続きに対する配慮が不十分であると、抽出された情報の実際的な利用価値は低いものになってしまう。そこで、本稿では、表面筋電図学的解析に関する基礎的な情報に関して整理した上で、筋収縮力、筋疲労、筋カトレーニングといった筋収縮特性と表面筋電図との関連性に関して概説する。
著者
大江 厚 木村 貞治 Ah Cheng Goh 高橋 淳
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0805, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】先行研究では,慢性腰痛患者における安静時の側腹筋群(腹横筋;TrA,内腹斜筋;IO,外腹斜筋;EO)の形態について超音波画像診断装置を使用して観察した結果,動作時の脊柱安定化に貢献するとされるTrA筋厚が,健常者に比較して低下しているという報告や,差がみられないという報告がされている。このような見解の違いには,被験者の体格差や,腰痛の重症度などの特性の違いが影響しているものと考えられる。しかしこれまでの報告では,慢性腰痛患者における安静時の側腹筋群の筋厚を体格を考慮した上で健常者と比較した報告や,腰痛の程度など重症度との関連性を検討した報告が少ないのが実情である。そこで本研究では,側腹筋群全体の筋厚に対するTrA,IO,EOの筋厚率を慢性腰痛患者と健常者とで比較するとともに,重症度など腰痛の特性との関連性についても検討することを目的とした。【方法】A病院の整形外科外来を受診した下肢症状を伴わない腰痛患者のうち,腰痛が3カ月以上続いていて,X線およびMRI画像上で器質的な変化を認めない慢性腰痛患者30名(男性14名,女性16名,平均年齢33.23±9.01歳)を腰痛群とし,体幹から下肢にかけて整形外科的疾患とその既往の無い健常者30名(男性13名,女性17名,平均年齢35.37±9.42)を対照群とした。腰痛群においては,外来理学療法初診時に,腰痛の部位,程度および能力低下の状態について,Body Chart,Visual Analog Scale(VAS),Modified Oswestry Low Back Pain Disability Questionnaire(ODQ)を使用して評価した。次に被験者全員における両側のTrA,IO,EOの筋厚を超音波画像診断装置(GE Healthcare,Cardio & Vascular Ultrasound System Vivid 7)を使用して測定した。測定肢位は膝立て背臥位とし,肋骨弓下端と腸骨稜上端の中間で中腋窩線の2.5cm前方に7MHzリニア型プローブを接触させ,Mモードにて安静呼気時における側腹筋群の画像化を行った。撮影は左右2回ずつ行ったが,左右の測定順序については乱数表を用いて無作為化した。得られた画像から,超音波画像診断装置内の計測ソフトを使用して,各筋の筋膜間の距離(mm)を計測し,2回の測定値の平均値を各筋の筋厚の代表値とした。また,被験者の体格差を標準化するために,各筋の筋厚を3筋の筋厚の合計である側腹筋厚(TrA+IO+EO)で除し,TrA筋厚率(TrA/TrA+IO+EO),IO筋厚率(IO/TrA+IO+EO),EO筋厚率(EO/TrA+IO+EO)を算出した。統計解析はSPSS ver. 18.0を用い,まず健常群内および腰痛群内において各筋の筋厚率に左右差が無いことを,対応のあるt検定で確認した上で,各群における各筋の筋厚率として左右の筋厚率の平均値を算出した。次に,健常群と腰痛群間における各筋の筋厚率の差について対応の無いt検定を行った。また腰痛群においては,各筋の筋厚率とVASおよびODIとの関連性について,ピアソンの積率相関分析を行った。なお有意水準はBonferroniの補正を行い1.67%未満とした。【結果】各筋の筋厚率の平均値と標準偏差は,健常群ではTrA:0.21±0.03,IO:0.45±0.04,EO:0.33±0.04,腰痛群では,TrA:0.19±0.03,IO:0.45±0.05,EO:0.36±0.05となった。各筋の筋厚率の群間比較の結果では,腰痛群におけるTrA筋厚率は健常群よりも有意に低い値を示し(P=0.008),腰痛群におけるEO筋厚率は,健常群よりも有意に高い値を示した(P=0.005)。相関分析の結果では,腰痛群における各筋の筋厚率とVASおよびODIとの有意な関連性は認められなかった。【考察】本研究の結果より,腰痛群は健常群に比べ安静時の側腹筋群の筋厚全体からみたTrAの筋厚率が低く,逆にEOの筋厚率が高くなるということが示された。これは,先行研究で報告されているように,慢性腰痛患者における動作時のTrAの機能低下とそれらを代償するとされるEOの過剰収縮の影響を反映した結果であると考える。また,慢性腰痛患者の各筋厚率は,VASやODIとは関連性が無かったことから,筋厚率の変化は腰痛や能力低下の程度以外の要因が影響している可能性があるものと推察された。今後は,患者の身体活動量や罹患期間,腰痛のタイプとの関連性などについて調査していきたい。【理学療法学研究としての意義】慢性腰痛患者における安静時の側腹筋群の筋厚率を明らかにすることで,より効果的な側腹筋群の筋力トレーニングを検討する際の指標となり得ると考える。また,筋厚率に影響を及ぼす要因を明らかにすることで,特定の筋の萎縮や機能低下を予防するための介入内容を検討する上での有用な情報になるものと期待される。
著者
那須 裕 楊箸 隆哉 岩月 和彦 北山 秋雄 本田 智子 坂口 けさみ 大平 雅美 堀内 美和 木村 貞治 藤原 孝之
出版者
長野県看護大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

施設入居高齢者や一人暮らし高齢者は外界との接触が減り、生活環境も画一になりがちで、また一方この人たちに継続的な刺激を与える周囲の余裕も中々持てないのが現状である。そのような高齢者のADLを維持しQOLを高めるために実施出来る可能性のあることについて検討を加え、また高齢者の運動機能及び高次脳機能を簡便に測定・評価する方法を開発するための基礎データ集積を行った。1 高次脳機能評価:予備調査として有料老人ホームにおいてADLがほぼ自立している高齢者10名に対して事象関連電位(P300)の測定を行い、平均潜時、平均振幅等の数値を得た。より多くの対象者を求め、指標としての有効性を示してゆくことが今後の課題である。2 睡眠に関する検討:若年者を対象に睡眠実験を実施した。P300及び反応時間を用いた寝起きのテスト、主観評価による寝起きのテストを行い、かつレム睡眠とノンレム睡眠との顕れ方のパターンについて検討しつつある。ここで得られた結果を施設内高齢者の快適な睡眠環境形成のために如何に役立てるかが今後の課題である。3 マッサージが筋肉の凝りに与える身体の主観的評価及び生理反応への影響:肩凝りを持つ若年者を対象にマッサージの効果について検討した。マッサージは肩凝り症状を軽減し血流を増加させることが示された。高齢者に対する効果については現在検討を継続中である。4 高齢者水中運動継続による運動機能及び高次脳機能の変化:水中運動継続が高齢者の運動機能、血圧、心拍数等に及ぼす影響につき、継続的に観察中である。