著者
浜田 宏
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.91-104, 1999-03-31 (Released:2016-09-30)
参考文献数
25
被引用文献数
2

本稿のテーマは、準拠集団と相対的剥奪である。歴史的個体の説明に限定されない一般理論としての相対的剥奪の基本メカニズムは、既にBoudon(1982)とKosaka(1986)によって定式化され、モデルからは報奨密度の増加に伴う相対的剥奪率の上昇には臨界点が存在する、等のインプリケーションが導出された。本稿では、相対的剥奪モデルと既存の準拠集団論との接合は充分でなかったことを示し、Stouffer et al.(1949a)、Merton(1957=1961)などの帰納的研究の知見を基にモデルを修正し、相対的剥奪と準拠集団という概念の理論的な統合を図る。修正モデルでは、各行為者は属性の共有に基づいて準拠集団を選択する、という仮説に基づいた場合の相対的剥奪率の変化を分析した。その結果、選択の際に用いた属性の組み合わせによっては、利益率R›1のときに剥奪の臨界点が二つになること、剥奪率の最大値が一定であること、等のインプリケーションが導出された。
著者
浜田 宏
出版者
Japanese Association For Mathematical Sociology
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.259-276, 2012

重回帰分析に代表される説明変数の線形結合モデルは,その適用において単純な数式による真の関係の近似という以上の積極的な根拠を従来持っていなかった.本稿では特定の条件下で,社会学的仮定から導出された数理モデルによって,線形結合モデルが基礎づけられることを示し,計量分析で用いられる統計モデルに対して,単なるあてはめではない理論的な根拠を与えることを目指す.具体的には階層帰属意識研究におけるFararo-Kosakaモデルと地位継承モデルが重回帰モデルの基礎付けとなり得ることを示し,階層帰属意識研究という文脈における,計量モデルと数理モデルの統合的な発展の条件を検討する.
著者
浜田 宏
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.183-198, 2006-09-30 (Released:2007-08-02)
参考文献数
23
被引用文献数
2

数理社会学者が解くべき問題を共有するためには、問題そのものへの共感以前に問題の可解性基準を共有しなければならない。本稿ではこの可解性の基準を「弱い経験的妥当性」として特徴づける。社会学は伝統的に、行為の意味を解釈するという方法で行為のプロセスと結果を説明しようと努めてきた。行為の意味を直接観察することはできないので、行為者の主観的意味の問題に過度に拘泥すると、理論の経験的な正しさを判定することが困難になる。したがって意味を仮定に組み込んだモデルの経験的な正しさは、仮定そのものではなく目的の社会現象のおおよその傾向がモデルから導出できているかどうかで判定すべきである。特に弱い経験的妥当性とは、モデルから導出されたインプリケーションが、説明対象である社会現象の大まかな傾向性と一致していることをいう。科学としての数理社会学は弱い経験的妥当性を満たすモデルを開発し続けることで発展する。
著者
浜田 宏
出版者
関東社会学会
雑誌
年報社会学論集 (ISSN:09194363)
巻号頁・発行日
vol.1997, no.10, pp.121-132, 1997-06-05 (Released:2010-04-21)
参考文献数
35

In sociology, many studies have pointed out that the combination of marriage with love had not been established until the modern era. The purpose of this paper focusing solely on Japan is to clarify the essence of the transformation of love that is conjectured from the fact that the Japanese word “ren-ai” means approximately the same thing as the English “love” or the French word amour. Furthermore, ren-ai has been prominent use in Japan since the Meiji period. Through an analysis of ‘love, ’ I want to provide and to show the grounds for an argument that understanding historical change in a specific mode of communication is one way to make clear endemic elements of “modernity. ”
著者
浜田 宏
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.2_3-2_17, 1999-09-30 (Released:2016-09-30)
参考文献数
16

ジブラ法則に従うことが経験的に知られている所得分布が、個人の合理的選択の集積によって生成される過程を単純なモデルによって定式化することを試みる。ベースライン・モデルとして「成功すれば高利得を得るが不確実な投資」と「低利得しか得られないが確実な安全策」のどちらかを行為者が合理的に選択する反復ゲームを用いた。モデルの利得構造を決定する所与のパラメータは投資成功確率(報奨密度)&gと投資に対する利益率Rである。分析は数値計算によるシミュレーションでおこなった。ゲーム回数を5または10とし、R={0.5,1,2,3}、0≦γ≦1の範囲でパラメータを変化させ、それに伴う総獲得純益分布の歪度およびジニ係数の変化を調べた。分析の結果、ジニ係数の増減には臨界点が存在するという予想が得られた。 また、ゲームの勝者がより多く投資してより多くを得る累積効果を考慮した場合、反復投資ゲームが生成する総獲得純益分布はγ›1/(R+1)のとき対数正規分布に従うことがわかった。
著者
浜田 宏
出版者
社会学研究会
雑誌
ソシオロジ (ISSN:05841380)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.127-137, 2013-02-28 (Released:2015-05-13)
参考文献数
10
被引用文献数
2
著者
浜田 宏 七條 達弘
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.107-123, 2010

Boudon (1982)および Kosaka (1986)によって定式化された相対的剥奪の数理モデルは,主に同質なメンバーからなる集団のみを分析の対象としていたが,Yamaguchi (1998)およびReyniers(1998)の発展モデルにより,異質な成員からなる社会での相対的剥奪を分析できるようになった.本稿ではこれらのモデルを統合してさらに一般化することで,『アメリカ兵』に代表される経験的データをより体系的に説明することを目指す.モデルを分析した結果,投資コストについて恵まれた集団のほうが,恵まれていない集団に比して相対的剥奪率が常に高いという命題が得られ,この命題はデータによっても支持された.また理論的には,コストが連続分布に従う場合でも相対的剥奪率が昇進率の増加関数となる領域ならびに減少関数となる領域が存在する,というインプリケーションが得られた.
著者
小松 佑人 浜田 宏一 磯田 貴宏 上田 貴郎 神野 憲之
雑誌
第79回全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.2017, no.1, pp.5-6, 2017-03-16

エアコンを使用している部屋に長時間在室した場合、暑い、寒いなどの不快さを感じる人が多いことが分かった。また、部屋の中のジメジメ感やカビの発生が気になる声も多く寄せられた。このようなニーズに加え、1年を通じて長時間エアコンを使用するリビングルームには、複数人が在室する場合が多く、それぞれの在室時間や体感が異なることに着目した。そこで、人を識別して見守り続けることで、在室者が不快さを感じる前に空調をコントロールし、快適さと省エネ運転を実現する「くらしカメラ AI(エーアイ)」を開発した。
著者
小松 佑人 浜田 宏一 磯田 貴宏 上田 貴郎 羽生 博之
雑誌
第78回全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.2016, no.1, pp.9-10, 2016-03-10

日本のリビングでのエアコン使用時、暖房時に部屋のどこにいても「足もとから暖めたい」、冷房時は「風があたって不快」など快適性に関する声が聞かれた。屋内で靴を脱ぐという日本の生活習慣と床の表面温度が同じでも床の種類によって「接触温冷感」が異なることに着目し、「フローリングでも素足で過ごせる暖房」を、また冷房時は輻射熱など室内の潜在的な課題と「冷房の風が直接当たって不快」という不満にも配慮し、室内環境を踏まえた「気流を感じさせないやさしい冷房」をめざした。新たに床の種類を判別することで快適な空調を実現する。
著者
影山 昌広 浜田 宏一
出版者
一般社団法人 映像情報メディア学会
雑誌
映像情報メディア学会誌 (ISSN:13426907)
巻号頁・発行日
vol.68, no.10, pp.J464-J470, 2014 (Released:2014-09-25)
参考文献数
11

超解像処理が「折返し成分として画像に現れている高周波成分を正しく復元する処理」であることを鑑みると,すでに拡大されたアップコンバート画像を超解像処理する際に,撮像からアップコンバート画像に至る過程における折返し成分の挙動を正確にモデル化することが重要である.しかしながら,未知の倍率で拡大されたアップコンバート画像の場合には,折返し成分の挙動を正確にモデル化することが困難であった.そこで本稿では,このモデル化に必要な「拡大前の画素数,および折返し成分の位相を決定づけるリサンプリング位相」の推定手法を提案する.画像拡大前のナイキスト周波数では,ベースバンド成分と折返し成分の信号強度が必ず一致し,複素平面上で信号が直線状に分布することを利用して,未知の倍率で拡大されたアップコンバート画像における拡大前の画素数およびリサンプリング位相を推定する.シミュレーション実験によって提案手法の有効性を示した.
著者
浜田 宏
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.259-276, 2012 (Released:2013-08-12)
参考文献数
29

重回帰分析に代表される説明変数の線形結合モデルは,その適用において単純な数式による真の関係の近似という以上の積極的な根拠を従来持っていなかった.本稿では特定の条件下で,社会学的仮定から導出された数理モデルによって,線形結合モデルが基礎づけられることを示し,計量分析で用いられる統計モデルに対して,単なるあてはめではない理論的な根拠を与えることを目指す.具体的には階層帰属意識研究におけるFararo-Kosakaモデルと地位継承モデルが重回帰モデルの基礎付けとなり得ることを示し,階層帰属意識研究という文脈における,計量モデルと数理モデルの統合的な発展の条件を検討する.
著者
塩谷 芳也 金澤 悠介 浜田 宏
出版者
Japanese Association For Mathematical Sociology
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.243-258, 2012

日本における階層研究の文脈では, 階層帰属意識をめぐる研究が盛んであり, 数理モデルを用いた理論的研究と, 統計分析を用いた実証的研究という2つの方法論的アプローチが邂逅する重要なフロンティアとなっている. 本研究の目的は, 階層帰属の生成過程を説明する数理モデル(FKモデルと理論的に等価な座標対順序モデル)の経験的妥当性をビネット調査により検証して, 理論研究と実証研究の統合的な発展を目指すことにある. 具体的には, 学歴, 職業, 収入の3次元を組み合わせた架空の階層プロフィール(ビネット)の総合的な社会的地位を被調査者に回答してもらい, 理論モデルの予測と照合した. 分析の結果, 座標対順序モデルは支持されず, 階層プロフィールの地位評価に関しては, 対象ビネットの収入が特に大きな正の効果を持ち, 学歴や職業は微弱な効果しか持たない, という知見が得られた. 一方, 従来の社会調査にもとづく実証研究では, 学歴, 職業, 収入のいずれもが階層帰属意識に対して中程度の正の効果を持つことが知られている. 従来の知見と部分的に異なる本研究の知見は, 自己の地位評価と他者の地位評価には, それぞれ異なるメカニズムが働いている, という可能性を示唆している. .
著者
浜田 宏 七條 達弘
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.107-123, 2010-03-31 (Released:2010-10-03)
参考文献数
12
被引用文献数
1

Boudon (1982)および Kosaka (1986)によって定式化された相対的剥奪の数理モデルは,主に同質なメンバーからなる集団のみを分析の対象としていたが,Yamaguchi (1998)およびReyniers(1998)の発展モデルにより,異質な成員からなる社会での相対的剥奪を分析できるようになった.本稿ではこれらのモデルを統合してさらに一般化することで,『アメリカ兵』に代表される経験的データをより体系的に説明することを目指す.モデルを分析した結果,投資コストについて恵まれた集団のほうが,恵まれていない集団に比して相対的剥奪率が常に高いという命題が得られ,この命題はデータによっても支持された.また理論的には,コストが連続分布に従う場合でも相対的剥奪率が昇進率の増加関数となる領域ならびに減少関数となる領域が存在する,というインプリケーションが得られた.
著者
浜田 宏
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.317-332, 2009-09-30 (Released:2010-03-30)
参考文献数
15

非協力N人ジレンマゲームは全員が裏切り戦略を選択するという支配戦略解を持つ.本稿では,全員が協力戦略を選択する状態がどのような条件の下で実現するのかという問題を,提携をとおして考える.まずN人ジレンマゲームを提携形ゲームに変換し,全体提携下で全員が協力戦略を選択する条件/一部が選択する条件を示す.次に特性関数をマキシミン値で定義するとコアが存在し,マキシマックス値で定義するとコアが存在しないことを示す.そして提携外のプレイヤーが協力戦略を選択する主観的確率を提携外信頼と定義して,この値によりコアの存在条件を一般化する.その結果,提携外信頼が大きすぎると単独提携への逸脱が生じ,コアが空になることが分かった.
著者
浜田 宏
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.57-75, 2009-05-25 (Released:2010-01-08)
参考文献数
15
被引用文献数
4

教育達成の不平等を説明するBreen and Goldthorpeの相対リスク回避モデルを一般化して、上層出身者の進学率が中層出身者の進学率を上回る条件を示す。上・中層出身者の進学率をパラメータの明示的な関数として示すことで、教育達成格差をオッズ比として表し、解析的に分析する。また高校進学後に大学進学の分岐が続く場合のように、学歴の推移が連続して生じる状況をモデル化して、理論的な進学率を導出する方法を定式化する。拡張した数理モデルを用いて、教育水準が高くなるほど出身階層の影響が弱くなる階層効果逓減現象が、どのような条件で生じるのかを示す。オッズ比の低下は中層出身者が上層到達を選好する場合は高等教育段階での進学率が上層出身者の進学率に追いつくことによってもたらされる。無差別のときは中層進学率が定数になる一方で、教育水準の上昇により進学後の主観的成功確率の分布がマイナス方向にシフトして、上層出身者のみ進学率が減少することによってオッズ比が減少する、という予想が得られた。