- 著者
-
松田 一彦
- 出版者
- 日本毒性学会
- 雑誌
- 日本毒性学会学術年会 第43回日本毒性学会学術年会
- 巻号頁・発行日
- pp.W3-2, 2016 (Released:2016-08-08)
イミダクロプリドと、それに続いて開発された類縁殺虫剤は、従来の殺虫剤に抵抗性を示す害虫に対しても優れた防除効果を発揮し、さらに植物に対する浸透移行性に優れていたことなどから、殺虫剤市場の主要な一角を占めるようになった。しかし、これらの「ネオニコチノイド」と総称される殺虫剤について、ミツバチの数の減少との関連性や神経作用性の危うさが指摘され、使用の是非が問われている。このようなネオニコチノイドの隆盛と論争を見ながら、演者は、中立の立場でネオニコチノイドとは何かということを研究してきた。ネオニコチノイドが標的とするニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)は5つのタンパク質が梅花のように集合した構造を持ち、神経伝達物質アセチルコリンを受容するとカチオンを選択的に通す自身のチャネルを開くことで、神経細胞の興奮を誘起する。天然物ニコチンがヒトのnAChRと昆虫のnAChRのどちらも活性化しイオンチャネルを開く活性(アゴニスト活性)を示すのとは対照的に、ネオニコチノイドは昆虫のnAChRを選択的に活性化する。つまりネオニコチノイドは何らかの理由で昆虫のnAChRの中のアセチルコリン結合部位に強く結合し、活性を発揮するのである。これは、昆虫のnAChRがネオニコチノイドとの相互作用に有利に作用する構造を有するためである。演者はその構造の解明に取り組んだ結果、昆虫のnAChRはネオニコチノイドに特有のマイナスの電荷を帯びた構造との相互作用に有利にはたらくプラスの電荷を帯びた構造をもち、哺乳動物のnAChRにはこうした構造がなく、むしろネオニコチノイドを遠ざけるマイナスの電荷を帯びた構造を有することを突き止めた。本講演では、このような成果のみならず、ネオニコチノイドはどれもが同じようにnAChRと相互作用しないことをも紹介する。