著者
吉原 克則 一林 亮 伊藤 博 坪田 貴也 濱田 聡 本多 満 奥田 優子
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.93-98, 2009-02-15 (Released:2009-09-04)
参考文献数
15

有機リン中毒治療に際し,医療者の二次被害と考えられた事例を経験した。中毒症状の強い 1 名は,先天性コリンエステラーゼ(ChE)欠損と診断され,有機リン中毒患者治療により症状を呈した特異な事例である。有機リン中毒患者の脱衣,清拭,気管挿管,胃洗浄などの初療に関係した医療者 5 名と救急室で他患者に対応していた3名に処置中から頭痛・頭重感(8/8),全身倦怠感・目の違和感(5/8),喉の痛み(3/8),四肢の脱力感・歩行障害(1/8)が2-3日, 1 名は 5 日間継続した。暴露後の採血で軽症 7 名のChEは正常であったが,直接関与していないが脱力感・歩行障害も訴えた 1 名はChE 27 IU/lで,その後も40IU/l以下であった。他の血液,生化学的検査に異常は認められず,先天性ChE欠損を疑い,簡易的遺伝子検索を実施し遺伝子変異(DNA塩基置換:G365R変異)のヘテロ接合であることを確認した。しかし,この変異単独例と比較すると表現型が異なるため,他の変異合併を疑わせた。ChE活性低下のため有機リンに対する血中での結合が低下し神経筋接合部により多くの有機リンが作用したと考えられ,正常活性では軽い症状ですむ程度の暴露量でも,先天性ChE欠損では過敏な感受性のため看過できない症状が出現したと考えられた。先天性を含め二次的にもChE活性低下は,しばしば遭遇する病態である。ChE阻害薬中毒患者治療に際しては医療者や来院患者の二次被害防止を徹底すべきである。
著者
一林 亮 鈴木 銀河 山本 咲 中道 嘉 渡辺 雅之 本多 満
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.559-563, 2020-08-31 (Released:2020-08-31)
参考文献数
17

目的:われわれは気管挿管下に人工呼吸管理を行った80歳以上の高齢者の予後に影響する因子を調査し,人工呼吸管理の是非を検討した。対象および方法:3年間で当院救命救急センターに現場から直接搬送され,気管挿管された80歳以上の患者95例を対象とした。診療録より日常生活動作,認知症の有無,APACHEⅡスコア,アルブミン値,28日間のventilator free day(VFD)などを後方視的に検討した。結果:患者95例のうち生存群55例,死亡群40例であり,多重ロジスティック回帰分析の結果,アルブミン値がオッズ比2.28869 で生存および28日間VFDに影響していた。結論:高齢者治療において人工呼吸管理をする場合,血中アルブミン値も参考に各施設でリスク・予後を評価する必要があると考えられる。
著者
本多 満正 田邉 康夫 村石 幸正 小松 寛 前田 香織 山岡 寛人
出版者
日本教科教育学会
雑誌
日本教科教育学会誌 (ISSN:02880334)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.37-42, 2005-12-01 (Released:2018-05-08)

中学校理科の学習項目である「電磁誘導」と技術・家庭科の電気領域の学習項目である「エネルギー伝送」と「交流」について視覚をともなって学習する教材を開発し,実験授業でその学習効果を調べた。開発した教材は,豆電球2個を抵抗値の大きいニクロム線で並列に接続した回路に交流を流す実験,そのニクロム線部分の前後に昇圧用・降圧用の変圧器を組み込んだ回路に交流と直流を流す実験,および電磁誘導の実験から構成される。変圧器によって高電圧・低電流で送電した場合には電圧降下が少なく,豆電球2個の明るさの違いが目立たない。変圧器の有無によって,明るさが違うことから変圧器の働きを理解する。変圧器に直流を流し豆電球が点灯しないことから変圧器の仕組みと交流の作用を学習する。本教材による実験授業の結果,送電における変圧器の働きと仕組みに関する認識の定着が向上することが明らかとなった。
著者
本多 満 一林 亮 鈴木 銀河 杉山 邦男 坂元 美重 奥寺 敬
出版者
一般社団法人 日本神経救急学会
雑誌
Journal of Japan Society of Neurological Emergencies & Critical Care (ISSN:24330485)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.27-32, 2019-08-23 (Released:2019-08-24)
参考文献数
7

〔背景〕神経救急・集中治療におけるモニタリングである脳波を,時間外あるいは休日に意識障害患者が来院しても医師あるいは看護師により容易に施行することを可能とする簡易的脳波測定デバイスの開発を,2013年より日本臨床救急医学会ACEC委員会と日本光電社との共同研究により開始した。〔経過および現況〕開発に際して,ERにおける意識障害患者に対して脳波測定に不慣れな医療従事者においても簡単かつ迅速に脳波測定ができることを目標とした。これらをみたすデバイスを作製して脳波データをBluetoothⓇでモニターに電送してモニタリングすることが可能となった。〔今後の展望〕現在当施設において完成機が導入されているが,脳波の評価の難しさなどにより脳波に不慣れな医療従事者が十分使いこなしている状況ではない。しかし,このデバイスを用いて脳波測定中に脳波室に院内LANを用いて遠隔監視できるシステムを構築して問題点に対する対応を行っている。
著者
一林 亮 本多 満 鈴木 銀河 渡辺 雅之 野口 晃司 豊田 幸樹年 田巻 一義 籾山 浩一 原 規子 吉原 克則
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.593-601, 2019-08-31 (Released:2019-08-31)
参考文献数
14

目的:東京オリンピック・パラリンピック競技大会(以下,東京2020)に向けて,東京国際空港の利用客数の増加とともに,救急対応の質が求められる。われわれは空港における救急需要増加に対する方策を検討した。対象と方法:2014〜2015年にかけての空港からの搬送者を対象として東京消防庁の救急隊記録から,活動内容の解析を行った。結果:救急隊活動時間と空港内での活動時間を比較すると到着-接触時間,収容-出発時間が長く,国際線における収容-出発時間が延長し,2015年で17分を要した。考案:救急隊活動時間延長には救急医療体制に問題があると考えられる。到着-接触時間延長は空港の導線に問題があり,その間にfirst responderとしての職員の教育や空港内救急救命士などの介入が有用と考える。結語:東京2020に向けて救急活動における共通の課題として空港周辺医療施設,空港関係者で情報共有や対策作成が必要である。