- 著者
-
水越 允治
- 出版者
- 三重大学
- 雑誌
- 一般研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 1989
18〜19世紀前半の近世小氷期末の気候特性を,近世文書の記録により復元し,19世紀後半もしくはそれ以後の気候特性との違いを明らかにした。またその様な差異を起こす原因について検討・考察を行った。主要な成果は次のとおりである。(1)冬の寒さは1820年代まで厳しく,30年代からは温暖化した。1860年代の寒さは近年と同程度。したがって近年の暖冬は決して未曽有のものではない。(2)冬の太平洋側の降水量は19世紀前半には少な目,後半に入って次第に増加する。(3)19世法前半には春先に冬型気圧配置の出現頻度が大で,春の到来が遅かったことがわかる。(4)梅雨明けは1780年代,1830年代に特に遅かった。梅雨期の降水量は19世紀初頃には少なく,1830年代から増加している。(5)1820年代までは空梅雨の年が折々現れているが,1830年代以後は梅雨末期の豪雨が頻発する。(6)年間台風襲来数は19世紀初には1〜2回程度,1820年代の後半から急増し年間3〜4回にも達する程になる。(7)夏の乾湿度(降水量の多少)は,1820年代までは乾燥傾向,30年代からは湿潤に向かい,40年代以後は湿潤年が目立つ。(8)以上から1820〜30年代付近を境として,これ以前には寒冬,暑夏で乾燥した気候条件が,それ以後には暖冬,冷夏で湿潤な気候条件が中部日本では卓越したと考えられる。19世紀初頃の気候条件をもって近世小氷期の特性とするまらば,この時代の大気大循環は東アジアの東西指数が冬は低く,夏は高い傾向にあったと推定できる。またこのような大気大循環型形成の背景には,大気と海との相互作用の存在がうかがわれ,例えば近世小氷期の時代にはエルニ-ニョ現象が比較的不明瞭ではなかったかと推測される。火山活動もまた近世小氷期の気候特性と係わることが,気候復元の結果と照合してみると推察される。現在これらの気候と対応関係の分析を進めている。