著者
増田 耕一
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

気象学は地学の、気候学は地理の、それぞれ部分と考えられてきたけれども、両者の内容は大きく重なっている。ここでは両者をあわせて、何を必修事項としたらよいかを考えてみたい。地理にも関連するのだが、ひとまず理科の地学を念頭において、内容を分類するための、いくつかの軸をあげてみる。1. 基礎と応用。地学の場合とくに、防災や環境問題解決などの公益につながる応用が重要だろう。2. 過去・現在・未来。現在は、近代科学による観測データが得られる時代をさす。過去はヒトが出現してからの時代も含むが、地学ではそれよりも古い時代を扱うことが重要だ。未来についてできるのは不確かな予測だが、それがほしいこともある。3. 注目する空間スケール。4. 対象を単純化したとらえかたと、多様性や個別事実を重視したとらえかた。5. 数理物理的考えかた、つまり物理法則に基づいて原因から結果に向かう態度と、博物学的考えかた、つまり現実世界の観察で得られる物証からそれが生じた原因を考えていく態度。最重要と主張するつもりはないが、全地球規模の気候変化のしくみを理解することは、地球温暖化の「緩和」(温室効果気体排出削減)が世界の政治課題となった現代の民主主義国家の主権者がもつべき知識項目だと思う。文部科学省が2018年2月14日に出した次期高校学習指導要領の案の「地学基礎」での大気・水圏関係の内容は、これに合っている。基礎として、「大気と海洋」のうち「地球の熱収支」で、太陽放射と地球放射の収支を扱い、温室効果にふれ、「大気と海洋の運動」では海洋の層構造と深層循環にもふれる。その応用として「地球環境の科学」のところで地球温暖化を扱うことができる。ただし、地球温暖化とエルニーニョ現象が単純に並列されているのはうまくない。気候変動には内部変動と外部強制による変動があり地球温暖化は後者だという認識が必要だ。(「地学基礎」の範囲でエルニーニョ現象を扱うのは無理があると思う。)ただしこの主題は、さきほどあげた軸3では全地球規模、軸4では単純化したとらえかた、軸2では数理物理的アプローチに偏っている。人為起源の地球温暖化があろうがなかろうが、人は気候に適応することが必要だ。そしてその適応する対象は、世界平均値ではなく、それぞれの場所のローカルな気候なのだ。また、地理学の観点で、人間社会と、また地形・水文・植生などとの相互作用を考えるとき問題になる気候も、おもにローカルなものだ。ただし、ローカルな気候には多様性がある。また、ローカルな気候の変化を因果関係を追って述べることはむずかしい。教科内容のすべてが必修ではなくoptionalな項目もあることを前提として、ローカルな気候に関する学習はoptionalな項目とし、その基礎となりうることがらを必修項目にすることを考えるべきだろう。●大気・水圏の現象にはさまざまな空間・時間スケールのものがあること。そして、空間スケールの大きいものは時間スケールも大きい傾向があること。●天気。気温、気圧、風向風速、降水量などの数値はどのように表現されるか、温帯低気圧とはどんなものか、など、テレビなどの天気予報を理解できるための基礎知識。(次期学習指導要領案では「地学基礎」ではなく「地学」のほうに含まれている。) 空間スケールは数百kmから数千kmであって、地球全体よりは小さいが、ローカルよりは大きい。●地表面(地面・海面)での熱収支・水収支。ここでいう「熱」とはエネルギーのうち運動エネルギーを省略したものの便宜的表現である。熱収支は、放射と、顕熱・潜熱の乱流輸送からなる。水収支は、降水・蒸発・流出からなる。蒸発の潜熱が両方にはいっている。雪氷がからむ場合はもう少し複雑になる。●気候帯の概略。熱帯、温帯、寒帯と 乾燥地帯が地球上でどのように分布するか。「地学基礎」の「大気と海洋」で教えられる「大気の大循環」とリンクさせたい。●気候と植生(陸上生態系)の関係。ケッペンから引き継ぐべきことは、気候区分ではなく、植生のタイプが気候によって制約されているという認識だと思う。制約要因としては、生育期間の温度または利用可能なエネルギー、利用可能な水分、最低温度があげられる。
著者
江口 卓 松本 淳 北島 晴美 岩崎 一孝 篠田 雅人 三上 岳彦 増田 耕一
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.43-54, 1986-06-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
10
被引用文献数
3 3

降水量は,世界の気候を明らかにする上で重要な気候要素であるが,全球の降水量分布の詳細な解析は,月より短い時間スケールではこれまで行なわれていない.著者らは, FGGE特別観測中の日降水量資料をもとに作成した旬降水量資料を用い,特に無降水域に着目し,全球の大陸上の降水量分布の季節内変動および季節間の相異を明らかにすることを試みた。そして,無降水域からみた世界の:気候区分図を提示し,大陸の西岸・東岸の気候区界について論.じた。 無降水域の季節重ね合わせ図にもとついて3種類の無降水域,「極小無降水域」・「平均無降水域」・「極大無降水域」を定義した.北半球では, DJF季(12~2月)には,平均無降水域がアフリカ北部からチベット高原にかけて広く分布する.一方, JJA季 (6月中旬~8月中旬)には,それはアフリカ北部から西アジアにかけて分布する.南半球では, DJF季には,平均無降水域は各大陸の西岸に限られて分布するが, JJA季には各大陸に広く分布し,また,極小無降水域が南アメリカの北東部に出現する.無降水域の季節内での変動は, DJF季の北アメリカ北部とオーストラリアで特に大きい. 以上2季節の無降水域の分布の解析結果から, 4つの季節無降水域を設定した。それらは,冬と夏の極小無降水域 (mNPA), 冬と夏の平均無降水域 (wsNPA), 冬のみの平均無降水域 (wNPA) と夏のみの平均無降水域 (sNPA) である.大陸の西部ではmNPAとwsNPAが広く分布し,かつすべての無降水域型が帯状に並列している.各大陸の西部では,各無降水域型がアリソフやヶッペンの気候型とよく対応している.しかし,大陸の東部には, wNPAが現われるか,または無降水域はまったく出現せず,アリソフやケッペンの各気候型との関連も良くない。無降水域の分布からみると,各大陸の東部と西部との境は,各大陸上でもっとも高い山脈の西側に位置することが明らかになった.
著者
市野 美夏 増田 耕一 北本 朝展
雑誌
じんもんこん2020論文集
巻号頁・発行日
vol.2020, pp.31-38, 2020-12-05

「れきすけ」とは,史料を利用するさまざまな分野の研究者をはじめとする史料に関わる人々が,協働して史料の知識や経験を共有するプラットフォームである.複数の情報提供者によるデータ構築,複雑な史料のデータ構造,多分野で利用するための時空間情報など,史料の情報共有における課題と,研究データである側面における課題の双方を解決するため,情報を複数のカードに分けた,データベースとそのためのユーザインターフェースを構築した.
著者
松本 淳 遠藤 伸彦 林 泰一 加藤 内藏進 久保田 尚之 財城 真寿美 富田 智彦 川村 隆一 浅沼 順 安成 哲三 村田 文絵 増田 耕一
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

1950年代以前のアジアモンスーン諸国における紙媒体気象データをデジタル化したデータセットを作成し,20世紀全体でのアジアモンスーンと台風の活動や経路の長期変動を解析した。その結果,日本の冬季モンスーンが弱まり,冬の期間が短くなる傾向や,フィリピンで夏の雨季の開始時期が近年遅くなる傾向,東南アジアで降雨強度が強まる傾向,台風発生数の数十年周期変動,台風の低緯度地方での経路の長期的北上傾向等が見出された。