- 著者
-
松村 将司
- 出版者
- 日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
- 雑誌
- 理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
- 巻号頁・発行日
- pp.0189, 2017 (Released:2017-04-24)
【はじめに,目的】良性発作性頭位めまい症(以下,BPPV)は,内耳の耳石器や半規管の障害で発症する疾患である。今回,めまい発症から10日間歩行不可能だったが,徒手的治療によって即時的にめまいが改善し,歩行可能となった症例を担当したので報告する。【方法】症例は60歳代男性である。現病歴は,10日前に運転していたところ突然めまいが出現し,運転困難となり当院に救急搬送され入院となった。その後,MRI,聴力検査など実施したが大きな問題はなく,投薬治療が実施された。しかし,移動は車椅子のみで歩行不可能であった。なお,理学療法の処方は入院10日後であり,診断名はBPPVであった。既往歴は,約1カ月前に追突事故にあっていたが,現在は症状はなかった。主訴は,目の前が回り起き上がれない,右を向くとめまいがする,であった。動作を観察すると,起き上がり時には頸椎を動かさないように,非常にゆっくりと真っ直ぐ起き上がっていた。理学療法を始めるにあたり,BPPVに対する耳石置換法が未実施だったため,担当医と相談の上,実施の許可を得た。本症例は,既往歴に追突事故があったため,最初に頸椎のSecurity testを実施したが,問題は認められなかった。次に,右を向くとめまいがするとの訴えがあったため,水平半規管型BPPVを疑い,Supine roll testを実施した。しかし,若干の気持ち悪さが誘発されるのみであった。そのため,後半規管型BPPVに対するDix-Hallpike testを実施したところ,左のテスト時に著明な回旋性眼振を数秒認め,同時にめまいが誘発された。これより左後半規管型BPPVの可能性が示唆された。【結果】治療として後半規管に対する耳石置換法であるEpley法を左に対して実施した。1セット実施した結果,眼振は消失し,めまいも軽減された。そのため,引き続き3セット実施したところ,めまいはさらに軽減し,起き上がりがスムーズに行えるようになり,直後に軽介助から近位監視レベルでの歩行が可能となった。2日目の再評価では,右を向いた際のめまいが残存していた。Supine roll testでめまいが誘発されたため,水平半規管に対するLempert roll法を実施した結果,めまいは軽減した。3日目には症状改善し独歩可能となっていたため,日常生活での注意事項などを指導し,翌日退院となった。【結論】本症例の場合,水平半規管様のめまいの訴えであったが,実際には後半規管に対するテストで陽性となった。これに対しEpley法で即時的に眼振,めまいが改善し歩行可能となったが,翌日には再び水平半規管様の訴えがあった。BPPVでは耳石置換法による治療後,他の半規管に耳石が入り込むことがあり,また,水平・後半規管に耳石が存在する混合型もある。本症例も両者のどちらかであった可能性があると考える。理学療法士が前庭の理学療法を理解をしていることで,今回のように事前に医師と相談でき,適切な理学療法実施につながると考える。