著者
鳥羽 研二 大河内 二郎 高橋 泰 松林 公蔵 西永 正典 山田 思鶴 高橋 龍太郎 西島 令子 小林 義雄 町田 綾子 秋下 雅弘 佐々木 英忠
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.346-352, 2005-05-15 (Released:2011-03-02)
参考文献数
14
被引用文献数
29 40

【目的】転倒は, 身体的要因と環境要因によっておきるとされているが, 地域において, 環境要因と身体的要因を定量的に比較した研究は少ない. 両者を加味した転倒リスク測定表の開発を目的とする.【方法】厚生労働省研究班, 転倒ハイリスク者の早期発見のための評価方法作成ワーキンググループの会議によって過去の転倒歴と21項目の危険因子を選択し仮の「転倒スコア」とした. 1) 過去一年の転倒 2) つまずく 3) 手摺につかまない階段の昇降 4) 歩く速度が遅延 5) 横断歩道を青のうちにわたりきれない 6) 1km歩行できない 7) 片足で5秒起立できない 8) 杖の使用 9) タオルを固く絞れない 10) めまい, ふらつき 11) 円背 12) 膝痛 13) 視力低下 14) 難聴 15) 物忘れ 16) 転倒不安 17) 5種類以上の服薬 18) 屋内が暗く感じる 19) 家の中の障害物 20) 家の中の段差 21) 家の中の階段使用 22) 生活上家の近くの急な坂道歩行. 対象は全国7地域住民2,439名 (76.3±7.4歳). 検討項目は各項目の該当頻度, 項目の該当有無と転倒の相関, 過去の転倒歴を従属変数とし, 21項目を独立変数とした重回帰分析を行った. 有意な項目に関しては, ロジスティック回帰分析によってオッズ比を算出した.【結果】転倒歴は29%に認められた. 転倒スコア項目では, 物忘れ, 家に段差が60%以上, つまずく, 階段昇降に支障, 視力障害が50%を越えた. 横断歩道を青のうちにわたりきれない, 一方照明が暗い, タオルがきつく絞れないは20%未満であった. 転倒の有無による各因子の頻度の有意差を検定すると, 段差, 階段, 坂道以外のすべての項目が, 転倒者は非転倒者に比べ, 有意に「はい」と答えた率が高かった. 重回帰分析では, 独立した有意な危険因子として, つまずく (p<0.0001), めまい (p<0.0001), 家の中に障害物がある (p=0.0001), タオルがきつく絞れない (p=0.0003), 杖を使っている (p=0.0027), 膝が痛む (p=0.0362) が抽出された. この項目と横断歩道の歩行 (p=0.1) の7項目を用いて, 転倒予測を解析し,3項目以上に該当する場合に, 転倒の感度, 特異度とも良好な値を得た.【結論】内的要因と外的要因を加味した簡便な転倒危険度調査票「転倒スコア」を開発した.「転倒スコア」は, 下位項目の殆どが転倒既往者で高く, 項目選択の妥当性は高い. 段差, 階段などの環境バリアは過去の転倒の危険因子としては重要ではない. 転倒予測因子として, 7項目の短縮板の作成を試み, カットオフ値3項目該当で2/3程度の転倒の予測が可能であり「転倒スコア」の有用性が示唆された.
著者
馬場 幸 寺本 信嗣 長谷川 浩 町田 綾子 秋下 雅弘 鳥羽 研二
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.323-327, 2005-05-15 (Released:2011-03-02)
参考文献数
26
被引用文献数
9 10

嚥下障害のスクリーニングのために, ベッドサイドで実施可能な簡便な検査法がいくつか提唱されてきている. しかしながら, 痴呆を持つ高齢患者においては, それらの検査法の臨床的な有用性や限界について十分に検証されているとはいえない. 今回, 37例の入院患者 (平均年齢81.8±12歳) を対象として, 嚥下機能評価を, 反復唾液嚥下テスト (repetitive saliva swallowing test, 以下RSSTと略す) および簡易嚥下誘発試験 (simple swallowing provocation test, 以下SSPTと略す) を用いて実施し, 同時に認知能と言語コミュニケーション能力について, 改訂長谷川式簡易知能評価スケール (以下HDS-Rと略す) およびミニコミュニケーションテスト (以下MCTと略す) を用いて評価した. RSSTが実施できたのは22例のみであり (59%), 一方, SSPTは全例に実施可能であった. HDS-RスコアおよびMCTスコアは, RSST実施不可能群において, 実施可能群に比べ有意に低値を示した(HDS-R: 7±1 vs 15±3, p<0.01; MCT: 47±8 vs 81±5, p<0.01). また, RSSTにて異常反応は14例 (64%) に, SSPTでの異常反応は5例 (14%) に認められた. 異常反応を示した患者では, 認知能 (p<0.05) および言語コミュニケーション能力 (p<0.05) は有意に低下していた. また, SSPTにおいてむせのあるなしは, 認知能の影響がみられた. この結果より, RSSTは高齢患者における嚥下障害の検出に有用であるが, その適応については患者の認知能と言語コミュニケーション能力に影響されることが示唆された. 高齢者の嚥下障害についてその検査法を選択するうえで, 老年医学的総合評価を行うことは有用であると考えられた.
著者
秋下 雅弘 江頭 正人 小川 純人 大田 秀隆 岡部 哲郎 喩 静 柴崎 孝二 孫 輔卿
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では性ホルモン様作用を有する漢方薬の成分を用いて血管、神経、乳癌、前立腺癌の細胞に対する作用を検討し、臓器別作用を網羅的に解析・分類した。具体的に、乳癌細胞ではエストロゲンと類似した細胞増殖能をもつ生薬成分ともたない成分で分類できた。前立腺癌細胞ではテストステロンと類似した細胞増殖能をもつ成分はなかった。血管ではすべての生薬成分が平滑筋細胞の石灰化を性ホルモンと同様に抑制する効果があった。神経細胞ではginsenoside Rb1がアポトーシスによる細胞傷害を保護する作用があった。このような成果からホルモン補充療法の代替薬として新規薬剤の開発へつながることが期待できる。
著者
秋下 雅弘
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.28-31, 2015-01-20

要旨 加齢に伴い低下するテストステロン分泌は,認知機能の低下や認知症発症とも関連することがわかってきた。地域住民を対象とした疫学研究や認知機能障害を有する患者を対象とした観察研究では,血清テストステロン濃度が低い高齢男性のほうが認知機能は低く,発症・進行が早いことが報告されている。一方,テストステロン補充療法の効果を検討した研究は少ないものの,小規模研究で認知機能の改善効果が報告されている。今後は対象を絞り込んで臨床試験を行うことと,作用機序を解明する研究が求められる。
著者
大田 秀隆 本多 正幸 山口 泰弘 秋下 雅弘 大内 尉義
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.49, no.5, pp.627-631, 2012 (Released:2013-03-04)
参考文献数
8
被引用文献数
2 2

プロトンポンプ阻害薬であるランソプラゾール長期内服によるcollagenous colitisが原因となった,慢性に持続する水様下痢症の一例を報告する.症例は75歳女性.ランソプラゾール(30 mg/日)内服開始後より水様性下痢および体重減少が持続し,上部・下部消化管内視鏡・便中脂肪精査・消化管シンチが施行されたが,上部消化管内視鏡で萎縮性胃炎を認めた以外に異常所見は認められず,以後2年以上にわたり慢性的な下痢が持続していた.2011年5月末より,下痢症状に加え,歩行障害・意識障害が出現し,原因精査および加療目的に入院となった.入院後,薬剤性の下痢を疑ってランソプラゾールを中止しファモチジン(20 mg/日)に変更,中止後数日で下痢は軽快消失しており,同剤によるcollagenous colitisが原因として疑われた.下部消化管内視鏡による病理組織検体からcollagenous colitisの所見を認め,確定診断に至った. collagenous colitisは特に高齢女性に多いことがわかっている.原因不明の難治性下痢症として放置されることが多く,長期間持続する下血を伴わない水様下痢が主症状であり,腹痛・体重減少・低蛋白血症を伴うこともある.これらの症状は,通常は原因薬剤の中止のみで数日~数週で症状は改善し治癒するが,放置されたまま原因不明の下痢症として扱われている場合も多い.これら慢性的な下痢症状は,高齢患者のADLを著しく低下させ,また介護者による負担をも増やすことになる. 今回の症例のように確定診断には,その他の原因疾患の除外・下部内視鏡検査正常所見・下部消化管内視鏡による大腸粘膜生検が必須であるが,確定診断に至る前にcollagenous colitisを念頭に,原因となる薬剤を中止してみることが重要であると考えられ,ここに報告する.
著者
飯島 勝矢 亀山 裕美 秋下 雅弘 大内 尉義 柳元 伸太郎 今井 靖 矢作 直樹 ロペズ ギヨーム 酒造 正樹 山田 一郎
出版者
人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 (ISSN:13479881)
巻号頁・発行日
vol.25, 2011

高齢化が進む中で高齢者認知症患者の管理が大きな問題である。また、認知症は高血圧も含めた生活習慣病との関連も注目されていることから、より幅広い病態把握が必要である。今回、我々はもの忘れを主訴とする高齢入院患者を対象に、カフを必要としないウェアラブル血圧センサーを用いて、様々な負荷による血圧短期変動を検討した。認知機能レベルとそれを背景としたストレス感受性の観点からこの血圧センサーの有用性を報告する。
著者
秋下 雅弘 寺本 信嗣 荒井 秀典 荒井 啓行 水上 勝義 森本 茂人 鳥羽 研二
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.303-306, 2004-05-25 (Released:2011-03-02)
参考文献数
10
被引用文献数
12 22

高齢者では臓器機能の低下や多剤併用を背景として薬物有害作用が出現しやすいとされるが, その実態はよく知られていない. そこで, 大学病院老年科5施設の入院症例について, 後ろ向き調査により薬物有害作用出現頻度と関連因子について解析した. 2000年~2002年の入院症例データベースから薬物有害作用の有無が記載された症例を抽出し, 総計1,289例を解析に用いた. 主治医判定による薬物有害作用出現率は, 5施設全体で9.2%, 施設別では6.6~15.8%であった. 薬物有害作用の有無で解析すると, 多疾患合併および老年症候群の累積, 多剤併用, 入院中2薬剤以上の増加, 長期入院, 緊急入院, 抑うつ, 意欲低下が有害作用出現と関連する因子であった. 以上の結果は, 従来の単施設でのデータを裏付けるものであるが, 今後の高齢者薬物療法における参照データとなりうる. 関連因子については, 有害作用の予防および影響の両面から高齢者薬物療法に際して注意していく必要がある.
著者
秋下 雅弘 荒井 啓行 荒井 秀典 稲松 孝思 葛谷 雅文 鈴木 裕介 寺本 信嗣 水上 勝義 森本 茂人 鳥羽 研二
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.271-274, 2009 (Released:2009-06-10)
参考文献数
9

目的:日本老年医学会では,2005年に「高齢者に対して特に慎重な投与を要する薬物のリスト」を含む「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」を発表した.このような薬物有害反応(ADR)を減らす取り組みにはマスコミも関心を持ち,今般,同ガイドライン作成ワーキンググループとNHKは共同で,老年病専門医に対してADR経験と処方の実態を問うアンケート調査を行った.方法:2008年9月,学会ホームページに掲載された全ての老年病専門医(1,492名)の掲載住所宛にアンケートを郵送した.質問項目は,1)この1年間に経験した高齢者ADRの有無(他機関の処方含む),2)上記リスト薬からベンズアミド系抗精神病薬,ベンゾジアゼピン系睡眠薬,ジゴキシン(≥0.15 mg/日),ビタミンD(アルファカルシドール≥1.0 μg/日)および自由追加薬について,過去のADR経験頻度,3)ADR予防目的による薬剤の減量·中止の有無,4)課題と取り組みについての自由意見,とした.結果:回答数425件(29%).1)1年間のADR;72%.2)過去のADR;ベンズアミド79%(稀に54%,よく25%,以下同),ベンゾジアゼピン86%(62%,24%),ジゴキシン70%(61%,9%),ビタミンD 37%(33%,4%).自由回答では,非ステロイド性消炎鎮痛薬が最も多く,降圧薬,抗血小板薬,抗不整脈薬,血糖降下薬,抗うつ薬が次いだ.3)ADR予防目的の減量·中止93%.4)自由意見;ADRに関する医師·患者の啓発活動,老年病専門医の養成,多剤処方回避の指針作りやシステムの確立を挙げる意見が多かった.結語:老年病専門医はADRをよく経験する一方,多くは予防的対策を講じている.今回の意見を,新しい指針作りや啓発活動に生かすべきである.
著者
飯島 勝矢 亀山 祐美 秋下 雅弘 大内 尉義 柳元 伸太郎 今井 靖 矢作 直樹 ロペズ ギヨーム 酒造 正樹 山田 一郎
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会論文誌 (ISSN:13460714)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.40-45, 2012 (Released:2012-02-01)
参考文献数
7
被引用文献数
1 1

An increase in short-term blood pressure (BP) variability is a characteristic feature in the elderly. It makes the management of hemodynamics more difficult, because it is frequently seen disturbed baro-reflex function and increased arterial stiffness, leading to isolated systolic hypertension. Large BP variability aggravates hypertensive target organ damage and is an independent risk factor for the cardiovascular (CV) events in elderly hypertensive patients. Therefore, appropriate control in BP is indispensable to manage lifestyle-related diseases and to prevent subsequent CV events. In addition, accumulating recent reports show that excessive BP variability is also associated with a decline in cognitive function and fall in the elderly. In the clinical settings, we usually evaluate their health condition, mainly with single point BP measurement using cuff inflation. However, unfortunately we are not able to find the close changes in BP by the traditional way. Here, we can show our advantageous approach of continuous BP monitoring using newly developing device `wearable BP sensing' without a cuff stress in the elderly. The new device could reflect systolic BP and its detailed changes, in consistent with cuff-based BP measurement. Our new challenge suggests new possibility of its clinical application with high accuracy.