著者
柴田 護
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.10, pp.668-676, 2020 (Released:2020-10-24)
参考文献数
69

片頭痛の有病率は約10%と報告されている.片頭痛では,数時間持続する拍動性頭痛が悪心・嘔吐や光過敏を随伴して繰り返し起こる.個々の患者のQOLは大きく障害され,社会全体に与える経済的影響も非常に大きい.動物実験や機能画像を用いた臨床研究から,片頭痛は視床下部,大脳皮質,三叉神経系,自律神経系など非常に広範な部位の異常を呈する複雑な神経疾患であることが明らかとなった.従来の片頭痛発作予防治療では,カルシウム拮抗薬や抗てんかん薬などが経験に基づいて用いられてきた.しかし,カルシトニン遺伝子関連ペプチド(calcitonin gene-related peptide; CGRP)が片頭痛病態に深く関与することが明らかとなり,CGRP関連抗体による特異的治療が脚光を浴びている.
著者
柴田 護 鈴木 則宏
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.96, no.8, pp.1634-1640, 2007 (Released:2012-08-02)
参考文献数
6

薬物乱用頭痛は日常臨床で稀ならず遭遇する疾患であり,鎮痛薬を服用している慢性頭痛患者を診察する際には,服用回数や服用量の詳細な聴取が必要である.診断には画像診断による器質性疾患の除外を慎重に行う.起因薬剤の中止により頭痛は軽快するか薬物乱用前のパターンに戻る.治療に際しては起因薬剤中止後の初期に起こる反跳頭痛への対処法や再度薬物乱用に陥らせないための方策を知っておくことが肝要である.最近の動向としてトリプタンによる薬物乱用頭痛の増加が問題になっている.
著者
柴田 護
出版者
一般社団法人 日本頭痛学会
雑誌
日本頭痛学会誌 (ISSN:13456547)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.534-536, 2022 (Released:2022-04-28)
参考文献数
7
著者
柴田 護
出版者
日本生理人類学会
雑誌
日本生理人類学会誌 (ISSN:13423215)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.55-60, 2020-11-25 (Released:2020-11-25)
参考文献数
32

Migraine is a debilitating neurological disorder, which affects approximately 10% of the general population. Recent advances in functional neuroimaging as well as accumulating data obtained from animal studies have provided important clues to the pathophysiology of migraine. In the past, it was believed that migraine was a vascular disorder, such that migraine aura was induced by vasoconstriction with ensuing abnormal vasodilation responsible for the development of headache. However, it is now clear that brain abnormalities are primarily implicated in migraine pathogenesis. Migraine-associated prodrome is likely to reflect aberrant activity of the hypothalamus and the limbic system, whereas migraine aura is caused by a unique electrical brain phenomenon termed cortical spreading depolarization/depression. Migraine headache is likely to be caused by abnormal activation of the trigeminovascular system; wherein calcitonin gene-related peptide plays a pivotal role. Collectively, migraine symptomatology should be interpreted in relation to underlying biological mechanisms on a phase-to-phase basis.
著者
清水 利彦 柴田 護 鈴木 則宏
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.103-109, 2011 (Released:2011-02-17)
参考文献数
43
被引用文献数
4 4

Cortical spreading depressionは片頭痛の前兆への関与に加え三叉神経血管系を活性化させ頭痛発生のtriggerとなる可能性が示されている.脳硬膜および三叉神経節にはcalcitonin gene-related peptide(CGRP)に加え,侵害刺激受容体transient receptor potential cation channel, subfamily V, member 1(TRPV1)の存在が明らかにされ片頭痛の病態への関与が考えられている.本稿では片頭痛における基礎研究の進歩およびCGRP受容体アンタゴニストをふくむ最近の治療について概説する.
著者
柴田 護 清水 利彦
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

マウスのwhisker padに10 mMカプサイシンを30分間作用させてTRPV1刺激を6日間行った。刺激と同側の三叉神経節の切片を作成して電子顕微鏡でミトコンドリアの観察を行った。なお、三叉神経節採取のタイミングは2, 4, 6日間投与完了の24時間後とした。2日投与では特に形態異常は認めなかったが、4日投与では主として小型の三叉神経ニューロンで内部構造の破壊を呈したミトコンドリアが確認された。しかし、6日間投与後にはニューロン内のミトコンドリア形態はほぼ正常であった。以上のことから、何らかの修復機構が作動するものと考えられた。細胞実験からミトファジーの機能が重要であることがわかった。
著者
田中 公二 柴田 護 野沢 悠子 駒ヶ嶺 朋子 森田 陽子 五味 愼太郎
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.130-134, 2008 (Released:2008-02-22)
参考文献数
13

症例は23歳の女性である.4歳時からアトピー性皮膚炎,小学生時から気管支喘息に罹患していた.200X年7月に歩行障害,下肢感覚異常,膀胱直腸障害を急激に発症し入院した.神経学的所見では,下肢筋力低下,下肢の温痛覚と位置覚障害,下肢腱反射低下ないし消失,および弛緩性の膀胱直腸障害をみとめた.入院時のMRIでは,円錐上部の腫脹がみとめられ,髄液検査では細胞・蛋白・IgGは正常であったが,IgE(8IU/ml)とMBP(7.8ng/ml)は高値であった.血液検査ではダニ特異的IgEが強陽性であった.以上の所見からアトピー性脊髄炎と診断した.入院後,ステロイド・パルス療法と血漿交換療法で臨床所見は改善した.第21病日以降に施行されたMRIでT2強調画像にて高信号を示す散在性病変が腰髄∼仙髄レベルに確認された.髄液と血液のIgEおよびアルブミンの測定結果から,IgE髄内産生の可能性が示唆された.髄液IgEを経時的に測定したが,病勢との相関は明らかでなかった.本例のような病巣部位と急性の経過は従来の報告に比し,非典型的と考えられた.
著者
柴田 護
出版者
日本口腔顔面痛学会
雑誌
日本口腔顔面痛学会雑誌 (ISSN:1883308X)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.21-27, 2021 (Released:2021-05-28)
参考文献数
22

片頭痛は中等度〜重度の拍動性頭痛を主徴として,悪心,嘔吐,光過敏/音過敏を随伴する.未治療の場合は4〜72時間持続するため,患者に対する障害度は高い.さらに,若年者に好発するため,社会全体に与える経済的損失は非常に大きい.片頭痛の病態生理には不明な点が多いが,根本的な原因は神経機能異常にあると考えられる.予兆は視床下部の異常によって引き起こされ,前兆は大脳皮質での皮質拡延性抑制/脱分極が関与すると考えられている.しかし,頭痛発生時には三叉神経系の異常活性化が存在し,カルシトニン遺伝子関連ペプチド (CGRP)が末梢性感作誘導に中心的な役割を果たしている.片頭痛急性期治療薬の主役は5-HT1B/1D/1F作動薬であるトリプタンである.その作用機序はCGRP放出抑制と考えられている.片頭痛予防薬としては,カルシウム拮抗薬,抗てんかん薬,三環系抗うつ薬が用いられているが,これらの薬剤は神経の異常興奮性を是正する作用がある.しかし,現在の片頭痛治療にはunmet medical needsが存在する.CGRPに対する分子標的治療が最近になって導入された.CGRP関連モノクローナル抗体と低分子CGRP受容体拮抗薬からなるが,特に前者は優れた片頭痛予防効果を発揮する.現在,片頭痛薬物治療は新しい時代に入りつつあると言ってよい.
著者
柴田 護
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.11, pp.1012-1013, 2012 (Released:2012-11-29)
参考文献数
10
被引用文献数
1 1

Chronification of migraine occurs in approximately 3% of entire cases annually. Some risk factors, like obesity and affective disorder, exacerbate the migraine disease conditions. The incidence of migraine chronification is dependent on the baseline frequency of migraine attacks. Functional MRI data support that dysfunction of the descending anti-nociceptive systems plays an important role in the development of migraine chronification. Moreover, several studies employing voxel-based morphometry have revealed morphological alterations of gray matter density in various brain regions, some of which are irrelevant to the sensory or limbic systems. It remains to be determined whether such organic changes are either causative of or attributable to migraine chronification. A preclinical study showed that cortical spreading depression can activate matrix metalloproteinase-9, potentially leading to disruption of blood-brain barrier and subsequent parenchymal damage. We demonstrated that TRPV1 (transient receptor potential vanilloid subfamily, member 1) stimulation in the trigeminal nociceptors induces morphological changes of microglia and astrocytes in the trigeminal nucleus caudalis. Recently, botulinum neurotoxin type-A (BoNT-A) has been approved for patients with chronic migraine. The primary action of BoNT-A is inhibition of regulated exocytosis at the peripheral nerve terminals, raising the possibility that certain peripheral factors are implicated in the development of migraine chronification.