著者
村田 茂穂 千葉 智樹
出版者
(財)東京都医学研究機構
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

当該研究部門ではCDK(サイクリン依存性キナーゼ)インヒビターであるp57^<Kip2>の作用についてマウスやラットから分離した骨芽細胞における機能解析を進めてきた.その結果,申請者らは(1)p57^<Kip2>がTGFβの刺激で速やかに分解すること(J.Biol.Chem.,1999)と(2)TGFβ依存的なp57^<Kip2>の分解が,TGFβシグナル系の仲介因子Smad依存的な転写を介していることを明らかにした(J.Biol.Chem.,2001).その後の研究から,もう一つのCDKインヒビターであるp27^<Kip1>の動態と併せて解析した結果,TGFβ刺激はp57^<Kip2>の分解を誘導したが,、p27^<Kip1>の分解を誘導しないこと,さらにp57^<Kip2>の分解消失は細胞の増殖開始とは関係しないことを突き止めた.次に骨分化を誘導するBMP (bone morphologic protein)刺激を加えたところp57^<Kip2>の分解消失は認められない事を見い出し,さらにp57^<Kip2>がTGFβ刺激によって分解されるとBMP刺激による骨分化誘導が阻害されることを明らかにした(論文投稿中).これらの結果から,p57^<Kip2>のノックアウトマウスで報告された骨形成異常の生理的意義を説明することが可能となった.即ち,p27^<Kip1>とp57^<Kip2>のユビキチン化依存的な分解は,骨芽細胞の増殖と分化の制御に重要な役割を果たしていることが明らかになったのである.我々は以前にSCFユビキチンリガーゼの必須な制御因子であるUba3のノックアウトマウスでp57^<Kip2>が蓄積していることを明らかにしており,現在TGFβ刺激によって誘導される新たなユビキチンリガーゼ(E3)がp57^<Kip2>特異的なユビキチンリガーゼである可能性について解析を行っている.そして骨芽細胞にTGFβ刺激したさいに発現が誘導されるE3の同定に成功した。さらにこのE3がp57に特異的に結合すること、in vitroでp57のリン酸化特異的にユビキチン化を行うことを見いだし、p57特異的なE3であることを明らかにした。
著者
田中 啓二 村田 茂穂
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.122, no.1, pp.30-36, 2003 (Released:2003-06-24)
参考文献数
12
被引用文献数
1 1

様々な神経変性疾患の脳内病理所見でタンパク質の凝集体が出現することは,共通にみられる普遍的な現象である.この凝集体の主成分であるタンパク質の多くがユビキチンで修飾されていることが報告されてきた.ユビキチンがタンパク質分解のマーカー分子であることから,これらの疾病の発症原因にタンパク質代謝系の異常が示唆されてきたが,その分子機構の解明は遅々として進展しなかった.しかし,ユビキチン·プロテアソームシステム研究の飛躍的な進展により,その突破口が開かれようとしている.細胞内において,タンパク質は時として異常性を獲得するが,生じた異常タンパク質を処理し恒常性を維持する機構が備わっている.その主役は分子シャペロンと呼ばれる一連の分子群であり,損傷したタンパク質の再生装置として寄与している.もう一方の役者がユビキチン·プロテアソームシステムである.ユビキチン·プロテアソームシステムはもはや再生して機能タンパク質に復帰することができなくなった異常タンパク質を選別して破壊するマシーンであり,不要物の累積を回避する生存戦略の一貫として重要な役割を果たしている.これらは,分子レベルでみるとタンパク質の健康度をモニターして適宜に処理する細胞内装置とみなすことができる.この現象をタンパク質側からとらえると細胞内の全てのタンパク質は恒常的に品質管理されており,細胞内では無駄な存在が許容されない健全な仕組みが作動していることになる.ごく最近,このタンパク質の品質管理の破綻の累積がニューロンにおける恒常性維持の危険信号となり,引いては細胞死につながることが推定されている.そして特異的なニューロンの大規模な死によって,特定の脳組織の機能が逸脱した結果として引き起こされる様々な神経変性疾患の共通の基盤となっている可能性が高まっている.
著者
村田 茂穂
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2013-05-31

下記1-4の項目について研究を行った。1.プロテアソームサブユニットの転写を制御する機構の解明:ゲノムワイド siRNAスクリーニングにより、哺乳類細胞においてプロテアソーム機能低下時にプロテアソームサブユニット群の転写を一斉に亢進させる転写因子Nrf1を小胞体膜から切り離すことにより活性化させるプロセシング酵素DDI2の同定に成功した。この経路はプロテアソーム阻害剤による抗がん治療における同薬剤耐性獲得の主要な機構であり、DDI2阻害剤の開発によりプロテアソーム阻害剤との併用でがん治療において相乗的効果をもたらすことが期待できる。2.プロテアソームの分子集合機構の解明とその病態生理的意義の理解:胸腺プロテアソームサブユニットβ5tがFoxn1依存的に発現制御を受けることにより、胸腺皮質上皮細胞において胸腺プロテアソームが形成されることを明らかにした。3.プロテアソームの細胞内動態の解析:プロテアソームの細胞内局在に影響を及ぼす因子をゲノムワイドsiRNAスクリーニングにより解析を実施し、プロテアソームの核内局在に関与する経路を同定した。また、。プロテアソーム会合因子Proteasome Inhibitor 31-kDa (PI31)の条件付き遺伝子欠損マウスの解析により、in vivoではプロテアソームによるタンパク質分解を正に制御すること、精子の正常な発達に必須であることを明らかにした。4.プロテアソーム機能低下により惹起される病態生理の解析:プロテアソーム機能低下と相乗的に細胞死を誘導する経路を明らかにした。同経路にはすでに阻害剤がいくつか存在しており、プロテアソーム阻害剤との併用でがん治療において相乗的効果をもたらすことが期待できる。