著者
村井 佳比子
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.215-224, 2016-05-31 (Released:2019-04-27)
参考文献数
23

本稿の目的は反応の変動性を低下させる場面での自己選択反応やそれ以外の選択可能な反応の提示が反応の変動性に及ぼす影響を検討することであった。対象者は大学生118名であった。対象者をそれぞれ対照群とS群(自己選択反応提示群)、E群(自己選択反応以外提示群)、A群(選択可能な全反応提示群)、O群(自己選択反応とそれ以外の一つの反応提示群)、N群(反応提示なし群)にランダムに分けた。対照群以外には反応の変動性を低下させるゲームを3回実施し、ゲームが1回終了するごとにN群以外に反応の提示を行った。その後、変動性が高いと高得点が得られる変動性測定用ゲームを実施した。その結果、S群、E群、A群には対照群と同様の高い変動性がみられたが、O群とN群は対照群よりも変動性が低くなった。臨床場面においてはクライエント自身の選択反応と選択していない反応が明確にわかる反応提示が、行動変動性を低下させないことが示唆された。
著者
村井 佳比子
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.23-32, 2014-01-31 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
2

本稿の目的は、選択教示の有効性を実証的に検討するため、異なった教示に対する強化履歴が行動変動性に及ぼす効果の差を比較することであった。対象者は大学生53名であった。GHQ(General Health Questionnaire)得点の高低によって低群と高群に分け、それぞれを他者教示群、自己教示群、選択教示群、対照群にランダムに分けた。対照群以外には各教示に従う反応を強化し、その後、変動的な反応を強化した。その結果、GHQ低群ではどの教示群にも対照群との間に差はなかったが、GHQ高群の他者教示群と自己教示群では差が認められた。精神健康上の問題の少ない人は教示の影響で変動性が低下することはなく、一方、精神健康上の問題が多い人は教示の影響で変動性が低下する可能性があることがわかった。しかし、選択教示であれば変動性は低下しなかった。臨床場面で選択教示を使用することの有効性が示唆された。
著者
伏島 あゆみ 内山 伊知郎 原井 宏明 大矢 幸弘 漆原 宏次 坂上 貴之 村井 佳比子
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
日本心理学会大会発表論文集 日本心理学会第85回大会 (ISSN:24337609)
巻号頁・発行日
pp.SS-001, 2021 (Released:2022-03-30)

古典的条件づけの発見が学習理論と行動療法に与えた影響の大きさは繰り返すまでもない。一方,古典に過ぎず,その影響は認知心理学などの新たな発見に置き換えられたと思っている人がいるかもしれない。そうではない。不安や強迫,アレルギーのようにありふれた病気の治療においても条件づけの概念は新しい示唆を与えてくれている。このシンポジウムではアレルギー疾患の専門家,不安や強迫の専門家,学習理論の専門家を招き,行動科学学会のミッションである基礎と臨床をつなぐことを目指す。アレルギーの予防や克服にはアレルゲンを回避するのではなく,早くからエクスポージャー(食べること)を通じて免疫寛容を誘導した方が良い(潜在制止)や,強迫に対するエクスポージャーと儀式妨害(ERP)において一般的な不安階層表に従った段階的な刺激ではなく,期待違反効果を狙った予想外の刺激を使う方が効果が高いことなどを示す。パブロフが残した影響は条件づけだけではない。ドグマに毒されず,事実だけを重視することを若手に説き続け,科学者をスターリンから守ろうとした。科学することはどういうことなのか? もこのシンポジウムの中で取り上げれれば幸いである。
著者
松本 啓子 村井 佳比子 眞邉 一近
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.2-18, 2014-07-30 (Released:2017-06-28)

研究の目的 美容師用集団SSTによって必要な社会的スキルを獲得することで、指名客数が増加するかどうかを検討するとともに、より効果的なSSTにするための要素を明らかにすることを目的とした。実験1 美容師20名を対象に、独立変数:美容師用集団SSTの各スキルトレーニング(笑顔・声・傾聴・雑談・説明)、従属変数:観察者による各スキル評定得点、実験デザイン:集団間多重ベースラインデザインによって検討した。また、SSTを実施することで指名客数が増加するかを調べた。その結果、SSTによって笑顔・声スキルの評定得点が上昇すること、傾聴スキルの評定得点の上昇率と指名客数の上昇率に関連があることがわかった。また、スキル評定得点の上昇率と業務時間中の接客行動自己記録票への記入率に関連があることが示唆された。実験2 美容師8名を対象に、独立変数:傾聴スキルの習得に重点を置いた美容師用集団SST修正版の各スキルトレーニング、従属変数:観察者による各スキル評定得点、実験デザイン:個体内ABデザインおよび統制群比較によって実験を行った。その結果、雑談スキル以外の評定得点が統制群より上昇することが示唆された。結論 美容師用集団SSTによって指名客数が増加する可能性があること、また、指名客数を増加させるためには傾聴スキルを身につける必要があることがわかった。効果的なSSTを実施するには、必要な社会的スキルに焦点化した短期間のトレーニングと、日常業務の中で繰り返し自己記録を取るという組み合わせが有効であることが示唆された。