著者
永井 宏達 市橋 則明 山田 実 竹岡 亨 井上 拓也 太田 恵 小栢 進也 佐久間 香 塚越 累 福元 喜啓 立松 典篤 今野 亜希子 池添 冬芽 坪山 直生
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.E2S2007, 2009 (Released:2009-04-25)

【目的】加齢に伴い、筋力、バランス機能、柔軟性、敏捷性といった運動機能の低下がみられ、特に、バランス機能は加齢による低下が顕著であるとされている.近年、高齢者に対するバランストレーニング効果に関する報告が散見されるが、ゆっくりとした動きでのバランストレーニングと素早い動きでのバランストレーニングのどちらの動作速度でのバランストレーニングが効果的であるかは明らかではない.そこで本研究は、施設入所高齢者に対して素早い動きのバランストレーニング(RBT)と、ゆっくりとした動きのバランストレーニング(SBT)の二種類を実施し、その効果の違いを明らかにすることを目的とした.【対象と方法】対象はケアハウスに入所している高齢者41名(男性5名、女性36名、平均年齢:81.9±6.8歳)とし、RBT群(17名:80.8±7.0歳)とSBT群(24名:82.5±6.7歳)に対象者を分類した.なお、対象者には研究についての説明を行い、同意を得た.バランストレーニングとして、片脚立位、前方・左右へのステップ動作、椅子からの立ち上がりなどからなる20分程度の運動プログラムを週2回、8週間実施した.これらのトレーニングを、RBT群には、バランスを保ちながらできるだけ素早く特定の姿勢をとらせ、その後姿勢を保持するようにし、SBT群にはゆっくりとした動きで特定の姿勢まで移行させるように指導した.なお、2群のそれぞれの運動回数および運動時間は統一した.バランス能力の評価として、開眼・閉眼片脚立位保持時間、立位ステッピングテスト(5秒間での最大ステップ回数)、静止立位時の重心動揺面積(RMS)、前後・左右方向の最大随意重心移動距離をトレーニング前後に測定した.2群間のトレーニング効果を比較するために、反復測定二元配置分散分析を行った.【結果と考察】2群間のベースラインのバランス機能に有意差はみられなかった.二元配置分散分析の結果より、トレーニング前後で主効果がみられたバランス項目は、立位ステッピングテストであった(p<.05).このことから、立位でのステップ動作は、バランストレーニングを行う動作速度にかかわらず改善することが明らかになった.また、前後方向の最大随意重心移動距離に交互作用がみられたため (p<.05)、RBT群、SBT群それそれで対応のあるt検定を行った結果、RBT群においてはトレーニング後に前後方向の最大随意重心移動距離の有意な改善がみられたが(p<.05)、SBT群では変化がみられなかった.本研究の結果より、施設入所高齢者においては、素早い動きを伴うようなバランストレーニングを行う方がより多くのバランス機能を改善させる可能性が示唆された.【結語】施設入所高齢者におけるバランス機能向上には、素早い動きのトレーニングが有用である可能性が示唆された.
著者
行武 大毅 袋布 幸信 永井 宏達 薗田 拓也 山田 実 青山 朋樹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Cd0834, 2012

【はじめに、目的】 野球肘の発生は11歳から12歳が,野球肩の発生は15歳から16歳がピークであると言われており,それらの発生要因としては過度の投げ込み,投球フォームなどが報告されている.また,初期の自覚症状である疼痛を見逃さないことが重症化を防ぐうえで重要である.一方で,日本臨床スポーツ医学会の,青少年の障害予防を目的とする提言の中で定められている投球数を超える練習を課しているチームも多数あり,指導者の意識的な面が障害発生に影響を与えていると考えられる.本研究の目的は,1) 京都市内の少年野球チームの選手の保護者や指導者を対象にアンケート調査を行い,少年野球チームにおける肩もしくは肘の疼痛発生に関する実態調査を行うこと,および,2) 学童期野球選手の投球障害発生要因を選手の個人要因や指導者の意識面を含めた環境要因から検討することである.【方法】 アンケート用紙を京都市内の平成23年度宝ヶ池少年野球交流大会参加チーム120チームに配布し,そのうち回答の得られた64チーム(選手の保護者740人,指導責任者58人)を対象とした.選手の内訳は男子714人(96.5%),女子24人(3.2%),性別未記入2人(0.3%)であり,選手の学年は6年生355人(48.0%),5年生286人(38.6%),4年生58人(8.8%),3年生29人(4.9%),2年生9人(1.2%),1年生3人(0.4%)であった.選手の保護者に対するアンケートの内容は選手の学年,性別,身長,体重,野球歴,ポジション,ここ1年での肩もしくは肘の疼痛の有無,自宅での自主練習について,ここ1年間の身長・体重の伸び幅,1日の睡眠時間とした(個人要因).指導者に対するアンケートの内容は年齢,指導歴,年間試合数,週の練習日数,投手の練習での投球数,投手の試合での投球数,投球数制限の知識の有無を含めた障害予防に対する知識・意識についてとした(環境要因).統計解析としては,従属変数をここ1年での肩もしくは肘の疼痛既往者とした多重ロジスティック回帰分析(強制投入法)を行った.階層的に分析するため,第一段階としては独立変数に個人要因のみを投入した.その後第二段階として,環境要因による影響を明らかにするため,両要因を投入した分析を行った.有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には,説明会において口頭で十分な説明を行い,同意を得た.【結果】 解析には,欠損データを除いた選手の保護者531人,指導責任者58人分のデータを用いた.ここ1年での肩もしくは肘の疼痛既往者は210人(28.4%)であり,その内訳は6年生123人(58.6%),5年生69人(32.9%),4年生15人(7.1%),3年生2人(1.0%),2年生1人(0.5%)であった.個人要因を独立変数としたロジスティック回帰分析では,1年間の身長の伸び幅のみが有意な関連要因となり,伸び幅が大きいものほど,疼痛発生のリスクが高かった(オッズ比1.14,95%CI: 1.02-1.26,p<0.05).個人要因に加え,チーム情報や指導者の意識面などの環境要因を加えたロジスティック回帰分析では,1年間の身長の伸び幅(オッズ比1.15,95%CI: 1.02-1.30,p<0.05),および年間試合数が少ないと感じている指導者の率いるチーム(オッズ比1.74,95%CI: 1.11-2.72,p<0.05)の2つが疼痛発生のリスクを高める関連要因となっていた.さらに,判別分析を用いて身長の伸び幅のカットオフ値を求めたところ,6.3cmで疼痛発生者を判別可能であった.【考察】 現在野球肩や野球肘の発生要因には練習時間や練習日数などの環境要因が多数報告されているが,今回の解析により,投球障害に関わりうる数多くの個人要因,環境要因で調整してもなお,1年間の身長の伸び幅が独立して疼痛発生に影響していることが明らかとなった.疼痛発生は野球肩や野球肘の初期の自覚症状であることは報告されており,1年間の身長の伸び幅が大きい成長期(特に6.3cm以上)にある選手には,疼痛発生に対して特に注意を要すると考えられる.また,指導者の年間試合数に対する意見では,チームの年間試合数に対してより多い試合数が望ましいという意見を持っている指導者の率いるチームに,疼痛発生者が多いことが明らかとなった.この結果は,指導者の意識的な面が疼痛発生の一要因として関与している可能性を示唆している.【理学療法学研究としての意義】 本研究により,学童期の障害予防を進めるうえで,指導者に対しての意識面に関する啓発活動が必要である可能性が示唆された.また,身長の伸び幅の大きな選手に疼痛発生のリスクが高いという点はこれまでほとんど報告されてこなかった情報であり,これらに関して理解を得ることが重要となる.今後,この結果をスポーツ現場へ還元することにより,指導者の意識の向上と障害発生率の減少が期待される.
著者
國津 秀治 山下 堅志 永井 宏達 窟 耕一 今田 晃司 亀井 滋
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ad0811-Ad0811, 2012

【はじめに、目的】 近年,タブレット型コンピュータ(以下,タブレットPC)が開発され,様々な分野への応用が期待されている.医療分野では,遠隔治療や電子カルテなどに応用されており,その有用性は確認され始めている.しかしながら,理学療法分野への応用に関する報告はなく,その可能性を模索する必要がある.そこで本研究では,理学療法においてタブレットPCをどのように使用できるのか,またタブレットPCを使用することが患者にとって有用になり得るのか,当院での取り組みを報告する.【方法】 今回,当院ではタブレットPC(Apple社製,iPad2)を使用し,対象はタブレットPCを用いた理学療法に承諾が得られた当院外来受診患者とした.タブレットPCはリハビリテーション室に配置し,理学療法施行中の姿勢・動作分析の説明と,セルフエクササイズの指導に使用した.姿勢分析の説明では,坐位や立位で患者に不良肢位が観られた際に,不良肢位をタブレット型PCで静止画撮影した.撮影した静止画はタブレットPCに即座に表示させ,画面を患者と供覧し,姿勢の特徴の説明を行なった.治療改善後,再度撮影し,患者に改善点を確認してもらった.次に動作分析では,立ち上がりや歩行などの患者の動作を動画撮影し,撮影した動画の説明には,2つの動画を同時再生できるアプリケーション(ぽかぽかライフケア社製,療法士の動作分析,以下,アプリ)を用いた.治療前に動画を撮影し,タブレットPCに表示し,患者と供覧しながら改善すべき動作の確認を行なった.治療改善後,再度患者の動作を動画撮影し,治療前,治療後の動画を同時再生し改善点を供覧した.最後にセルフエクササイズの指導では,既存アプリが存在しないため,ストレッチや筋力増強運動の当院独自の解説テキストを作成した.理学療法施行中,セルフエクササイズの指導が必要となった際には,タブレットPCから必要なテキストを選択し,無線LAN接続したプリンターで即座に印刷して患者に手渡した.タブレットPCを用いた理学療法の患者の受け入れを調査するため,対象患者には理学療法施行後に問診による聞き取りを行なった.またタブレットPCの理学療法への汎用性を調査するため,担当理学療法士への問診による聞き取りも行なった.【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には研究の目的及び趣旨を口頭で説明し,参加への同意を得た.【結果】 対象患者への問診では,従来の治療の説明に比べ,視認性の向上と治療への理解が得られやすくなったとの意見が挙げられた.担当療法士からは,1)タブレットPCの使用により,患者の姿勢や動作を静止画や動画で視覚的に確認することができるようになった,2)患者の姿勢の静止画や動作の動画は経時的に保存でき,患者の状態変化の把握が容易となった,3)姿勢の静止画や動作の動画を即座に患者と供覧することが可能になり,状態を視覚的に説明することが可能になった,4)必要に応じてタブレットPCからセルフエクササイズのテキストを選択して印刷でき,時間の短縮につながった,などの意見が挙げられた.【考察】 今回,理学療法施行中の姿勢・動作分析の説明と,セルフエクササイズの指導にタブレットPCを用いて取り組んだ.タブレットPCを使用することで,視認性が向上し,治療に対する理解の共有化が図りやすくなったという意見が,患者・スタッフ双方から得られ,理学療法場面でのタブレットPC利用の有用性,及び汎用性を示唆していると思われる.タブレットPCは持ち運び易く,操作が容易であるため,患者に評価や治療効果を即座に,視覚的にフィードバックできる利点がある.一方,タブレットPCの使用に関しては,理学療法関連の数少ない既存アプリを使用するか,独自の使用方法を考案する必要があり,今後アプリの開発が待たれる.またネットワーク構築によりスタッフ間での情報共有も容易となるが,セキュリティ対策が不可欠である.これら諸問題をクリアできれば,理学療法施行場面において, タブレットPCは患者と理学療法士の間を取り持つツールに成り得る可能性が非常に高い.今後は,タブレットPCの使用前後での,治療に対する理解度や満足度などの定量的評価を行うとともに,治療効果への影響を検討していく必要がある.【理学療法学研究としての意義】 理学療法分野においてもタブレットPCの使用が,治療の一助になり得る可能性があるものと考える.