著者
白土(堀越) 東子 武田 直和
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.181-189, 2007 (Released:2008-06-05)
参考文献数
27
被引用文献数
4 2

ノロウイルス(NoV)は世界各地で発生しているウイルス性下痢症の主たる原因ウイルスである.少なくとも33遺伝子型を有し,極めて多様性を持った集団として存在する.近年,NoVのプロトタイプであるNorwalk/68(NV/68)株が血液型抗原であるH(O),A,Leb型抗原に吸着することが明らかになった.血液型抗原とは抗原構造をもった糖鎖の総称であり,ヒトの赤血球表面だけでなく,NoVが標的とするであろう腸管上皮細胞にも発現されている.血液型抗原の合成に関与するフコース転位酵素の一つであるFUT2(Se)酵素をコードするFUT2遺伝子が活性型のヒトでは血液型抗原が腸管上皮細胞に発現されている(分泌型個体).これに対しSe遺伝子が変異により不活化すると,血液型抗原は上皮細胞に発現されなくなる(非分泌型個体).NV/68株をボランティアに感染させると分泌型個体で感染が成立し非分泌型個体では成立しない.さらに血液型間で感染率を比較検討すると,O型のヒトでの感染率が高くB型では感染率が低いことが報告されている.しかし,その一方でNoVに属するすべてのウイルス株がNV/68と同じ血液型抗原を認識するわけではないことが明らかになってきた.GII/4遺伝子型は他の遺伝子型に比べ結合できる血液型抗原の種類が多く,またそれぞれの血液型抗原への結合力も強いことがin vitro binding assay,疫学研究の両面から証明されている.この遺伝子型は,日本も含め世界中で流行している株であるが,その伝播力についても答えが出ていない.直接的な証明はまだなされていないものの,GII/4遺伝子型株の血液型抗原への結合力の強さが伝播力の強さに結びついている可能性が大きい.血液型抗原への吸着をスタートとしたNoVの感染が,その後,どの様なメカニズムによって下痢症発症にまで結びつくのか,解明が待たれる.
著者
北村 明子 成澤 忠 林 明男 芦原 義久 石古 博昭 箕原 豊 徳竹 忠臣 加藤 達夫 栄 賢司 武田 直和
出版者
社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.71, no.8, pp.715-723, 1997-08-20 (Released:2011-09-07)
参考文献数
7
被引用文献数
2 4

夏に日本で流行する手足口病は, コクサッキーウイルスA16 (CA16) とエンテロウイルス71 (EV71) が主な病因ウイルスである. 簡便にCA16とEV71を型同定する方法を確立するため, VP4領域の塩基配列を解析し特異プローブの作製を試みた. CA16とEV71の標準株, CA16分離株4株, EV71分離株17株, 手足口病と診断された患者の咽頭拭い液2検体のVP4領域の塩基配列を直接解読し, VP4領域の3'側に存在する2カ所の血清型特異的なアミノ酸配列からCA16混合プローブとEV71混合プローブを設計した. エンテロウイルス標準株39株, CA16分離株7株, EV71分離株66株を用い, VP4領域を含む51非翻訳領域とVP2領域をエンテロウイルス共通プライマーで増幅し, サザンハイブリダイゼーションを行った. CA16混合プローブはCA16標準株を含むすべてのCA16分離株由来のPCR産物とのみ反応し, 他の血清型とは反応しなかった. また, EV71混合プローブはEV71分離株とのみ反応し, EV71標準株を含むすべての標準株やCA16分離株とは反応しなかった. 1995年の臨床検体を本法により直接型同定を行ったところ咽頭拭い液78例中70例 (89.7%) はCA16混合プローブと, 1例はEV71混合プローブと反応し, 水庖内容物15例のうち13例 (86.7%) がCA16混合プローブと反応した. 本法は臨床検体からのウイルス分離を必要とせず, 中和法よりも迅速かつ高感度に同定できる方法と考えられる.
著者
李 天成 武田 直和
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.106, no.2, pp.195-200, 2009 (Released:2009-02-05)
参考文献数
13

E型肝炎ウイルス(HEV)はE型肝炎の原因ウイルスで,エンベロープを持たない小型球形RNAウイルスである.少なくとも4つの異なる遺伝子型が存在するが,血清型は同一である.日本におけるHEVは主に輸入感染,動物由来感染,輸血感染という3つのルートで伝播する.E型肝炎の診断にはRT-PCR法とELISA法があり,確実な診断が可能になっている.HEVの感染をコントロールするにはワクチンの開発が必須である.現在,DNAワクチンあるいは組換え蛋白ワクチン開発の研究が進んでいるがまだ実用化されていない.
著者
白土 堀越 東子 武田 直和
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.181-190, 2007-12-22
参考文献数
27
被引用文献数
1 2

ノロウイルス(NoV)は世界各地で発生しているウイルス性下痢症の主たる原因ウイルスである.少なくとも33遺伝子型を有し,極めて多様性を持った集団として存在する.近年,NoVのプロトタイプであるNorwalk/68(NV/68)株が血液型抗原であるH(O),A,Le<SUP>b</SUP>型抗原に吸着することが明らかになった.血液型抗原とは抗原構造をもった糖鎖の総称であり,ヒトの赤血球表面だけでなく,NoVが標的とするであろう腸管上皮細胞にも発現されている.血液型抗原の合成に関与するフコース転位酵素の一つであるFUT2(Se)酵素をコードする<I>FUT2</I>遺伝子が活性型のヒトでは血液型抗原が腸管上皮細胞に発現されている(分泌型個体).これに対しSe遺伝子が変異により不活化すると,血液型抗原は上皮細胞に発現されなくなる(非分泌型個体).NV/68株をボランティアに感染させると分泌型個体で感染が成立し非分泌型個体では成立しない.さらに血液型間で感染率を比較検討すると,O型のヒトでの感染率が高くB型では感染率が低いことが報告されている.しかし,その一方でNoVに属するすべてのウイルス株がNV/68と同じ血液型抗原を認識するわけではないことが明らかになってきた.GII/4遺伝子型は他の遺伝子型に比べ結合できる血液型抗原の種類が多く,またそれぞれの血液型抗原への結合力も強いことがin vitro binding assay,疫学研究の両面から証明されている.この遺伝子型は,日本も含め世界中で流行している株であるが,その伝播力についても答えが出ていない.直接的な証明はまだなされていないものの,GII/4遺伝子型株の血液型抗原への結合力の強さが伝播力の強さに結びついている可能性が大きい.血液型抗原への吸着をスタートとしたNoVの感染が,その後,どの様なメカニズムによって下痢症発症にまで結びつくのか,解明が待たれる.
著者
谷村 雅子 宮村 紀久子 武田 直和
出版者
The Genetics Society of Japan
雑誌
遺伝学雑誌 (ISSN:0021504X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.137-150, 1985
被引用文献数
17

With the aim of elucidating the origin and the route of transmission of enterovirus 70 (EV70), we constructed a phylogenetic tree using the base sequence variation deduced from the oligonucleotide map of the virus genomes of 16 strains isolated between 1971 and 1981 in different parts of the world. For this purpose, we estimated the evolutionary rate of EV70, taking advantage of the fact that the dates of isolation of the strains are precisely known. Furthermore, the divergence times between viruses were estimated using base sequence variation, the evolutionary rate and the sampling times of the strains. The phylogenetic tree and the divergence times between the branches were estimated simultaneously by UPGMA. The phylogenetic tree constructed is in good agreement with epidemiological evidences of EV70, indicating the valid estimation of the tree. It is also shown that the evolutionary rate of EV70 is extremely rapid and constant.
著者
宮村 達男 吉田 弘 清水 博之 PHAN Van Tu 米山 徹夫 萩原 昭夫 松浦 善治 武田 直和 RADU Crainic DELPEYROUX F CRAINIC Radu
出版者
国立感染症研究所
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1996

ポリオウイルスは代表的なエンテロウイルスであり、経口感染によりヒトからヒトへと伝播する。そしてヒトのみが唯一の感受性自然宿主である。糞口感染が日常的におこらないような衛生状態が恒常的に保たれれば、ポリオの伝播は次第に絶ち切られ、ポリオという疾患は消滅するはずである。一気にポリオを根絶する為には、更に強力な免疫計画とサーベイランスが必要であり、この目的をもって世界レベルの根絶計画がWHOの強力な指導のもとにスタートした。我が国の属する西太平洋地域では野生株ポリオウイルスは激減しているが、本研究は最後までウイルスが残っているベトナムをその対象領域として、野生株ポリオウイルスが弱毒性ワクチン株に置き換えられてゆく最後の過程を検証することにある。1997年、ベトナムでは1例、隣国のカンボジアでは8例の野生株が分離された。これらは現地で急性弛緩性マヒ(Acute Flaccid Paralysis:AFP)を生じた小児の糞便検体が当研究室に送付され、ウイルス分離、同定、型内鑑別が行われたものである。そしてこれらの分離株のVP-1領域の塩基配列を決定し、これまで周囲で分離されていた野生株と比較した。その結果、インドシナ半島で複数存在していた株のうちの一つのみが残っていることがわかった。北ベトナムでAFP例から分離されたウイルスは、ここ2年間、すべてワクチン由来株であったが、この1年はワクチン株の分離も減少している。一方、南ベトナムの国家ラボで得られた成績と日本のラボでの成績には、一部不一致がみられた。その問題点を解決する手段として、野本らにより樹立されたポリオウイルスのレセプターを発現しているマウス細胞株(Lα細胞)を用いた、ポリオウイルス選択的なウイルス分離が提唱され、実行されつつある。かくして、1997年3月19日のカンボジアの1例を最後として、野生株は分離されておらず、これが最後の例となるか、更なる強力な監視が必要である。