著者
渡辺 祐基
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2017-04-26

チビタケナガシンクイは、わが国において、伐採後の乾燥竹材を食害する特に重要な昆虫種として知られている。本種は一生の大部分を竹材内部で過ごし、直接観察が困難であるため、総合的な防除策の確立に不可欠な生態や食害行動に関する知見がほとんどない。本年度は、X線CTおよびアコースティック・エミッション(AE)モニタリングを使用し、本種の生活史および食害行動の解明を試みた。デンプンおよび糖を含ませ、積層したろ紙を使用することで、容易に卵を採取することができた。孵化直後から羽化まで定期的にX線CT撮像を行うことで、幼虫の体サイズの変化や移動範囲、摂食量を定量的に明らかにした。幼虫の摂食活動を連続計測するために、幼虫の摂食活動に伴い発生する弾性波(AE波)の検出を利用したAEモニタリングを適用した。孵化直後の幼虫を個別に接種した材に対して、長期連続的にAEモニタリングを実施した結果、幼虫は各齢期においては連続的に摂食活動を行うこと、AE停止期は脱皮や蛹化に対応することが明らかとなり、幼虫の齢数を非破壊的に測定できるようになった。半数の幼虫は蛹化までに7齢を経過し、他の半数は8齢を経過したことが明らかになった。さらに、幼虫の摂食活動には一定の周期性が存在すること、AE振幅は齢期とともに増加することなどが明らかになった。X線CTおよびAEモニタリングを使用して、竹材内部における成虫の産卵行動の非破壊評価を試みた。AEモニタリングによって、産卵期間中の雌は昼夜を問わずほぼ連続的に穿孔活動を行うことが示唆された。X線CTによって、1個体の雌による合計産卵数および産卵に伴う食害の程度が定量化された。以上のように、本種のライフサイクルを通じた詳細な生活史および食害行動を非破壊的に明らかにすることに成功した。
著者
島田 潤 渡辺 祐基 小峰 幸夫 佐藤 嘉則 木川 りか
出版者
独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2022-04-01

紙資料を食害するシミ類は、日本の博物館・美術館・文書館に広く分布しており、貴重書の保存において重要な害虫の一つである。これまで国内で知られているシミとは異なる種が博物館と文書館で相次いで確認された。いずれも生息個体数が多いという共通点があったことから、既知種とは生態が大きく異なり強い繁殖力を持つことが考えられる。本研究ではこの未知種に関して、全国の施設での分布状況の把握を行い、本種を特定し、食性や繁殖力などの生態学的な特徴を解明する。さらに、文化財IPMの考え方に基づく有効な新規防除方法の確立を目的とする。貴重書を始めとする紙資料の保存の観点から、早急な調査と対策が必要とされる。
著者
伊藤 嘉章 小泉 恵英 木川 りか 原田 あゆみ 白井 克也 志賀 智史 楠井 隆志 河野 一隆 早川 典子 大橋 有佳 渡辺 祐基 川村 佳男 望月 規史 川畑 憲子 森實 久美子 酒井田 千明
出版者
独立行政法人国立文化財機構九州国立博物館
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2018-04-01

初年度である今年度は、情報収集を兼ねて多角的に調査を開始した。タイでは、国立の伝統文化財部で現在行われている王室の御座船の修理方法や伝統的人形劇の人形、漆工品、色ガラスを多用した木製品、布製品、石造彫刻等の製作・修理技法のほか、寺院の壁画の修理技法について調査を実施した。インドネシアでは伝統的な影絵であるワヤン・クリの製作技法や機織りによるイカットの製作技法、伝統的な青銅製品(ゴング)の製作技法についての聴き取り調査を実施した。ミャンマーではこの地域に特有な性質をもつ漆工品の調査を行い、ベトナムでは伝統的木製品の修理のための調査のほか、藕糸の製作技法に関する調査を行った。また国内に存在するアジア地域に関連する文化財についても積極的に調査を進めた。中国式寺院の独特な様式をもつ仏像や金工品や、国内で保有しているアジア地域と関連する染織品(藕糸を使用したと考えられる絵画やインド更紗)、韓国の伝統的絵画(綿布に書かれた絵画)の修理方法についての調査、響銅(佐波理)の製作痕の調査、インドネシアのガムランの音色にかかわる構造などについての詳細調査を実施したほか、出土した茶入などの陶器についても製作技法を解明するためにCTによる詳細な構造調査を行った。このほか、修理技法と係る基礎研究としては、アジア地域で伝統的技法に多用されてきた灰汁について文書の修理への利用を念頭に、成分分析と修理対象となる紙に対する影響調査を行った。