著者
國方 弘子 豊田 志保 矢嶋 裕樹 沼本 健二 中嶋 和夫
出版者
日本保健科学学会
雑誌
日本保健科学学会誌 (ISSN:18800211)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.30-37, 2006-06-25 (Released:2017-10-27)
参考文献数
17
被引用文献数
5

本研究は,地域で生活する統合失調症患者を対象とし,精神症状が自尊感情を規定するのか,それとも自尊感情が精神症状を規定するのか,それら因果関係モデルのデータへの適合性を明らかにすることを目的とした。分析対象は,横断的研究には109名,縦断的研究には61名のデータを用いた。精神症状の測定には,信頼性と妥当性が支持された9項目版BPRSを用いた。横断的研究の結果,反応が低下した症状である「鈍麻・減退因子」が,自尊感情と有意な負の関連があった。縦断的研究の結果,1年後の追跡調査時点において9項目版で測定した精神症状は自尊感情に有意な負の効果を示し,時間的先行性を検証できたことから,精神症状が自尊感情に影響を及ぼすといった因果関係が示された。以上より,統合失調症患者の鈍麻・減退に伴う感情をサポートすることは,彼らの自尊感情を回復させることに繋がると示唆された。
著者
坂野 純子 矢嶋 裕樹
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.34-45, 2005 (Released:2014-08-06)
参考文献数
30
被引用文献数
2

目的 本研究は,Antonovsky(1987)によって開発された SOC スケール13項目版の構成概念妥当性をその因子構造の観点から検討し,加えて,SOC スケールの下位因子の臨床的有用性を抑うつとの関連性において吟味することを目的とした。方法 分析対象は,都内の A,B 大学および,中国地方の C 大学に在籍する大学生1,110人とした。SOC スケールの構成概念妥当性は探索的因子分析ならびに確認的因子分析を用いて検討した。また,SOC スケールの下位因子と抑うつとの関連性は構造方程式モデリングを用いて検討した。結果 探索的因子分析の結果,2 つの解釈可能な因子(「把握処理可能感」「有意味感」)から構成される 2 因子解が最適な解であると判断された。次いで,確認的因子分析の結果,前述の2因子から構成した SOC スケールの二次因子構造モデルがおおむねデータに適合することが示された(χ2 値=327.065, df=64, GFI=0.957, CFI=0.872, RMSEA=0.061)。さらに,構造方程式モデリングの結果,「有意味感」は「把握処理可能感」よりも「抑うつ」に対して高い影響力を有していることが示された。結論 Antonovsky の 3 因子仮説は支持されなかったが,今後,「処理可能感」と「把握可能感」の弁別可能性について,慎重に検討していく必要性があろう。なお,得られた 2 因子(「有意味感」と「把握処理可能感」)は,「抑うつ」に対してそれぞれ異なる影響力を有しており,これら 2 因子に着目することによって有益な臨床学的情報が得られる可能性が示唆された。
著者
矢嶋 裕樹 間 三千夫 中嶋 和夫 河野 淳 硲田 猛真 嶽 良弘 榎本 雅夫 北野 博也
出版者
Japan Audiological Society
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.149-156, 2004-06-28 (Released:2010-08-05)
参考文献数
19
被引用文献数
1

本研究の目的は, 難聴高齢者における聴力低下に伴うストーレス・イベント, 聴力低下に伴うストレス認知, 精神的健康の関連性を検討することであった。調査対象は, 和歌山日本赤十字医療センターを利用していた難聴高齢者235名であった。面接調査は, 聴覚言語療法士によって実施された。構造方程式モデリングによる解析の結果, 性, 年齢, 聴力損失レベルと聴力低下に伴うストレス・イベントのあいだに有意な関連性が認められた。さらに, ストレス・イベントは, ストレス認知を経由して, 間接的に精神的健康に影響を与えていた。なお, ストレス・イベントと精神的健康のあいだには直接的な関連性はみられなかった。これらの結果は, 聴力低下に起因するストレス・イベントやストレス認知から精神的健康に対する効果の軽減を目指した専門的介入策を確立することによって, 聴力低下による精神的健康の悪化を予防できる可能性を示唆するものである。
著者
蔵本 綾 渡邉 久美 難波 峰子 矢嶋 裕樹
出版者
国立大学法人 香川大学医学部看護学科
雑誌
香川大学看護学雑誌 (ISSN:13498673)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.33-45, 2019-03-30 (Released:2019-10-08)
参考文献数
47

本研究では,手術室に配置転換となった看護師のストレス要因について明らかにすることを目的として,文献検討を行った.文献検索データベースは,医学中央雑誌Webを使用し,1998年から2018年までに公表された国内文献を対象とした.「手術室」,「看護師」に「配置転換」もしくは「異動」を掛け合わせて検索を行い,1)会議録を除く原著論文であること,2)手術室に配置転換となった看護師のストレス要因と考えられる記述が表題および要旨から読み取れることを基準に文献を選択した.対象となった14文献を熟読し,質的帰納的に分析を行ったところ,【手探りでの手術看護習得】,【手術室での特殊な関係性】,【常に緊張感を伴う業務】,【希望ではない配置転換】,【手術室文化への適応の難しさ】の5つのカテゴリーが生成された.5つのカテゴリーはそれぞれ,【手探りでの手術看護習得】は≪一からの習得≫,≪医療機器・器械の取り扱い≫,≪不十分な指導体制・内容≫,≪評価されない病棟経験≫,≪否定的な自己評価≫,【手術室での特殊な関係性】は≪病棟とは異なる医師との関係≫,≪看護師間の濃密な関係≫,≪患者との希薄な関係≫,≪手術室の閉鎖的な環境≫,【常に緊張感を伴う業務】は≪緊迫した状況≫,≪強い不安と緊張≫,≪手術に合わせた勤務≫,【希望ではない配置転換】は≪手術室への否定的なイメージ≫,≪納得できない配置転換の理由≫,【手術室文化への適応の難しさ】は≪意見を言いにくい雰囲気≫,≪乏しい帰属意識≫,≪掴めない手術の流れ≫,≪自分のペースで行えない業務≫のサブカテゴリーで構成された.先行研究と比較検討したところ,手術室に配置転換となった看護師に特徴的なストレス要因として,【手術室文化への適応の難しさ】が見出された.
著者
藤田 彩見 矢嶋 裕樹
雑誌
新見公立大学紀要 = The bulletin of Niimi College
巻号頁・発行日
no.39, pp.47-52, 2019

本研究は、幼児をもつ母親を対象に、児の発達に関する専門家への援助要請行動と精神的健康の関連を明らかにすることを目的とした。A市在住の3~6歳の母親を対象に、郵送法による自記式質問紙調査を実施した。回答が得られた88人回収率45.9%)のうち、分析に用いる変数に欠損値のない256人を分析対象とした。児の発達に関する悩みについては、「生活習慣や習癖」が最も多く(31.6%)、次いで「学習や就学に向けての準備」(23.8%)、「動作や言葉の発達」(21.1%)であった。児の発達について専門家に援助要請(相談)したことが「月1回以上ある」と回答した者は16.4%であった。うつ傾向の有無を目的変数とするロジスティック回帰分析の結果、悩みなし群を基準とした場合、悩みあり援助要請低群、悩みあり援助要請高群ともに抑うつ傾向のリスクが高い傾向が示された。以上より、児の発達について悩みがあるにもかかわらず、専門家へ援助要請しない、またはできない母親が一定数存在することが明らかとなった。また、専門家への援助要請は母親の抑うつ低減につながると考えたが、本研究ではそのような関連はみられなかった。因果の逆転等の可能性も否定できず、この点については今後の検討課題としたい。
著者
矢嶋 裕樹 矢庭 さゆり
出版者
新見公立大学 ; 2010-
雑誌
新見公立大学紀要 = The bulletin of Niimi College (ISSN:21858489)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.27-33, 2018

本研究は、中山間地域の高齢者を対象に、被援助志向性の実態とその社会的要因を明らかにすることを目的とした。2017年5月下旬に、新見市選挙人名簿より1/10の確率で無作為抽出された高齢者1,182名を対象に、郵送法による無記名自記式質問紙調査を実施した。調査内容は、高齢者の基本属性と被援助志向性に加え、外出頻度(閉じこもり傾向)、社会的交流(サポート授受)、悩みの深刻度とした。回答が得られた731名(回収率61.8%)のうち、各項目に欠損値のない485名を分析対象とした。一般線形モデルの結果、被援助志向性と有意な関連がみられたのは、性別、世帯構成、閉じこもり傾向、サポート受領であった。男性、独居、閉じこもり傾向がある、サポート授受の機会が少ないほど、被援助志向性が低い傾向にあった。以上の結果は、高齢者の社会参加を促進するサロン事業等の取組みが、高齢者の孤立化防止のみならず、被援助志向性や援助要請の向上・促進にも寄与しうることを示唆するものである。The purpose of the study was to examine help-seeking preference and its social correlates among older adults living in amountainous area, Japan. Self-administered questionnaires were mailed to 1,182 randomly selected older adults aged 65 and older inNiimi city, Okayama prefecture, Japan. The questionnaire included the Help-Seeking Preference Questionnaire as well as itemsassessing social correlates such as household type, homebound status, and social reciprocity. Of 731 (61.8% correct responses) whocompleted and returned the questionnaire, 485 older persons without missing data were analyzed. A series of general linear modeling(GLM) results showed that help-seeking preference had significant associations with gender and with household type, homeboundstatus, and social reciprocity after adjusting for confounding factors such as age, gender, self-rated health, and level of psychologicaldistress. Those who were male, living alone, homebound and did not interact with others had lower preference to seek help. Thesefindings suggest that interventions to promote social participation of older adults (e.g. community salon) could increase their preferencefor seeking help, as well as preventing social isolation and loneliness.
著者
藤田 彩見 矢嶋 裕樹 二宮 一枝
出版者
新見公立大学 ; 2010-
雑誌
新見公立大学紀要 = The bulletin of Niimi College (ISSN:21858489)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.41-46, 2018

本研究は、発達障害児の母親を対象に療育機関の専門家に対する援助要請行動の実態を明らかにすることを目的とした。A県の児童発達支援事業および福祉型児童発達支援センター24施設を利用する児の母親549人を対象に無記名自記式質問紙調査を行った。回収票196部(回収率35.7%)のうち、分析に用いるデータに欠損がなく、発達障害に関する診断名以外のものを除外した144人のデータを分析に用いた。子育てについて悩みが「ある」と回答した者のうち、療育機関の専門家に対して援助要請することが「まったくなかった」「ほとんどなかった」「あまりなかった」と回答した者は44人(32.6%)であった。育児ストレスの高低と援助要請頻度の高低とを掛け合わせた結果、育児ストレスが高いが、援助要請頻度が低い群は16人(11.9%, 95%信頼区間=6.4-17.4)であった。発達障害児の母親の精神的健康の悪化を予防するため、母親が適切な援助要請行動をとれるように相談支援体制の充実を図る必要性が示唆された。The purpose of this study was to examine mother's professional help-seeking regarding their child's developmental problems. Ananonymous self-administered questionnaire was given to a convenience sample of 549 mothers of children with developmentaldisabilities who were users of 24 child development support centers, in A prefecture, Japan. Finally, 196 returned a completedquestionnaire (correct rate: 35.7%) and data of 144 mothers were analyzed. The results showed more than half of the mothers reportedhigh intensity of parenting stress. Furthermore, about 10% of these mothers were reluctant to seek professional help for parentingconcerns and their child's developmental problems. These findings suggest the necessity of improving consultant and support systemfor mothers and their child, to increase professional help-seeking and prevent mothers' mental disorders.
著者
國方 弘子 豊田 志保 矢嶋 裕樹 沼本 健二 中嶋 和夫
出版者
日本保健科学学会
雑誌
日本保健科学学会誌 (ISSN:18800211)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.30-37, 2006
参考文献数
17

本研究は,地域で生活する統合失調症患者を対象とし,精神症状が自尊感情を規定するのか,それとも自尊感情が精神症状を規定するのか,それら因果関係モデルのデータへの適合性を明らかにすることを目的とした。分析対象は,横断的研究には109名,縦断的研究には61名のデータを用いた。精神症状の測定には,信頼性と妥当性が支持された9項目版BPRSを用いた。横断的研究の結果,反応が低下した症状である「鈍麻・減退因子」が,自尊感情と有意な負の関連があった。縦断的研究の結果,1年後の追跡調査時点において9項目版で測定した精神症状は自尊感情に有意な負の効果を示し,時間的先行性を検証できたことから,精神症状が自尊感情に影響を及ぼすといった因果関係が示された。以上より,統合失調症患者の鈍麻・減退に伴う感情をサポートすることは,彼らの自尊感情を回復させることに繋がると示唆された。
著者
齋藤 友介 矢嶋 裕樹
出版者
日本保健科学学会
雑誌
日本保健科学学会誌 (ISSN:18800211)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.89-97, 2005-09-25

本研究の目的は, 難聴高齢者を対象として, 聴力低下に対する対処方略と精神的健康の関連性を明らかにすることであった。調査対象は, 日本赤十字社和歌山医療センターを利用し, かつ感音性難聴と診断された者193名とした。調査実施に先だち, 対象者に口頭にて調査の趣旨ならびに結果の利用方法について説明し患者の同意を得た。調査は言語聴覚士による質問紙を用いた半構造化面接法により実施した。統計解析にあたって, まず, 15項目3下位尺度(問題解決型対処, 情動調整型対処, 回避型対処)からなる対処方略尺度を開発し, その構成概念妥当性を確認的因子分析により検討した。結果は, 対処方略尺度の構成概念妥当性を支持するものであった。次いで, 各種対処方略と精神的健康の関連性を検討したところ, 問題解決型対処と回避型対処はいずれも精神的健康と有意な関連性を示さなかったが, 情動調整型対処は精神的健康の悪化と有意な関連性を示していた。以上の結果を踏まえ, 難聴高齢者における今後の対処方略研究の課題について考察した。