著者
柳沢 英輔 Eisuke Yanagisawa
出版者
国立民族学博物館
雑誌
国立民族学博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Ethnology (ISSN:0385180X)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.421-453, 2014-03-25

本稿は,ベトナムにおけるキン族のゴング製作方法について,中部沿岸部のホイアン近郊にあるフッキウ村を事例に報告するものである。フッキウ村では,ゴング製作の知識や技術を代々受け継いだ職人がゴングを生産し,少数民族に販売してきた。ゴング製作の工程は,1 日目に原型の製作を,2 日目に鋳込み,研磨,調音などの作業を行う。鋳造によるゴング製作では原型の製作が最も重要であり,特に高度な技術を要する。また職人は少数民族の需要に合うように,鋳込みの材料に使用する金属の種類やその配合割合を変えている。村で最も優れたゴング製作職人の一人,ユン・ゴック・サン氏は,鋳造したゴングを少数民族ごとに異なる音色,音階に調律することができる。このようにゴング製作職人は,少数民族の需要に合わせてゴングを製作することで,ベトナムのゴング文化を支えてきた。
著者
柳沢 英輔
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.86, no.2, pp.197-216, 2021-09-30 (Released:2021-12-26)
参考文献数
88

本論の目的は、フィールドレコーディングを主体とする実践的な研究手法としての音響民族誌(sonic ethnography)について、その意義を論じることにある。音響民族誌とは、人類学的なフィールドワークの成果物としてのフィールド録音作品のことを指す。人々の営みを経験的に記述する民族誌において、聴覚的な経験よりも視覚的な経験が重視されてきたため、音や録音メディアの持つ可能性はこれまで十分に検討されてこなかった。近年、音響民族誌が注目されるようになった技術的、理論的な背景として、機材のデジタル化により録音・編集環境が一般化したこと、そして、1980年代以降の「音の人類学」、「感覚の人類学」、「感覚民族誌」など、ロゴス中心主義、画像中心主義に対抗し、視覚以外の諸感覚や身体経験に着目した研究の潮流がある。 本論では『うみなりとなり』という筆者らが制作した音響民族誌を事例として取り上げる。結論として以下のことが言える。第1に、音響民族誌は、音を通して、ヒト、モノ、自然が響きあう相互的で、流動的な世界の在り様を描くことで、我々のモノや世界の捉え方を転換させうる。第2に、録音という行為を通した人やモノ、場所との感覚的な繋がり、調査手法やプロセスへの省察的な考察と循環に、その意義や可能性がある。
著者
柳沢 英輔
出版者
青山学院大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

今年度は、ベトナム中部高原のコントゥム省、ジャライ省、ダクラク省において、約3カ月間のフィールド調査を行い、これまでの研究成果を国際シンポジウムで発表した。具体的な調査内容は以下の通りである。(1)バナ族、セダン族、ジャライ族、ジェチエン族、エデ族の少数民族村落で、ゴングセットの計測・録音と聞き取り調査を行い、各ゴングのサイズや音高、ゴングの名称、入手経路、使用する儀礼などについて明らかにした。(2)バナ族、セダン族、ジャライ族の葬礼、バナ族の教会の祭礼など、重要な儀礼・祭礼を撮影・録音し、記録に残した。(3)バナ族の伝統的な建築物であるNha Rongと呼ばれる集会所について聞き取り・計測調査を行い、その建築方法と現在における文化・社会的利用に関するデータを収集した。(4)ゴング文化継承にとって重要な役割を担う「ゴング調律師」について、聞き取り調査とゴング調律過程の撮影・録音とから、調律方法の詳細に関するデータを得た。(5)若い世代へのゴング演奏・調律に関する教育的取り組みについて具体的な事例を記録した。(6)社会変化に対応して新たに誕生した「改良ゴングアンサンブル」について、これまでの調査では分からなった点を聞き取りした。(7)研究代表者が制作した映像作品「ベトナム中部高原のゴング文化」を撮影地となった村で上映し、作品を村に寄贈した。以上より、現地調査によって研究課題に関する多くの民族誌的資料(音響・映像資料を含む)を得ることができた。3月には国立民族学博物館で行われた国際シンポジウム「東南アジアにおけるゴングの映像民族誌」において、映像作品の上映を含む口頭発表を行い、国内・東南アジア各地の研究者と知見を交換し、交流を深めた。現在、フィールド調査で得たデータの分析を進め、投稿論文を執筆中である。