著者
林 邦彦
出版者
尚美学園大学芸術情報学部
雑誌
尚美学園大学芸術情報研究 = Journal of informatics for arts, Shobi University (ISSN:18825370)
巻号頁・発行日
no.32, pp.55-74, 2020-03

アーサー王伝説に題材を取ったアイスランド語による文学作品としては、アーサー王妃との不倫などのエピソードで知られる騎士ランスロット(ランスロ)を主人公とした作品は少なくとも現存はしない。一方、アイスランドで独自に物語が作られたと考えられ、複数のアイスランド語作品におけるアーサー王の名前の表記と同じアルトゥース(Artus)という名のイングランド王が登場する『美丈夫サムソンのサガ』と呼ばれる作品は、ランスロットを主人公とした大陸の作品との間で複数のモチーフの共通が指摘されているが、一般にはアイスランド独自のアーサー王文学作品とは認識されない傾向にあり、本作を扱った先行研究も少ない。そこで、本稿では『美丈夫サムソンのサガ』について、先行研究で指摘されているアーサー王物語のモチーフの大半が位置する作品前半部に焦点を当て、本作前半部の物語全体としての構造とその特徴について考察し、本作をアイスランドで独自に著されたアーサー王文学作品として位置づけることを試みたい。Erec et Enide, Yvain, and Perceval, all of which are Arthurian works by Chrétien de Troyes, who is also the author of Lancelot, are said to have been translated into Norwegian, but are now preserved exclusively in the Icelandic manuscripts, but any Northern European reduction of the so-called Lancelot romance is handed down till this day. On the other hand, the work called Samsons saga fagra, whose protagonist Samson is the son of the king "Artus" of England, is usually not regarded as an Icelandic original Arthurian romance in spite of many motifs, whose close relationship with a continental Lancelot romance is pointed out, and the work has not yet been well investigated. In this article, after glancing over the synopsis of the work Samsons saga fagra and mentioning the motifs in the saga whose Arthurian origins have been pointed out, the structure of the first half of the plot will be investigated, then this article attempts to position the saga as an Icelandic original Arthurian romance in the history of the Arthurian literature.
著者
中塚 武 木村 勝彦 箱崎 真隆 佐野 雅規 藤尾 慎一郎 小林 謙一 若林 邦彦
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2017-05-31

全国の埋蔵文化財調査機関と協力して、年輪酸素同位体比の標準年輪曲線の時空間的な拡張と気候変動の精密復元を行いながら、酸素同位体比年輪年代法による大量の出土材の年輪年代測定を進め、考古学の年代観の基本である土器編年に暦年代を導入して、気候変動との関係を中心に日本の先史時代像全体の再検討を行った。併せて、年輪酸素同位体比の標準年輪曲線(マスタ―クロノロジー)を国際的な学術データベースに公開すると共に、官民の関係者への酸素同位体比年輪年代法の技術一式の移転に取り組んだ。
著者
林 邦彦
出版者
中央大学人文科学研究所
雑誌
人文研紀要 (ISSN:02873877)
巻号頁・発行日
no.90, pp.261-288, 2018

フェロー諸島においてフェロー語で伝承されているバラッドの中に,アーサー王伝説等を題材にしたと考えられる作品Ívint Herintsson(『ヘリントの息子ウィヴィント』)がある。この作品の物語には,中世のアイスランドで著されたサガ(saga)と呼ばれる散文の書物の一つで,アーサー王伝説に題材を取った作品Ívens saga(『イーヴェンのサガ』)の物語の影響が色濃く見られるが,このバラッドの物語中,Ívens saga とは相違が見られる箇所の中に,グラスゴーの司教Kentigern(ケンティゲルン)を扱った聖人伝Vita Kentigerni(『聖ケンティゲルン伝』)のHerbert(ハーバート)版の内容と類似が見られる箇所が存在する。本稿ではフェロー語バラッドÍvint Herintsson の物語とHerbert 版Vita Kentigerniの内容の類似点と相違点,および関連他作品との関係のありよう等を手掛かりに,上記フェロー語作品の物語とHerbert 版Vita Kentigerni の内容との関連性の有無を明らかにすることを試みる。
著者
林 邦彦
出版者
中央大学人文科学研究所
雑誌
人文研紀要 (ISSN:02873877)
巻号頁・発行日
no.81, pp.115-139, 2015

フェロー語によって今日まで伝承されている多数のバラッドの中に,Ívint Herintsson と呼ばれる,アーサー王伝説に題材を取ったと考えられる作品がある。この作品は18世紀後半から19世紀半ばにかけて,一般にA,B,C と呼ばれる3 つのヴァージョンが採録されており,これらはいずれも複数のバラッドから構成されるバラッド・サイクルである。本作品の先行研究ではしばしば物語の素材に焦点が当てられたが,本稿ではこの作品の3 ヴァージョン間の異同に着目し,個々のヴァージョンの形が生成・伝承された過程を浮き彫りにすることを目指し,バラッド・サイクルとしての本作品を構成する複数のバラッドのうち,まずはKvikilsprang と題されたバラッドに対象を絞り,Kvikilsprang の3 ヴァージョン間の比較を行い, 3 ヴァージョン間で見られた主な異同箇所について,Kvikilsprang と同じ題材を扱ったノルウェー語バラッドKvikkjesprakkの該当箇所とも比較を行う。
著者
寺川 直樹 原田 省 板持 広明 谷口 文紀 林 邦彦 小林 浩 百枝 幹雄
出版者
鳥取大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

世界初の前方視的研究「本邦における子宮内膜症の癌化の頻度と予防に関する疫学研究」を企画した。全国の医療施設から約2, 000名の子宮内膜症患者の登録を得て、患者データを解析した。登録患者からの癌発生は7例報告されており、患者登録および解析を継続している。分子生物学的研究としては、卵巣チョコレート嚢胞と卵巣明細胞腺癌組織から上皮細胞群を捕捉したのちに、網羅的遺伝子発現の検討を行い発癌に関与する遺伝子群を検索した。線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)-2遺伝子の卵巣癌組織での発現増強に注目して機能解析を行った。
著者
林 邦彦
出版者
中央大学人文科学研究所
雑誌
人文研紀要 (ISSN:02873877)
巻号頁・発行日
no.93, pp.213-238, 2019

13世紀のノルウェーでフランス語原典からノルウェー語に翻案された後,さらにそれがアイスランド語に翻案されたと考えられている,アーサー王伝説を扱ったサガ作品群のうち,身に着ける女性の不貞に応じて極端に伸び縮みするマントを扱った『マントのサガ』(Möttuls saga)と呼ばれる作品は,フランス語作品『短いマントの短詩』(Le Lai du Cort Mantel)がノルウェー語への翻案を経てアイスランド語に翻案されたものと考えられているが,この『マントのサガ』を基にして,恐らくは15世紀にアイスランドで成立したと考えられている『マントのリームル』(Skikkjurímur)と呼ばれる物語詩は,基本的な物語内容は『マントのサガ』を踏襲しているが,『マントのサガ』と比較すると,作品中,次々と不貞が明らかとなる女性やその相手と思しき男性に対するアーサー王の態度,およびアーサー王と臣下の騎士達との関係の描き方に大きな改変が施されていることがわかる。
著者
林 邦彦
出版者
中央大学人文科学研究所
雑誌
人文研紀要 (ISSN:02873877)
巻号頁・発行日
no.96, pp.207-234, 2020

ノーン語(Norn)とは, 8 世紀から9 世紀にかけて,ブリテン島北部やその近辺の諸島に植民したノルウェー人ヴァイキングが当地にもたらした,その使用言語である古ノルド語(Old Norse)に由来する言語で,特にオークニー,シェットランド両諸島では比較的長く用いられ,19世紀末に消滅したとされる。その消滅前に採録されたノーン語の言語資料の一つに,通例,Hildinaとの作品名で呼ばれるバラッドがあり,その物語内容は,主人公の女性Hildinaと彼女を取り巻く二人の男達をめぐる三角関係を扱ったものであるが,本稿では,Hildinaの物語素材をめぐる先行研究での指摘内容を整理した上で,Hildinaの物語の特徴に焦点を当て,ノーン語と近縁関係にあるフェロー語で伝承されているバラッド作品群のうち,ノーン語のHildinaと比較的類似した物語内容を持つ作品と比較しながら,Hildinaの物語の特徴をより浮き彫りにし,関連作品群の中に位置づけることを目指したい。
著者
林 邦彦
雑誌
人文研紀要 (ISSN:02873877)
巻号頁・発行日
no.75, pp.309-334, 2013-10-10

14世紀にアイスランドで著されたとされるJarlmanns saga ok Hermanns はアイスランド独自の騎士のサガに含まれ,大きく分けて,本稿ではA ヴァージョン,B ヴァージョンと呼ぶ二種類の内容のものが伝承されている。この作品の内容について,先行研究では伝統的なトリスタン物語を踏襲したTristrams saga ok Ísondar および,アイスランド独自の騎士のサガKonráðs saga keisarasonar との関係が指摘されてきたが,その大半はB ヴァージョンのみを扱ったもので,AB 両ヴァージョンを扱ったものにも,その扱い方に問題が残っている。そこで本稿では特に主要登場人物の人物像について,本作品のAB 両ヴァージョンを比較して相違点を明らかにし,さらに本作品の内容を,伝統的なトリスタン物語の改作で,同じく14世紀に著されたとされるSaga af Tristram ok Ísodd と比較し,内容的にどのような関係にあるかを考察し,これらの作品が生み出された背景を考える。
著者
斉田 智里 小林 邦彦 野口 裕之
出版者
茨城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

英語教育の効果を測定・評価するために、項目応答理論(IRT)と構造方程式モデリング(SEM)の使用が有用であることを実証的に示すことができた。IRTを用いた大規模テストで高校生や大学生の英語力を測定し、英語力の大きさや変化の要因をSEMを用いて検討した。その結果,学習指導要領の変遷や入試科目の変更、大学英語教育カリキュラムの変更が、高校生や大学生の英語力に大きな影響を及ぼしていることが示された。言語プログラムにおける教育評価情報の収集・分析・評価のシステムを構築した。
著者
岩田 久敬 小林 邦彦 中谷 哲郎 林田 卓也 泉 清
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
栄養と食糧 (ISSN:18838863)
巻号頁・発行日
vol.10, no.4, pp.172-175, 1958 (Released:2010-02-22)
参考文献数
8

1. 小麦胚芽は生でも炒つたものでも, 還元型グルタチオン (G) 約100mg%と, 総G約250mg%を含んでいた。これを37℃で16日間貯えた場合に生胚芽では還元型G 40%以上を損失したが, 炒つたものでは少く, 20%以下を損失するに過ぎなかつた。これを更に30℃で80日間貯えた場合にGの損失は多かつた。然し炒つたものでは常に損失がやや少かつた。2. 小麦胚芽の炒つたものを約2年間室温に貯えた場合の損失は, 還元型Gは約93%で, 総Gは約68%であつた。3. 米胚芽は還元型G 40mg%, 全G 150mg%余を含んでいた。大麦胚芽は前者を20mg%, 後者を40mg%位含んでいた。そして貯蔵中の還元型Gの損失は大麦胚芽の方が少かつたが, 総Gの損失は両胚芽共に少かつた。4. 小麦粉のGは強力粉・普通粉・新鮮粉・未漂白粉に多くて, 還元型G約7mg%, 総G約30mg%であつた。その他の粉は前者3mg%, 後者20mg%位であつたが, 多くの場合に貯蔵した粉はこの値をほぼ最低値として保つていた。5. 一般に還元型Gは貯蔵中に速かに減少し, 総Gは減少がおくれ, 小麦粉の場合には数ヵ月間不変のこともあつた。
著者
加藤 千津子 嶋田 淳子 林 邦彦
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.62, no.9, pp.548-555, 2015 (Released:2015-11-25)
参考文献数
24
被引用文献数
1

目的 総合病院に勤務する看護職の眠気の実態を調査し,職業性ストレス簡易調査票を用い眠気に関連する要因を検討する。方法 北海道の 5 つの総合病院に勤務する看護職1,997人を対象に,自記式調査票による横断調査を実施した。調査票は 1)属性,勤務状況および睡眠状況調査票,2)Japanese version of the Epworth Sleepiness Scale(JESS),3)職業性ストレス簡易調査票を用いた。回答調査票が返送された926人のうち,調査項目に欠損値のない有効回答例837人(平均年齢±標準偏差36.0±10.1歳)を解析対象とした。 統計解析は JMP8.02を用い,有意水準は 5%とした。結果 837人の JESS の合計得点の平均値±標準偏差は10.9±4.3点であり,21~29歳は11.7±4.3点で30~39歳および50~59歳より有意に高い結果であった(P=0.021, P=0.006)。看護職経験年数においては,5 年未満は 5 年以上より有意に高く(P=0.002),交代勤務経験年数は有意差がなかった。JESS の合計得点が11点以上の日中の過度な眠気(Excessive Daytime Sleepiness:EDS)の有症割合は52.0%の高値であった。EDS の有無で職業性ストレス調査の得点を比較したところ,ストレス要因の心理的な仕事の質的負担,仕事のコントロール度,仕事の適性度,働きがい,ストレス反応の全項目(活気,イライラ感,疲労感,不安感,抑うつ感,身体愁訴),修飾要因の仕事や生活の満足度で,有意な差がみられた。EDS 有症との関連を検討した多重ロジスティック回帰分析では,職業性ストレス調査のストレス反応の疲労感,ストレス要因の職場環境によるストレスに有意な関連があった。結論 看護職の眠気は強く,EDS の有症割合が52%と高く,とくに30歳未満の若年者,看護職経験年数が 5 年未満の看護職で JESS スコアが高いことが示唆された。職業性ストレスの関連では,ストレス反応の疲労感が有意に高く EDS との関連が示され,医療の安全上重要な問題であり,憂慮すべき状況であることが示唆された。
著者
杉下 由行 林 邦彦 森 亨 堀口 逸子 丸井 英二
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.86, no.2, pp.127-133, 2012-03-20 (Released:2013-04-12)
参考文献数
16

【目的】我が国では,結核予防対策の一環として BCG 接種が実施されている.これは他の予防接種と同様に市町村単位で実施され,その接種体制は各自治体で異なっている.本研究の目的は,BCG 接種体制の違いによるBCG 接種率への影響を明らかにすることである.【対象と方法】対象地域は東京都多摩地区の30 市町村とした.市町村の BCG 接種体制を5 つのグループに分類し,生後6 カ月に達するまでの BCG 累積接種率をグループ間で比較した.解析は,従属変数を生後6 カ月に達するまでの BCG 接種の有無,独立変数をBCG 接種体制とし,BCG 接種体制以外の BCG 接種に関係すると考えられる市町村特性を共変量として独立変数に加え,多変量ロジスティック回帰分析を行った.因子評価はオッズ比を用い 95% 信頼区間で検定した.【結果】調整オッズ比から,5 つのグループにおいて,乳児健診併用で毎月実施の集団接種を基準とした場合,BCG 未接種者の人数は,単独(乳児健診非併用)で毎月実施の集団接種 (adj. OR : 4.01 CI : 2.24~7.11),単独で隔月実施の集団接種 (adj. OR : 15.59 CI : 10.10~24.49),個別接種 (adj. OR : 15.61 CI : 9.05~27.26),単独で隔月未満実施の集団接種 (adj. OR : 48.17 CI : 29.62~79.75) の順に多くなる傾向にあった.【結論】BCG 接種体制が BCG 累積接種率に影響していた.集団接種での乳児健診併用や高い実施頻度の確保が BCG 接種率向上に役立つと考えられた.
著者
林 邦彦
出版者
中央大学人文科学研究所
雑誌
人文研紀要 (ISSN:02873877)
巻号頁・発行日
vol.96, pp.207-234, 2020-09-30

ノーン語(Norn)とは, 8 世紀から9 世紀にかけて,ブリテン島北部やその近辺の諸島に植民したノルウェー人ヴァイキングが当地にもたらした,その使用言語である古ノルド語(Old Norse)に由来する言語で,特にオークニー,シェットランド両諸島では比較的長く用いられ,19世紀末に消滅したとされる。その消滅前に採録されたノーン語の言語資料の一つに,通例,Hildinaとの作品名で呼ばれるバラッドがあり,その物語内容は,主人公の女性Hildinaと彼女を取り巻く二人の男達をめぐる三角関係を扱ったものであるが,本稿では,Hildinaの物語素材をめぐる先行研究での指摘内容を整理した上で,Hildinaの物語の特徴に焦点を当て,ノーン語と近縁関係にあるフェロー語で伝承されているバラッド作品群のうち,ノーン語のHildinaと比較的類似した物語内容を持つ作品と比較しながら,Hildinaの物語の特徴をより浮き彫りにし,関連作品群の中に位置づけることを目指したい。
著者
山本 則子 石垣 和子 国吉 緑 川原(前川) 宣子 長谷川 喜代美 林 邦彦 杉下 知子
出版者
Japanese Society of Public Health
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.49, no.7, pp.660-671, 2002-07-15
参考文献数
23
被引用文献数
10

<b>目的</b> 「介護に関する肯定的認識」が,介護者の心身の生活の質(QOL)や生きがい感および介護継続意思に与える影響を,続柄毎に検討することを目的とした。<br/><b>方法</b> 東京・神奈川・静岡・三重・沖縄の全21機関において訪問看護を利用している322人の高齢者の家族介護者に質問紙調査を実施した。介護負担感が続柄により異なるという過去の報告に鑑み,分析は続柄別に行った。分析には QOL,生きがい感,介護継続意思を従属変数に,属性および介護に関する肯定的認識・否定的認識を独立変数とした重回帰分析およびロジスティック回帰分析を用いた。<br/><b>結果</b> 1) 身体的 QOL に「肯定的認識」は関連しない。<br/> 2) 心理的 QOL と「肯定的認識」の関連は続柄により異なる。介護者が夫および息子の場合は「肯定的認識」のみが,妻の場合は「肯定的認識」,「否定的認識」の両者が心理的 QOL に関連する。娘の場合は「否定的認識」のみが心理的 QOL に関連する。嫁の場合はどちらも心理的 QOL に関連しない。<br/> 3) いずれの続柄でも生きがい感には「肯定的認識」が強く関連する。夫および息子では「否定的認識」は生きがい感に関連しない。<br/> 4) 介護継続意思には,夫および息子では「肯定的認識」,「否定的認識」の双方が関連するが,妻・嫁では「肯定的認識」のみが関連する。娘では「否定的認識」が介護継続意思に関連する。しかし,続柄別の違いはわずかと思われる。<br/><b>結論</b> 介護者の心理的 QOL や生きがい感を高める支援を考えるため,介護の継続を予測するためには,介護の肯定的認識を把握することが重要と考えられる。介護の肯定的認識の影響は続柄別に異なるため,支援に際しては続柄別に検討を行うことが必要である。
著者
林 邦彦
出版者
一般社団法人 レギュラトリーサイエンス学会
雑誌
レギュラトリーサイエンス学会誌 (ISSN:21857113)
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.197-203, 2017 (Released:2017-09-30)
参考文献数
12
被引用文献数
2

従来から, 治療法の評価では, ランダム化比較試験 (RCT) が最も適切な研究デザインとして用いられてきた. しかしながら, 難病, 希少疾患, 医療機器, 手術などの領域では, 疾患の重篤性や対象患者数の限界のために, 通常のRCTによる治療法開発が困難なことが多い. また, すでに社会で広く使用されている治療法についてRCTを実施すると, 研究対象集団が偏り, 結果の一般化が困難な外的妥当性に劣る研究となってしまうこともある. そこで, RCTの反対命題として, リアルワールドデータを用いた研究の重要性が再認識されている. 治療法開発においてリアルワールドデータの特徴と利用の注意点とともに, RCTとリアルワールドデータ研究との統合命題的な新たな研究デザインについても述べる.
著者
若林 邦彦
出版者
一般社団法人 日本考古学協会
雑誌
日本考古学 (ISSN:13408488)
巻号頁・発行日
vol.8, no.12, pp.35-54, 2001

弥生時代中~後期の大規模集落については,拠点集落・城砦集落・都市など様々な名称が与えられてきた。特に,大阪府池上曽根遺跡の調査成果を初端とした弥生都市論は注目を集めている。本稿では,大規模集落の実態を分析し,複雑化した集落遺跡に関する新たな位置づけを試みた。<BR>分析対象地域としては,大阪平野中部を取り上げ,このうち弥生時代中期に連続的に集落遺跡が形成される,河内湖南岸遺跡群,平野川・長瀬川流域遺跡群・河内湖東岸遺跡群の3領域について,各時期の居住域・墓域の平面分布の変化を検討した。その結果,大規模集落・拠点集落と言われてきた領域では,径100~200m程度の平面規模の居住域に方形周溝墓群が付随した構造が複数近接存在し,小規模集落といわれていた部分はそのセットの粗分布域と認識できた。<BR>この居住域は竪穴住居・建物が20~50棟程度の規模と推測され,単位集団・世帯共同体論で想定された集団の数倍以上となる。本稿では,これを「基礎集団」と仮称した。基礎集団は,小児棺を含む複数埋葬という家族墓的属性をもつ方形周溝墓群形成の母体と推定されることから,血縁関係を結合原理としていたと考えられる。また,この集団は水田域形成の基盤ともみられる。本稿では,基礎集団を,集落占地・耕作・利害調整上の重要な機能を果たす人間集団と位置づけた。<BR>基礎集団概念にもとづけば大規模集落はその複合体と考えられ,近畿地方平野部において環濠と呼ばれている大溝群も集落全体を囲むものとは考えられない。また,大規模集落内では,近接する基礎集団間関係が複雑化し,それが方形周溝墓群内外にみられる不均等傾向をもたらしたと考えられる。さらに,池上曽根遺跡における既往の分析によれば,近接する各基礎集団間には一定程度の機能分化傾向も読み取れ,大規模集落内外に基礎集団相互の経済的依存関係が醸成されていたことが注目される。また,同様の特徴は西日本における他地域の大規模集落にも認められる。<BR>以上の特徴を前提とすれば,大規模集落に対し,経済的外部依存率の低い自給的農村としての城砦集落と定義するのは難しい。また,基礎集団が血縁集団的性格をもつことは,都市と定義づけるにはそぐわない居住原理の内在を大規模集落に想定せざるを得ない。このことから,本稿では弥生時代の大規模集落を農村でも都市でもない「複合型集落」という概念でとらえ,社会複雑化のプロセスを考察することを提案する。
著者
林 邦彦
出版者
中央大学人文科学研究所
雑誌
人文研紀要 (ISSN:02873877)
巻号頁・発行日
no.81, pp.115-139, 2015

フェロー語によって今日まで伝承されている多数のバラッドの中に,Ívint Herintsson と呼ばれる,アーサー王伝説に題材を取ったと考えられる作品がある。この作品は18世紀後半から19世紀半ばにかけて,一般にA,B,C と呼ばれる3 つのヴァージョンが採録されており,これらはいずれも複数のバラッドから構成されるバラッド・サイクルである。本作品の先行研究ではしばしば物語の素材に焦点が当てられたが,本稿ではこの作品の3 ヴァージョン間の異同に着目し,個々のヴァージョンの形が生成・伝承された過程を浮き彫りにすることを目指し,バラッド・サイクルとしての本作品を構成する複数のバラッドのうち,まずはKvikilsprang と題されたバラッドに対象を絞り,Kvikilsprang の3 ヴァージョン間の比較を行い, 3 ヴァージョン間で見られた主な異同箇所について,Kvikilsprang と同じ題材を扱ったノルウェー語バラッドKvikkjesprakkの該当箇所とも比較を行う。