著者
荒井 秀典
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.206-211, 2019-11-30 (Released:2020-01-28)
参考文献数
18

高齢化している呼吸器疾患患者において認知症,尿失禁,転倒などの老年症候群とともにサルコペニア,フレイルの合併が多くなってきている.特にCOPD患者においては息切れなどによる運動制限や慢性炎症から身体機能が低下しやすく,サルコペニア,フレイルの合併頻度が高い.同時にこれらの合併症はCOPD患者の予後に影響を与える.これらの病態は高齢者において合併しやすいが,COPD患者においてはより若年期からの合併の有無についてスクリーニングを行うとともに適切な予防策を講じることが求められる.すなわち,呼吸器疾患の管理とともに適切な栄養療法,運動療法を継続することが老年期におけるサルコペニア,フレイルの予防につながり,ひいては呼吸器疾患患者の予後の改善につながる.本稿ではサルコペニア,フレイルの概念を概説し,呼吸器疾患患者において問題となりつつあるこれらの病態に対する対処法について述べたい.
著者
荒井 秀典
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.1-5, 2019-01-25 (Released:2019-02-13)
参考文献数
2
被引用文献数
2 6

2018年9月の時点で我が国の高齢化率は28%を超え,70歳以上の高齢者も20%を超えた.言うまでもなく日本は世界で最も高齢化が進んでいる国である.2025年頃には国民の約3分の1が65歳以上となることが予想され,平均余命も1960年に比べ,20歳近く延伸している現状を考えると,高齢者の定義を65歳以上とすることの是非を議論すべき時期になったと言わざるを得ない.日本老年学会,日本老年医学会はこのような背景を受けて高齢者の定義を再考するためのワーキンググループを立ち上げ,科学的な観点から提言を2017年に発表した.すなわち,身体的に日本人高齢者が若返っている客観的事実と支えられるべき高齢者を75歳以上とする日本人が多数を占めているという実情から,75歳以上を高齢者とし,65歳から74歳までを准高齢者とすることを提言した.活力ある社会を維持していくためには,65歳という暦年齢をもって高齢者と定義することを改め,元気で意欲のある高齢者が活躍するエイジフリー社会を創造していくことがますます重要となってくる.

1 0 0 0 OA 9.脂質異常症

著者
荒井 秀典
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.102, no.4, pp.890-894, 2013 (Released:2014-04-10)
参考文献数
9
被引用文献数
4 4

糖尿病は動脈硬化性疾患の重要な危険因子であり,狭心症,心筋梗塞,脳梗塞,末梢動脈疾患など大血管障害の予防は,患者のQOL(quality of life)維持のためきわめて重要である.本稿では,糖尿病における脂質代謝異常の特徴を理解するとともに,その治療方針について述べる.
著者
木下 かほり 佐竹 昭介 松井 康素 荒井 秀典
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.72, no.5, pp.221-229, 2019 (Released:2019-10-28)
参考文献数
38
被引用文献数
1

フレイル高齢者でエネルギー摂取とは独立して偏りやすい栄養素を横断的に解析することを目的とした。当院フレイル外来を受診した独歩可能な高齢者270名 (年齢中央値79歳) を対象とし, 中等度以上の認知機能低下やタンパク質制限を要する者は除外した。フレイルはJ-CHS基準で評価した。食事摂取量は簡易型自記式食事歴法質問票で評価し, 推定エネルギー必要量を摂取したと仮定した栄養素・食品摂取量を算出後, 22の栄養素摂取量が日本人の食事摂取基準の推奨量または目安量を満たすかどうか評価した。フレイル有無において基準を満たしていない者の割合をχ2検定で性別に比較し, 差を認めた栄養素を従属変数, フレイルを独立変数, 年齢, BMIを共変量としたロジスティック回帰分析を性別に行った。その結果, 女性でのみ有意な関連を認め, フレイルの亜鉛摂取基準値未満に対するオッズ比 (95%信頼区間) は2.50 (1.23‐5.06) であった。フレイルな高齢女性では亜鉛の不足に留意した栄養指導が必要である。
著者
木下 かほり 佐竹 昭介 西原 恵司 川嶋 修司 遠藤 英俊 荒井 秀典
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.188-197, 2019-04-25 (Released:2019-05-16)
参考文献数
30
被引用文献数
1

目的:外出低下は身体機能や抑うつの影響を受け,いずれも低栄養と関連する.低栄養の早期兆候である食事摂取量減少と外出低下との関連を検討した.方法:老年内科外来を初診で受診した高齢者で認知症あり,要介護認定あり,施設入所中,急性疾患で受診,調査項目に欠損がある者を除外し463名(男性184名,女性279名)を解析した.調査項目は性,年齢,BMI,服薬数,基本チェックリスト,MNA-SFとした.外出週1回未満を外出頻度低下とし,過去3カ月に中等度以上の食事摂取量減少ありを食事摂取量減少とした.外出頻度低下有無で2群に分け調査項目を比較した.目的変数を食事摂取量減少あり,説明変数を外出頻度低下ありとしたロジスティック回帰分析を行った.調整変数は,性,年齢,および,外出頻度低下有無2群間に差を認めた項目で多重共線性のなかった服薬数,基本チェックリストの栄養状態項目得点,口腔機能項目得点,身体機能項目得点,うつ項目得点とした.結果:平均年齢は男性79.6±5.9歳,女性79.9±6.1歳,外出頻度の低下は104名(22.5%).外出頻度低下あり群では外出頻度低下なし群と比べて,高年齢で服薬数が多く,MNA-SF合計点が低く,基本チェックリスト合計点が高かった(すべてp<0.05).ロジスティック回帰分析では性,年齢,服薬数,栄養状態項目得点,口腔機能項目得点で調整後,食事摂取量減少ありに対する外出頻度低下ありのオッズ比2.5,95%信頼区間1.5~4.4,さらに身体機能項目得点およびうつ項目得点で調整後のオッズ比2.0,95%信頼区間1.1~3.6であった.結論:生活機能の自立した高齢者では多変量調整後も外出頻度低下は食事摂取量減少と関連した.食事摂取量減少はエネルギー出納を負に傾け体重を減少させ低栄養をきたす.低栄養の早期予防には日常診療で高齢者の外出頻度に注目することが重要である.
著者
秋下 雅弘 寺本 信嗣 荒井 秀典 荒井 啓行 水上 勝義 森本 茂人 鳥羽 研二
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.303-306, 2004-05-25 (Released:2011-03-02)
参考文献数
10
被引用文献数
12 22

高齢者では臓器機能の低下や多剤併用を背景として薬物有害作用が出現しやすいとされるが, その実態はよく知られていない. そこで, 大学病院老年科5施設の入院症例について, 後ろ向き調査により薬物有害作用出現頻度と関連因子について解析した. 2000年~2002年の入院症例データベースから薬物有害作用の有無が記載された症例を抽出し, 総計1,289例を解析に用いた. 主治医判定による薬物有害作用出現率は, 5施設全体で9.2%, 施設別では6.6~15.8%であった. 薬物有害作用の有無で解析すると, 多疾患合併および老年症候群の累積, 多剤併用, 入院中2薬剤以上の増加, 長期入院, 緊急入院, 抑うつ, 意欲低下が有害作用出現と関連する因子であった. 以上の結果は, 従来の単施設でのデータを裏付けるものであるが, 今後の高齢者薬物療法における参照データとなりうる. 関連因子については, 有害作用の予防および影響の両面から高齢者薬物療法に際して注意していく必要がある.
著者
秋下 雅弘 荒井 啓行 荒井 秀典 稲松 孝思 葛谷 雅文 鈴木 裕介 寺本 信嗣 水上 勝義 森本 茂人 鳥羽 研二
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.271-274, 2009 (Released:2009-06-10)
参考文献数
9

目的:日本老年医学会では,2005年に「高齢者に対して特に慎重な投与を要する薬物のリスト」を含む「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」を発表した.このような薬物有害反応(ADR)を減らす取り組みにはマスコミも関心を持ち,今般,同ガイドライン作成ワーキンググループとNHKは共同で,老年病専門医に対してADR経験と処方の実態を問うアンケート調査を行った.方法:2008年9月,学会ホームページに掲載された全ての老年病専門医(1,492名)の掲載住所宛にアンケートを郵送した.質問項目は,1)この1年間に経験した高齢者ADRの有無(他機関の処方含む),2)上記リスト薬からベンズアミド系抗精神病薬,ベンゾジアゼピン系睡眠薬,ジゴキシン(≥0.15 mg/日),ビタミンD(アルファカルシドール≥1.0 μg/日)および自由追加薬について,過去のADR経験頻度,3)ADR予防目的による薬剤の減量·中止の有無,4)課題と取り組みについての自由意見,とした.結果:回答数425件(29%).1)1年間のADR;72%.2)過去のADR;ベンズアミド79%(稀に54%,よく25%,以下同),ベンゾジアゼピン86%(62%,24%),ジゴキシン70%(61%,9%),ビタミンD 37%(33%,4%).自由回答では,非ステロイド性消炎鎮痛薬が最も多く,降圧薬,抗血小板薬,抗不整脈薬,血糖降下薬,抗うつ薬が次いだ.3)ADR予防目的の減量·中止93%.4)自由意見;ADRに関する医師·患者の啓発活動,老年病専門医の養成,多剤処方回避の指針作りやシステムの確立を挙げる意見が多かった.結語:老年病専門医はADRをよく経験する一方,多くは予防的対策を講じている.今回の意見を,新しい指針作りや啓発活動に生かすべきである.
著者
荒井 秀典 長尾 能雅 森本 剛 坪山 直生
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.36-38, 2011 (Released:2011-03-03)
参考文献数
4

入院中の転倒・転落により骨折や重大な外傷を生じたり,転倒への恐れから活動性の低下を招いたりすることは高齢者,特に虚弱高齢者で多く発生するため,対策が必要である.京大病院においては平成18年4月に転倒転落事故防止委員会を発足し,院内の転倒・転落事故に対する分析及び対策を行ってきた.また,院内環境・病棟対策班,データ収集・分析・アセスメントスコアシート評価班,院内広報班,事例調査班を作ることにより,転倒・転落原因の調査・分析,およびその対策を講じるとともに,患者への啓発活動を行ってきた.また,入院患者の転倒リスク評価を行い,低・中・高リスクに分類し,その実際の院内転倒・転落事故との関連を分析した.本稿においては本委員会の活動内容を示すとともに,大学病院など急性期病院における転倒予防について述べたい.