- 著者
-
嶋林 ゆう子
林崎 規託
鳥井 弘之
- 出版者
- 研究・イノベーション学会
- 雑誌
- 研究 技術 計画 (ISSN:09147020)
- 巻号頁・発行日
- vol.23, no.2, pp.163-175, 2008-09-26 (Released:2017-10-21)
- 参考文献数
- 44
科学技術と社会が健全な関係を維持するためには,科学技術と社会のコミュニケーションが求められる。本論は,科学技術の専門家が負う説明責任に焦点を絞り,責任が生じる局面の抽出を通して,科学技術における説明責任の概念に迫るものである。まず,説明責任の関連用語(アカウンタビリティ,知る権利,情報公開)の語義の分析に基づき,分野を科学技術に限定せずに,日本社会における説明責任の一般的な概念を整理した。さらに,社会システムを構成する一要素としての科学技術の特殊性を抽出した。これらの結果を踏まえて,科学技術の専門家に説明責任が生じる次の4つの局面を切り出した。(1)資源が負託されたとき,(2)権限が負託されたとき,(3)人体(個人/集団)に対する影響が生じるとき,(4)社会(現在/将来)に対する影響が生じるとき。これらと現行の科学技術政策において説明責任が生じるとされている局面を比較し,その差異について指摘した。本論によって,科学技術の専門家は自分たちがいつ社会に説明すべきかが分かり,自律的に説明責任を遂行することができるようになる。また,社会の側も,いつ専門家に責任追及すべきかを判別することが可能となる。さらに,説明責任を課せられた側と課す側がその責任の概念を共有できれば,専門家と社会の双方の参加による,「社会のための科学技術」の実現の一助となる。