著者
大平 悠季 桑野 将司 福山 敬
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.319-325, 2018-10-25 (Released:2018-10-25)
参考文献数
10

我が国の地方都市では,人口減少やモータリゼーションに伴う郊外化の進行によって,中心市街地の空き店舗が増加し,商店街が空洞化している.本研究は,中心市街地の魅力を向上させるための施策を検討する第一段階として,鳥取市をケーススタディとし,空間構造の観点からみて利便性の高い場所の土地利用状況の有効性を診断することを目的とする.分析に際して,中心市街地を訪問する人々の行動を直接観察するのではなく,ネットワーク理論や地理空間情報システム(GIS)を援用し,中心市街地の骨格を形成する街路や都市施設の空間構造の特性を表す客観的な指標に基づいた分析を通じて,潜在的ににぎわいが形成されやすい場所を明らかにし,中心市街地整備方策に対する示唆を導き出す点に新規性がある.分析結果より,対象地域では,歩行者・自転車による利用が多い施設の周辺では,施設のにぎわいが波及することによって空き店舗が少ない状況を維持できているのに対し,自動車利用が中心の施設である施設の周辺ではそのような波及効果が得られていないことがわかった.
著者
細江 美欧 桑野 将司 森山 卓
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.690-696, 2020-10-25 (Released:2020-10-25)
参考文献数
12

近年,ビッグデータの新たな分析手法として,クラスタリング手法の1つであるグラフ研磨が提案されている.グラフ研磨はグラフに属する頂点を類似指標に基づいてグルーピングする方法である.本研究では,グラフ研磨を用いて交通系ICカードの乗降履歴データに基づくOD表から乗降パターンが類似する駅を抽出する.具体的には,香川県で運行されている鉄道路線「ことでん」において利用可能な交通系ICカード「IruCa」の2013年12月1日から2015年2月28日までの15カ月間に得られた乗降履歴データを用いる.この期間に蓄積されたデータは9,008,709件であり,得られるOD表にグラフ研磨を適用した.得られた結果からは,利用件数の大小に関わらず類似した乗降パターンを持つ駅を抽出できることが明らかとなった.このような本研究の成果により,交通需要分析におけるグラフ研磨の有用性が確認された.
著者
桑野 将司 藤原 章正 塚井 誠人 張 峻屹 岩本 真由子
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D (ISSN:18806058)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.54-63, 2010 (Released:2010-03-19)
参考文献数
17
被引用文献数
2

本研究では自動車の保有期間と年間走行距離の相互依存性を考慮した自動車保有・利用行動の同時決定モデルの開発を行った.具体的には,2変量間の非線形な相互依存性を取り扱うことができるコピュラ関数を用いた多変量生存時間モデルを構築し,保有期間と走行距離の間に異なる依存構造を表現する正規コピュラ,ガンベル・コピュラ,クレイトン・コピュラ,フランク・コピュラの適用を行った.2006年10月に中国地方の5県を対象に行われたアンケート調査のデータを用いた実証分析の結果,保有期間と年間走行距離の間にクレイトン・コピュラを適用したときモデル適合度が最も高く,利用行動と保有行動の間に負の相互依存性が存在することを明らかにした.開発したモデルの現況再現性は従来の分析手法よりも高く,その有効性が実証された.
著者
張 峻屹 藤原 章正 桑野 将司 杉恵 頼寧 李 百鎭
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画. 別冊, 都市計画論文集 = City planning review. Special issue, Papers on city planning (ISSN:09131280)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.97-102, 2006-10-25
参考文献数
11
被引用文献数
2

本研究では世帯居住地選択における集団意思決定メカニズムに着目し,軌道系公共交通沿線への居住促進を念頭に,広島市アストラムライン沿線住宅への転居意向をSP調査によって調べてみた.転居意向をより的確に把握するために,インターネット調査を活用し,転居可能性のある被験者を効率的に抽出することに努めた.今回のケーススタディでは集団意思決定と個人意思決定で,40%もの世帯において世帯構成員の選好結果が変化することが分かった.世帯の代表的な構成員を選定し,世帯居住行動を調べる従来の調査・分析方法は間違った結論を導く恐れのあることが明らかとなった.居住地選択行動においても,多項線形効用関数を用いた集団離散選択モデルによる集団意思決定メカニズムを表現することの有効性を統計的に確認することができた.アストラムライン沿線での居住を促進するには,アストラムラインの駅近辺に集合住宅の建設を政策的に押し進めることが効果的であることが分かった.