著者
塚越 累 大畑 光司 福元 喜啓 沖田 祐介 高木 優衣 佐久間 香 高橋 秀明 木村 みさか 市橋 則明
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101012-48101012, 2013

【はじめに、目的】Honda製リズム歩行アシスト装置(以下,歩行アシスト)は,歩行時の股関節の屈曲伸展運動を補助するトルクを負荷することによって歩行障害者の歩行の改善を目指すものである。これまでの我々の研究から,歩行アシスト使用中は下肢関節の角度範囲の増加や関節モーメントの増加が認められているが(日本臨床バイオメカニクス学会:2012),歩行アシストの効果が使用後に残存するか否かは明らかではない。本研究の目的は,若年者および高齢者における歩行アシスト使用後の歩行変化を動作解析および下肢筋活動分析の側面から検証することである。【方法】若年者17名(平均年齢25.1±3.8歳,男性9名)および日常生活と外出が自立している高齢者13名(平均年齢76.9±4.3歳,男性7名)を対象とし,歩行アシスト使用前および使用直後の自由歩行時の三次元動作解析と筋電図解析を行った。歩行アシストが発生させる股関節へのアシストトルクは,屈曲・伸展方向とも6Nmとし,使用時間は3分間とした。三次元動作解析装置および床反力計を使用し,歩行時の下肢関節角度,内的モーメントおよびパワーを測定した。筋電図解析の対象筋は右側の大殿筋,中殿筋,大腿直筋,外側広筋,大腿二頭筋,前脛骨筋,ヒラメ筋とした。得られた筋電図生波形を全波整流し50msのRoot mean squareを求めた後,最大等尺性収縮を100%として正規化し,それぞれ立脚期と遊脚期の平均値を算出した。歩行課題は各3回測定し,分析には3回の平均値を使用した。各測定項目について,測定時点(使用前,使用後)と群(若年群と高齢群)を2要因とした二元配置分散分析を行った後,交互作用が認められた場合には群内での比較を行った。【倫理的配慮、説明と同意】本研究計画は本学倫理委員会にて承認されており,対象者には研究実施前に研究内容について十分に説明し,書面にて同意を得た。【結果】歩行アシスト使用後に歩行速度は有意に増加した(全体;使用前1.19±0.15m/s,使用後1.27±0.13m/s)。ステップ長には有意な交互作用がみられ,高齢群のみ使用後に有意な増加が認められた(若年群;前0.64±0.06m,後0.65±0.05m,高齢群;前0.58±0.06m,後0.63±0.06m)。歩行率には有意な変化は見られなかったものの,若年群において増加する傾向にあった(若年群;前118±7steps/min,後121±9steps/min,高齢群;前116±11steps/min,後115±12steps/min)。歩行アシスト使用後は,使用前に比べて初期接地時の股関節屈曲角度,立脚後期の股関節最大伸展角度(全体;前12.6±7.2度,後14.6±8.4度)および遊脚期の股関節最大屈曲角度が有意に増大した。また,荷重応答期における股関節伸展モーメントと股関節伸展筋求心性パワーはアシスト使用後に有意に増加したが,立脚後期の股関節屈曲筋遠心性パワーの増加は高齢群のみに認められた。膝関節では,荷重応答期の屈曲角度および伸展モーメントの増加が認められ,遊脚中期の最大屈曲角度も使用後に増大した。一方,遊脚後期の膝関節屈曲モーメントは高齢群のみ有意な増加がみられた。足関節の角度にはアシスト使用前後における有意な変化は無かった。筋電図解析では,立脚期の大殿筋の筋活動が使用後に有意に増加していた。また,立脚期の大腿直筋に有意な交互作用が認められ,高齢群のみ有意な活動増加を示した。【考察】本研究の結果から,歩行アシストは使用直後の歩行速度の増加に対して効果的であることが明らかとなった。統計的に有意ではなかったものの若年者では歩行率が上昇する傾向にあり(p=0.07),高齢者ではステップ長の有意な増加が認められた。このことから,若年者では歩行率,高齢者ではステップ長の増加が歩行速度上昇の主な要因と考えられた。運動学的・運動力学的変化としては,立脚後期の股関節最大伸展角度や荷重応答期の股関節伸展モーメントおよび股関節伸展筋求心性パワーがアシスト使用後に増加していることから,これらが歩行速度の向上に大きく影響した可能性がある。この股関節伸展モーメントの変化と関連する筋活動変化として,大殿筋筋活動が増加したと考えられた。これに加えて,高齢者では立脚後期の股関節屈曲筋遠心性パワーが有意に増加しており,高齢者のみにみられたステップ長の延長に寄与していると思われた。歩行アシスト使用後に歩行動作の変化が見られたことは,この歩行補助装置の有用性の一側面を明らかにしたものと考えられる。【理学療法学研究としての意義】近年,研究開発や臨床応用がすすめられているロボティクスリハビリテーションは,将来的には理学療法の重要な手段となる可能性がある。本研究の結果は,歩行補助ロボットが高齢者や有疾患者の歩行能力の改善を促進させる可能性を示しており,理学療法の発展に寄与すると思われる。
著者
太田 恵 池添 冬芽 金岡 恒治 佐久間 香 長谷川 洋介 藤田 千早 沼澤 拓也 舞弓 正吾 市橋 則明
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.CcOF1065, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】老化に伴う退行性変化として骨格筋の萎縮が起きることは周知の事実であり,リハビリテーションの分野では高齢者における筋の機能の維持および向上が重要な課題のひとつとなっている.この筋萎縮の評価法のひとつとして,近年,超音波画像診断装置による筋厚測定がよく用いられている.超音波画像診断装置は,MRIやCTと比較して,安価で簡便であり,信頼性と妥当性も高いことから,超音波画像診断装置を使用した研究が多くなされている.しかしながら,超音波法を用いて筋厚の加齢変化を調べた先行研究の多くは四肢の筋を対象としており,体幹筋,特に腹筋群について言及した研究は少ない.また,筋萎縮に関する横断研究の場合は,加齢による影響だけでなく,身長や体重,BMIといった体格の差異による影響も考慮する必要がある.しかしながら,腹筋群の筋厚にはどのような体格要因が関連するのかについては明らかではない。そこで本研究では,超音波画像診断装置を使用して腹筋群の筋厚を測定し,年齢や体格との関連について明らかにすることを目的とした.【方法】被験者は,健常成人120名(男性60名,女性60名)とした.男性被験者の年齢は33.1±18.1歳(20~84歳)であり,身長は170.5±6.8cm,体重は67.2±11.8kg,BMIは23.0±3.1であった.女性被験者の年齢は57.2±19.2歳(20~83歳)であり,身長は154.2±7.1m,体重は52.0±9.0kg,BMIは21.9±3.4であった.いずれも独歩または歩行補助具を使用し自立歩行が可能な者とした.筋厚の測定には超音波診断装置を使用した.対象筋は,腹直筋,外腹斜筋,内腹斜筋,腹横筋とした.測定肢位は安静背臥位で,いずれも安静呼気時に測定した.測定部位は腹直筋が臍から外側4cmの部位,外腹斜筋,内腹斜筋,腹横筋は臍高位の腋窩線から内側2.5cmの部位とし,いずれも右側を測定した.腹筋群の筋厚と年齢,身長,体重,BMIとの関係について,各筋厚を目的変数とし,年齢,身長,体重, BMIを説明変数として,男女別にそれぞれ重回帰分析を用いて検討した.いずれも有意水準は5%未満とした.【説明と同意】本研究の目的と方法について,すべての被験者に対し口頭および文書にして十分に説明し,同意を得た.【結果】腹直筋の筋厚の平均値は男性12.8±3.3mm,女性8.3±2.4mmであった.重回帰分析の結果,男女ともに年齢のみ筋厚に影響を与える有意な因子として抽出され(標準偏回帰係数:男性-0.58,女性-0.71),自由度調整済決定係数は男性0.59,女性0.59であった.外腹斜筋の筋厚の平均値は男性8.6±2.9mm,女性5.4±1.9mmであった.重回帰分析の結果,男女ともに年齢のみ有意な因子として抽出され(標準偏回帰係数:男性-0.56,女性-0.61),自由度調整済決定係数は男性0.48,女性0.43であった.内腹斜筋の筋厚の平均値は男性12.2±3.9mm,女性8.1±2.5mmであった.重回帰分析の結果,男女ともに年齢のみ有意な因子として抽出され(標準偏回帰係数:男性-0.66,女性-0.43),自由度調整済決定係数は男性0.44,女性0.23であった.腹横筋の筋厚は男性4.4±1.2mm,女性3.3±0.9mmであった.重回帰分析の結果,男女ともにいずれの説明変数も筋厚に影響を与える因子として抽出されなかった. 【考察】本研究では,腹筋群における筋厚と年齢,身長,体重,BMIとの関連を明確にするため,若年者から高齢者までの男女の筋厚を測定し,重回帰分析を用いて検討した.その結果,腹直筋,外腹斜筋,内腹斜筋の筋厚については,年齢が影響を及ぼす因子として抽出されたが,腹横筋の筋厚では年齢は抽出されなかった。このことから,腹筋群のなかでも腹横筋の筋厚は加齢変化が少ないことが示唆された.また,身長,体重, BMIといった体格はすべての腹筋群の筋厚において影響を及ぼす因子として抽出されなかった.骨格筋の筋萎縮の程度を横断的に比較検討する際,四肢筋の筋厚については体格の差異を考慮し,体格要因で補正した筋厚が用いられることがある.本研究の結果,腹筋群の筋厚については体格による違いを考慮する必要性は少ないと考えられた.【理学療法学研究としての意義】本研究により,腹直筋,外腹斜筋,内腹斜筋の筋厚は,加齢に伴って減少するが,腹横筋の筋厚は加齢変化が少ないことが示された.また,腹筋群の筋厚は体格要因による影響は少ないことが示唆された.本研究の結果は腹筋群の筋萎縮の程度を評価する上で考慮すべき重要な知見であると考える.
著者
池添 冬芽 中村 雅俊 佐久間 香 塚越 累 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【はじめに,目的】筋力トレーニングの方法として,運動速度をゆっくりとするスロートレーニングと運動速度を素早くするパワートレーニングがあるが,どちらの筋力トレーニング法が高齢者の運動機能や筋特性,歩行能力,活動量,精神心理機能の改善に効果的であるかを多面的に検討した報告はみられない。本研究の目的はスロートレーニングとパワートレーニングのどちらが高齢者の機能向上に有効であるかを明らかにすることである。【方法】対象は京都市介護予防事業に参加した地域在住高齢者59名のうち,介入前後の測定会に参加できた51名(男性5名,女性46名,年齢77.9±5.6歳)とし,スロートレーニングを実施するスロー群,パワートレーニングを実施するパワー群,トレーニングを実施しない対照群の3群に分類した。なお,測定に大きな影響を及ぼすほど重度の神経学的・筋骨格系障害や認知障害を有する者は対象から除外した。スロー群およびパワー群には週1回8週間の理学療法士監視型の筋力トレーニングを実施した。また,この監視型トレーニング以外に,家庭での自主トレーニングとして同様の運動プログラムを実施するよう指導した。運動強度は主観的運動強度で「ややきつい」程度とした。筋力トレーニングは6種目(立ち座り動作,立位で股関節屈曲・伸展・外転など)の下肢筋力トレーニングを実施した。スロートレーニングでは求心性・遠心性フェーズともに5秒かけて運動を行った。パワートレーニングでは求心性フェーズはできるだけ速く動かし,遠心性フェーズでは2秒かけて運動を行った。両トレーニングともに反復回数は各種目につき10回とした。運動機能として筋力(膝伸展筋力,握力),バランス(片脚立位保持時間,ファンクショナルリーチ,ラテラルリーチ),柔軟性(長座体前屈),敏捷性(立位ステッピング)を評価した。歩行特性として多機能三軸加速度計を用いて最大努力歩行時の速度,ケーデンス,ストライド長,立脚期時間の左右非対称性,歩行周期変動性を評価した。筋特性として超音波診断装置を用いて大腿四頭筋の筋厚および筋輝度を測定し,それぞれ筋量および筋の質(筋内の非収縮組織の割合)の指標とした。また,Life Space-Assessment(LSA)により生活空間を評価した。歩行量として3軸加速度センサーを用いて1週間分の記録データから1日あたりの平均歩数と歩行時間を求めた。精神心理機能として,Geriatric Depression Scale-15(GDS-15)により抑うつ状態,転倒に対する自己効力感スケール(Fall Efficacy Scale;FES)により転倒恐怖感の程度を評価した。統計学的検定として,各群における介入前後の比較には対応のあるt-検定,各測定項目の群間比較には多重比較検定を用いた。【倫理的配慮,説明と同意】すべての対象者に研究に関する十分な説明を行い,書面にて同意を得た。なお,本研究は本学医の倫理委員会の承認を得て行った(承認番号E-1581)。【結果】3群の年齢,身長,体重に有意差はみられなかった。週1回の監視型トレーニング以外に自主トレーニングをスロー群では2.7±1.9日/週,パワー群では3.4±1.4日/週行っており,この実施率に2群で有意差はみられなかった。運動機能の変化について,膝伸展筋力は対照群では変化がみられなかったが,スロー群とパワー群では介入後に有意な増加がみられ,両群の筋力増加率に有意差はみられなかった。膝伸展筋力以外の運動機能はいずれの群も変化がみられなかった。また,スロー群,パワー群ともに筋厚の有意な増加および筋輝度の有意な減少がみられ,筋厚および筋輝度の変化率に両群で有意差はみられなかった。歩行特性はスロー群の立脚期左右非対称性と歩行周期変動性のみ有意に減少した。生活空間や歩行量,抑うつ状態や転倒恐怖感は3群いずれも変化がみられなかった。【考察】スロー群,パワー群ともに介入後に膝伸展筋力や筋厚,筋輝度の改善がみられ,両群の改善率に有意差はみられなかった。このことから,スロートレーニングとパワートレーニングは筋力や筋量,筋の質の改善に有効であり,その効果は同程度であることが示唆された。それに加えてスロー群においては歩行周期変動性や左右非対称性の改善がみられたことから,歩行特性の改善にはスロートレーニングが有効であることが示唆された。しかし,両トレーニングともに筋力以外の運動機能や生活空間,歩行量,精神心理機能に及ぼす効果は不十分であることが示された。【理学療法学研究としての意義】スロートレーニングとパワートレーニングはともに筋力や筋量,筋の質の改善に有効であり,加えてスロートレーニングは歩行特性の改善にも有効であることが示唆された。
著者
平井 茜 青木 修 伴 由衣菜 佐久間 香 向井 公一
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.155-159, 2015 (Released:2015-06-24)
参考文献数
10

〔目的〕本研究の目的は,立脚初期における裸足歩行とハイヒール歩行の膝関節屈曲角度の違いを検討し,そのメカニズムを明らかにすることとした.〔対象〕被験者は,健常若年女性15名(平均年齢:19.8±0.7歳)とした.〔方法〕光学式三次元動作解析装置,床反力計,および表面筋電図を使用し,裸足およびハイヒール着用時の歩行を比較した.〔結果〕ハイヒール歩行では裸足歩行よりも膝関節屈曲角度が有意に大きく,大腿の起き上がり角度が有意に小さかった.しかし,下腿角度には有意差はなかった.〔結語〕ハイヒール歩行の立脚初期における膝関節屈曲角度の増大は,大腿部の起き上がりの不十分さによるものと考えられた.
著者
永井 宏達 市橋 則明 山田 実 竹岡 亨 井上 拓也 太田 恵 小栢 進也 佐久間 香 塚越 累 福元 喜啓 立松 典篤 今野 亜希子 池添 冬芽 坪山 直生
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.E2S2007, 2009 (Released:2009-04-25)

【目的】加齢に伴い、筋力、バランス機能、柔軟性、敏捷性といった運動機能の低下がみられ、特に、バランス機能は加齢による低下が顕著であるとされている.近年、高齢者に対するバランストレーニング効果に関する報告が散見されるが、ゆっくりとした動きでのバランストレーニングと素早い動きでのバランストレーニングのどちらの動作速度でのバランストレーニングが効果的であるかは明らかではない.そこで本研究は、施設入所高齢者に対して素早い動きのバランストレーニング(RBT)と、ゆっくりとした動きのバランストレーニング(SBT)の二種類を実施し、その効果の違いを明らかにすることを目的とした.【対象と方法】対象はケアハウスに入所している高齢者41名(男性5名、女性36名、平均年齢:81.9±6.8歳)とし、RBT群(17名:80.8±7.0歳)とSBT群(24名:82.5±6.7歳)に対象者を分類した.なお、対象者には研究についての説明を行い、同意を得た.バランストレーニングとして、片脚立位、前方・左右へのステップ動作、椅子からの立ち上がりなどからなる20分程度の運動プログラムを週2回、8週間実施した.これらのトレーニングを、RBT群には、バランスを保ちながらできるだけ素早く特定の姿勢をとらせ、その後姿勢を保持するようにし、SBT群にはゆっくりとした動きで特定の姿勢まで移行させるように指導した.なお、2群のそれぞれの運動回数および運動時間は統一した.バランス能力の評価として、開眼・閉眼片脚立位保持時間、立位ステッピングテスト(5秒間での最大ステップ回数)、静止立位時の重心動揺面積(RMS)、前後・左右方向の最大随意重心移動距離をトレーニング前後に測定した.2群間のトレーニング効果を比較するために、反復測定二元配置分散分析を行った.【結果と考察】2群間のベースラインのバランス機能に有意差はみられなかった.二元配置分散分析の結果より、トレーニング前後で主効果がみられたバランス項目は、立位ステッピングテストであった(p<.05).このことから、立位でのステップ動作は、バランストレーニングを行う動作速度にかかわらず改善することが明らかになった.また、前後方向の最大随意重心移動距離に交互作用がみられたため (p<.05)、RBT群、SBT群それそれで対応のあるt検定を行った結果、RBT群においてはトレーニング後に前後方向の最大随意重心移動距離の有意な改善がみられたが(p<.05)、SBT群では変化がみられなかった.本研究の結果より、施設入所高齢者においては、素早い動きを伴うようなバランストレーニングを行う方がより多くのバランス機能を改善させる可能性が示唆された.【結語】施設入所高齢者におけるバランス機能向上には、素早い動きのトレーニングが有用である可能性が示唆された.
著者
佐久間 香 西村 純 大畑 光司 市橋 則明
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.263-267, 2009 (Released:2009-05-28)
参考文献数
14
被引用文献数
1

[目的]本研究の目的はドロップジャンプ(以下DJ)時の下肢の運動学的特徴とStretch-shortening cycle(以下SSC)を跳躍に利用する能力との関係を調べることである。[対象]対象は健常男性28名とした。[方法]20 cm DJ時における下肢関節角度の変化に加え,垂直跳び(以下VJ)とDJの跳躍高を測定した。DJ時の関節角度の変化より,着地直前と踏切動作時の関節角度,踏切動作時の足関節運動の切り換わりから膝関節運動の切り換わりまでの時間を算出した。VJよりDJ跳躍高が増加した群と減少した群に分類し,両群の違いを比較した。[結果]増加した群は,着地直前の足関節底屈角度が有意に少なかった。また,足関節の切り換わりから膝関節の切り換わりまでの時間が有意に長く,足関節が膝関節より早く切り換わるものが多かった。[結語]少ない足関節底屈角度での着地に加え,足関節を膝関節より早く伸展運動に切り換えるような踏切動作をとることでSSCを効率的に利用したDJを行うことができることが示唆された。
著者
佐久間 香子
出版者
北海道地理学会
雑誌
地理学論集 (ISSN:18822118)
巻号頁・発行日
vol.89, no.1, pp.45-55, 2014-06-06 (Released:2014-09-30)
参考文献数
8
被引用文献数
1

生業は,生活を営む地域の地理的,生態環境条件によってのみ決定されるわけではないが,この条件に支えられたり制約されたりする部分がその選択において決定的に重要であることは間違いない。本稿では,マレーシア・サラワク州北部に位置するグヌン・ムル国立公園に隣接するブラワン人を中心とする集落における生業の変化を,特に狩猟活動から分析する。ここで見られるのは,国立公園の設置による生業利用の制限と観光産業による現金経済の浸透にともない衰退に向かう「伝統的」生業活動の中で,狩猟だけがすたれるどころか盛んにおこなわれるようになっている逆説的状況である。このような状況が生じた要因として,本稿では狩猟という自然との付き合い方が含み持つ「楽しみ」に注目する。観光産業を主な収入源とする市場経済化した集落の社会経済的状況において,身体の躍動と不確実性,そして狩猟獣の解体の社会的役割は,他のどの活動よりも「森の民」の生を満たすものとして改めて関心が高まっているのである。そしてそれは,国立公園の隣という立地を最大限に生かした方法でもある。