著者
杉下 由行 前田 秀雄 森 亨
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.52, no.12, pp.1045-1049, 2005 (Released:2014-08-06)
参考文献数
7

目的 日本では,管針を用いた経皮接種により BCG 接種が行われている。本調査の目的は BCG 接種による針痕数が接種医によって異なるか否かを検証することである。対象と方法 東京都葛飾区の 3 歳児健診に来所した218人に調査を行った。対象者全員が葛飾区の保健所で生後 4 か月時に管針法による BCG 接種を受けている。管針法では最大18個の針痕を確認する事ができる。BCG 接種による針痕数の調査を行い,接種医別にその個数をまとめた。結果 平均針痕数は9.23個(SD6.11)であった。同じ管針法で行われた特別区22区の平均針痕数(12.18±5.64)より有意に低く(P<0.01),22区の中で 3 番目に低い結果であった。平成12年結核緊急実態調査での全国の針痕数の調査結果と比較しても,葛飾区の平均針痕数は有意に低かった(P<0.05)。葛飾区では 7 人の接種医の間で平均針痕数は明らかな違いを認めた。良好な接種医上位 2 人の平均針痕数はそれぞれ15.26個(SD3.62)と14.59個(SD3.58)で 7 人の接種医の平均針痕数より有意に高く(P<0.01),良好でない接種医 1 名の平均針痕数は,3.34個(SD4.46)で 7 人の接種医の平均針痕数より有意に低かった(P<0.01)。結論 接種医により平均針痕数は有意な違いを認めた。針痕の個数が少ないのは特定の接種医の技術に問題があるためで,接種技術水準向上のためには,これらの接種医に対する技術訓練が必要であると考えられた。
著者
灘岡 陽子 早田 紀子 杉下 由行 梶原 聡子 渡部 ゆう 吉田 道彦 長谷川 道弥 林 志直 大地 まさ代 甲斐 明美 住友 眞佐美
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.136-144, 2014 (Released:2014-04-16)
参考文献数
20

目的 本報告の目的は,東京都における2011年の麻しんの流行状況を把握し,麻しん排除に向けて,今後の対策へ反映させることである。方法 感染症発生動向調査事業によって2011年に都内で報告された麻しん患者の発生届と麻しん調査票の内容を対象とした。年齢階級別,遺伝子型別,ワクチン接種歴別の発生状況,発生届の取り下げ状況,遺伝子検査結果別の IgM 抗体検査結果と検体採取日の関係等について分析を行った。結果 2011年の麻しん患者報告数は178件で,13週から24週にかけて一つのピークを形成し,この期間に128件(71.9%)の報告が集中していた。1~4 歳が40件(22.5%)で最大で,20歳代と30歳代がそれぞれ34件(19.1%)であった。麻しん患者が 2 人以上発生した施設数は 6 か所,1 事例の患者数は 4 人以下にとどまり,散発例がほとんどであった。1~4 歳の年齢層を除くすべての年齢層で,接種歴が無いか不明が過半数を占めた。PCR 遺伝子検査で検出された麻しんウイルスの遺伝子型は主に D4 型,D9 型で,2008年まで国内流行株の中心だった,いわゆる土着株である D5 型ウイルスはみられなかった。結論 2011年の麻しんの流行は,海外から持ち込まれたウイルス株によるものであった。2007年,2008年のような大流行に至らなかったのは,発生後の関係機関の対応が迅速かつ適切になったことと感受性者が減少したことが影響していると思われる。麻しん排除に向けて,引き続き麻しんワクチン接種率の向上に努めること,麻しん疑い患者に確実に遺伝子検査を実施し,的確なサーベイランスを実施することが重要と考えられた。
著者
杉下 由行 林 邦彦 森 亨 堀口 逸子 丸井 英二
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.86, no.2, pp.127-133, 2012-03-20 (Released:2013-04-12)
参考文献数
16

【目的】我が国では,結核予防対策の一環として BCG 接種が実施されている.これは他の予防接種と同様に市町村単位で実施され,その接種体制は各自治体で異なっている.本研究の目的は,BCG 接種体制の違いによるBCG 接種率への影響を明らかにすることである.【対象と方法】対象地域は東京都多摩地区の30 市町村とした.市町村の BCG 接種体制を5 つのグループに分類し,生後6 カ月に達するまでの BCG 累積接種率をグループ間で比較した.解析は,従属変数を生後6 カ月に達するまでの BCG 接種の有無,独立変数をBCG 接種体制とし,BCG 接種体制以外の BCG 接種に関係すると考えられる市町村特性を共変量として独立変数に加え,多変量ロジスティック回帰分析を行った.因子評価はオッズ比を用い 95% 信頼区間で検定した.【結果】調整オッズ比から,5 つのグループにおいて,乳児健診併用で毎月実施の集団接種を基準とした場合,BCG 未接種者の人数は,単独(乳児健診非併用)で毎月実施の集団接種 (adj. OR : 4.01 CI : 2.24~7.11),単独で隔月実施の集団接種 (adj. OR : 15.59 CI : 10.10~24.49),個別接種 (adj. OR : 15.61 CI : 9.05~27.26),単独で隔月未満実施の集団接種 (adj. OR : 48.17 CI : 29.62~79.75) の順に多くなる傾向にあった.【結論】BCG 接種体制が BCG 累積接種率に影響していた.集団接種での乳児健診併用や高い実施頻度の確保が BCG 接種率向上に役立つと考えられた.