著者
松田 伯彦 松田 文子 宮野 祥雄
出版者
千葉大学教育学部
雑誌
千葉大学教育学部研究紀要 (ISSN:05776856)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.p29-40, 1978-12

教育工学的視点とその問題点を論じた。1.教育工学というのは, 教育目標を設定するとかいう, 教育的価値観のともなうものをその研究分野にふくまない。しかしこれまでの教育においては, つねに価値観をともなう教育論争が尊重されてきたし, 現在もそうである。2.教育工学的視点の根底には, 行動科学的人間観がある。この考えに立てば, 教授過程での教師と児童・生徒の行動と交互作用も充分に分析された後には, 予測と制御が可能であると考えられるが, これは「教育」を「芸術」とみなす多くの教育関係者には受け入れられない。3.このような行動科学的人間観に立った場合, 「なにが出来るようになったか, というオバートな行動の変化」が「学習」であって, 教授の目標は「学習者の行動」すなわち目標行動の形であらわす必要がある。しかし「学習」をオバートな行動のレベルでだけで考えでよいであろうか。4.教育工学においては, 人, もの, 金, 情報をうまく組み合わせて, 教育効果を上げようとするのだが, このように, 人はものや金とならぶ一要因でしかない。教師対児童, 児童対児童の真剣な格闘の中から新鮮な授業が創造される, とするような「人」に非常に重点をおいて考える人達からは, この点から教育工学は拒絶される。5.教育のシステム化というとき, そのシステムの優劣は効率性によってきまる。産業界においては異議のない「効率性」という概念ではあるが, 教育において, 「効率性」を追い求めることが正しいことかどうか, かならずしも自明の理ではない。6.教育工学は潜在的に教育の個別化を指向しているが, 教育の個別化は, ただちに教育における差別や選別として批判されがちであり,
著者
松田 文子 田中 昭太郎 原 和秀 松田 伯彦
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.134-143, 1995-12-10 (Released:2017-07-20)

27名の児童が, 小学1年生から小学6年生まで, 毎年1回約30分, 時間, 距離, 速さの間の関係概念 (速さ=距離/時間) の形成過程を具体的操作を通して調べる縦断的研究に参加した。この児童達が小学5年生になって算数「速さ」を学習したとき, このような実験に参加しなかった児童と比較して好成績をあげたことから, その原因が探られ, そしてそれに基づいて, 一般に大変理解度が低いと言われている算数「速さ」の授業改善について, 若干の提言が試みられた。すなわち, (1) 文部省指導要領及び指導書の算数編におけるように, 異種の2つの量の割合として速さを提え, 単位時間当たりの道のりで表される, とするのではなく, 時間, 距離, 速さ, それぞれを1つの関係概念を形成する対等な3つの量として, それぞれに秒, m, m/秒, という計量単位を導入すること。 (2) 速さについての計量的な操作に入る前に, 具体的操作を通して等速直線運動を実感させ, (a) 時間, 距離, 速さの関係概念の論理構造と, (b) 同じ速さで走るということは, 時間や距離が異なっていても速さが同じなのだという速さの同値性に関する論理構造を, しっかり構成しておくこと。
著者
松田 文子 松田 伯彦
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
Japanese Psychological Research
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.9-17, 1981
被引用文献数
5

It was confirmed using the reproduction method and using both children of 8 to 13 years and adults as subjects that the anti-<I>kappa</I> effect could occur even for static stimuli under the specific condition where subjects were induced to form the set to use velocity rather than spatial separation as the cue for the time estimation. The present finding concerning the effects of the spatial separation of successively presented static stimuli on the time estimation was in line with the hypothesis of &ldquo;cue-selection sets&rdquo; which was drawn from the results of the first author's previous studies on a moving stimulus. But the developmental tendency of the anti-<I>kappa</I> effect still needs to be examined further.
著者
松田 伯彦
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学教育学部研究紀要 (ISSN:05776856)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.17-27, 1968-06-30

本研究は,学業不振および学業促進者のクレペリン精神作業検査の総合判定にもとづいて因子分析をおこない,比較検討することを目的とする。中学2年生における国語の学業不振,学業促進群および統制群にクレペリン精神作業検査を実施し,そして,判定,作業量(休憩前・後),誤謬率(前・後),初頭努力率(前・後),終末努力率(前・後),最大差(前・後),動揺率(前・後)および休憩効果率および知能(偏差値),学力(偏差値),テスト不安得点および一般不安偏差値を加え,因子分析をおこなった。結果は次のとおりであった。1)学業促進群の知能は他の2群より低く,そして,学力は他の2群より高かった。2)学業不振群の判定,作業量(後)および休憩効果は他の群より低かった。学業不振群の動揺率(前・後)は他の2群より大きく,そして,学業促進群の動揺率は統制群より小さかった。3)各群の第1因子および第2因子に基づく因子布置より,知能,学力および動揺率が異っていた。すなわち,知能と学力において学業促進群のそれが他の2群と異っていた。また,動揺率において学業促進および学業不振群のそれは統制群のそれと異っていた。付記,本研究を実施するにあたり,野崎修君のご協力を得た。記して感謝の意を表します。
著者
松田 伯彦
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学教育学部研究紀要 (ISSN:05776856)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.55-66, 1970-07-31

本研究は,比較的等質な学級(小学4年生10学級)に対して,賞あるいは罰を与える比(学級集団での賞あるいは罰を与えられる人数の比)を,いろいろ変化させることによって,賞あるいは罰の効果が学習にどのように影響するか,そして,それを観察している者(暗黙の強化を受けている者)の学習成績にどのように影響するかについて,文章問題を学習課題として,検討することを主な目的とした。そして,強化パターン(連続強化と部分強化)についてみることである。さらに,被験者の内省報告から,賞あるいは罰,あるいは,暗黙の強化によって,学習者がどのように動機づけられたか,また,被験者の実験者に対する好悪の感情と学習との関係を者察した。文章問題の平均正答数および平均正答率について,第1日目を100とし,各群の5日間の正答数%正答率%の分散分析,および各日ごとの群間の効果の分散分析をおこなった。その結果次のようである。1.学級の少数が賞を受けた時の大多数の無視群,学級の大多数が罰を受けた時の叱責群と無視群の両方,これらの3群では,5日間正答数の有意な上昇がまったくみられない。他のすべての群では多かれ少なかれ5日間に正答数の有意な上昇がみられる。2.賞は学級の少数に与えられる時および学級の多人数に与えられる時も,非常に効果的で,罰は学級の全員に与えられる時最も効果的である。3.学級の大多数の者が賞あるいは罰を与えられる時,無視された者は直接の賞罰以上に間接(暗黙)の強化を受ける。4.連続強化群と部分強化群を正答数で比較した場合有意差はみられないが,正答率において部分強化群がすぐれている。5.内省報告から,賞を直接受ける者およびそれを観察している者は賞を再び得ようとし,罰を直接受ける者およびそれを観察している者は,賞を得ようとする傾向と罰を避けようとする傾向がみられた。6.実験者に対する好悪の感情は,賞を与えられた者は接近的・好意的な傾向が,罰を与えられた者は回避的・非好意的な傾向が漸次増加すると言える。各群の成績ではなく,学級成員全員の成績を考えた場合,全員賞賛または全員叱責ということが最も効果的であるように思われる。しかし,人間関係をも考慮すれば,全員賞賛ということがより効果的で,この点教育上興味深いことである。附記本研究に御協力いただいた千葉市立院内小学校長鈴木将七先生,緑町小学校長勝山正徳先生,寒川小学校長地引登志夫先生,新宿小学校長宍倉芳衛先生,轟町小学校長八代進先生,学級担任の諸先生および児童の皆さんに深く感謝の意を表します。なお,白鳥礼,宇佐美仁孝,山田幸子,松岡和子,二宮砂子,西村信子,斎藤文子君およびその他多くの学生諸君に協力をいただいた。
著者
松田 伯彦 時田 光人 西村 正司 宮野 祥雄
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学教育学部研究紀要. 第1部 (ISSN:05776856)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.101-110, 1975-12-26

教育実習を初めて体験する大学3年次生を用いて,ロールプレイングによる実演が実際の授業過程に及ぼす効果を,統制群法により実験的に検討することを第1の目的とした。さらに,ロールプレイングが,教職への態度・意識の変容および教育実習への動機づけの変容におよぼす影響についてみることを第2の目的とした。結果は次のとうりである。1.ロールプレイング群の内省から,この群では教育実習や教職に対して,強い印象・感動があったことがうかがえた。2.授業技術についてみると,両群とも,最初の授業から最後の授業へ望ましい方向に変化しているが,ロールプレイング群でよりそれが著るしい。特にロールプレイング群では"児童が理解しやすい話し方"をするように変化した。3.授業過程の印象は,両群とも好ましい方向への変化がみられたが,ロールプレイング群でよりそれが著るしかった。4.教職に対する態度では,ロールプレイング群は「教職が精神的満足の得られる仕事だ」 と大きく賛成に変化し,さらに教職に対し"あたたかい"イメージの方向に変化した。5.教育実習への動機づけの変化をみると,ロールプレイング群は積極的・意欲的になった。最後に,実践的研究の問題点にふれ,ロールプレイングの有効性について考察し,さらに教生の指導方法について述べた。