著者
松井 豊 松井 育子 日下部 典生 松村 暢子 高橋 栄男 森本 茂人 荻原 俊男
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.34, no.9, pp.748-754, 1997-09-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
13
被引用文献数
3 1

非ステロイド性抗炎症薬 (Nonsteroidal anti-inflammatory drugs: NSAIDs) が原因と考えられる大腸潰瘍による突然の下血を呈した5症例を経験した. 5例はいずれも老年者であり, 腰背痛, 関節痛に対してNSAIDsが投与されていた. また4例は糖尿病を合併していた. いずれも, NSAIDs投与6日以降より食欲不振を呈し, その後, 下痢症状を呈するが, 重度のものではなく, 自他覚症状とも強くなかった. 血便, 下血は下痢症状出現時から1~17日後に生じた. 緊急大腸内視鏡検査の所見は, 脾彎曲部を中心に, 5例中1例は粘膜びらん, 4例は潰瘍を呈し, 出血を伴っていた. また, 緊急胃十二指腸内視鏡検査は, いずれも出血を伴う急性胃粘膜病変を呈していた. いずれも原因薬剤の中止, 絶食, 中心静脈栄養, 輸血などの処置にて比較的速やかに治癒した.
著者
荻原 俊男 森本 茂人 中橋 毅 島本 和明 松本 正幸 大内 尉義 松岡 博昭 日和田 邦男 藤島 正敏
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.31, no.5, pp.396-403, 1994-05-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
24
被引用文献数
9 8

本邦における高血圧専門家が老年者高血圧の治療方針に関していかなる考え方をしているかについてアンケート法によりその実態を把握することを目的とした. 治療対象について50%の専門家は年齢の上限を考慮しないとしたが, 残り50%は80歳まで, あるいは85歳までを上限としている. 治療対象血圧値は収縮期血圧は60歳代160mmHg以上, 70歳代160~170mmHg以上, 80歳代では170~180mmHgと高齢者程治療対象血圧は上昇, 拡張期血圧は90~95mmHg以上とするものが大部分を占めた. 降圧目標は60歳代では150/90mmHg未満, 70~80歳代では160/90mmHg未満とするものが多く, 80歳代では170~180/95~100mmHg未満と高めに設定するものが20数%あった. 用いる降圧薬ではCa拮抗薬を第一次薬とするものが大部分でありACE阻害薬がこれに次いだ. 一方, サイアザイド, β遮断薬, α1遮断薬を第一次薬とするものは少数であった. 合併症を有する場合の降圧目標や選択降圧薬は疾患によりきめ細かく考慮され, 脳梗塞慢性期, 閉塞性動脈硬化症, 腎障害合併症は70歳代, 80歳代で154~159/89~90, 160~164/90~91mmHgとやや高め, 脳出血慢性期, 虚血性心疾患, 糖尿病, 高脂血症では各々152~153/88, 158~159/89mmHgとやや低めに設定している. Ca拮抗薬はいずれの合併症にもよく用いられ, とくに腎障害, 閉塞性動脈硬化症で高頻度に用いられる. 腎障害ではACE阻害薬が用いられる頻度が低い. β遮断薬は虚血性心疾患で用いられる以外は一般的に用いられない. サイアイド, α1遮断薬は一般的に合併症のある場合にあまり用いられていない. 本邦においても長期介入試験によりこれらを正当化する証明が待たれる.
著者
森本 茂人 今中 俊爾 荻原 俊男
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.395-400, 1989-07-30 (Released:2009-11-24)
参考文献数
20
被引用文献数
1 1

副甲状腺ホルモン(以下PTHと略す)の血圧に与える影響について若年者及び高齢者において比較検討した. 健常若年者15例 (平均年齢±標準偏差: 20.9±1.7歳, 男性7例, 女性8例) および健常高齢者11例 (78.1±5.9歳, 男性4例, 女性7例) に対して合成ヒトPTH (1-34) の100単位を急速静注負荷すると, これら全ての例において, 一過性の降圧効果を認めた. 血圧の基礎値からの最大降下度は, 収縮期血圧において高齢者群(42.5±13.9mmHg)が若年者群 (8.0±8.9mmHg) よりも有意 (p<0.01) に大きかったが, 拡張期血圧においては高齢者群 (25.5±9.4mmHg) と若年者群 (27.3±10.9mmHg) との間に有意差は認められなかった. 平均血圧における最大降下度は高齢者群 (31.9±8.7mmHg) が若年者群 (20.6±7.6mmHg) よりも有意 (p<0.01) に大きかった. 一方, 血清補正カルシウム値は高齢者群 (9.6±0.2mg/dl) において若年者群 (10.0±0.3mg/dl) よりも有意 (p<0.01) に低下しており, またC端に特異性を有する抗体を用いたRIAにより測定した血清中の内因性PTH値は高齢者群 (270±80pg/ml) において若年者群 (150±80pg/ml) よりも有意の高値を示した. 若年者及び高齢者を合わせた全体例において血清補正Ca値は収縮期血圧の最大降圧値と有意の負の相関 (r=-0.52, p<0.01) を示し, また血清の内因性PTH値は収縮期血圧の最大降圧値 (r=0.61, p<0.01) および平均血圧の最大降圧値 (r=0.42, p<0.05) と有意の正の相関を示した. 高齢者においては外因性PTHは血管拡張作用のみならず, 心機能抑制作用をも有し, これらの作用は高齢者におけるカルシウム代謝異常と関係していることが示唆された.
著者
秋下 雅弘 寺本 信嗣 荒井 秀典 荒井 啓行 水上 勝義 森本 茂人 鳥羽 研二
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.303-306, 2004-05-25 (Released:2011-03-02)
参考文献数
10
被引用文献数
12 22

高齢者では臓器機能の低下や多剤併用を背景として薬物有害作用が出現しやすいとされるが, その実態はよく知られていない. そこで, 大学病院老年科5施設の入院症例について, 後ろ向き調査により薬物有害作用出現頻度と関連因子について解析した. 2000年~2002年の入院症例データベースから薬物有害作用の有無が記載された症例を抽出し, 総計1,289例を解析に用いた. 主治医判定による薬物有害作用出現率は, 5施設全体で9.2%, 施設別では6.6~15.8%であった. 薬物有害作用の有無で解析すると, 多疾患合併および老年症候群の累積, 多剤併用, 入院中2薬剤以上の増加, 長期入院, 緊急入院, 抑うつ, 意欲低下が有害作用出現と関連する因子であった. 以上の結果は, 従来の単施設でのデータを裏付けるものであるが, 今後の高齢者薬物療法における参照データとなりうる. 関連因子については, 有害作用の予防および影響の両面から高齢者薬物療法に際して注意していく必要がある.
著者
秋下 雅弘 荒井 啓行 荒井 秀典 稲松 孝思 葛谷 雅文 鈴木 裕介 寺本 信嗣 水上 勝義 森本 茂人 鳥羽 研二
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.271-274, 2009 (Released:2009-06-10)
参考文献数
9

目的:日本老年医学会では,2005年に「高齢者に対して特に慎重な投与を要する薬物のリスト」を含む「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」を発表した.このような薬物有害反応(ADR)を減らす取り組みにはマスコミも関心を持ち,今般,同ガイドライン作成ワーキンググループとNHKは共同で,老年病専門医に対してADR経験と処方の実態を問うアンケート調査を行った.方法:2008年9月,学会ホームページに掲載された全ての老年病専門医(1,492名)の掲載住所宛にアンケートを郵送した.質問項目は,1)この1年間に経験した高齢者ADRの有無(他機関の処方含む),2)上記リスト薬からベンズアミド系抗精神病薬,ベンゾジアゼピン系睡眠薬,ジゴキシン(≥0.15 mg/日),ビタミンD(アルファカルシドール≥1.0 μg/日)および自由追加薬について,過去のADR経験頻度,3)ADR予防目的による薬剤の減量·中止の有無,4)課題と取り組みについての自由意見,とした.結果:回答数425件(29%).1)1年間のADR;72%.2)過去のADR;ベンズアミド79%(稀に54%,よく25%,以下同),ベンゾジアゼピン86%(62%,24%),ジゴキシン70%(61%,9%),ビタミンD 37%(33%,4%).自由回答では,非ステロイド性消炎鎮痛薬が最も多く,降圧薬,抗血小板薬,抗不整脈薬,血糖降下薬,抗うつ薬が次いだ.3)ADR予防目的の減量·中止93%.4)自由意見;ADRに関する医師·患者の啓発活動,老年病専門医の養成,多剤処方回避の指針作りやシステムの確立を挙げる意見が多かった.結語:老年病専門医はADRをよく経験する一方,多くは予防的対策を講じている.今回の意見を,新しい指針作りや啓発活動に生かすべきである.