- 著者
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梶田 正巳
中野 靖彦
- 出版者
- 日本教育心理学会
- 雑誌
- 教育心理学研究 (ISSN:00215015)
- 巻号頁・発行日
- vol.21, no.3, pp.160-170, 1973
1. TABLE1のごとく, 独立した2種類の対連合学習を5才から13才の5つの年齢水準の児童に実施した。刺激は, 線画で全体として関連のないようなものを選んだ。反応はカラーラベルである。実験は, パスの表裏に刺激と反応を入れ, 色のボールを当てる遊びとして実施した。学習完了後, 実験者は, 提示刺激を20秒間自由再生させ, その後でどのようにして速くボール当てをできるようにしたか, 質問した。そして, 実験者は, この応答と実験中に与えられる手掛りを基礎にして, 被験者がどのような学習型を採ったか判断した。カテゴリーは,(1) 刺激と反応を直接連合するS-R型,(2) 個別反応刺激のみS-R 結合し, それに属さぬ刺激には, 総て共通反応をするE R型,(3) 学習型を決定できないUD, とした。<BR>まず, 2種類の学習課題が, 発達的にどのようなパフォーマンスを生むか分析した。その結果, 次の事が明らかとなった。<BR>(1) 打切り基準内で, 学習基準を達成しえなかった被験者は, 5才児で最も多く, 7才児, 9才児と少なくなった。未到達者は, 第2学習課題で多かった。<BR>(2) 第2学習課題が, 第1学習課題より多くの試行数を要した。また, 年少児が, 年長児より多くの試行を必要とした。年齢水準と課題に相互作用はみられなかった。<BR>(3) どの年齢をとっても, 第2学習課題で提示刺激の再生される数は多かった。しかし, 刺激の何割が正しく再生されたかを示す正再生率をみると, 2種の学習課題に相違はみられなかった。また, 一貫して, 個別反応刺激の正再生されやすい傾向がみられた。<BR>(4) 年長児が年少児より, 個別反応刺激をはじめに続けて反応しやすい傾向がみられた。また, 個別反応刺激から反応する被験者は, ほとんど総てER型学習者と判定されていた。<BR>次に, 分類された学習型に分析の視点を移して, 整理してみると,<BR>(1) 特に, 5才児には, S-R型学習者が多く, 第1 学習課題では, 7才児でER型学習者がドミナントになった。第2学習課題) においても, 5才児でS-R型学習者が多くみられ, 7才児で両学習型は均衡し, 9才児では, ER型学習者が大多数を占めた。7才から8才の間に, 移行期のみられることが示唆された。<BR>(2) 第1学習課題では, S-R型とER型学習者の間に, 学習基準までの試行数の相違はみられなかった。しかし, 第2学習課題ではER型学習者がS-R型学習者より速く学習を完了しており, ここではうER型学習者の発達的増加が試行数の発達的減少に貢献していた。両学習課題のこのような相違は, 課題を構成する刺激の数によって考察された。<BR>2. 研究方法について対連合学習の実験では, 研究者の操作する実験条件にデータを整理する視座を定め, パフォーマンスの種々の側面について関係を調べるのが普通である。この研究でも, 始めに, そのような点から, 2種類の異なった学習課題が発達的にどのようなパフォーマンスを生じさせたか検討してきた。一般的に言って, このようなアプローチは, 研究者が誰でも一致しうるような, また, それゆえに, 再構成可能な独立変数に依存しているので, 資料を分析整理するには, 比較的危険度の少ない方法であろう。しかし, 一定の外部条件を操作したとしても, 被験者の中には実にさまざまな内的過程の生起していることは, あまりにも明らかなことである。ある操作が, ある内的過程に, 一義的に対応しているようなことは, きわめて稀なことではないであろうか。特に, 人間の学習のごとき, 複雑な対象を扱う場合には, その感をまぬがれえない。このように厳密にできる限り外部条件を整えたとしても, 多様な内的過程の干渉によって, パフォーマンスの高い予測性を十分に獲得できないでいるのである。たとえば, 著者らの弁別移行学習の研究においても, 移行条件は確かにパフォーマンスに有意差をもたらしはしたが, 条件とパフォーマンスの関連度は, せいぜいω2 =. 16にとどまっていた (梶田1972)。<BR>それでは, このような欠陥を補なう他の分析方法をとるとしたら, どのような方法が考えられるであろうか。直ちに可能な方法は, 所与の条件下で, 実際, 被験者がどのような内的過程を経ているかを質問し, 接近し, 記述, 分類することであろう。