著者
芦沢 直之 上野 知恵子 渡邉 久美
出版者
国立大学法人 香川大学医学部看護学科
雑誌
香川大学看護学雑誌 (ISSN:13498673)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.1-10, 2018-03-30 (Released:2020-07-23)
参考文献数
47
被引用文献数
1

精神科看護の臨床において,“不穏時の頓服”や“不穏時の危険行動への介入”など,「不穏」という専門用語は高頻度に用いられている.しかし,その示す範囲は看護師により差異がみられる現状がある.本研究ではRodgers BL.の概念分析法を参考として,精神科看護師が統合失調症の不穏をどのように捉えているのかを,質的に明らかにした.文献は,医学中央雑誌における1987年から2016年までの看護領域の原著論文で,「不穏」と「統合失調症」のキーワードで検索して収集した.このうち,不穏について具体的な記述を読み取ることができるもの,研究筆頭者が精神科看護師である31件を分析対象とした.不穏に関する記載箇所を抽出し,時間軸に沿って比較検討しながら分析した.分析の結果を,「先行要件」,「属性」,「帰結」について,臨床的に用い易いものとするため,それぞれ《サイン》,《症状》,《転帰》として記述した.《サイン》は,【生理的欲求の未充足】,【状況への不信,不満】,【妄想に支配された訴え】,【対応力の低下】,【看護師が察知する普段との違和感】,【身体的要因の増悪】の6要素が抽出された.《症状》は,【幻覚・妄想の増悪】,【不意な行動化】,【興奮】,【自己への危害】,【他害行為】の5要素が抽出された.《転帰》は,【行動制限】,【内服薬調整】の2要素が抽出された.本研究における,精神科看護師が捉える統合失調症の不穏とは,生理的欲求の未充足,状況への不信や不満,妄想に支配された訴え,対応力の低下,看護師が察知する普段との違和感,身体的要因の増悪などを前兆として,幻覚・妄想の増悪,不意な行動化,興奮,自己への危害,他害行為に至り,行動制限や内服薬調整を必要とする状態と定義された.
著者
渡邉 久美 國方 弘子 三好 真琴
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.146-154, 2015-10-25 (Released:2015-11-05)
参考文献数
21

本研究は,独自に開発したソフトタッチの皮膚接触をベースとするハンドケアリングを精神障害者に実施し,その効果を,心拍変動,アミラーゼなどの自律神経活動指標と,不安,リラックス度,疲労度,会話欲求度,親近感の心理的指標を用いて明らかにした.対象は地域で生活する精神障害者10名(平均年齢56.7±14.9歳)であり,内田クレペリンテストによる負荷後,座位対面式にて15分間のハンドケアリングを実施した.各指標を実施前後で比較分析した結果,心拍数は有意に低下し,pNN50は有意に増加した.STAI得点は,特性不安と状態不安ともに実施後に有意に低下し,VASを用いた主観的評価では疲労度のみが有意に低下した.施術者との会話欲求度と親近感は,実施後50%以上増加した.唾液αアミラーゼは,安静時と実施前後で有意差を認めなかった.ハンドケアリングは,副交感神経活動の亢進および,不安や主観的疲労感の軽減とともに,施術者との心理的距離に良好な影響を与えており,患者–看護師関係の形成に向けた活用の可能性が示された.
著者
岡本 亜紀 國方 弘子 茅原 路代 渡邉 久美 折山 早苗
出版者
一般社団法人 日本看護研究学会
雑誌
日本看護研究学会雑誌 (ISSN:21883599)
巻号頁・発行日
vol.31, no.5, pp.5_79-5_87, 2008-12-01 (Released:2016-03-05)
参考文献数
42

本研究は,精神疾患患者を支える家族を対象に,生活困難を抱える家族のストレス反応の軽減と患者の病状悪化を予防するための看護実践の基礎資料を得ることを目的として,患者受容,生活困難度,対処行動,批判的態度の因果関係を検討した。結果,中国四国圏内に住む150名の家族から質問紙調査の回答が得られ,患者受容とストレス対処行動(情緒優先対処行動)は,生活困難度を介して間接的に患者への批判的態度を規定するとともに,患者受容は直接的に批判的態度へ影響する因果モデルが支持された。決定係数は,生活困難度に対し0.34,批判的態度に対し0.47であり,生活困難度の分散の34%が患者受容と情緒優先対処行動によって説明でき,批判的態度の分散の47%が患者受容,情緒優先対処行動,生活困難度によって説明できることが示された。以上のことから,統計学的な根拠に基づいた家族へのストレス支援の手がかりが示唆された。
著者
渡邉 久美 國方 弘子
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.263-271, 2014-12-01 (Released:2015-02-10)
参考文献数
17
被引用文献数
3

本研究は,自尊心回復グループ認知行動看護療法プログラムに参加した地域で生活する精神障害者の自己概念の変容過程を明らかにした.対象はプログラム参加者10名であり,半構造面接により過去,現在,未来の流れで自己概念を尋ね,逐語録をM-GTAにより質的帰納的に分析した.その結果,《自己の殻からの心の孵化》をコアカテゴリーとする8カテゴリーが抽出された.発症後に知覚されていた【渦の中での停まり】【価値のない自分】は,【理解者による緊張緩和】を経て,【生活習慣への自負】【人に煩わされない感覚】へと変化していた.そして【新生した自分】の実感が,現在の【充実した生の体感】を導き,未来の自己に向かい【理想像の描写】を見出していた.発症後の否定的な自己概念は,理解者との出会いを契機に肯定的に変容していたことから,同じ体験を有する当事者や疾患を解する人々による安心できる雰囲気のなかで,ありのままの自己を語り,受け入れられる場の必要性が示された.
著者
茅原 路代 國方 弘子 岡本 亜紀 渡邉 久美 折山 早苗
出版者
一般社団法人 日本看護研究学会
雑誌
日本看護研究学会雑誌 (ISSN:21883599)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.1_91-1_97, 2009-04-01 (Released:2016-03-05)
参考文献数
31

本研究は,デイケアに通所し地域で生活する統合失調症患者83名を対象に,居場所感とQOLの2変数の関連を明らかにすることを目的とした横断研究である。調査項目は,日本語版WHOQOL-26,精神障害者の居場所感尺度(3下位尺度からなる2次因子モデル),個人特性で構成した。想定した居場所感とQOLの因果関係モデルを共分散構造分析を用いて検討した結果,適合度指標は統計学的な許容水準を満たし,モデルはデータに適合した。居場所感が大きいことは,より良いQOLであることが明らかになり,その寄与率は44%であった。このことから,在宅生活をする統合失調症患者がより良いQOLを獲得するためには,彼らの居場所感を高める支援が有効であることが示唆された。
著者
國方 弘子 渡邉 久美
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.1_44-1_53, 2007-03-20 (Released:2011-09-09)
被引用文献数
6 4

本研究は,デイケアに通所中(在宅生活)の69名の統合失調症患者を対象に,変数をグループ化した(人口学的要因,臨床特性,症状の重症さ,能力,自尊感情)概念枠組みを作成し,Quality of lifeを予測するものを2年間の追跡調査を用いて明らかにすることを目的とした.その際,交絡要因としての抗精神病薬1日服用量をコントロールした.結果,1年後と2年後の追跡調査において,自尊感情はQuality of lifeの4領域すべての予測因子であった.Quality of lifeの身体的領域と心理的領域に対する自尊感情の寄与率は,時間が長くなるほど大きくなった.社会的関係と環境領域に対する自尊感情の寄与率は,1年後と2年後の値がほぼ同程度であり,自尊感情のQuality of lifeへの影響は安定していた.
著者
蔵本 綾 渡邉 久美 難波 峰子 矢嶋 裕樹
出版者
国立大学法人 香川大学医学部看護学科
雑誌
香川大学看護学雑誌 (ISSN:13498673)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.33-45, 2019-03-30 (Released:2019-10-08)
参考文献数
47

本研究では,手術室に配置転換となった看護師のストレス要因について明らかにすることを目的として,文献検討を行った.文献検索データベースは,医学中央雑誌Webを使用し,1998年から2018年までに公表された国内文献を対象とした.「手術室」,「看護師」に「配置転換」もしくは「異動」を掛け合わせて検索を行い,1)会議録を除く原著論文であること,2)手術室に配置転換となった看護師のストレス要因と考えられる記述が表題および要旨から読み取れることを基準に文献を選択した.対象となった14文献を熟読し,質的帰納的に分析を行ったところ,【手探りでの手術看護習得】,【手術室での特殊な関係性】,【常に緊張感を伴う業務】,【希望ではない配置転換】,【手術室文化への適応の難しさ】の5つのカテゴリーが生成された.5つのカテゴリーはそれぞれ,【手探りでの手術看護習得】は≪一からの習得≫,≪医療機器・器械の取り扱い≫,≪不十分な指導体制・内容≫,≪評価されない病棟経験≫,≪否定的な自己評価≫,【手術室での特殊な関係性】は≪病棟とは異なる医師との関係≫,≪看護師間の濃密な関係≫,≪患者との希薄な関係≫,≪手術室の閉鎖的な環境≫,【常に緊張感を伴う業務】は≪緊迫した状況≫,≪強い不安と緊張≫,≪手術に合わせた勤務≫,【希望ではない配置転換】は≪手術室への否定的なイメージ≫,≪納得できない配置転換の理由≫,【手術室文化への適応の難しさ】は≪意見を言いにくい雰囲気≫,≪乏しい帰属意識≫,≪掴めない手術の流れ≫,≪自分のペースで行えない業務≫のサブカテゴリーで構成された.先行研究と比較検討したところ,手術室に配置転換となった看護師に特徴的なストレス要因として,【手術室文化への適応の難しさ】が見出された.
著者
岩谷 美貴子 渡邉 久美 國方 弘子
出版者
一般社団法人 日本看護研究学会
雑誌
日本看護研究学会雑誌 (ISSN:21883599)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.4_87-4_93, 2008-09-01 (Released:2016-03-05)
参考文献数
45

本研究は,クリティカルケア領域の看護師が行う感情労働とストレス反応の関連,Sense of Coherence (SOC) とストレス反応の関連を明らかにすることを目的とし,組織的なメンタルヘルス対策に向けた基礎的資料となるものである。A大学病院のクリティカルケア領域の看護師70名を対象に,看護師の感情労働測定尺度(ELIN),日本語版SOCスケール,日本版一般健康調査(GHQ)を含む質問紙調査を行った。その結果,ELINとGHQ間には有意な関連はなかった。しかしながら,SOC低群のみにELINの下位概念である探索的理解とケアの表現が,GHQの要素のうつ傾向と有意な正の相関関係にあった。また,SOCスケールとGHQは有意な負の相関関係にあった。これらより,SOCはストレス認知,ストレス反応に関連し,精神的健康度の改善にSOCが寄与する可能性が示された。
著者
渡邉 久美 折山 早苗 國方 弘子 岡本 亜紀 茅原 路代 菅崎 仁美
出版者
一般社団法人 日本看護研究学会
雑誌
日本看護研究学会雑誌 (ISSN:21883599)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.2_85-2_92, 2009-06-01 (Released:2016-03-05)
参考文献数
15

訪問看護ステーションにおける家族員を含めた精神障害による対応困難事例の実態と,精神障害者との関わりにおける訪問看護師の支援ニーズを明らかにした。A県の訪問看護ステーション116施設を対象とし,48施設から有効回答を得た。対応困難事例の経験の有無を質問紙郵送法にて行い,さらに,協力の得られた6施設10名の訪問看護師から対応困難事例13事例の概略と支援ニーズについて面接を行った。調査時点での対応困難事例は,利用者では14施設(29.2%),家族員では12施設(25.0%)に報告があった。また,訪問看護師には【対象の捉えにくさによる不安】があり,【状況に応じた効果的対応方法を知ること】と【看護行為の保証者の要望】という支援ニーズがあった。具体的な対応法の検討や,訪問看護師の関わりを支持する場として,精神科専門職らによる相談窓口やネットワークの構築が一策であると考える。
著者
渡邉 久美
出版者
岡山大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

臨床において看護師が家族との関わりで遭遇する困難を軽減し、ケアの質の向上を目的としたため、家族と関わりの深い看護師にグループインタビューを数領域で行い、その領域毎の共通性や専門性について検討した。インタビューデータを逐語録として、修正版グラウンデッドセオリーアプローチ法によりカテゴリーを生成した結果、例として、がん看護領域では、コアカテゴリーとして『死にゆく患者よりの揺れによる壁』があり、これは【家族への役割期待から生じる思い】【専門職としての思い直し】【患者を中心するための家族への寄り添いの限界】【看護師として介入する限界】【見えない本来の家族像】【家族の意向に従うための割り切り】の6カテゴリーで構成され、がん看護領域における家族看護に困難を生じさせる以下のプロセスが明らかになった。看護師は「患者のための家族」との価値観から、家族の態度や意向に反応して生じる感情をもつが、役割意識から、残される家族の立場に立って心情を理解しようと努めていた。しかし、日常的に患者ケアを行う立場にあるため、患者の存在を払拭しきれず、家族に全面的な共感ができないという限界もあり、さらに、看護師の義務と責任の範囲では、家族の意向に従わざるを得ない状況もあった。この状況には、病院で関わる家族の本当の姿はわからないという看護師の弁えも影響しており、看護師の意に反する家族の選択に、やむを得ず合わせていくための認知的対処を行っていた。このような現状の改善には、【患者中心志向による寄り添いの限界】を看護師自身が是として認識し、他者から支持されることで、感情が受け止められ、家族に対する見方を変化することが期待される。「家族像の形成」はどの領域においても共通課題であり、領域によって、家族との会話を苦手とする看護師も存在したため、CAFM/CFIM理論の15分インタビューなどの活用も、今後検討したい。傾向としては、個々の素質よりも組織づくりによって家族に関する情報を共有することで、実際には家族看護が行われ易かったため、家族看護の導入にむけた看護師の意識改革、組織づくりなども課題として残された。