著者
江口 卓 松本 淳 北島 晴美 岩崎 一孝 篠田 雅人 三上 岳彦 増田 耕一
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.43-54, 1986-06-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
10
被引用文献数
3 3

降水量は,世界の気候を明らかにする上で重要な気候要素であるが,全球の降水量分布の詳細な解析は,月より短い時間スケールではこれまで行なわれていない.著者らは, FGGE特別観測中の日降水量資料をもとに作成した旬降水量資料を用い,特に無降水域に着目し,全球の大陸上の降水量分布の季節内変動および季節間の相異を明らかにすることを試みた。そして,無降水域からみた世界の:気候区分図を提示し,大陸の西岸・東岸の気候区界について論.じた。 無降水域の季節重ね合わせ図にもとついて3種類の無降水域,「極小無降水域」・「平均無降水域」・「極大無降水域」を定義した.北半球では, DJF季(12~2月)には,平均無降水域がアフリカ北部からチベット高原にかけて広く分布する.一方, JJA季 (6月中旬~8月中旬)には,それはアフリカ北部から西アジアにかけて分布する.南半球では, DJF季には,平均無降水域は各大陸の西岸に限られて分布するが, JJA季には各大陸に広く分布し,また,極小無降水域が南アメリカの北東部に出現する.無降水域の季節内での変動は, DJF季の北アメリカ北部とオーストラリアで特に大きい. 以上2季節の無降水域の分布の解析結果から, 4つの季節無降水域を設定した。それらは,冬と夏の極小無降水域 (mNPA), 冬と夏の平均無降水域 (wsNPA), 冬のみの平均無降水域 (wNPA) と夏のみの平均無降水域 (sNPA) である.大陸の西部ではmNPAとwsNPAが広く分布し,かつすべての無降水域型が帯状に並列している.各大陸の西部では,各無降水域型がアリソフやヶッペンの気候型とよく対応している.しかし,大陸の東部には, wNPAが現われるか,または無降水域はまったく出現せず,アリソフやケッペンの各気候型との関連も良くない。無降水域の分布からみると,各大陸の東部と西部との境は,各大陸上でもっとも高い山脈の西側に位置することが明らかになった.
著者
江口 卓
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.151-170, 1983-03-01 (Released:2008-12-24)
参考文献数
37
被引用文献数
9 10

本稿は,インドネシアの降水分布を規定している要因を明らかにすることを目的とした.インドネシアの気流系は,主として北太平洋起源の熱帯東風南太平洋起源の熱帯東風インド洋起源の西風という3つの気流によって構成されている.多降水域は,熱帯収束帯とは必ずしも一致せず,インド洋起源の西風帯内に出現している.また,多雲量域もこの西風帯内に分布し,インド洋起源の西風がインドネシアの降水分布を規定する要因となっている.そのため熱帯収束帯は,多降水域や多雲量域の及ぶ限界としてとらえられる.熱帯東風の卓越する地域では,一般に降水量,雲量とも少ない.特に,南太平洋起源の熱帯東風の卓越する地域では,降水量,雲量とも少ない.
著者
江口 卓
出版者
高知大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

屋久島の気候環境とその原因を3次元的に明らかにするため,総合的な気象観測を山岳部で行い,収集したデータを中心に解析を行った.特に鹿児島の高層観測データと屋久島の観測データの比較から,自由大気の鉛直構造と屋久島における温湿度の標高による変化を,気圧配置および自由大気の成層状態を中心に解析を行った。その結果,気圧配置やそれにともなう自由大気の成層状態の違いによって気温および湿度の標高による変化に違いが認められた。特に,標高1800mの山頂部に位置し,森林限界より上にある黒味岳と標高1360mの森林地域に位置する淀川との間では,気温の顕著な逆転がしばしば起こるとともに,山頂部に向かって相対湿度の急激な低下が認められた。このような現像は,移動性高気圧に覆われ,1000-1500mの高度帯に逆転層が発達する場合に出現頻度が高かった.また,自由大気の鉛直構造との比較から,山頂部では同高度の自由大気の気温や湿度との対応がよかったのに対し,その下の森林帯では,自由大気の気温や湿度の変化と異なった変化をしていた.このことから,自由大気の温湿度状態の変化に対し,樹林帯では,森林そのものが温湿度の変化を防ぐ役割をはたしているのに対し,樹林帯から抜ける山頂付近では,自由大気の変化と対応した気温や湿度の変化が起こっていることが明らかになった。以上の結果により,屋久島の高標高域の温湿度環境は低地部とは大きく異なることが明らかになり,その変化は,被覆している植生の状態と自由大気の成層状態との関連によって生み出されていることが明らかになった。