著者
三浦 定俊 早川 泰弘 木川 りか 佐野 千絵 宮越 哲雄
出版者
独立行政法人文化財研究所東京文化財研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

我が国の科学技術黎明期資料が、江戸時代から明治時代のはじめにかけて当時どのような材料と技術を用いて造られたかについて、これまでほとんどなされていなかった科学的観点からの実証的な調査研究を行った点が、本研究の特色である。幸いにも東京文化財研究所には、国立科学博物館に寄託されたトヨタコレクションが保管されていたので、コレクションをよそへ移動せずにその実証的な研究が可能となった。本研究では、資料のX線撮影にX線デジタル画像装置を利用した。この装置はダイナミックレンジが広く、通常の写真フィルムでは撮影が困難な、材質や厚みの著しく異なる資料の撮影に最適であった。また現像の手間が掛からないデジタル処理なので、点数が1,300点にも上るトヨタコレクションであっても効率的に研究し、本書に示すような成果を上げることができた。また今回の特定領域研究には大勢の研究者が関わっていたので、調査成果を速やかに整理して、デジタル画像をコピーして配布するなど、X線デジタル撮影の特長を生かして、本研究は「江戸のモノづくり」の特定領域研究全体に貢献することができた。この他、武雄市図書館・歴史資料館の所蔵する、二十人代武雄領主鍋島茂義(皆春齋、1800〜62)が収集した顔料の調査を行った。資料館の所有する茂義のコレクションの中には、当時の包みのままの絵の具が多数残されている。他に類例のない大変貴重なもので、資料館の協力を得て、それらの絵の具を整理・分類して分析し、当時どんな名称の下にどんな顔料が使用されていたか明らかにすることができた。
著者
小峰 幸夫 林 美木子 木川 りか 原田 正彦 三浦 定俊 川野邊 渉 石崎 武志
雑誌
保存科学 = Science for conservation
巻号頁・発行日
no.50, pp.133-140, 2011-03-31

Extensive survey of beetles with sticky insect traps (about 27,000 traps) in about seventy historic buildings in Nikko World Heritage site was performed from the end of April to August 2010. Several species of Anobiid were found on the sticky traps: Priobium cylindricum, Trichodesma japonicum, Sculptotheca hilleri, Hadrobregmus pertinax, and Oligomerus japonicus. Some of them had caused severe infestation at certain buildings. There is little information about the anobiid species, but from the sporadic patterns of numbers of anobiids on sticky traps in many buildings over fairly vast areas, it is supposed that these anobiids may inhabit the natural places (forests) around the historic buildings. Nicobium hirtum is a well known anobiid which infests wooden objects and buildings in Japan. But surprisingly, we did not observe the species in the surveys in the Nikko area. Adult insects were most significantly caught on sticky traps from May to July. Since there is little information about these kinds of anobiids, this trapping survey provided important information about the characteristics of the insects and ideas for appropriate countermeasures to protect the buildings from the insects.
著者
島田 潤 渡辺 祐基 小峰 幸夫 佐藤 嘉則 木川 りか
出版者
独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2022-04-01

紙資料を食害するシミ類は、日本の博物館・美術館・文書館に広く分布しており、貴重書の保存において重要な害虫の一つである。これまで国内で知られているシミとは異なる種が博物館と文書館で相次いで確認された。いずれも生息個体数が多いという共通点があったことから、既知種とは生態が大きく異なり強い繁殖力を持つことが考えられる。本研究ではこの未知種に関して、全国の施設での分布状況の把握を行い、本種を特定し、食性や繁殖力などの生態学的な特徴を解明する。さらに、文化財IPMの考え方に基づく有効な新規防除方法の確立を目的とする。貴重書を始めとする紙資料の保存の観点から、早急な調査と対策が必要とされる。
著者
伊藤 嘉章 小泉 恵英 木川 りか 原田 あゆみ 白井 克也 志賀 智史 楠井 隆志 河野 一隆 早川 典子 大橋 有佳 渡辺 祐基 川村 佳男 望月 規史 川畑 憲子 森實 久美子 酒井田 千明
出版者
独立行政法人国立文化財機構九州国立博物館
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2018-04-01

初年度である今年度は、情報収集を兼ねて多角的に調査を開始した。タイでは、国立の伝統文化財部で現在行われている王室の御座船の修理方法や伝統的人形劇の人形、漆工品、色ガラスを多用した木製品、布製品、石造彫刻等の製作・修理技法のほか、寺院の壁画の修理技法について調査を実施した。インドネシアでは伝統的な影絵であるワヤン・クリの製作技法や機織りによるイカットの製作技法、伝統的な青銅製品(ゴング)の製作技法についての聴き取り調査を実施した。ミャンマーではこの地域に特有な性質をもつ漆工品の調査を行い、ベトナムでは伝統的木製品の修理のための調査のほか、藕糸の製作技法に関する調査を行った。また国内に存在するアジア地域に関連する文化財についても積極的に調査を進めた。中国式寺院の独特な様式をもつ仏像や金工品や、国内で保有しているアジア地域と関連する染織品(藕糸を使用したと考えられる絵画やインド更紗)、韓国の伝統的絵画(綿布に書かれた絵画)の修理方法についての調査、響銅(佐波理)の製作痕の調査、インドネシアのガムランの音色にかかわる構造などについての詳細調査を実施したほか、出土した茶入などの陶器についても製作技法を解明するためにCTによる詳細な構造調査を行った。このほか、修理技法と係る基礎研究としては、アジア地域で伝統的技法に多用されてきた灰汁について文書の修理への利用を念頭に、成分分析と修理対象となる紙に対する影響調査を行った。
著者
木川 りか 東京大学東洋文化研究所図書室 編
出版者
東洋文化研究所
巻号頁・発行日
pp.5-23, 2008-03-31

アジア古籍保全講演会第1回(平成17年12月16日)開催。この記録集は、東京大学東洋文化研究所が主催したアジア古籍保全講演会(第1回~第3回)について、当日における講演、事例報告、ワークショップ、総合討論の内容を取りまとめたものである。 文中における講演者等の肩書きは、発表当時のものである。
著者
佐藤 嘉則 島津 美子 木川 りか
出版者
独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

インド共和国にあるアジャンター石窟寺院には貴重な壁画群が存在する。しかし、石窟内部で広く確認される黒色物質が、壁画上に粘着して土壁そのものを溶解して壁画を消失させるという深刻な被害をもたらしており大きな問題となっている。本研究では、現地から採取した黒色物質の微生物および理化学性解析から、①黒色物質は微生物バイオフィルムであり、②黒色物質のある土壁ではセルロース量が減少していること、などが明らかとなった。かつて石窟内にいたコウモリの糞尿による水分や有機物の供給が微生物バイオフィルムの基となり、バイオフィルム内の微生物がスサを分解して壁画の剥落(消失)が引き起こされていたのではないかと考えられた。
著者
木川 りか 東京大学東洋文化研究所図書室 編
出版者
東洋文化研究所
巻号頁・発行日
pp.227-248, 2008-03-31

アジア古籍保全講演会第2回(平成19年 1月23日)開催。この記録集は、東京大学東洋文化研究所が主催したアジア古籍保全講演会(第1回~第3回)について、当日における講演、事例報告、ワークショップ、総合討論の内容を取りまとめたものである。 文中における講演者等の肩書きは、発表当時のものである。