- 著者
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田中 啓二
村田 茂穂
- 出版者
- 公益社団法人 日本薬理学会
- 雑誌
- 日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
- 巻号頁・発行日
- vol.122, no.1, pp.30-36, 2003 (Released:2003-06-24)
- 参考文献数
- 12
- 被引用文献数
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様々な神経変性疾患の脳内病理所見でタンパク質の凝集体が出現することは,共通にみられる普遍的な現象である.この凝集体の主成分であるタンパク質の多くがユビキチンで修飾されていることが報告されてきた.ユビキチンがタンパク質分解のマーカー分子であることから,これらの疾病の発症原因にタンパク質代謝系の異常が示唆されてきたが,その分子機構の解明は遅々として進展しなかった.しかし,ユビキチン·プロテアソームシステム研究の飛躍的な進展により,その突破口が開かれようとしている.細胞内において,タンパク質は時として異常性を獲得するが,生じた異常タンパク質を処理し恒常性を維持する機構が備わっている.その主役は分子シャペロンと呼ばれる一連の分子群であり,損傷したタンパク質の再生装置として寄与している.もう一方の役者がユビキチン·プロテアソームシステムである.ユビキチン·プロテアソームシステムはもはや再生して機能タンパク質に復帰することができなくなった異常タンパク質を選別して破壊するマシーンであり,不要物の累積を回避する生存戦略の一貫として重要な役割を果たしている.これらは,分子レベルでみるとタンパク質の健康度をモニターして適宜に処理する細胞内装置とみなすことができる.この現象をタンパク質側からとらえると細胞内の全てのタンパク質は恒常的に品質管理されており,細胞内では無駄な存在が許容されない健全な仕組みが作動していることになる.ごく最近,このタンパク質の品質管理の破綻の累積がニューロンにおける恒常性維持の危険信号となり,引いては細胞死につながることが推定されている.そして特異的なニューロンの大規模な死によって,特定の脳組織の機能が逸脱した結果として引き起こされる様々な神経変性疾患の共通の基盤となっている可能性が高まっている.