著者
丹野 貴行 坂上 貴之
出版者
日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.109-126, 2011-02-02

Herrnstein(1961)のマッチング法則の発見からこれまでの半世紀の間、微視と巨視をめぐる論争は行動分析における重要な課題の1つであると認識されてきた。本稿ではこの微視-巨視論争を3つの論点に分類・整理し、そこからこの論争の今後の展望を探ることを目的とした。1つめの論点は"強化の原理"であった。行動を制御しているのは、行動と強化の間の微視的な接近性だろうか、あるいは反応率と強化率の間の巨視的な相関性だろうか。2つめの論点は"分析レベル"であった。反応-強化間の関数関係を適切に記述するには、単一の反応と単一の強化という微視的な関係を用いるべきだろうか、あるいは反応率と強化率という巨視的な関係を用いるべきだろうか。そして3つめ論点は"行動主義"であった。ここ20年の間にpost-Skinner的な行動主義がいくつか提案されてきたが、本稿ではそれらを機械論とプラグマティズム、あるいは動力因的説明と目的因的説明といった対立軸から、微視的行動主義と巨視的行動主義とに分類・整理した。ここでの問題は、どちらの行動主義がより生産性のある行動の科学を導けるかということである。我々はこれら3つの論点をまとめ、そこから微視-巨視論争の今後の方向性を論じた。
著者
増田 真也 坂上 貴之 森井 真広
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
vol.90, no.5, pp.463-472, 2019 (Released:2019-12-25)
参考文献数
40
被引用文献数
22

Certain participants are insincere when responding to questionnaires. Two current approaches for detecting unmotivated or dishonest respondents, the instructional manipulation check (IMC), and the seriousness check, were examined. We also attempted to improve the quality of survey responses by asking respondents to take an oath that they would be serious before they started answering the questionnaire (TO). The respondents in two Web surveys were randomly assigned to one of four versions of the questionnaire. The main results indicated that (a) response quality tended to improve when respondents who did not follow instructions were excluded from the sample; and (b) respondents that who took an oath to answer seriously chose fewer “don’t know” options, straight line responses, and midpoint responses than the control group, suggesting that respondents behaved consistently with their initial commitment. The results indicate that although IMC is superior for improving data quality, techniques for deterring less serious responses including TO were desirable in that they did not reduce the sample size.
著者
増田 真也 坂上 貴之 森井 真広
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
pp.90.18042, (Released:2019-09-20)
参考文献数
40
被引用文献数
22

Certain participants are insincere when responding to questionnaires. Two current approaches for detecting unmotivated or dishonest respondents, the instructional manipulation check (IMC), and the seriousness check, were examined. We also attempted to improve the quality of survey responses by asking respondents to take an oath that they would be serious before they started answering the questionnaire (TO). The respondents in two Web surveys were randomly assigned to one of four versions of the questionnaire. The main results indicated that (a) response quality tended to improve when respondents who did not follow instructions were excluded from the sample; and (b) respondents that who took an oath to answer seriously chose fewer “don’t know” options, straight line responses, and midpoint responses than the control group, suggesting that respondents behaved consistently with their initial commitment. The results indicate that although IMC is superior for improving data quality, techniques for deterring less serious responses including TO were desirable in that they did not reduce the sample size.
著者
宇田 智紀 横山 知郎 坂上 貴之
出版者
一般社団法人 日本応用数理学会
雑誌
日本応用数理学会論文誌 (ISSN:24240982)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.187-224, 2019 (Released:2019-06-25)
参考文献数
22

概要. 坂上・横山による2 次元ハミルトンベクトル場の流線トポロジーの文字列分類理論を大量のデータに対して適用するには,その計算機実装が不可欠である.本稿ではパーシステントホモロジーを用いた離散的定式化によりハミルトニアンのレーブグラフを得る安定かつ適合な手法を得た.これに基づき,ハミルトニアンデータから文字列表現を自動計算するアルゴリズムを構成し,その2次元非圧縮流体への適用例を示す.
著者
増田 真也 坂上 貴之 北岡 和代
出版者
日本行動計量学会
雑誌
行動計量学 (ISSN:03855481)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.117-128, 2017 (Released:2018-04-26)
参考文献数
31
被引用文献数
1

This study examined whether responding to many items increased middle category response. In two internet-based experiments, respondents were randomly assigned to one of the four versions of the questionnaire. In Study 1, the respondents completed a Big Five questionnaire that had varied item arrangements. The results showed that the endorsement of the middle category increased for items placed later in the questionnaire for all versions. In Study 2, the Big Five questionnaires differed in that all items were administered at once or were facially divided into two scales. The results indicated that less middle categories were selected in the first 5 items of the second half scale than in the last 5 items of the first half scale for the divided formats, but the endorsement rates increased for items placed later toward the end of both half scales. An increasing middle category response was also found for another scale. Therefore, this phenomenon seems reliable.
著者
坂上 貴之
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1-2, pp.88-108, 1997-06-30 (Released:2017-06-28)

実験的行動分析における行動経済学の成立過程とその代表的実験を挙げながらこのアプローチの考え方を述べ、選択行動の研究をめぐるこの学の貢献と今後の問題を検討する。行動経済学は心理学と経済学の共同領域として生まれた。しかし、この学がミクロ経済学が蓄積してきた経済理論とその予測を、実験的行動分析における選択行動の実験結果に適用して理論の実証を行ってきたこと、経済学が培っていた諸概念を新しい行動指標として活用していったことから、それまであった伝統的な経済心理学とは異なる道を歩んだ。ミクロ経済学には、最適化と均衡化という2つの考え方がある。それぞれの主要な分析道具である無差別曲線分析と需要・供給分析から導出される予測や概念、例えば効用最大化・代替効果・労働供給曲線・弾力性は、個体の選択行動の様々なケース、例えば対応法則、反応遮断化理論、実験環境の経済的性質などへの行動経済学からの視点を提供してきた。今後、行動生態学、行動薬理学、実験経済学といった諸領域との連携をとりながら、実験的行動分析における独自の枠組みの中での均衡化と最適化の原理が検討されていく必要がある。
著者
丹野 貴行 坂上 貴之
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.109-126, 2011-02-02 (Released:2017-06-28)
被引用文献数
1

Herrnstein(1961)のマッチング法則の発見からこれまでの半世紀の間、微視と巨視をめぐる論争は行動分析における重要な課題の1つであると認識されてきた。本稿ではこの微視-巨視論争を3つの論点に分類・整理し、そこからこの論争の今後の展望を探ることを目的とした。1つめの論点は"強化の原理"であった。行動を制御しているのは、行動と強化の間の微視的な接近性だろうか、あるいは反応率と強化率の間の巨視的な相関性だろうか。2つめの論点は"分析レベル"であった。反応-強化間の関数関係を適切に記述するには、単一の反応と単一の強化という微視的な関係を用いるべきだろうか、あるいは反応率と強化率という巨視的な関係を用いるべきだろうか。そして3つめ論点は"行動主義"であった。ここ20年の間にpost-Skinner的な行動主義がいくつか提案されてきたが、本稿ではそれらを機械論とプラグマティズム、あるいは動力因的説明と目的因的説明といった対立軸から、微視的行動主義と巨視的行動主義とに分類・整理した。ここでの問題は、どちらの行動主義がより生産性のある行動の科学を導けるかということである。我々はこれら3つの論点をまとめ、そこから微視-巨視論争の今後の方向性を論じた。
著者
宇田 智紀 坂上 貴之 稲津 將 古賀 一基
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.99, no.5, pp.1169-1183, 2021 (Released:2021-10-27)
参考文献数
21
被引用文献数
3

本論文では500hPaの等高線が作るトポロジー構造を抽出して大気ブロッキング現象の同定を実現するアルゴリズムを提案する。このアルゴリズムは,構造安定な2次元のハミルトンベクトル場の作る流線パターンのトポロジーによる分類理論に基づいて、この流線構造に部分順序根付き木(partially cyclically ordered rooted tree=COT)表現とそれに付随するレーブグラフ(Reeb graph)という木構造を一意に割り当て、それを用いてブロッキング同定を可能にする。この方法は,従来手法に比べて気象学的なパラメータをほとんど利用せずに簡便かつ効果的に大気ブロッキング現象を抽出できる。加えて、従来手法では困難であったオメガ(Ω)型や双極子型といった大気ブロッキングのタイプ(型)を区別することもできる。このアルゴリズムで同定された大気ブロッキングイベントの期間やそのタイプは現業予報で行われている主観的な判断とよく一致する。
著者
坂上 貴之
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.131-137, 2004-06-30 (Released:2017-06-28)

久保田新ら(2003)による魅力的でずっしりとした教科書は、感覚と知覚から人間の発達にわたる心理学的現象を考察するための、様々な視点を私たちに与えてくれる。この本は、この理由から臨床及び医療分野の学部学生、心理学専攻の大学院生に強く推薦できるが、特に行動分析家へは、自らの徹底的行動主義の哲学的基盤を著者のそれとつきあわせるために推薦できる。随伴性の概念と有名な誤信課題であるサリーとアンの課題の問題が著者の用法に基づいて詳細に議論された。
著者
坂上 貴之
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.92-105, 2002-03-30 (Released:2017-06-28)

行動分析学における行動経済学は、4つの研究の流れ、すなわち摂食行動についての生態学的アプローチ、伝統的経済心理学研究とトークンエコノミーでの経済分析、強化相対性についての量的定義の追求、そしてマッチングの法則の展開、から形成された。それは、強化の有効性についての新しい指標、実験.条件の手続き的理論的区別、選択行動の最適化理論という3つの主要な成果をもたらした。この最後のもっとも影響のある成果は徹底的および理論的行動主義に対する別の選択肢としての目的論的行動主義を促した。が、同時にそれは経済学から限定合理性と不確実性という2つの問題も引き継いだ。実験経済学と進化経済学はこれらの問題を克服しようとする2つの候補であり、両者ともその実験的理論的枠組みとしてゲーム分析的なアプローチを利用している。特に後者は行動分析にとって魅力ある研究領域である。なぜなら、それは限定合理性を含んだ進化ゲームと、生物学的枠組みとは異なる進化過程の多様な概念的アイデアを提供するからである。
著者
坂上 貴之
出版者
三田哲學會
雑誌
哲学 (ISSN:05632099)
巻号頁・発行日
no.92, pp.p211-236, 1991-04
被引用文献数
1

1. はじめに2. 対象感受行動3. コード置換行動 1) 数値処理 2) 代表値処理 3) 平滑処理 4) 単位変換処理 5) その他の数学的処理 1) 精度加工 2) 基準加工 3) 集塊加工 4) 順序加工 5) 集約加工 6) 関係加工4. 観察例5. 行動記録法6. 行動指標7. 結語文学部創設百周年記念論文集II
著者
坂上 貴之
出版者
三田哲學會
雑誌
哲学 (ISSN:05632099)
巻号頁・発行日
vol.130, pp.1-40, 2013-03

特集 : 渡辺茂君・増田直衛君退職記念投稿論文Several notation systems for reinforcement schedules have beendeveloped just after the start of this research field. Some systemsprovided good tools for creating complex schedules and for educationalpurposes, and sometimes they were interpreted to some commoncomputer languages via specific invented languages. The mostsuccessful system among them was the State Notation System(SNS) developed by Snapper and his colleagues and their interpretablelanguage SKED. In this paper, I propose another notation systemfor reinforcement schedule based on these previous efforts, particularlySNS and SKED. This new system, named Reinforcementschedule notation system (RNS), is composed with two subsystems,the Structural schedule and the Constituent schedule, which are mutuallycomplimented their limited scopes. The Structural scheduleconsists of the Scenes and the Conditions which sketch the outline ofreinforcement schedules an organism faces to. On the other hand,the Constituent schedule consists of connected chains of the ScheduleElements which contains three slots of (1) the evaluation of eitherresponse or time counters, (2) the operation of environmentalchanges and system signals, and (3) the jumped addresses dependedon the result of the evaluation slot. Although RNS provides compactdescriptions for the complex structures of reinforcement contingencies and many ideas for concrete operations of reinforcement schedules,it has several weak points, such as no elegant descriptive devicesfor dealing with serial responses (e.g., double alternate learning)and complex configurations of discriminative stimuli (e.g., higherconditional discrimination). These limiations will be solved bydevelopment of frameworks for analysis of discriminative stimuli infuture.
著者
坂上 貴之
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.5-17, 2005-04-25 (Released:2017-06-28)

ヒトを参加者とした研究の倫理基準(American Psychological Association, 1992版)は以下のようにまとめられる。(1)倫理的自己制御とその限界、(2)他者の権利の尊重、(3)より上位の規定や勧告の遵守、(4)強制のない参加の保証、(5)情報操作の禁止、(6)秘密の保持。このうち、はじめの2つのクラスターを除けば、それらは参加者の対抗制御、特に倫理審査機関、説明付き同意(書)、そして倫理的問題の事例の歴史に関するインターネットによる情報の公開を利用した対抗制御と深く関連している。研究参加者による、対抗制御の行使のための環境随伴性の設計が倫理的行動を促進するために必要であるが、ルール支配行動といった、その他の倫理的行動の特性もその設計が計画される際には考慮されなくてはならない。最後に、従来の応用倫理学的なアプローチに対する可能な候補として、行動倫理学を提案することができる。なぜなら、この学は、ルール支配行動と対抗制御についての概念的、実験的、応用的分析を用いることで、倫理的行動の具体的な環境制御を研究することが可能であるからである。
著者
鎌倉 やよい 坂上 貴之
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.2-13, 1996-05-25 (Released:2017-06-28)
被引用文献数
1

本研究は開胸術後の順調な回復のために必要とされる効果的な最大吸気練習プログラムの開発のために計画された。プログラムは被験者間多層ベースライン法でなされ、3つのフェーズからなっていた。ベースラインのフェーズでは、被験者は吸気練習器具であるトリフローの使用法について病棟で与えられる通常の教示を受け、吸気練習を自己記録するように言われた。第1の介入フェーズでは日々の吸気回数と吸気量の結果がグラフでフィードバックされ、もし前日の記録よりも上回っていれば言語的賞賛が与えられた。第2の介入フェーズでは、第1のものに加えて、この練習の手術への役割についての新しい情報が与えられた。吸気回数の目標値はベースラインでは20、第1介入フェーズでは50、第2介入フェーズでは80というようにあげられた。19人中、14人が介入によってベースラインのフェーズから第2介入フェーズヘとその吸気量を増加させた。増加しなかった5人は、ベースライン時においてその吸気量を急激に増加させたため、吸気行動を維持できなかった。