著者
塚田 愛 池本 英志 井上 達貴 小島 衣里加 福岡 聖也 砂川 正隆
出版者
一般社団法人 日本めまい平衡医学会
雑誌
Equilibrium Research (ISSN:03855716)
巻号頁・発行日
vol.80, no.4, pp.296-302, 2021-08-31 (Released:2021-10-02)
参考文献数
37

Several Japanese herbal medicines (Kampo), including Yokukansan, Yokukansankachimpihange, Shigyakusan, Kososan, Kamishoyosan, Kamikihito, Saikokaryukotsuboreito, Keishikaryukotsuboreito, Hangekobokuto, and Rikkunshito, are clinically used for patients with stress-related symptoms and diseases, according to the patient's constitution and symptoms (`Sho' in Oriental medicine). Kamikihito and Yokukansan are prescribed for the treatment of insomnia and neurosis in Japan. However, the precise mechanisms of actions of these products remain unclear. We investigated their possible antistress effects and involvement of oxytocin in the mechanisms of their actions in an animal model of stress. Oxytocin is a posterior pituitary hormone related to uterine contraction and milking. In recent years, its effects in the central nervous system-including its antistress effect-have been attracting interest. Oxytocin is reported to reduce stress levels via regulation of activities in the hypothalamic-pituitary-adrenal axis. Administration of Kamikihito or Yokukansan significantly increased the secretion of oxytocin in acute stress situations and exerted an antistress effect. Furthermore, the effects of these drugs were partially abrogated by administration of an oxytocin receptor antagonist. These results suggest that Kamikihito and Yokukansan have antistress activity and that increased oxytocin secretion may be involved in the mechanism underlying this effect. In clinical practice, the target candidates for these two drugs are different. Although both are used for irritability, anger and insomnia, Kamikihito is generally prescribed to patients who are physically weak, have weak digestive functions, or complain of mental anxiety. Yokukansan, on the other hand, is prescribed to patients with moderate physical strength, who are sensitive, and easily excited. These Kampo medicines may also be useful for stress-induced symptoms and illnesses.
著者
砂川 正隆 藤原 亜季 池本 英志 塚田 愛
出版者
日本自律神経学会
雑誌
自律神経 (ISSN:02889250)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.150-154, 2019 (Released:2019-09-27)
参考文献数
26

鍼治療は,不安障害,抑うつ,双極性障害,睡眠障害などの精神的要因の関連する症状にも適応されている.オレキシンは視床下部で分泌される神経ペプチドで,種々の自律機能の調節に関与しているが,ストレス反応の制御にも関与している.我々は,ラット社会的孤立ストレスモデルを用い,精神的ストレスに対する円皮鍼の効果,ならび作用機序の検討としてオレキシンの関与を調べた.7日間の孤立ストレス負荷によって攻撃性,コルチコステロンの分泌が上昇し,またオレキシンの分泌も上昇した.しかしながら,百会穴への円皮鍼治療によっていずれの上昇も抑制された.円皮鍼はオレキシンの分泌抑制を介して,ストレス反応を抑制したと考えられる.
著者
池本 英志 砂川 正隆 片平 治人 世良田 紀幸 小林 喜之 樋口 毅史 岡田 まゆみ 清野 毅俊 久光 直子 久光 正
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.75, no.2, pp.213-221, 2015 (Released:2015-11-07)
参考文献数
28

経皮的神経電気刺激(transcutaneous electrical nerve stimulation:TENS)は,皮膚に導電性電極をあて,電気刺激を生体に与えることで様々な治療効果が得られる,非侵襲的な治療法である.鍼やTENSなどを用いた刺激療法の鎮痛作用には,ゲートコントロール説,下行性疼痛抑制系の賦活,内因性オピオイドの関与などいくつかの作用機序が報告されている.本研究では,ラットアジュバント関節炎モデルを作製し,TENSの慢性炎症性疼痛に対する鎮痛効果を検証するとともに,内因性オピオイドの関与について検討した.1) TENSの鎮痛作用の検証.7週齢のWistar系雄性ラットを使用し,Control(Con)群,Control+TENS(TENS)群,アジュバント関節炎(AA)群,AA+TENS (AAT)群の4群に分けた.関節炎は右足底に完全フロイントアジュバント0.1mlを皮下投与して誘発した.Con群には同部位に生食を投与した.TENS(4Hz,30分)は週3回,14日間にわたって実施し,その間,足容積,機械刺激ならび熱刺激に対する逃避閾値を測定した.関節炎の誘発によりAA群の足は腫脹し,足容積が有意に増大した.TENSによってこの腫脹は抑制されなかったが,機械的刺激及び熱刺激に対する逃避閾値は,AA群ではCon群と比較し有意に低下し,AAT群ではその低下が有意に抑制された.2) 内因性オピオイドの関与の検討.同種ラットをCon群,AA群,AAT群,AAT+naloxone (AAT+N)群の4群に分けた.AAT+N群には,μオピオイド受容体拮抗薬ナロキソン(3mg/kg)をTENS開始30分前に皮下投与した.先の実験と同様に逃避閾値を測定し,脊髄μオピオイド受容体の変化を組織学的に検討した.その結果,ナロキソンの前投与はTENSの鎮痛作用を有意に減弱させた.またAA群の脊髄後角ではμオピオイド受容体の発現が有意に増加したが,TENSによってその増加が有意に抑制された.4Hzの低周波TENSは慢性炎症性疼痛に対し鎮痛作用を示したが,その作用はμオピオイド受容体拮抗薬の前投与によって減弱した.また脊髄では,AA群の脊髄後角の浅層にμオピオイド受容体の発現が増加したが,AAT群ではこの増加が有意に抑制された.以上より, TENSはμオピオイド受容体を介して,慢性炎症性疼痛に対し鎮痛作用を示したと考えられる.低周波TENSは慢性炎症性疼痛に対し有用であり,鎮痛効果の発現には内因性オピオイドが関与していることが示唆された.
著者
砂川 正隆 池本 英志 福島 正也
出版者
一般社団法人 日本東洋医学系物理療法学会
雑誌
日本東洋医学系物理療法学会誌 (ISSN:21875316)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.1-7, 2017 (Released:2020-07-07)
参考文献数
33

鍼通電療法は、様々な症状に対して生体の調節機構を介して効果を発揮する。ここでは、鍼 通電療法の生理学的作用を、同じ電気刺激療法であるが鍼を使用しない経皮的電気刺激療法 (transcutaneous electrical nerve stimulation; TENS)ならび通電を行わない置鍼(円皮鍼)と比較した。 TENSとの違いとして、鎮痛作用に関しては、鍼を刺入した局所における変化が起こりうること、 分泌される内因性オピオイドの種類が異なることが報告されている。 置鍼との違いとして、オレキシン分泌に与える影響を検討した。オレキシン神経は、大脳辺縁 系、視床下部、脳幹などからの入力情報を統合し、摂食行動や情動行動、覚醒や睡眠、循環や呼吸、 緊急反応、内分泌系、鎮痛といった種々の行動や自律機能の調節を行っている。術後痛モデルと 脳挫傷モデルにおいては、鍼通電療法はオレキシンAの分泌を促進するが、慢性閉塞性肺疾患モ デルにおいてはオレキシンAの分泌亢進を抑制した。社会的孤立ストレスモデルにおいては、上 昇したオレキシンAの分泌が円皮鍼によって抑制された。無処置の動物に対しては置鍼群と電気 鍼群とで比較した場合、置鍼群でオレキシンAの分泌が有意に増加したことから、通電の有無が オレキシンの分泌に関して異なった反応をもたらす可能性はある。しかし病態モデルでは、必要 な場合には分泌を促し、分泌が過剰な場合には抑制的に作用しており、通電の有無に関係なく中 庸化作用が認められた。 鍼通電療法でも刺入の深さや刺激強度、使用する経穴などを変えることによって得られる効果 はさまざまである。鍼通電療法の作用機序を明らかにするには、更なる研究が必要である。
著者
本田 豊 砂川 正隆 米山 早苗 池本 英志 中西 孝子 岩波 弘明 須賀 大樹 石川 慎太郎 石野 尚吾 久光 正
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.78-85, 2013 (Released:2013-09-13)
参考文献数
30
被引用文献数
4 7

抑肝散は,神経症,不眠症,小児の夜泣き,小児疳症など虚弱体質で神経高ぶるものの症状などに適用されている。近年,頭痛や神経障害性疼痛などの疼痛性疾患に対する有効性も報告されているが,これらの作用機序は十分に解明されてはいない。本研究では,アジュバント関節炎(AA)モデルラットを作製し,慢性炎症性疼痛ならびに疼痛に伴うストレスに対する有効性を検証した。AA モデルラットでは,疼痛閾値の低下と精神的ストレスマーカーの1つである唾液中クロモグラニンA(CgA)濃度の上昇がみられたが,抑肝散の投与により,慢性痛の発現に関与する脊髄ミクログリアの活性化が抑制され,疼痛閾値の低下が有意に抑制された。また,唾液中 CgA 濃度の上昇も有意に抑制された。これらの結果より,抑肝散の慢性炎症性疼痛ならびに疼痛に伴うストレスに対する有効性が示唆された。