著者
西谷 美乃理 森 理恵
出版者
京都府立大学
雑誌
京都府立大学学術報告. 人間環境学・農学 (ISSN:13433954)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.33-41, 2005-12-25
被引用文献数
1

陸軍被服本廠内の被服協会の機関誌『被服』と,上村六郎『戦時の本染』により,十五年戦争下における染色をめぐる状況を見た。その結果は次のようにまとめられる。植物染料による「本染」(草木染)の振興は,第一に,化学染料の輸入の途絶と国内染料工場の化学兵器工場への転用とによる染料不足,第二に,本土空襲による迷彩色を身につける必要性の高まり,というふたつの要因から企図された。ところが一方,「本染」は,先に民芸関係者により,化学染料にはない美をもつものとして評価しようという動きが開始されていた。これが「本染」振興の第三の要因である。その普及に当たっては,染料不足の解消と迷彩色の獲得という差し迫った目的よりも,これは日本古来の美なのである,という美的精神的側面が強調される。「本染」(草木染)は戦時下の国粋意識と結びつき,戦後にはこの第三の要因によって,支持されることとなった。
著者
森 理恵
出版者
The Japan Society of Home Economics
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.155-164, 2008

本報告では、第二次世界大戦期と戦後高度経済成長期にはさまれた時期の日本の衣生活について明らかにしようとするものである。敗戦後の衣服が欠乏した状態から、衣服が自由に手に入るようになるまでの過渡期の状態については、これまでじゅうぶんに明らかにされているとは言えない。そこで、1950年前後の、総合女性月刊誌「婦人朝日」の記事を分析することにより、当時の女性たちがどのようにして衣生活を再建していったかを明らかにした。女性たちはまず、洋裁学校や洋裁の本で洋裁技術を獲得し、古着や着物を更正して、洋服を作っていった。1950年以降は新しい生地が手に入るようになり、衣服の種類が増え、デザインの幅も広まった。一方、女性たちは、敗戦後の生活物資の不足による、家庭内や家庭外での多くの労働のなかで、和服生活から洋服生活へ移行しつつあったため、和服のよさを再認識しながら、独自に動きやすく働きやすいデザインを工夫していたことが明らかになった。
著者
森 理恵
出版者
The Japan Society of Home Economics
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.66, no.5, pp.197-212, 2015

The purpose of this study was to clarify how the term <i>kimono</i> became popular as a way of referring to Japanese traditional clothing. <br>  We collected articles from the <i>Yomiuri</i> and <i>Asahi newspapers</i> in which the term <i>kimono</i> in <i>kanji</i>, <i>katakana</i>, and <i>hiragana</i> were used by searching those words on their online databases, and analyzed them in order to find out the meaning of the word, as well as the sex and the nationality of the people who wore or possessed <i>kimono</i> in the articles. <br>  We found the following: Firstly, <i>kimono</i> once referred to clothing in general or <i>nagagi</i> (long garment), regardless of which sex it was meant for. Secondly, <i>kimono</i> came to mean Japanese traditional clothing in the 1900s after the word "kimono" was established in Western languages. Thirdly, the word "kimono" tended to be used for women while <i>wafuku</i> and <i>nihonfuku</i> were gender-neutral words. In addition, it became increasingly common to write <i>kimono</i> in hiragana in the 1960s, during which time the main consumers of <i>kimono</i> were women, who preferred that it be written that way.
著者
森 理恵
出版者
京都府立大学
雑誌
京都府立大学学術報告. 人間環境学・農学 (ISSN:13433954)
巻号頁・発行日
vol.58, pp.19-28, 2006-12-25

1889年の創刊以来現在まで日本美術史研究の権威とされる,美術誌『国華』において,その研究を支えた思想の変遷と戦争との関係を明らかにすることを目的とし,日露戦争期,第一次世界大戦期,日中戦争期・太平洋戦争期における,誌上の論説の分析をおこなった。その結果,『国華』の思想は,戦争と深くかかわり,戦争を賛美し,戦争の進展にともなってその思想を発展さ,常に日本帝国主義と歩調を合わせて展開してきたことが明らかになった。
著者
佐々井 啓 徳井 淑子 横川 公子 柴田 美恵 森 理恵 松尾 量子 村田 仁代
出版者
日本女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

各自研究を推進しつつ各年とも3〜4回の研究会で意見の交換を行い報告書にとりまとめた。研究および意見交換は主に西洋と日本のグループに分かれてすすめた。西洋においては19世紀後半のアメリカ、イギリス、日本における「New Women=新しい女」に焦点をあて、New Womenの服飾からジェンダー意識について検討を行った。New Womenの衣服改良運動や、New Womenを扱った演劇・小説に表された服飾表現から、ファッションにあらわれた女性解放について明らかにし、新しい衣装と行動とによって「新しい女」が確立していったことを明らかにした。また、同時代のイギリスの女性のスポーツ服や合理服といった、新たな服飾についての調査を通して、この時代に新たな価値観が提示され、20世紀のジェンダー観に影響を与えていたことが分かった。また、異装については、17世紀前半の英国の女性の異性装、近代フランス文学における男装を取り上げ検討し、17世紀の異装は少年の服飾との相似点から不完全な男装であったことに注目し、当時のジェンダー意識を明らかにした。日本においては、異装については鎌倉期の『とりかえばや』と近世初期の阿国歌舞伎の装いについて中心に検討し、ジェンダーとセクシュアリティーの明証性について考察を進め、装いのジェンダー的な意味を多面的に示すものとの示唆を得、さらに著者である女性の目を通した男女に共通する価値意識についても明らかにした。また、阿国の男装と風流としての男子の女装の検討からは、服飾における両性の接近について明らかにした。また、17世紀初期の風俗について「歌舞伎図巻」から、男性の髪型と服装の関連を明らかにし、流行をリードする社会集団を特定することによって服飾におけるジェンダー観を明らかにした。またその結果をふまえ、近世日本の服装におけるジェンダー観と近代日本の「キモノ」観との関連を明らかにした。