著者
武藤 正義
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.89-104, 2002-06-30 (Released:2009-02-10)
参考文献数
22
被引用文献数
7 13

本稿の目的は、集団において行為者がランダムに繰り返し相手を替えて1回限りの2人囚人のジレンマをプレイしている場合、行為者が僅かな利他性をもつならば、集団は、協力率が高く安定な状態になりうる、ということを示すことにある。分析の結果、相互協力から逸脱する誘因が小さい場合、利他性の平均が低いときでも、その分散を小さくしていくと、突然、協力率が高く安定な均衡が現れ、初発の協力率が高いという条件付だが、集団はその均衡に収束することがわかった。
著者
武藤 正義
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.182-199, 2005-06-30 (Released:2009-10-19)
参考文献数
24
被引用文献数
8

本稿の目的は, 「どんな2者相互行為状況 (2人ゲーム) でも, 常にパレート効率性をもたらしうる」という意味での望ましい倫理規範があるのか, あるとすればそれはなにかを明らかにすることにある.ここでいう倫理規範とは, 他者の利得を配慮し, かつ行為者に共有されている, 「自他の利得の組に対する評価の仕方」のことである.倫理規範には, 利己主義, 利他主義, 功利主義, 平等主義などがある.各行為者は, 客観的な状況を表す利得行列g上ではなく, gを倫理規範vによって変換した主観的な状況解釈の組である「評価行列」vg上で行為選択すると仮定する.これを「二層ゲーム・モデル」とよび, vg上の純粋ナッシュ均衡が定常的に実現すると考える.このとき, どんな状況gにおいても, g上のあるパレート効率的な行為の組をvg上の純粋ナッシュ均衡にするような倫理規範vはあるのか, あるとすればそれはなにか.これが本稿の解くべき問題である.分析の結果, つぎのことがわかった. (1) このような倫理規範は存在し, それは「不偏性」と「利他性」をもつものに一致する. (2) 具体的には, この倫理規範は「マクシマクス」と「マクシミン」の一次結合で表現される. (3) 過度の平等主義は排除される.
著者
武藤 正義
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.63-76, 2006-04-30 (Released:2007-08-01)
参考文献数
26
被引用文献数
5 5

本稿の目的は2つある。第1に、合理的選択理論において利己性について扱いうる4つの立場を区別する基準を示し、そのひとつである社会的動機アプローチの位置を明らかにする。第2に、二者関係における多様な社会的動機(配慮の仕方)を「利他性」と「平等性」という2変数によって表現することにより、13個の典型的な社会的動機間の相互関係を明らかにする。たとえば、「負けず嫌い」は反利他的かつ平等的な動機、「マクシミン主義」は利他的かつ平等的な動機の弱い形態、等がわかる。これらの知見はボランティアや友人関係の分析などに役立つだろう。
著者
武藤 正義
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.1-16, 2007 (Released:2007-08-03)
参考文献数
27
被引用文献数
1

社会学的研究における数理モデルには「現象説明」型と「制度理解」型の2つがある。現象説明モデルは特定の社会現象をメカニズムとして記述し、現象のデータを説明することを目指す。制度理解モデルはもうすこし抽象度が高く広汎で持続的な社会現象、すなわち制度をメカニズムとして理解することを目指す。両者の関係は相互補完的であるが、今日では制度理解モデルは地に足のつかないものとして敬遠される向きもある。しかし、制度理解モデルは、第1に、社会の見えざる制度を明らかにする発見的価値を有することで社会への理解を深め、第2に、それによって社会をより望ましい方向へと構築していく倫理的価値を有することで社会に貢献する。なお、この理解の経験的な正しさは、制度理解モデルが産出する規範的命題が当為を突きつけることによって支えられている。規範的命題によって制度理解モデルは机上の空論を免れる。制度理解モデルは、特定の現象の説明を超えてより普遍的な制度のメカニズムを明らかにする点で広汎な興味と利用の可能性に開かれているため、共通言語性をもつ。また、数学は諸学問分野の橋渡しとなるおそらく唯一の共通言語である。この二重の共通言語性において、制度理解型の数理モデルが探究される意義がある。
著者
武藤 正義
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.63-76, 2006

本稿の目的は2つある。第1に、合理的選択理論において利己性について扱いうる4つの立場を区別する基準を示し、そのひとつである社会的動機アプローチの位置を明らかにする。第2に、二者関係における多様な社会的動機(配慮の仕方)を「利他性」と「平等性」という2変数によって表現することにより、13個の典型的な社会的動機間の相互関係を明らかにする。たとえば、「負けず嫌い」は反利他的かつ平等的な動機、「マクシミン主義」は利他的かつ平等的な動機の弱い形態、等がわかる。これらの知見はボランティアや友人関係の分析などに役立つだろう。
著者
武藤 正義
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.301-316, 2009-09-30 (Released:2010-03-30)
参考文献数
25

本稿の目的は,平等主義やマクシミン主義や競争主義など,他者配慮にかんする豊かな意味内容をもった二者関係における評価関数を,公理論的に導くことにある.この評価関数は,自他の利得差の絶対値を含むやや複雑な形をしているが,形式的かつ単純な仮定から導かれる.具体的にはこれらの仮定は,(1)自他の利得が比較できる,(2)利得と評価のそれぞれの(選好)順序が正アフィン変換によっても変わらない,というものである.これらの仮定は平等的な性質をもっていないようにみえるが,演繹的に導出される評価関数は平等主義的なものを含むのである.
著者
武藤 正義
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.71-86, 2007 (Released:2007-08-03)
参考文献数
25
被引用文献数
1

本稿の目的は、相互に配慮することの社会的な帰結をゲーム理論的に明らかにすることにある。扱う状況は2 × 2対称ゲーム(すなわち2人2選択肢対称ゲーム、全部で12個)に絞る。配慮の仕方は「利他性」と「平等性」によって定義される。利他主義、競争主義、平等主義など、典型的な13個の配慮の仕方をとりあげる。両行為者は同じ配慮の仕方をとるものとする。配慮はゲームの利得構造を主観的に変形する。この変形を分析した結果、たとえばつぎのことが明らかになった。(1)2 × 2対称ゲームでは、利他性と平等性を適当に変えることで、ほとんどの客観的状況をどんな主観的状況にもすることができる。(2)同じ配慮の仕方でも、パレート効率に照らして望ましい状況と望ましくない状況がある。たとえば反利他的かつ平等的な「負けず嫌い」は囚人のジレンマとチキンゲームで望ましくない。(3)パレート非効率を最も引き起こしやすい配慮の仕方は、競争主義と犠牲主義(12個中7個のゲーム)、ついで反平等主義(6個)である。一方、平等主義(2個)は平等だけでなく、パレート効率という点でも望ましい。利己主義と利他主義(1個)は、じつはパレート非効率を引き起こしにくい。なお、マクシミン・マクシマクス・功利主義はパレート非効率を引き起こさない。このように、2 × 2対称ゲームでのパレート非効率を引き起こしやすい配慮の仕方のランキングが明らかになった。以上の知見は友人関係や家族関係やボランティアなどの分析に役立つだろう。