- 著者
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森 勇一
- 出版者
- 都市有害生物管理学会
- 雑誌
- 家屋害虫 (ISSN:0912974X)
- 巻号頁・発行日
- vol.23, no.1, pp.23-40, 2001-07-30
- 被引用文献数
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文明の進展に伴って人が集中居住するようになり,都市が生まれた.都市には,人の生活や生産に関わる生活ゴミや汚物・産業廃棄物が集積され,これらはやがて自然界に大量廃棄されることとなった.昆虫の中のいくつかは,こうした人為度の高い環境に適応するため,食性やライフスタイルを変化させるものが現れた.いわゆる都市型昆虫である.今から約5,000年前の縄文時代前期の頃,青森県三内丸山遺跡では,汚物や生活ゴミに集まるハエ類や食糞性昆虫を多産した.この結果,日本における都市型昆虫のルーツは縄文時代にまで遡ることが明らかになった.本遺跡では,果実酒造りに利用されたと考えられる種子集積層が確認され,この中からショウジョウバエDrosophilidaeのサナギが多量に見いだされた.発酵物に群がる食品害虫の前身は,縄文時代前期の三内丸山遺跡に求めることができる.いっぽう,中国湖南省の城頭山遺跡では,約5,000年前にはすでに城壁と大環濠に囲まれた都城が建造され,この中に多くの人々が居住していた.環濠に堆積した地層中から見つかった多くの都市型昆虫の出現から,その繁栄ぶりが窺われる.時代が下り,弥生時代中期(約2,000年前)の愛知県朝日遺跡,奈良時代の静岡県川合遺跡では,人の集中居住やこれに伴う環境汚染を物語る食糞性昆虫や食屍性昆虫を多産した.また,中世後期の愛知県清洲城下町遺跡からは,コクゾウSitophilus zeamaisやノコギリヒラタムシOryzaephilus surinamensisなどの貯穀性害虫が見いだされ,穀物の貯蔵施設に関する情報が得られている.